『東方仙影譚』第十三話
どうも作者の炙りサーモンです。この作品は東方projectの二次創作です。パロディやメタ発言、作者の勝手な解釈などが含まれます。それでも大丈夫という方は次に進んでください。
上空から容赦なく降り注いだ博麗霊夢の巨大な陰陽玉が、俺のすぐ真横で大爆発を起こした。
「う、わあああっ!?」
凄まじい爆風と大きな音が竹林を揺らす。
その衝撃に、左肩に乗っていたルクスが『ギャッ!?』と悲鳴を上げて耳を塞ぎ、あまりの苦しみにそのまま俺の影の中へと強制的に掻き消されてしまった。
「ルクスっ!?」
相棒を呼ぶ声は、容赦なく飛来した紅白のお札の嵐にかき消される。
鋭い刃物と化したお札が、防風林のように立ち並ぶ竹をまとめて一刀両断にしながら、俺のすぐ目の前を通り過ぎ――そして俺の左腕の肉を深く、深く抉っていった。
どさりと地面に倒れ込み、激しい砂煙の中で俺は自分の腕を見つめる。
「は? なんだこの赤いの? 血? え? なんで?」
現実感がまるでない。自分の腕に起きた異変を、脳が処理しきれていない。
衣服の袖が破れ、そこからどす黒い液体がドクドクと溢れ出て、地面の土を汚していく。
――その瞬間、焼けるような激痛が神経を突き刺した。
「あっつい……っ! あ、あ、止血しなきゃ。腕だから……大きい血管繋がってたはず……っ!」
痛すぎて息がうまく吸えない。パニックになりそうな心を、外の世界で覚えた知識だけで必死に繋ぎ止める。スッパリ全部斬られたわけじゃない。でも、今すぐ押さえないと出血多量で本当に死ぬ。
「こういうときは、確か、なにか、衣類、紐……服の袖で……きっっつく結ばなきゃ……っ!!」
俺は首元に手を伸ばし、男勝りな格好の象徴でもあった自分のネクタイを強引に引き抜いた。
それを口にくわえて片端を固定し、残った右手だけで、傷口よりも心臓に近い上腕の部分にネクタイを巻きつける。
「う、ぐ、ううううっっ!!!」
涙とよだれが顔中に広がるのも構わず、俺はネクタイの結び目を、肉が凹むほどきっっつく結びあげた。
締め付けられた腕がジチジチと悲鳴をあげるが、ドクドクと溢れ出ていた赤色の勢いが、ほんの少しだけ弱まる。
――いや、待て。
息を荒くしながら、俺は地面に広がった赤黒い水たまりを見つめた。
――あ、でもこれって、血出過ぎなんじゃね……?
じわじわと頭の芯が冷たくなっていく。
――え? これ、俺生きれるよね……?
止血はした。したけど、すでに地面の土を吸って広がっている血の量は尋常じゃない。
――多分、下手に動いたらいけないやつだ。
立ち上がろうとすれば、一気に血圧が上がってまた吹き出す。最悪、そのまま意識を失って二度と目が覚めないかもしれない。
――まだ、死にたくねぇんだよな……。
目の前にある光景が、あまりにも生々しい。
血が流れている。いや、自分の体なんだから当たり前なんだけど、とにかく気持ち悪い。
映画やアニメで見るような綺麗な赤じゃない。どす黒くて、ドロドロとしていて……かと言って水っぽすぎない、絶妙な粘り気を持った『本物の人間の血液』がそこにある。その生々しさが、たまらなく不気味で、気持ち悪かった。
吐き気と闘いながら、俺は冷たい地面に這いつくばったまま、じっと動かずにチャンスを待つ。
ガサリ、と霊夢が竹の葉を踏みしめる音が、やけに遠く聞こえる。
――もう、ダメか。
そう思った瞬間、俺の足元のドロドロとした血の海から、ぐにゃりと影が変な音を立てて傷口を守るように這い上がってきた。
消えかかっていた薄い影の中から、低く、しかし驚くほど澄んだ少年の声が響いた。
「――我が主。守りますよ。我輩が」
――え?
喋った? ルクスが……?
嘘だろ? だってあいつ、さっきまで『きゅ~』とか鳴いてたじゃん……。
俺は幻覚でも見ているのだろうか。いや、頭から血が抜けすぎて耳がおかしくなった幻聴か。
あぁ、もう、どうでもいい……。
とにかく、めちゃくちゃに眠い。
――でも、ダメだ。多分、これ寝たら死ぬヤツだ。
俺は最後の力を振り絞って右手を動かし、自分の頬を思いっきり叩いた。
乾いた音がした気がした。でも、感覚がほとんどない。自分の顔に触れているのかすら分からない。
死ぬ? 俺が?
あぁ、怖い。これが、本当の死の恐怖か。
もうほとんど何も聞こえなかったから、何を喋っているのか全く分からなかった。
音を失った世界の中心で、俺の瞳は、足元の血の海から膨れ上がっていく漆黒の影を映していた。
――あぁ、ルクスが、大きくなっていく。
ピカ○ュウサイズだったはずの相棒が、俺の身長を遥かに追い越し、170センチメートルほどの巨体へと変貌を遂げていく。
翼が大きい。尻尾も大きくなっている。
いや、そんなことは当たり前か。本体がデカくなったんだから、パーツが大きくなるのは当然だ。
巨大化したルクスの目は、明らかに刃物のように鋭い。
ドラゴンの爪も、大木の幹を一掴みでへし折りそうなほどに巨大化している。
よく見ると、その腰にはいつの間にか、黄色で縁取られた深緑のひし形模様の腰巻きが巻かれていた。その中心には、黄色い丸に囲まれた、深緑の手裏剣のような不気味な紋様が刻まれている。
――あぁ、なんだよそれ。最高にカッコいいじゃん……。
――でも……こんなこと覚えてたって、意味はないか。
視界の四隅から、真っ黒い闇が急速に広がって、世界を塗りつぶしていく。
だって、俺、あとちょっとで死ぬんだから。
――いや、諦めない方がいい。生きるのを、諦めたら……。
――いや、でも……もう、疲れたな……。
傷口の熱さも、死への恐怖すらも、急激に遠ざかっていく。
泥のような意識の中で、俺の首が、がくりと力なく冷たい地面の上に落ちた。
「……な、にこれ? 急に影が……っ!?」
最後に脳裏に焼き付いたのは、トドメを刺そうと踏み込んできた博麗霊夢が、170センチの異形の巨体に圧倒され、初めてその完璧な顔を驚愕に歪めた瞬間だった。
俺の意識の糸が、プツリと静かに音を立てて、千切れた――。
読んでいただきありがとうございました!次回はなるべく早く出しますので、お待ちください。




