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「あはは… それは……」
私の言葉に、たじろぐ様子を見せるクラド。
私の言い方がこうだからといって、クラドに怒っているわけではない。
王都に到着したのだから、私のためにこれからは肩書き(勇者様)で呼ぶと、彼自身が先に言ったはずだ。
背景を知ってみれば、私が気安く接してはいけない高貴な家柄のお坊ちゃんではないか。
クラドが私をそのように扱うのなら、私もそうするまでだ。
「それは?」
近くにいるベティを一度見たクラド。
「リエン、あのですね」
すると、勇者様という呼称の代わりに私の名前を呼んだ。
私はクラドが自分の言ったことを忘れているようなので、もう一度思い出させてあげることにした。
「お互い、肩書きで呼び合うことにしたんじゃありませんでしたか?」
「私が悪かったです」
「何をですか? クラドが私に何か悪いことでもしましたか? 私には記憶にありませんが」
「別れ際に、肩書きで呼ぶと言ったことです」
私はその言葉に答えず、じっとクラドを見つめた。
「うっ……」
分かってはいるのだな。
いや、今日のようなことがなければ一生反省しなかったのではないか。
そう思うと、余計に癪に障る気がした。
「分かってはいるのですね。ク・ラ・ド」
「ハハ……」
一文字ずつ区切って呼ぶ名前に、ぎこちなく笑うクラド。
「はぁー」
それでも、こうして反省する姿を見せているのだから、このあたりで広い心で許してあげることにした。
「ところで、当主様はどうして私を呼ばれたのですか?」
私に興味があったことは分かったが。
なぜ剣を握らせたのか、そして、すぐに立ち去るのならなぜ私をここに呼んだのだろうか。
「剣の道を歩む者として、勇者が王都に到着したと聞けば、一目見たいという気持ちもあったでしょうし、実力も確かめてみたかったのでしょう。おそらく私であってもそうしたはずです」
「実力ですか? そうだと言うには、ほんの少し対面しただけですが」
「剣を握ったでしょう。握り方を見て、剣術の実力がどの程度か見当をつけたのですよ」
あぁ、なるほど。
達人は初心者のすることを見れば、一度で実力が分かるということか。
私自身も、他の魔法使いを見れば、勘ではあるが自分より上か下か程度は見当がついたからな。
私は師匠に剣の使い方を習いはしたが、魔法に比べれば専門的に身につけたわけではなかった。
せいぜい、狩った動物の死体を解体できる程度に過ぎなかったのだ。
それも、解体業者が身れば首を横に振るレベルではないだろうか。
そんなレベルでは、騎士団長の目には適わなかったのだろう。
「リエンに会う前であれば、私も父上のように失望したかもしれませんが……今は、見えるものだけが全てではないと知っています」
いや、クラド、あなたの父親が正解よ。
クラドの言うことを全て聞き終えた私は、小さくため息をついた。
そして騎士団長が去り際に言った、私のお眼鏡にかなう者を選別しておくという言葉がどういう意味なのか尋ねた。
「正式に女神様から勇者であるという承認を受ければ、一人で歩き回るわけにはいきませんから。実力の優れた者を選別しておくので、その中から共に歩みたい者を選んで連れて行けばいい、という意味だったのでしょう」
「ブッ」
お茶を口に含んでいたところ、むせてしまった。
あれはそういう意味だったのか?
「大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫です」
私はベティが差し出したハンカチを受け取った。
王都に住む人々は、人を驚かせる才能があるらしい。
「私が勇者ではないかもしれないじゃないですか」
「そんなことはあり得ません」
確信に満ちて言うクラド。
以前にもそんなことを言っていた気がする。
これは勘で片付けていいことではなかった。
このまま放っておけば、もっと大変なことが……。
あぁ、すでに国王が主導する夜会もあるのだった。
考えてみれば、今より大変なことが起きるとも思えない。
「どうしてそんなに確信しているのですか?」
「国王陛下にお会いしたのでしょう?」
「ええ」
「ならば確実です。国王陛下は、先代勇者パーティーの一員だったのですから」
「!!」
それはどういうことだ?
現国王が、先代勇者パーティーの一員?
「その話、本当なのですか? どうやって?」
「有名な話なので、リエンも知っていると思っていましたが。現国王であるフリードリヒ陛下は、お若かりし頃、先代勇者様と共に魔王を封印し、王国に戻られた後、市民と貴族たちの熱烈な支持を受けて現在の地位に就かれたのですから」
そして、私の腰にある剣を指差して言った。
「先代勇者の仲間であられた国王陛下が、リエンと対面して何もおっしゃらなかったのですから、リエンが持つ剣は聖剣に間違いありません」
まさか。
私の剣が聖剣であるはずがないわ?! 無理無理!
クラドの言葉を聞いた私は、大きな衝撃に包まれた。
その後も話は続いたが、国王が先代勇者の仲間だったという言葉が頭から離れず、その後の話はまともに耳に入ってこなかった。




