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結局、私は騎士団長の招待に応じることにした。

王城を離れ、騎士団長がいるという屋敷へ向かう途中、一緒に移動していたベティが隣で心配そうに口を開いた。


「本当に、護衛は必要ないのですか?」

「大丈夫だよ」


護衛がいたところでどうなるというのか。

あえてそんな大げさなものは必要ない。

私は護衛が必要なほどすごい人間でもないし。

それに国王様も言っていた。

もう安全だろうと。

まさか、何か起きたりはしないだろう。


「馬車で行かれてもよろしいのですが」

「大丈夫」


馬車はここに来るまでに、もうお腹いっぱいというほど乗ってきた。

それに騎士団長の屋敷も、思ったより近い場所にある。

せっかく王都まで来たのだ。ここを去ればいつまた来られるか分からないし、王都見物くらいはしておかなければ。

馬車に乗れば早いが、あっという間に通り過ぎてしまって、じっくり見ることができないから歩くのがいい。


「リエン様に何かあったら、私にも責任が及んでしまうんですよ」


ベティには、外で私を呼ぶ時は「勇者」という呼称の代わりに名前で呼んでほしいと伝えてあった。


「大丈夫。私を信じてるでしょ?」

「えいっ、もう知りません。本当にリエン様だけを信じればいいんですね?」


どういうわけか、王都に勇者が到着したという噂が広まっているらしい。

そんな状況で、目立つメイド服を着た女性が「勇者様」と呼びながら後ろを付いて回っているところを想像してみてほしい。そちらの方が危ういのではないだろうか。


「そう、その調子」


人々の注目が集まるような、負担の大きい状況は望まない。

幸い、ベティは誰かさんと違って、ためらうことなく私を名前で呼んでくれた。

ベティと歩きながら王都を見物し、気になることがあれば尋ねてみた。

地元民なだけあって、問うことにすぐ答えてくれた。


「あのパン屋さんの食パン、本当に美味しいんですよ。私も時々、家に帰る日には買っていったりします。少し高いのが難点ですけど」


最近王都で流行っているパンだというなら、食べてみなければ。

ベティに聞いてみると、食パンは手で軽く押すとふんわり沈んで、また膨らんでくる雲のような柔らかい食感なのだという。


「じゃあ、後で帰る時にその食パンっていうのを買って帰ろうか?」

「本当ですか? やったあ!」


ベティも女の子だからか、こういう話は気が合うようだ。

食パンを買ったらバターやどんなジャムを塗って食べるか、飲み物は何がいいかといったお喋りに花を咲かせた。


ふと、ベティはなぜメイドになったのかが気になった。

メイドも誰でもなれるわけではないという。

王城や貴族の家で働けるほどになるには、メイドアカデミーを卒業しなければならないそうだが。

その中でもベティは優秀な成績で卒業し、王城にメイドとして入ることができたのだという。


「ところで、ベティはどうしてメイドになったの?」


口にしてみてから、答えにくい質問だったかもしれないと、失礼なことをしたような気がした。


「あ……答えにくかったら、無理に答えなくてもいいよ」

「とんでもない。私はメイドになったことを誇りに思っています。メイドになった理由なら、当然、結婚のためですよ」


結婚?

全く予想外の理由だった。

一般的にはお金のためにメイドになったとか、あるいはベティは望んでいなかったけれど、何らかの理由でメイドアカデミーに行かされたというような事情を想像していたのだが。

本を読みすぎたのかもしれない。少し控えた方がいいかも。


「私も貴族ではありますが、領地もありませんし、裕福でもないので。家に閉じこもっていたら、良い旦那様候補との縁談は来ませんから」


そう言ってベティは、空に向かって拳を突き出しながら言った。


「ですが! メイドアカデミーを優秀な成績で卒業して王城に勤めた経歴があれば、私のような下級貴族でも、良い家門の三男坊様あたりにお嫁に行けますから。だからメイドになったんです」


ベティはしっかり計画を立てているのだな。

ぜひ、良い人に出会うという計画が成功することを祈っているよ。


「そう言うリエン様は、婚約者とかいらっしゃるんですか?」

「えっ? 婚約者?」

「手に指輪をはめていらっしゃるので」

「あ……」


本来なら師匠からもらった指輪をはめていたはずだが、私の不注意で真っ二つに割れてしまった。

だから今はクラドがプレゼントしてくれた指輪をはめていたのだが、ベティはそれを見て言ったのだった。


「いないよ、婚約者なんて。これは寂しいからはめているだけ」

「へえ、そうなんですか。でも指輪をはめていると、男性が誤解を……」

「ん? あれは何かな……?」


その時、ある店先を通りかかったのだが。

妙に目を引く人形が見えた。

ふと足を止めて、人形を見てみる。

髪が長く、剣を手にしている。

ズボンの代わりにスカートを履いている人形。


「これ、勇者様の人形ですね」


ぎくり。


「お嬢さん方、勇者様の人形を買いに来たのかい?」


店主の言葉に、ベティが私の顔色を伺いながら言った。


「通りかかっただけです。可愛い人形ですね」

「だろう? 勇者様の人形は今、大人気なんだ」

「まあ、そんなになんですか?」


二人の話を聞いていた私は、羞恥心で首筋まで熱くなり、耳が赤くなった。


「なら、後になったら手に入りにくくなるかもしれんぞ」

「リエン様、勇者様の人形が人気だそうですよ。一つ買いましょうか?」


私をモデルにした人形が人気だなんて、どこか何かが間違っている気がした。

しかも、私をモデルにした人形が何種類もあったから、なおさら奇妙な感じがした。


「ううん、いいよ」


さすがに自分をモデルにした人形を買うのは違う気がして、急いでその場を離れた。

自分をモデルにした人形が不思議ではあったが、出るのが早すぎるのではないかと言うと、ベティはこう言った。


「王都では、金になると思えば商人は素早く動くものですよ」

「すごいね」


そして、騎士団長の屋敷の前に到着した。

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