8.
その日、ある場所で結婚式が行われた。
厳かな雰囲気の中、女神様の絵の前で誓い合ったのは目を引く2人。
1人は背が高く、細身ながらもしっかりた体つきの凛々しい姿。淡い金髪に紫の目の、美形だった。引き締まった頬と意志の強そうな眉毛。
白い神官風の服は、詰襟で足首まである上着。白いズボンに白いブーツだ。
襟元と袖口には神聖語による祝福が刺繍されている。見事な金糸の刺繍だ。
胸元には青い石が散りばめられている。厳かで華やかな装いだ。
もう1人は華奢な体躯。頭からすっぽりとベールを被っている。裾の広がった白い服を腰元のサッシュで縛り、服の下にはズボンを履いている。
足元はヒール付きのブーツ。
歩くたびにふわりと裾が舞う。
手と手を取り合って進む2人は祭壇を模した机の前で止まる。
神官が聖書を手に2人に婚姻の誓いを尋ねれば
「「例え死を迎えても…その後も唯一を愛することを誓います」」
死を以てしてもその気持ちは変わらない、究極の愛の言葉だ。
そして、2人は事実それを実践した。だからこそのその言葉なのだ。
「2人の婚姻は成立しました…おめでとう、ファルス、そしてセレスティア様」
「ありがとうございます」
「ありがとう」
静かにマリウスが拍手をした。
「結婚は予想通りですが、まさか…ね」
「そうだな。まぁ愛の力か?」
私のセレスは頷き合って
「「正しく女神様の御力だ」」
神官長とマリウスは笑うと
「そうだな」「そうですね」
例の薬の臨床試験に神官長が手を挙げたのには驚いた。
「そろそろ後進に道を譲らないとな」
そうは言ったが、薬が開発されたことが後押ししたのだろう。私から見ても信頼しあっていたから。
「いつ神殿を?」
にこりと笑うと
「臨床試験次第だな」
マリウスが真っ赤になったのが印象的だった。彼のこんな顔を引き出したのは神官長のお人柄だろう。
「神官長、薬を飲んだその日から5日…行為を続けて欲しい。私の時は1週間だったから検証の条件を変えたいんです」
「分かりました。まぁ頑張ります」
「どちらが薬を?」
セレスはぐいぐいと聞くがそれはかなり踏み込んだ質問だ。夜の話でもあるのだから。
でも神官長は笑い、マリウスは真っ赤になって俯いた。なるほど、聞かなくても分かるな。
「マリウス、これを。初日は寝る前に飲んで。翌日からの行為はいつでもいい。ただ、臨床試験だから時間と回数の報告は忘れないで」
…セレス、言い方がな?
それはつまり行為の頻度を教えること、さらに時間まで。自分なら居た堪れない。
しかし神官長はにこにこしながら
「恥ずかしいですねぇ…ふふっ分かりました」
その記録を見てセレスが真っ赤になったのは後の話だ。そして私を真剣に見て
「ファルスはその…弱いのか?」
なんてことを聞かれた。確かに、神官長のお歳でこれはなかなかな?
3ヶ月後、神殿から神官長の交代のおふれがあった。まぁ私たちは知っていた。なんせ経過観察としてほぼ毎日、マリウスの身体をセレスが診ていたのだから。
私が嫉妬するくらいに。
「もう少ししたらまたな…?ふふっまさかファルがマリウスに嫉妬とはなぁ。なかなか嬉しいもんだな」
セレスに笑われた。そりゃあ、まぁ。大切な時期だからと触れることが出来ないのは苦痛だ。
セレスのお腹が膨らみ始めた頃、神官長とマリウスは還俗した。その頃にはマリウスもかなり体調が変化していたから、大変だったみたいだ。
そして、何故か2人は街ではなく我々の住む森にほど近い場所に住んでいる。
そこもかつては豪商が保有していたらしい屋敷で、売りに出されていたのだ。
歩けば100mくらいのご近所さんだ。
神官長は伯爵家のご出身で、使用人を連れて住んでいる。賑やかだ。
「セレス様がご出産された後は人手がいりますよ」
神官長改め、アンバー様に言われて人を雇った。アンバー様のご実家の伯爵家から紹介された40代の夫婦だ。子供はすでに巣立っていて、元は伯爵家で勤めていたとか。
「「よろしくお願いします」」
ふくよかな女性とがっちりした男性の組み合わせで、男性は調理と庭全般、女性は家の中のことをしてくれることになった。
その2人が住むための小さな家を作った。ついでに私たちの家も大きくした。
1階に応接室と客間を増やして、居間も厨房も大きくした。2階にも部屋を4つほど増やした。
土地は余っていたからな。
そして、3ヶ月後にセレスは元気は男の子の双子を出産した。難産になるかと思われたが、案外とすんなり進む。
マリー(使用人の女性)によれば、かなりの安産だとのこと。良かった。
セレスはしわくちゃな子供たちと横になっている。赤ちゃんを見る目は間違いなく母親の目で、そのおでこにキスをした。
私を見ると
「ファル、素敵な贈り物をありがとう」
「それは私のセリフだよ、セレス。あの薬が無ければ出会えなかった命だ」
「ファルへの愛の為せる技だ」
微笑みあった。
出会えた奇跡に感謝をした。セレスにも、セスにも。そして産まれたセイランとファレルにも。
「アンバー様の所はどんな感じだ?」
「順調だと。セレスの場合は少し早かったな」
「そうだな、7ヶ月だ。でも双子の割にしっかりとしている」
そう、産まれた子は月が満ちていないとは思えないほどしっかりとしていた。
「それもマリウスが産めば…少しは解明されるな」
セレスに遅れること3ヶ月でマリウスも双子を出産した。どちらも男の子だ。そしてやはり、7ヶ月で産まれた。
「まだ臨床試験は続けるぞ」
優しい目でセレスが言う。15才なのに、その姿はとても妖しくて…誘われるままに夜を過ごし、セレスは妊娠した。
「今回は3日だったが、上手くいったな。一応、マリウスにも3日でまた試して貰う」
アンバー様とマリウスの希望もあり、また臨床試験に参加して…やはり3日でも懐妊した。
「3日で大丈夫そうだな。後は産み月と双子率だろうな。男女比も気になる」
キリッとした顔で言うセレス。でもその脇で子供たちが大泣きしている。
でも2人の大切な子だ。
ぷくぷくとした顔はまん丸で、淡い金色の髪は少し癖がある。やがて開いた目は青紫だった。私とセレスの目の色だ。
お手伝いがいて良かった。四六時中は大変だ。セレスは研究もしているから。
やがてマリウスもまた妊娠した。やはり報告の回数が多い。セレスは私を見て
「私に魅力がないのか?」
ジトッと見られた。わたしが思うにアンバー様がお元気なんだと思う。
臨床試験は広めたいというセレスの思いもあり、アンバー様に聞けば
「参加したがってる人がいるんだ」
そして紹介されたのは、まさかの神父様だった。
驚いてセレスと青を見合わせていると
「私と同じ歳なんだ」
神父様の隣には明らかにまだ若い少年。
「成人しています!」
それはもちろんだけど、年齢差は?
「私と30才差ですな」
セレスより年上だった。
「産む側はある程度若く無いと。その、相手の方はアンバー様の例もあるので大丈夫かと」
それにしても、どうやって出会ったのだろう?その疑問が顔に出ていたのか
「バザーの手伝いに来ていたのですよ」
少年ははにかみながら
「お恥ずかしい限りですか、お話をするにつけ…お慕いする気持ちが膨れ上がり。私から、押しかけで」
セレスは目を丸くすると
「詳しく」
前のめりに詰め寄った。
その日の夜
「出会いは必然と言うが、凄いな」
私はセレスの髪の毛を撫でながら
「側から見たら私たちだって歳の差婚だ」
そう、24才差なのだ。こんなに若くて美しいセレスが変わらず私を選んでくれて嬉しい。
その日の夜は、穏やかに、でも頑張った私だった。




