5人目。ラストチャンス。
その日は、朝からどこか緊張感の漂う日だった。
「………ついにその日が来ましたか。」
遠くから悲鳴と戦の音が聞こえる。
耳を済ましていると、巨大な爆発音がした。
いつか革命の首謀者に渡した炎の魔法が使われたのだろう。
しばらくすれば、あの元貴族の男がこの店に現れるはずだ。
何をどう話せば面白くなるだろうか。
店主はぼんやりとそんなことを考えながら、今の状況とは一切関係ない魔法の開発をしていた。
…そして時間は流れ、ついに魔法屋に一人の男が飛ばされてきた。
「ぐはっ……。」
「おや、来ましたね。」
男は店主の声を聞いて周りを見渡し、ようやく自分が魔法屋にいることに気づいた。
「魔法屋…?お、おい、彼女は!?君なら、彼女がどうなったのかも分かるんだろう!?」
男はよろめきながら立ち上がり、店主の肩を掴んで揺さぶった。
足に力が入っていなかったり、服装が乱れているのを見るに、どうやら捕まっている間、とてもではないが良い待遇だったとは言えなさそうだ。
「落ち着いてください、どうにもなってないはずですよ。…今はね。」
「今は…?それは、どういうことだ…!」
「あのお客さんに渡したのは、一時的に全てのダメージを無効化する魔法です。ですから、効果が切れるまではどうにもなりません。ただ、効果が切れた時にそのダメージがまとめて押し寄せるだけです。」
男はその手を店主から話し、数歩後ずさりした。
「効果が続いている間、何もされていなければどうにもなりませんが、その様子を見るに……。」
「…私の目の前で、素手で剣を防いでいた……。」
「でしたら、少なくとも腕は無くなるでしょうね。」
「魔法屋……君は………。」
「どうしました?」
淡々と語る店主を見て、男は恐怖を感じてい
た。
「……いや…魔法屋、頼みがある…。」
しかしそれでも、男は店主を頼らざるを得ない。
「…えぇ、本日はどんな魔法をお望みで?」
店主はいつもの笑みを見せる。
「……彼女を助けられる魔法はあるか?」
そう聞かれるだろうと思っていた。
だが、それが出来る魔法は手元には無かった。
それに、彼のこれまでの物語はもう知っている。その魔法に見合う物語を、彼が語ることは出来ない。
だから、こう答えようと決めていた。
「…手元にはありません。ですが、少し前にどんな願いでも叶える魔法を買ったお客さんが居ます。あの兵士は今日使うつもりでしょうから、まだ間に合うかもしれませんよ。」
「その兵士に、何か特徴はあるか?」
「見た目は全身鉄の鎧ですから、他の兵士と変わらないと思います。強いて言うなら、彼は今日、国ではなく一般市民を守るために戦っているはずです。それと、特別な自己強化魔法を渡したので、そういう意味では目立つかもしれませんね。」
そこまで言うと、男は急いで店の外に駆けていった。
「おや、まだどんな願いでも叶える魔法の注意点を話していないのですが……まぁ、いいでしょう。僕には関係ありませんからね。」
店主は落ち着いて、途中だった魔法の開発をやめ、片付けた。
「あぁ……そろそろこの国を離れる準備をしますか。本当はここを手放したくはなかったのですが…。」




