6人目。物語の結末。そして…
あの国は呪いの国と呼ばれるようになった。
店主はあの国を離れ、違う国で再び魔法屋をやっている。
まるで、何事も無かったかのように。
いや、店主にとっては本当に何も無かったのだ。
一つの国の存亡など、さして意味などないのだから。
ただ、しばらくして、店主には一つ予想外の出来事があった。
「…魔法屋さん。」
「おや……これは、本当に予想外のお客さんですね。」
新しい魔法屋にやってきたのは、かつてどんな願いでも叶える魔法を買った、あの兵士だった。
その表情はどこか虚ろで、悲壮感を纏っている。
そして左目は包帯で隠れていて、左半身が火傷跡のようになっていた。
「…お久しぶりです。」
「えぇ、お久しぶりですね。あなたはもう来ないと思っていましたよ。」
「僕も、もう魔法に頼ることはないと思っていました。」
「僕から言うことでは無いですが、あれだけのことがあったのですから、魔法には絶望したでしょう?」
「えぇ、それはもう。あの絶望の中で死ねたら、どれだけ良かったか。」
「あの日のこと、もう一度詳しく聞いても?」
「…相変わらず、正直な人ですね。」
「褒め言葉として受け取っておきます。」
「あの日、僕が戦っていると、一人の男がやって来ました。彼は愛する人を助けるために、どんな願いでも叶える魔法が欲しいと言いました。ただ、僕はもうその魔法を使っていたんです。もう、この国で誰も死なないようにと願って。」
「おや…それは、一番残酷な願いですね。」
「はい、そうだったみたいです。それを聞いた彼は安堵のため息をついて、走っていきました。僕も無理して一般人を守る必要はないと思っていましたから、彼の後をついて行きました。彼の愛する人は、無事でした。彼らはしばらく言葉を交わしていましたが、そのうち彼女が彼から離れ、別れの言葉を言い残しました。そして次の瞬間、彼女は上半身がぐちゃぐちゃに弾け飛んだんです。一瞬、何が起きたのか分かりませんでした。僕は誰も死なないように願ったのに、と。ですが、気づいたんです。彼女の残された下半身が、まだ動いていることに。」
兵士が悪夢のような現実を語っている時も、店主がいつもの笑みを崩すことは決してなかった。
「その時やっと、僕はとんでもないことを願ったのだと気づきました。彼も、ほぼ同時に同じことに気づいたみたいで、僕に襲いかかってきました。とても正気ではいられなかった彼の攻撃は一切躊躇なく、そして強力でした。僕は自己強化の魔法を使って、彼の四肢を切り落としました。僕のこの身体はその時こうなりました。しかしそれでも、何も知らずに、死ぬことすら出来なかった人々からすれば、ほんの僅かな怪我でしかないでしょう。」
兵士も、もう表情を変えることはなかった。
それは、大罪を犯した自分には、悲しむ権利などないのだと言い聞かせているようだった。
「燃えている人、押し潰されている人、首のない人。その後も、大勢の生きているはずのない人間を見ました。あれは、僕が作った地獄。僕は確かに、絶望しました。………ですが、同時にどこか感動もしていたんです。僕が使い方を間違えただけで、魔法には可能性がありました。」
その言葉を聞いて、店主は笑みを深めた。
「そうする必要はないのかもしれません。ですが、僕は決めました。僕が起こしたあの地獄を、僕は否定しません。あの不死の国も、喜ぶ人だっているでしょう。ですから魔法屋さん。」
「えぇ、なんでしょう?」
「僕に魔法を教えてください。」
「フフ……。」
一体何十年ぶりだろうか。店主は本当に久しぶりに声に出して笑った。
「まだ、この世界で魔法の力は強すぎる。魔法の間違った使い方、悪い部分、それらを知っても魔法から離れようとしない人には、魔法を使う才能があると僕は思っています。…えぇ、ようこそ、魔法の世界へ。」
店主が差し伸べた手を、兵士は…いや、元兵士は迷わず掴んだ。
これが、新たな魔法使いの誕生の日だった。
しばらくして、どこか遠い国で夜にひっそりと営業する魔法屋があった。
「…ここが魔法屋だよな…?…やってないのか…?」
外套を羽織った男は、明かりのついていない店内を覗き込み、様子を伺っていた。
「また今度来るか…。」
「お客さん、やってますよ。」
「えっ?」
声がどこから聞こえたのか、分からなかった。しかし予想は出来る。
男は恐る恐る入口のドアに近づいた。
「入って…いいのか?」
「はい、どうぞ。」
男が店内に入ると、突然明かりが点った。
「うっ…まぶし……。」
「ようこそ、魔法屋へ。」
男が声のした方を向くと、顔の左半分を隠した一人の男が立っていた。
「お客さん、本日はどんな魔法をお求めでしょうか?」
こんにちは、もしくはこんばんは。
このお話はお盆休み、自宅にいない間に書いたお話で、これでおしまいです。(少なくとも予定では)
最初からハッピーエンドにする気はあまり無かったのですが、この終わり方はバッドエンドでもないですね?
割と行き当たりばったりで、特別こういうことを伝えたい、みたいなのも無かったんですが、個人的には登場人物達の事は結構気に入ってます。
ちなみに店主の種族なんですが、これも特に元ネタとかはなく、適当に考えました。ぜーんぶ適当。
明日からはまたいつものお話(救世戦葬)に戻ります。(まぁ更新頻度は低いんですが)
あっちはすっごく長い予定です。
というわけで、この作品を知ってくださり、ありがとうございました。
良ければ救世戦葬もよろしくネ。




