3人目。傲慢で自由な転換点。
「失礼する。」
「おや?」
今日のお客さんは、整った身なりの男だ。
「ここが魔法屋か?」
「えぇ、そうです。あなたは、初めましてですよね?」
「あぁ。」
男は迷いなく肯定したが、その割には迷うことなく入店してきた。
「うちのことはどこで聞いたんです?」
「それは……どこで聞いたんだったか…。」
男ははぐらかしたわけではなく、本当にどこで聞いたのか分からない、という表情をしている。
「…まぁいいです。それで、本日はどんな魔法をお求めで?」
「あぁ、戦いに勝つための魔法だ。」
「戦いに勝つ…ですか。もう少し詳しく聞いてもいいですか?」
「それは……まぁいいだろう。ただ口外しないと約束してくれ。」
「えぇ、それはもちろんです。」
「最近、この国で革命が起こるかもしれないという話は知っているか?」
「えぇ、それぐらいは。」
「俺はその革命派の首謀者だ。」
店主は驚いた。なぜなら、それが事実だとしても、初対面の相手にいきなり暴露していい内容ではなかったからだ。
しかしその真っ直ぐさが多くの人を引き付けたのかもしれない。
「なるほど、ではその戦いと言うのは…。」
「あぁ、思っている通りだろう。」
「…ちなみに、どうして革命を起こそうと思ったんですか?」
「逆に、今のこの国に満足しているのか?」
「ええと、僕はこうして縛られずに自由にやっているので、そういう意味では満足ではありますよ。」
実際のところこの国の法律に照らし合わせると、この店はかなり怪しいのだが、まだ怒られていないのでセーフだと思っている。
この男が思ったよりすんなり大事な情報を話したので、ついうっかり言うべきではないことまで言ってしまったかもしれない。
「ふん、そうか。俺は満足したことはない。俺は貴族に生まれ、恵まれた環境で育ってきた。しかしそれでも思い通りにいったことは少なかった。少し前にも、使用人が一人失踪したしな。父はどうして唯一の跡継ぎである俺にそれほど厳しかったのかは分からないが、貴族の俺でそうなら、平民で望んだ生活を手に入れている人はさらに少ないのではないか、と思ったのだ。」
そこまで語ったところで、店主はこの男が少し前に来た貴族の男の弟だと気づいた。
「実際、俺が調べた限りだと、不満を持つ人は多かった。それなら、力を持つ人が、貴族である俺が、この国を変えるしかない。より多くの人の願う自由な国を作るのだ。」
「なるほど、分かりました。」
この一連の革命に関する情報を、店主はそれほど掴んでいるわけではない。
しかし目の前のこの男は、間違いなく成し遂げると思わせる何かを持っていた。
「敵はこの国の正規軍、そして王族ですよね。」
「そうだ。」
貴族の私兵というものを店主は知らないが、おそらく正規兵より強いということはないだろう。
「でしたら、求めているのはこれでしょうね。」
店主は三つの結晶と、液体の入った小瓶を男に渡した。
「これは?」
「その結晶はそれぞれ攻撃魔法です。赤い結晶が炎の魔法、青い結晶が水の魔法、黄色い結晶が雷の魔法です。陣を描き、その中央に結晶を置き、呪文を唱えることで発動します。詳しい陣の描き方はこちらに。ここを調整すれば発動距離を、ここを調整すれば魔法の規模を変えられます。」
男は店主が追加で渡した図を見てから、小瓶の方に目を移した。
「ふん、了解した。ならこれは?」
「それは範囲強化魔法です。その液体でこの陣を描けば発動出来ます。呪文はここに書かれている通りに。」
「分かった。」
「ちなみに緊急であれば、直接飲むことで一人だけを強化することも出来ます。ただ正しい使い方ではないので、副作用が出ても文句は受け付けませんよ。」
男は頷いて、それらの魔法を仕舞った。
「お代は?」
「銀貨二枚と銅貨六枚です。」
「安くないか?」
「僕は通貨より、物語を求めているんです。」
「物語?」
「えぇ、あなたはこの国で起きようとしている革命の始まりのお話をしてくれましたから。」
「…その話、口外はするなよ。」
「えぇ、それはもちろん。今日聞いた話を誰かに話すことはありません。」
「ならいいが…。」
「それでは、この国がどう変わるのか楽しみにしていますよ。」
「あぁ、全てが上手くいった暁には、詳しい物語を語りに来よう。」
そう言い残して、男は店を出ていった。
「…面白い展開になってきましたね。あのお客さんの弟さんが革命の首謀者だったなんて。」
店主は懐から物語を取り出す。
それは力強く、貪欲な味だ。ある意味では傲慢、しかし優しさもあり、葛藤もある。
「とても濃い味……多くを背負った者の物語ですね…。」
その身体の光が収まって、店主は目を開ける。
「そろそろ僕も備えましょうか…。」




