2人目。真っ直ぐな正義感、複雑な感情。
「失礼します。」
「おや…あなたは確か……。」
「お久しぶりです、魔法屋さん。」
今日のお客さんは、鉄の鎧に身を包んだ兵士だった。
兜を脱ぐと、前に見たことのある顔だ。
そもそも、不思議に思わず店内に入ってきた時点で、初めて来るお客さんではないのは分かっていた。
しかし、どちらにせよ店主はそのお客さんの事を覚えていた。
「兵士になれたんですね。」
「はい、あなたのくれた感情を感じ取る魔法のおかげです。今では小隊を率いる立場になったんです。」
「それは良かったです。どうやら良い使い方をしているみたいですね。」
魔法の善し悪しは使い手次第。この兵士が今の地位を確立したのは、正しい使い方をしたからだろう。
しかし、再び魔法屋を訪れたということは…。
「それで、本日はどんな魔法をお求めで?」
「………。」
「…どうしました?」
黙ってしまったのでもう一度声をかけると、はっとした兵士は語り始めた。
「…僕が兵士になったのは、皆を守るためでした。でも、この魔法の力で、皆が同じ気持ちで兵士になったわけじゃない、ということが分かりました。親の期待を背負って来た者、復讐のために戦う者、他の道が無かった者。…最近、一人の新入りが入ったんです。」
「新入りですか。」
「彼は、最近話題になっている革命派だったんです。」
「あぁ、僕も聞きましたよ。一部の貴族を中心にそういう派閥が広がっているみたいですね。」
店主としても、大事な魔法を沢山保管しているこの店に影響が出ないよう、人知れず対策を講じているところだった。
「もちろん、僕としては内戦を起こすような事はやめて欲しいんです。でも、彼にしっかりとした考えがあるのは、どうしても分かる……。」
「なるほど、それも一種の副作用ですね。」
「はい…。」
「では、あなたはどうするんです?」
「…あの、せめて無関係の一般人を救える魔法はありませんか?」
そういう答えが返ってくることはなんとなく分かっていた。
店主は色々な魔法が並んでいる棚の下の方から、鍵のかかった箱を取り出し、その中からさらに二つの小瓶を取り出した。
「…あるにはありますよ。あなたは前に渡した魔法を上手く使えているようなので、特別にこれらを渡します。」
そのうちの一つ、黄色い砂の入った小瓶を兵士に渡しながら、店主は話を続ける。
「それは、簡単に言えば超強力な自己強化魔法です。ただし、使うほどに取り返しのつかない後遺症が残ります。」
「…分かりました。」
兵士が息を飲むのが伝わってくる。
それを待って、赤紫色の粉が入ったもう一つの小瓶も兵士に渡した。
「それはどんな願いでも叶える魔法です。」
「どんな願いでも…?」
「えぇ。ただ、それは"願いを叶えた結果"を強制的にもたらす魔法です。万能な魔法である代わりに、願いの具体的ではなかった部分は、出来るだけ残酷な結果をもたらします。」
「そ、それは……。」
「えぇ、それはうちにある魔法の中でも最も危険な魔法の一つです。アドバイスとしては、少しでも具体的に願うことですね。」
「………分かりました。」
こればっかりは、兵士も怯えた表情で小瓶を見つめていた。
「…その魔法はもちろんですが、身体強化の方も十分に最終手段です。出来るだけ使わないで努力する事をおすすめします。」
「わ、分かってます…。」
「まぁ、僕としてはお代さえ頂ければ十分なんですけどね。ただこうして何度も来て下さるのですから、無事であることを願っていますよ。」
「…魔法屋さん、結構正直ですね…。」
「褒め言葉として受け取っておきますね。」
兵士は店主に銀貨一枚と銅貨五枚を渡し、店を出ていった。
実際、店主にとって一人の人間がどうなろうとどうだっていい。その革命が実際に起こる当日には、この店を守る体制も整っているはずだ。
そんなことを考えながら、懐から物語を取り出し、飲み込んだ。
店主にとっては、お客さんがくれる物語の味が全てだった。
その点でいえば、あの兵士の物語はとても興味深い。
前回残していった物語は、ただひたすらに純粋で、人を守りたいという強い正義感に溢れていた。
今回はその味をベースに、様々な感情を知り、複雑な味に仕上がりつつも、それでもその根底にある正義感は健在だった。
「えぇ、もうあのお客さんが来ることは無いかもしれませんね。魔法の力に絶望する未来が見えるようです。」
店主はそう言いながら魔法作りを再開した。
「でも…近いうちに面白い物語をこの目で見れそうですよ。」




