第2話 VS 豊満美男《グラマラス・ボディ》ミノル
『Aブロック二回戦 第四試合』
『美少年女子』
『アキノ・ツカサ』
『VS 豊満美男』
『大黒寺ミノル』
ドスン……! ドスン……!
地響きを立てながら選手入場口から現れたのは、巨大な男だった。
ふわふわのミルクパンみたいな腕と、具沢山の肉まんみたいなお腹。
身長は二メートル近く、歩くたびに床が低く鳴る。
重心が床に沈み込むみたいで、近くにいるだけで空気が変わる気がした。
どう見ても、かなり太っている。
だけど、男が顔を上げた瞬間、会場が爆発した。
「キャアアアアアアアアアアアア!!」
「えっ」
色気のある瞳。
優しそうな笑顔。
包み込むような目元。
顔だけが、異常に整っていた。
体型との落差に、脳が少し混乱する。
『競技テーマ――包容力』
「ほうようりょく?」
ミノルは静かに一礼した。
「アキノ・ツカサ。君は細いな」
「あなたと比べたら、大体の人は細いと思う」
「折れそうだ」
「悪口?」
「心配している」
声まで優しい。
でも、近くにいるだけで圧がすごい。
壁みたいなものが、ゆっくりこちらへ近づいてくる感じ。
「真のイケメンとは、包容力である」
ミノルが両腕を広げる。
「人は誰しも、帰る場所を求めている。ならば私は、その帰る場所になろう」
「ミノル様……っ」
「もう無理、好きすぎる……」
「ねえ私のことも包んで……?」
歓声が白い光になり、ミノルへ集まる。
『大黒寺ミノル、美男力上昇』
美男力をまとったミノルは、大きな山みたいに見えた。
「さあ、ツカサ。君も来い」
「何が?」
「抱きしめてやろう」
「嫌だよ!」
あたしがそう言うや否や、ミノルが地面を蹴った。
ドドドドドドドドド!!
「包容力とはァァァァァ!! すべてを包み受け止めることォォォォォ!!」
「タックルしながら言うセリフじゃなくない!?」
あたしが横へ跳んで、何とかそれをかわす。
ミノルの突進は、背後の柱を粉砕し、破片が四方八方に飛び散った。
「柱が!」
『包容力です』
「絶対違う!」
ミノルは穏やかな顔のまま振り返る。息も乱れていない。
「逃げるな。私は君を包み込みたいだけだ」
「言葉だけ聞くと優しいのに!」
「実際、優しい」
「柱折ってたよ!?」
「もう一度行く」
「来ないで!?」
再びミノルが突進してくる。
あたしは逃げようとして、足がもつれた。
「やばっ」
その瞬間、観客席がざわつく。
「ちょっと待って。ツカサちゃん華奢で……可愛い」
「転んだら私が起こしに行く!」
「やば、守りたい気持ちがやばい!」
『アキノ・ツカサ、美男力上昇』
「なんで!?」
『観客から包容されています』
「それもありなの!?」
『包容される才能もまた、包容力です』
「今決めたでしょ!?」
『古来よりそうです』
「絶対うそ!」
その様子を見て、足を止めたミノルの顔が曇る。
「私は包容する側だ。君は包容される側だ」
「たぶんそう」
「なのに、なぜ君の力が上がる!?」
「あたしが聞きたいよ!」
ミノルの背後で、美男力が巨大な両腕を形作った。
「ならば見せよう。真の包容力を」
「嫌な予感しかしない」
「最終包容奥義。大いなる抱擁」
「名前だけ優しい!」
左右から大きく囲うように、光の腕が迫る。
前からはミノル本体。逃げ場がない。
「ツカサちゃんだめえ……!」
「逃げてえ!……いや、こっちに来ていいよ!?」
「もうどっちでもいいから、とにかく生きて!!」
『アキノ・ツカサ、美男力急上昇』
『被包容適性、異常』
「変な適性つけないで!」
観客の気持ちがあたしを包んで、薄い膜のようなものができあがった。ふわふわしてて、なんか暖かかった。
「へ? これもありなの!?」
『ありです』
ミノルの大いなる抱擁が直撃する。
「やばい!」そう思った瞬間。
パァァァァン!!
あたしを包んでいた膜が、ミノルの巨体を弾き返した。
「ぬおおおおおおお!?」
ミノルが吹き飛び、壁にめり込み、砂埃が舞った。
それでも、ミノルは笑っていた。
「やるな、アキノ・ツカサ」
「まだ動くの!?」
「当然だ。私の包容力は、この程度では折れん」
ミノルは壁から体を引き抜こうとする。
けれど、観客席の空気はもう変わっていた。
「ツカサちゃん、あんな細いのに頑張ってる……尊い」
「ねえツカサちゃん今日ご飯食べた……?」
「私が作るから……私が作るから頑張って……」
ミノルの背にあった美男力は、みるみる薄れていく。
「待て」
ミノルの笑顔が引きつる。
「まだ私は、包める」
『大黒寺ミノル、美男力急減』
「待て。まだこれからだ」
『脂肪率限界突破』
「待ちなさい」
『脂肪燃焼加速』
「まてまてまてまて」
『脂肪消滅』
「それは死ぬだろうがァァァァァ!!」
ミノルの体が光に包まれ、ぼふん、とほどけた。
『豊満美男』
『大黒寺ミノル』
『脂肪DEATH』
「脂肪が死因なの……?」
『脂肪DEATH。です』
「説明になってないよ……」
巨大モニターが光る。
『Aブロック二回戦 第四試合』
『勝者』
『美少年女子』
『アキノ・ツカサ』
「あたし、包容した覚えないんだけど……」
やっぱり誰も聞いてなかった。




