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「あたし女なんだけど……」美男死頂上決戦 ~イケメン死亡DEATH〜  作者: たま8


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第1話 VS 笑顔美男《ブラック・スマイル》マイケル

 マイケルが笑った。それだけで、観客席が爆発した。


「キャアアアアアアアアアアアアアアアッ!」


 黄色い歓声が、白い光になってステージに降り注ぐ。

 光はマイケルの背中に集まり、派手な翼みたいにビカビカ広がった。


 金髪碧眼。

 白いスーツ。

 完璧な歯並び。


 映画から出てきたみたいな白人イケメンが、ニカァと笑う。

 そのたびに、美男力ビダニック・フォース(※)がマイケルに集まっていく。


=========================

※ 美男力ビダニック・フォースとは……

この会場の観客たちが選手に対して抱いた「イケメン!」という熱狂を、戦闘エネルギーへと変換した力である。

攻撃、防御、速度強化、飛行、ビーム、その他なんかすごいことに使える。

なお原理は不明である。

=========================

美男死ビナンシ頂上決戦 イケメン死亡DEATH』

『Aブロック一回戦、第七試合』


 天井から女神みたいな声が降ってきた。


『競技テーマ――笑顔』


 意味が分からない。


 あたし――アキノ・ツカサ、十七歳、女――はステージの反対側で棒立ちだった。


「いや、あたし女なんだけど……」


『性別は問題ありません』


「あるよ! ちゃんと確認して!」


『あなたは極めて優秀なイケメンです。適正もあります』


「ないよ!」


『あります。中性値がバグっています』


「何その数値……」


 頭を抱えているあたしに、マイケルがウィンクしてくる。


「ハァーイ、プリンセス♡」


「プリンセスならイケメンじゃないと思うんだけど」


「細かいことは気にしないで、ベイビー」


 マイケルが笑うと、観客がまた大爆発。

 背後に集まった美男力ビダニック・フォースが、光の槍へ変わった。


「スマイル・ランス」


「うわっ、なんか派手に飛ばしてきたんだけど!」


 あたしは横っ跳びした。

 槍が頬をかすめて、床を黒く焼いた。

 直撃していたら、たぶん死んでいた。


「笑顔で殺しに来るの怖すぎない!?」


「笑顔は最強の武器だよ、ツカサ」


 マイケルが白い歯をキラーンと光らせる。


「この世界で一番美しい凶器さ」


「凶器って自分で言っちゃってるし……」


 次は槍が六本に増えた。


「さあ、君も笑ってごらん?」


「無理。怖いから」


 とてもじゃないけど、笑える状況じゃない。

 正直に言った瞬間、観客席の空気が変わった。


「怖いって言った……」

「素直すぎる……いい……」

「守りたい……」


 白い光が、あたしの足元にふわりと集まってきた。


『アキノ・ツカサ、美男力ビダニック・フォース上昇。ただしテーマから外れているため上昇分は80%カットされます』


 マイケルが少しムッとした顔になる。


「へえ……笑わずに稼ぐタイプか」


「稼いでないよ。勝手に集まってるだけだよ」


「そういうところかな」


 マイケルが両手を広げると、六本だった槍が、十二本に増える。


「でもテーマは笑顔。僕に勝てるわけないよね?」


 完璧な笑顔だった。

 優しくて、明るくて、甘くて、少しだけ余裕がある。


 でも、奥に何か見えた。

 自分が一番だと疑っていない、黒い自己愛みたいなもの。


 十二本の槍が、一斉に飛んでくる。


「ちょっ、数が多い!」


 あたしの前に薄い光の盾が生まれた。

 美男力ビダニック・フォースの防御。

 一枚目が割れ、続けて二枚目も割れる。

 最後の一本が、肩をかすめた。


「うっ! 痛っ……!」


 制服の布が裂け、肌に赤い線が走る。

 観客席がざわついた。


「傷ついたツカサちゃん……」

「だめ、綺麗……」

「守りたい……」

「かわいくてかっこよくて、はかなげで……混乱する……」


 混乱しているのはあたしだ。

 でも、光は増えた。

 傷ついたことすら、観客にはアピールになるらしい。

 このゲーム、何かが……じゃなくて何もかもがおかしい。


「さあ、もっと笑ってくれ」


 マイケルが一歩前に出る。

 彼の笑顔は相変わらず綺麗だった。

 綺麗で、眩しくて、たぶんたくさんの人が好きになる顔だった。


 でも、その笑顔は、あたしを楽しませるためのものじゃない。

 観客を喜ばせるためのものでもない。

 自分が一番美しいと証明するための笑顔。

 そのためなら、相手を殺すことも平気な笑顔。


「笑顔ってさ」


 あたしは肩を押さえながら言った。


「人を安心させるものじゃないの?」


 マイケルの笑顔が止まった。


「何だって?」


「その笑顔、全然安心できないんだけど」


 観客席が静まった。

 マイケルの背中にあった光の翼が、少し小さくなる。


『マイケル・ブレイズ、美男力ビダニック・フォース低下』


 女神の声が告げる。

 マイケルの目が細くなった。


「訂正してくれ」


「え?」


「僕の笑顔が怖いなんて、そんなはずがない」


 マイケルが笑う。

 でも、今度の笑顔はさっきと違った。

 唇の端が上がりすぎてて、目が笑っていない。

 歯を見せるためだけに作ったような、ひきつった笑顔。


 観客席に、ざわめきが広がる。


「ちょっと怖い……」

「今のは違うかも……」

「笑顔なのに圧がすごい……」

「顔はいいのに……」


 美男力ビダニック・フォースが、みるみる減っていく。

 それでもマイケルは笑うのをやめなかった。

 彼の背後に、残った美男力ビダニック・フォースが集まった。

 槍じゃない。もっと大きい。巨大な光の剣。


「僕の笑顔は完璧なんだ」


『警告』


 女神の声が響く。


『マイケル・ブレイズ、美男力ビダニック・フォース残量不足』


 マイケルは聞いていなかった。


「スマイル・ジャッジメント!」


 巨大な光の剣。あたしを殺すための一撃が振り下ろされる。

 逃げられない。防がないと死ぬ。


「……怖い」

 

 震えて口に出てしまった。

 それと今の、あまりにも意味の分からない状況に、少しだけ笑ってしまった。


「たはは……もう笑うしかないじゃん、こんなの」


 作った笑顔じゃなかった。かっこつけたわけでもない。

 怖くて、困って、どうしようもなくなって、こぼれただけの笑いだった。


 その瞬間。


「……え」

「今の……待って……」

「やばい、なんか刺さる……」

「情けなくて、必死で、めっちゃかわいい……」


 心臓を一回だけ掴まれたような、会場全体の沈黙。そのあとすぐ、得体の知れないどよめきが会場全体を飲み込んだ。


 次の瞬間、あたしの周りに美男力ビダニック・フォースが爆発し、それがマイケルの光の剣を跳ね返した。


「なっ――」


 跳ね返った剣が、マイケル本人に直撃した。


「ノォォォ!?」


美男力ビダニック・フォース、完全逆流』


『マイケル・ブレイズ、美男力ビダニック・フォースマイナス』


 完璧だった顔に、細い亀裂が入った。

 白い肌が割れる。高い鼻が崩れる。青い瞳から光が消える。

 綺麗な歯が、床にカリカリカリッと散らばった。


笑顔美男ブラック・スマイル

『マイケル・ブレイズ』

『笑顔DEATH』


「……意味分からない」


 観客席は大熱狂だった。


「ツカサちゃあああん!」

「さっきの情けない笑顔、最高!」

「かわいい! かっこいい!」

「どっちなの!?」


 いや、知らない。


 巨大モニターが光りトーナメント表が映し出される。

 マイケル・ブレイズの名前に赤い線が引かれた。


『Aブロック一回戦 第七試合』

『勝者』

美少年女子アンドロギュノス アキノ・ツカサ』


 あたしは天井に向かって、全力で叫んだ。


「誰が美少年女子アンドロギュノスだよ!」


 誰も聞いてなかった。

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