ひと時の休息1
「あー、ただいま。」
「ただいま」
「ただマ~」
少し暗くなったころ。こちら、師匠の家だ。
広さは、広い。1部屋しかないけど20くらいで集まっても全然狭くないくらいだ。
窓からは光が射しこんで気持ちいい。それに景色も自然が多くていい。
師匠は、椅子に腰を掛ける。
フィンは、床に倒れこんでぐったりだ。
俺は、直ぐに台所へ足を運ぶ。
ごたごたがあったけど、やっと終わった。それで気が抜けたのか、さっきから腹が減って仕方ない。
冷蔵庫の中身を見る。
そこには、水、お茶、ポーション、牛乳。
見事に液体しかなかった。
「うそん」
本日の仕事が決まった瞬間である。
「さて、何買おうかな。」
「くいもん、たべル。そうきゅニ!」
師匠は、家で何かやっていた。
食料がないぞと言ったら、買ってこい。
その一言だった。おまけに、金は自分で用意しろ。だと。
それでいて、自分も食べる気でいる。
もう、なんていうかね。さすが師匠だわ。
金は、余るほどあるんだけどね。
さて、今俺は思い出してしまったことがある。
この村、飯がまずい。
基本的に、生産ばかりしていて、それを加工してやろう。というやつがいない。
飯なんて、食えりゃいい。なんていう、屈強な精神の方ばかりだからね。仕方ないっちゃ仕方ない。
また、材料からか。
幸いにも、肉、野菜、調味料にその他もろもろは最低限そろっている。
でも、店を回るのが、非常にめんどくさいのだ。
まず、肉。何故か村の外の少し遠く離れた、林の中にある。
めんどくさいが、比較的楽に行ける。
そう、瞬間移動ならね。
最近気づいたんだが、ガイドに画像を出して、その絵を見て念じたら瞬間移動できた。
やったぜ。
「なにだこレ?」
「ああ、これは、風景画だよ。」
「なるほド。」
尽は適当に嘘ともいえない嘘を教える。
「ムール、ちょっと捕まってろよ」
反応がないようだ。
「ムール!聞こえないのか。」
ムールは返事をしない。それどころか、こちらを見ていない。
〈その子、(ムール)は、まだ名前を知りません〉
シュワッチ?!びっくりした・・・
ガイドさん?どうにかならんのか。
〈善処します。〉
・・・ガイドのこれは、もうあきらめたほうがいいのだろうか。
まあ、それは置いといてだ。
そうか、名前覚えてない。というより、無いのが正しいのか。
う~ん。
尽は何かを考えている。
「またよからぬことを考えとるんじゃなかろうな?」
「そんなこと無い。断じてだ。ただ、」
「ただ?」
尽は少しためらった。
その後、ためらいつつも口を開く。
「せっかくだから、名前つけてやろうかと思ってな。」
「・・・ほほぅ。」
「なんだ、おかしいか?」
「いぃや。何もおかしくなどない。良いことじゃ。」
とは言ったものの、名前どうしようかな。
何も思いつかんし。
尽が悩む。
不意に、レインが言い放った。
「スローク。という名はどうじゃ。」
「うーむ、なんでそうなったんだ?」
「こやつ、おぬしの話によれば、天使だそうな。じゃから、それに沿って"小さき神"という意味でこの名にしたまでじゃ」
「安直だな。」
「名を付けるのは苦手でな。どうしても良いのが思いつかんかったらでいい。」
うーん。悪くはない。
ただ、珍しい名前ではあるし。
何よりもっといいのがある気がしてならない。
〈ノア、なんてどうでしょうか?〉
おおう、ガイドさんが、来るのは予想外だ。
ノア・・・いい響きだ。
〈一番強かった伝説の水棲族の名です。〉
うーん。人の奴か・・・
なんかやだな。
〈魔物の名前です〉
もっと嫌だわ!
しかたねぇ。俺が考えるか。
そうだ!決めた!
「今日からお前はフィンだ。」
「ん?なんダ。兄い」
「名前だ。お前はフィンだ。」
「ふぃん・・・。ふぃん!ふぃんはふぃんダ!」
気に入ってくれたのか?
まあ、嬉しそうだからいいや。
「よしじゃあ、フィン。買い出しに行くぞ!」
「オー!」
さて、気を取り直して、移動するか。
何気に俺以外を移動させるの初めてだな。
できるのか?
尽は念じる。
「わあああァ!」
「どうした?!フィン。」
「ここ、どコ?しゃっきと、いっしゅんでちがウ。」
あ、しまった。目をつぶらせてなかったな。
暗転しないし、モーションもディレイもない。
突然わけわからんところに飛ばされたら、そりゃ、びびるはな。
「フィン。」
「なななんダ」
まだ動揺している、フィンに尽は少し低い声でフィンを呼ぶ。
「このこと、他の誰にも言うなよ?」
本当に言わないでくれ。頼む。
誰にもばらしてないのに、こうもあっさり見せてしまうのは、まずい。
フィンなら、だれかれ構わず、話して閉まる可能性が高い。
だが、そんな尽の願いもむなしく
「なぜダ?いやダ!」
なんでそんな返事しちゃうかな。
もう、ああやだな。もっと素直になってくれよ。
こういうことはあまり言いたくないんだがな。
しゃーねぇ。
すぅ・・・
「じゃあ、お前飯抜きな。」
「!」
これで、言う事聞いてくれ。
尽は強く願った。
「わかっタ、わかタからめし、くいテへ。」
「本当だな?」
フィンは首を大きく縦に振る。
よし。
これで、関門は突破した。
こんなことしてたら、結構暗くなってきたな。
急ぐか。
で、肉屋に来たわけだが。
「へいらっしゃい。今なら肉が半額だよ!」
「いつまで半額がつづくんだよ・・・」
あきれたように尽は言った。
その先にいるのは肉屋の店主の青年だ。
「お、尽さんじゃぁないですか。どうです?今日仕入れたミノタウロスの肉。尽さんは、マジで半額で売らせていただきますよ!」
半額半額いってて、いつも半額じゃないんだよな。ここ。
村のみんなも、いい加減気づいてるのに、なぜ辞めないのか。
まあ、いいやつだから、なんか、訂正しづらいんだけど。
「じゃあ、そのミノタウロスの肉1kgをくれ。」
「お買い上げありがとうございます!少々おまちを。」
そういうと、袋に肉を入れて尽に手渡した。
「金貨5枚になります。が、3枚でいいですよ。」
「すまん、これしかない。」
尽は大金貨を一枚手渡した。
「尽さんは、やっぱやることが違うな~。じゃあ、お釣りの金貨5枚です。」
「すまんな。」
・・・みんな気づいただろうか?
こいつ、お釣りの額を下げた。
こいつの残念な部分だ。すぐに物事を忘れる。
「あと、お釣り金貨2枚足りないぞ?」
「え、だって値段は・・・あ、そうでした!」
慌てて、青年は、金貨を取り出す。
「申し訳ありません!たびたび失礼なことを。」
「まあ、気を付けろよ。この村では、金はなかなか稼げないんだからよ。そこは分かってるよな。」
「はい!」
前みたいに、迷惑をかけたから、無料でいいです!とか、言ってきたらどうしようかとも思ったけど、それはなかった。成長してるな。
尽は、残りのお釣りをもらって、ひとまず、師匠の家に移動した。
「ただいま」
「ただぃマー」
無駄のない動きで、尽は冷蔵庫を開け、冷凍庫へ肉をINした。
「よし、行くぞフィン。」
「エー、いやだぞゾ、行きたくなイ。」
「え、なんでだ?」
「うまいにくかっタ。それはやくくウ!」
「野菜は?」
「きらイ。いらなイ。」
こいつ、肉食だったのか。
しくじったな。先に野菜買っとけばよかった。
「いいのか?サンタさんから、プレゼントもらえないぞ?」
「エ」
まあ、サンタ効果は絶大らしいな。
フィンは今にも泣きだしそうだ。
「行ぐゾ!」
「よし、きたな。」
八百屋はここから少しめんどくさいところにある。
まず、瞬間移動で八百屋の近くの宿の裏手に移動する。
ここには、人がいることはないから、一番安全でもある。
でだ。ここからは歩きだ。
本当は、瞬間移動で行きたい。
でも、使うなって、師匠に言われたんだよチクショー!
歩くこと20分。早歩きくらいで行ったにもかかわらずこれだよ。
途中で眠たかったのか、フィン寝たし。
「い、いらっしゃいませ。」
控えめの大きな女声がきこえる。
「おお、やっと着いた。」
「わざわざこんな遠くの八百屋へ来ていただいて、ありがとうございます。」
「どういたしまして。品ぞろえがいいの、ここしかないからな。」
「そういっていただけるだけで、やっててよかったって思えます。」
大袈裟だなぁ。ここの店主はこの人の旦那さんだ。
まあ、一回もあったこと無いし、滅多に顔を出さないらしいから、実質この人が店主みたいなもんだがな。
「いつものセットでよろしいですか?」
「ああ、あとトロピカルフルーツを2つくれ。」
「はい。トロピカルフルーツ。・・・ええ?!?珍しい。何かあったんですか?」
店主の女性は声を上げる。
「なにも、そこまで驚くほどじゃぁないでしょ。」
「なんダ?兄い。ここどこダ。」
どうやら、今の声で起きてしまったようだ。
「その子、どうしたんですか。見かけない顔ですね。」
「ああ、俺の弟だ。わけあって、な。」
「ふ~ん。そうなんですね。」
「きしゃま、だれだダ!く、くるナ。」
彼女が近づこうとしたら、尽の影にフィンは、隠れてしまった。
「むぅ~。じゃ、じゃあ。お名前は何ていうんですか?」
「おしえないゾ!」
「え~。」
「しょれに、なのるなら、じぶんからなのレ!」
その言葉で、しまった!と思ったのか。
てへ★ってしてから、コホンと一息おいた。
「わたしは、「こいつは、ヤサイ=サンだ。いいな。」」
唐突に尽は、彼女の声が聞こえないように声をかぶせて言い放った。
「わかっタ。ふぃんは、ふぃんっていうゾ。よろしくナ!やさい=さン。」
「ちょ、ちょっと、尽さん。なんでそんな意地悪するんですか~。」
「てへ★が、異様にムカついたんで、つい、な。」
「つい、な。じゃないですよ!ちがうよ、フィン君。わたしはマリーシャよ。」
「むム、しょうなのカ?わかったゾ!まりーしゃ=さン!」
慌てて、訂正するマリーシャだったが、=さんだけは残ってしまったようだ。
どうやら、ヤサイとさんを区切って考えたようだ。
「ブッハハハハ!」
「フィン君、さんはいらないよ。マリーシャだよ?」
「うしょついたのカ。」
「そ、そんな、嘘なんかじゃないよ。あ、あの、う~。」
フィンの機嫌を損ねてしまったマリーシャであった。
そのあと、なんやかんやで、いつもの野菜セット+トロピカルフルーツを購入した。
尽たちはまた、師匠の家にもどり、冷蔵庫へINした。
次は調味料だが。
見たところ、さしすせその調味料はあるようだ。
ただ、すこし心もとない。どうするか。
ぐ~
そのとき、尽の腹が大きな音を立ててしまった!
「はは、料理しよ。」
恥ずかしさと、腹減り、疲労で、とにかく気持ちを切り替えたくなった尽であった。




