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難易度ベリーハードの異世界生活  作者: 秋野 錦
第二章 帝都邂逅篇

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悪夢へと続く道

 

 ごとごとと馬車に揺られながら、思いを馳せる。

 結局、師匠に告げることができなかった。ボクが2年前に、師匠の家族を……殺したことを。




 2年前、とある魔人族の村を襲ったボクたちは、好き放題に暴れていた。

 その途中に2人の人影を見つけた。1人は少年、もう1人は少女。


 その戦場はとにかく過酷だった。ボクが参加しなければいけない時点で、この戦争の泥沼具合がうかがえる。まだ年の若いボクは、権能を上手く使うことができない。具体的に言うと、急激な能力上昇で興奮状態に陥ってしまうのだ。

 

 そんな状態だ、ボクは彼らを見つけた瞬間に襲い掛かっていた。戦場において、情けは無用と少年を狙った手刀はしかし、少女によって遮られえる。

 華奢な少女はたったそれだけであっけなく……絶命した。

 少年は突然のことに呆然として、少女の下に歩み寄り、次の瞬間狂ったように叫びだしたのだ。


 その姿を見て……胸の奥に、微かな痛みが走る。

 誰かを殺して罪悪感に駆られるのは初めてだった。泣き叫ぶ少年を前に、自分が取り返しのつかないことをしたのだと、初めて思い知らされたのだ。


 鬼人種と魔人種は古くからずっと戦争をしている。

 今でこそ、その規模は縮小しているものの、その憎悪は深い。

 故に殺せば、褒められた。もっと殺せ。もっと殺せ。そう言われ続けて、育ったのだ。自分の行いに疑問を持つことなどなかった。


 そう、この2人に出会うまでは。


 少年をかばって死んだ少女。

 少女の死を悼み、泣き叫ぶ少年。


 訳が分からない。

 誰だって自分が大切なはずだ。

 なぜ、少女は少年を庇った。なぜ、少年は泣き叫ぶばかりで自分から逃げようとしない。分からない。分からない。分からない。


「この人殺し!」


 少年の憎悪の視線にあてられて、その場から逃げ出した。

 少年の顔が頭から離れない。

 今まで、何十何百と敵を殺してきた。それでも、こんな思いになったことはなかった。そう、ボクは気付いてしまったのだ。

 ……自分の殺してきた人達にも、家族がいたのだと。



 それから1年と少したったころ、ボクたちは魔人族の報復により滅んだ。今まで、すき放題に暴れてきたのだ。覚悟はできていたし、当然のことだと納得もしていた。

 しかし何の因果か、ボクは生き残った。生き残ってしまったのだ。


 それから数ヶ月の間、逃亡生活を続けた。

 食料なんてなくても、血液さえあれば生きていくことが出来たから、生活には困らなかった。

 たびたび遭遇する魔人族の追っ手を撒きながら、一つの決心をしたボクは人類種の生存圏へと逃げ込んだ。ここまでくれば、魔人種の追っ手も諦めるだろうと高をくくって。


 ボクは弱い。

 権能を上手く使えないこともそうだし、誰かを殺すことに罪悪感が付きまとって躊躇が生まれていたのだ。

 このままではいけない。もっと、もっと、強くならなければいけない。殺されないように……誰かを殺さなくてすむように。


 そんなある日。あの人に出会った。

 ガルフの群れに襲われ、権能を使うしかないかというほどに追い込まれていたときだ、颯爽と現れた彼は見たこともない技で一瞬にしてガルフの群れを屠ってしまったのだ。


 彼の顔を見てすぐに気付いた。

 あの時の少年が、この人だと。


 それからボクは弟子になりたいと理由をつけて彼を追い回した。自分がなぜ、どんな感情に突き動かされてこんなことをしているのかすらよく分からずに……




「ウーノ様、妙な馬が2頭こちらに向かっております」

「妙なとはなんだ?」

「それが……片方はあの時の男のようです」

「ん? ……ははっ! どこまでも懲りない男のようだな……面白い!」


 ボクを連れ去るこいつらが、何を目的にしているのか分からない。少なくとも、すぐ殺さないことからみても何か特別な目的があるように思うが……いや、いい。どうせ拘束されたボクにはできることなんてない。

 おとなしくしていよう。

 たったの2週間しか一緒にいられなかったけど……不思議と満足している。


『大人しく付いていく! だからその人に、手を出すなああぁぁッ!!』


 あの日、魔人種との戦闘で気絶した師匠を前にして叫んだ言葉だ。ウーノは約束だからな、と釘を刺してから師匠のことを見逃した。殺すことしかできないボクでも、最後にあの人を守れたのなら……そう悪くない人生だったと思える。

 あの日の少女のように、ボクも誰かを守れたのだから。


「ちっ! おいっ、伏せろ!」


 ウーノの焦った声が聞こえる。


 …………ザンッッ!


 次の瞬間、突然馬車はばらばらに切り刻まれていく。身動きの取れないボクは、当然そのまま地面に転がる。受身も取れず、痛む体を引きずり何があったのかと目を開ける。


「し、しょう?」


 そこにいたのは……守ったはずの人物だった。


「なんで、ここに……」


 驚きのあまり、言葉がうまく出てこない。


「あー、言いたいことは色々あるだろうけど……とりあえず」


 師匠は頭をかきながらそう呟いて、持っていた小太刀で私を縛る縄を切っていく。


「もう、大丈夫だ。後のことは全部任せろ」


 はっきりと宣言した師匠は体を離し、歩き出す。師匠の向かう先にはウーノが立っている。


「白馬の騎士様の登場ってか? 馬は茶色いし、乗ってるのはいいとこ村人Aってとこみたいだけどなあ」

「あ? 何言ってやがる。俺は騎士なんかじゃねえよ。バカな弟子の……バカな師匠だ」


 やれやれと、いつものように面倒そうな口調の師匠の言葉に胸が跳ねる。

 初めてボクのことを弟子と……呼んでくれた。

 何気に気にしていたことだ。師匠はボクのことを新人としか呼んでくれていなかったから、こんな状況なのに、その言葉に胸を熱くする自分がいた。


「調子に乗るなよ、下等種族が」

「言ってろ、上等種族」

 

 にらみ合う両者。

 そして、魔人種との戦いが今、再び幕を上げる。


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