74.その魔都は平穏を享受する
・・・no saving!
・・・I continue it without saving it!
「ふぁ~~、んー、良く寝た~」
デュオはベッドの傍の窓から日が差し部屋の中が明るくなってくると自然と目が覚め起き上がる。
眠りで凝った体を伸ばしつつ早速朝食の準備をしようと着替えを始めた。
着替え終わったデュオは、隣のベッドでまだ寝ているウィルを起こす。
「ウィル。ほら、もう朝よ。早く起きて頂戴」
「ん~、あと5分~」
「そう、起きないのね。じゃあ約束通り強制的に起こさせてもらうわよ」
半ばお約束なセリフを吐きつつもベッドの中でまどろんでいるウィルにデュオは呪文を唱えウィルの体に触れて魔法を放つ。
「ブリッツスパーク」
「あばばばばばばばばばばばばっ!?」
デュオは出力を抑えた雷属性魔法でウィルを強制的に目覚めさせた。
「目が覚めた?」
「ふぁい、目が覚めました」
出力を抑えたとはいえ、体から僅かな煙を燻ぶらせながら半ば放心状態でウィルは答える。
起きなければ強引にでも起こしてくれとは言ったが、流石にこれは酷いんじゃないのかと思いつつも。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「なぁ、流石にさっきのあれは酷いんじゃないのか?」
「あれって?」
デュオとウィルはテーブルを挟んで用意した朝食を食べていた。
バターを塗ったトーストを齧りながらデュオはウィルの抗議に首を傾げる。
「目覚まし代わりの電気ショックだよ」
ウィルは完全に目が覚めて意識がはっきりしてくると、起こし方が些か乱暴なのではと思ったのだ。
「ああ、あれなら確実に起きるでしょ? それにウィルが言ったのよ、どんな手段でもいいから起こしてくれって」
「いや、確かに言ったけど電気ショックは無いだろう・・・」
「何? もっと優しく起こしてもらええると思ったの?」
「いや、だってなぁ・・・ほら、そう言う雰囲気も必要だろ?」
「それは時と場合によるわよ。今日はそんな甘い日ではありませーん」
「うう・・・幼馴染から新婚にランクアップしたのに結局いつもと同じだよ・・・」
「幼馴染だから今さらでしょ。もう、馬鹿言ってないで早く食べて準備しましょ。
待ち合わせに遅れるわよ」
「へいへーい」
念願かなってデュオと結ばれることになったウィルだが、思っていたのとは違う新婚生活に不満ながらもしっかりとデュオの尻に敷かれていた。
尤も幼馴染だった時からも尻には敷かれていたが。
デュオ達は手早く朝食を済ませ、装備の確認を行い準備を整える。
いつもの赤い杖――静寂な炎を宿す火竜王に赤いマント、赤い服装と二つ名『鮮血の魔女』に相応しい姿だ。
ただ、その腰には魔導師には似つかない剣が下げられている。
ウィルの方もオリハルコンの剣に防具を新調したオリハルコンの胸当て、籠手、脛当てとオリハルコンで統一した装備をしていた。
2人が向かう先は日曜都市サンライトハートの二大冒険者ギルドの1つ、『戦星の輝き』だ。
もう1つの『審判の標』が魔物の素材収集や調査等を主にしているのに対し、『戦星の輝き』は魔物討伐やダンジョンの攻略を主とした冒険者ギルドになる。
今回デュオ達が受けた依頼は街道に現れたというサンシャドウ・ドッペルイクスの討伐だ。
この魔物は朝日が昇ると同時に現れ日が沈むと同時に消える特性を持っており、日が高くなるほど力が強まると言う特性を持っていた。
そしてドッペルイクスと言う名から、近くに居る者に化けると言う厄介な能力まで持っている。
今回サンシャドウ・ドッペルイクスが現れた街道は商人の販路であり、これまでに何人もの商人がサンシャドウ・ドッペルイクスの毒牙に掛かっていた。
日曜都市を行き来している商人が途絶えた事により『審判の標』が調査した結果、サンシャドウ・ドッペルイクスが現れたことが判明し、『戦星の輝き』に依頼が来たのだ。
これをデュオ達と別のパーティーが受け、討伐を早朝に決めて『戦星の輝き』の前で待ち合わせの約束をしていたのだ。
その為、2人は早く起きて向かわなければならなかったので今朝のやり取りが起きたのだったりする。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「ごめんなさい、お待たせしました」
「ああ、大丈夫だよ。僕達も今来たところさ」
デュオ達が『戦星の輝き』の前に到着すると、既にもう1組のパーティーが来ていた。
魔導戦士の優男をリーダーとした、聖騎士、盗賊、魔術師のバランスが取れたパーティーだ。
「さて、来た早々で申し訳ないが、早速向かうとしようか。こうしている間にもドッペルイクスは力を増していくからね」
サンシャドウ・ドッペルイクスの討伐の指揮を執るのは魔導戦士の男な為、デュオ達は男の指示に従って問題の現場へと向かう。
ウィルとしては実力的にも指揮官的にもデュオの方が優れていると思っているので魔導戦士の男が指揮を執るのは面白くは無かった。
だが、デュオが敢えて魔導戦士の男を作戦の指揮官に推したのでウィルは黙ってそれに従っていた。
決して魔導戦士の男がイケメンでカッコよく、新婚にも拘らずデュオに粉を掛けているからの嫉妬ではない。
一行は南の壁門を抜けて街道へ出る。
「毎度思うけど日曜創造神様の『加護』はスゲェな。門を抜けたらまるっきり別の場所へ繋がっているんだからな」
「門から見える景色が何も無い平原だけど、門を潜ったら一瞬で鉱山や草原や森とかに行く事が出来るんだもんね」
「日曜創造神様のこの『加護』があるからこそ日曜都市は周囲の脅威に晒されることなく発展してきたんだ」
門を潜った後の景色が一瞬で切り替わり他の都市へと続く街道へ出た一行は、この現象を引き起こしている日曜創造神の力に改めて敬意を払っていた。
デュオとウィルも毎度のことながらこの日曜都市からの移動方法には驚嘆させられていた。
ただ、毎度の事と思いつつも何故か昨日今日目の当たりしたような新鮮さを感じていたが。
「さて、問題のドッペルイクスが出ると言われている現場に来たが・・・居ないな」
魔導戦士の男が周囲を伺うが、それらしき魔物の影は見えなかった。
「まだ時間的に早かったか?」
「既に日が昇っているのにか?」
ウィルはサンシャドウ・ドッペルイクスは日が昇ると同時に出現すると記憶していたので、盗賊の男に思わず聞き返した。
「一応日の出と共に現れると言われているが、個体差があってな。寝坊助な魔物も居るってこった。
まぁ、どんなに遅くとも昼までには出現するがな」
出来れば昼前には出て欲しいものだとウィルは思う。
尤も力が強くなる昼に現れるよりだったら今の内に討伐しておきたいと思うのは当然だ。
もしかしたらサンシャドウ・ドッペルイクスも朝は力が発揮できない事を考慮して出現を遅くしているのかもしれないが。
一行は何時出現しても対応できるように周囲を警戒しながら一度休憩を取る。
デュオも魔力探知を使いながらサンシャドウ・ドッペルイクスだけでなく、他の魔物も居ないか警戒をする。
そして不思議な現象を目の当たりにした。
そこには1人の小さな狐人の少女が居た。
魔力探知には全然反応は無いのに視線の先にはしっかりとその少女が目に映っていた。
「マー」
その狐人の少女は何かを訴えるようにデュオを見ていた。
「おい、どうしたんだ?」
「ウィル、あそこに狐人の女の子が・・・って、え!?」
ウィルに声を掛けられ魔力探知に反応しない狐人の少女が居ると指を指すも、一瞬目を離したすきにその少女は居なくなっていた。
「ん? 何処に狐人の女の子が居るんだ?」
「さっきまでそこに居たのに・・・」
「もしかしてドッペルイクスが化けていたんじゃないのか?」
「それだったら魔力探知に反応があるはずよ。でも魔力探知に反応しなかったのよ」
「おいおい、それこそ普通の女の子だったか怪しいじゃねぇか。第一こんなところに女の子1人でいる方が普通じゃねぇぞ?」
「そう、なのよね。普通だったら。
でも、あの子、どこかで見たような・・・なんか言いたそうな顔をしていたの」
戦場に於いて迷いは致命的な隙を生むため、いつもなら直ぐに気持ちを切り替えるデュオにウィルは訝しむも、日ごろから苦労を掛けた疲れから来るものだろうと思い、ちょっと反省しながらもデュオに今はサンシャドウ・ドッペルイクスに集中するように促す。
「ほら、今はドッペルイクスに集中だ。ここんところギルドの依頼を受け過ぎたから、この討伐が終わったら暫くゆっくりしようぜ」
「・・・そうね。新居やら結婚費用やらで依頼を多く受けていたからね。一段落ついたから暫くのんびりするのも悪くないわね」
「お、そこの新婚アツアツのお二人さん、油断しているとドッペルイクスに喰われちゃうぞ?」
「なっ!? 誰もイチャイチャしてないわよ!」
「いいだろう? 俺達のアツアツっぷりをたっぷりと見てくれや。ああドッペルイクスに見せつけるのもアリだな」
聖騎士のからかいにデュオは思わず真っ赤になって反論し、逆にウィルはどうぞ幾らでも見てくれと言わんばかりに惚気ていた。
「ところで、ドッペルイクスは人に化けるんだろ? このままだと俺達の誰かに化けるんじゃないのか? どうやって倒すんだよ」
ドッペルゲンガーの変異種とも言われているサンシャドウ・ドッペルイクスにも当然人への擬態能力を持っている。
その事を心配したウィルは対策があると言われていた為魔導戦士の男に一任していたが、今更だが対策を聞いておかないといざと言う時の対応が出来ないと思い聞いた。
「ああ、それはだな―――」
魔導戦士の男はアイテムで対応するようで、用意していたマジックバックの中からあるアイテムを取り出す。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「ふぃ~、食った食った」
「ふふ、楽しかったね」
無事、サンシャドウ・ドッペルイクスを倒したデュオ達は、日曜都市の食堂が並ぶ一角で打ち上げをしたのだ。
デュオ達は基本2人でのパーティーで依頼を受けていた為、今回のように他のパーティーと合同で受けるのは久しぶりだった。
依頼を達成後、魔導戦士の男から折角だから一緒に打ち上げをしないかと誘われて、デュオ達はこれも何かの縁だからと受けた
その際、新婚を誘うのだとか、惚気を見せられるんじゃないかとかのやっかみやからかいがあったりしたが。
依頼を終えて戻ってきたのは昼を少し過ぎたあたりだったが、今はすっかり日が落ちて辺りが暗くなっていた。
つまり真っ昼間からの飲み食いを今まで続けていたことになる。まぁ、それだけ楽しかったという事だが。
デュオとウィルは2人寄り添って通りを歩いていた。
「明日は午前中は休養して、昼から『戦星の輝き』に行こっか」
「あ~、その事なんだが、ここんところ働き過ぎたから暫くのんびりしないか? それくらいの蓄えは残っているだろ?」
「まぁ、少しの間くらいなら大丈夫だけど。けど珍しいわね、ウィルがそんな気を利いた事を言うなんて」
「おい、俺は何時でも気が利いているぞ」
デュオはウィルを少しからかいながらもたまにはいいかと明日からの休養に思いを馳せた。
そして何気なく通りの脇に視線を向けると、そこにはサンシャドウ・ドッペルイクスの現場で見かけた狐人の少女が居た。
「マー」
狐人の少女はそう呟いてある一点を指さす。
「どうした、デュオ?」
「あ・・・」
突然足を止めたデュオどうしたのかと訪ねるウィル。
その声に一瞬だけウィルの方に視線を向けると、またしても狐人の少女は居なくなっていた。
「おいおい、まさかまた狐人の少女を見たとか言うんじゃないだろうな」
デュオの様子に不審に思いながらもサンシャドウ・ドッペルイクス討伐時の事を思い出したウィルは少しからかいながら聞いてみたが、デュオは神妙な顔をしながらもその一点を注視していた。
「・・・マジか? 俺には何も居ないように見えるんだが」
デュオの尋常じゃない様子に流石に冗談じゃない事に気が付いたウィルだったが、ウィルの目には何も映っていない事でいまいち信憑性に欠けていた。
「なぁ、誰も居ないって。デュオ、少し疲れているんだよ。明日からのんびりするんだからあんまり気にしない方がいいぞ」
「そうよ、どっかで見たことがあるのよ。
・・・ダメ、思い出せない。でも違和感がはっきりしてきたわ。何かおかしい」
だが当のデュオはウィルの言葉には耳を傾けず、1人だけで何やら考察を始める。
今日もたびたび感じていた事だが、デュオはこれまでにもささやかな違和感を覚えていたのだ。
それがあの狐人の少女を見かけてからその違和感が段々と強くなっていくのを感じていた。
デュオは意を決して狐人の少女が示す方角へと向かう事にした。
「ウィル、あの子の指差していた方へ行くわよ」
「お・おい、マジかよ!」
ウィルは気が済むようにしようと走り出したデュオを追いかけながら考えていたが、状況はウィルの思わぬ方向へと動いていく。
デュオ達が進む先々で狐人の少女が現れ指を差し、行く先を誘導していく。
最初は何も見えなかったウィルだが、途中からデュオ同様に狐人の少女が見えていた。
「何か、言いたそうな顔をしているな」
「あたしには「マー」って聞こえるけど、ウィルには聞こえない?」
「ああ、姿だけだな。声は聞こえない」
ウィルは最初は誰かが自分たちを陥れようと幻覚を見せているかと警戒していたが、何故だか今ではすんなりと狐人の少女を受け入れていた。
そしてデュオが言うように、狐人の少女をどこかで見たはずだと思い始めていた。
そうして何度か狐人の少女に導かれ辿り着いたのは日曜都市にはあるはずのない他の神を祀る神殿だった。
「日曜都市にこんなものがあるなんて聞いてないぞ」
「あ、あの子が神殿の中に入っていくわ」
謎の神殿の入り口に狐人の少女が現れては融けるように神殿の中へと入っていった。
デュオ達は慌てて狐人の少女を追いかけ謎の神殿の中へと入っていく。
謎の神殿を警戒しなかったわけではなかったが、デュオは根拠はないがこの時点で狐人の少女を自分の味方だとはっきりと感じていた。
なので狐人の少女がここに連れて来たことに意味があると信じ、危険を顧みずに神殿の中へと足を踏み入れたのだ。
謎の神殿には人はおらず閑散としていた。
だが、神殿内部に満ちる神気が中に誰かしらのそれ相応の人間、或いは神が居ると思われる。
狐人の少女に導かれるまま神殿の奥に進んでいくと、最奥の大部屋柄と辿り着く。
中へ繋がる扉を恐る恐る開けると、その大部屋の奥には1人の女性が佇んでいた。
真っ赤な燃える様なストレートの髪に、整った美しい顔をしている。ただやや釣り目なところが気が強い印象を与えている。
それでいてその豊満な体つきから妖艶な雰囲気も漂っているが、同時に神気を発するその圧倒的な存在感にデュオ達は目を離せないでいた。
「ようこそサンフレア神殿へ、と申したいところですが、今の日曜都市ではサンフレア神殿は存在しない扱いのはず。
どうやってこの場に来れたのか興味がそそられます。そちらも何やら事情がおありのご様子。もしよろしければお聞かせ願いますか?」
「・・・あ、ああ。それは構わないが、と言うか、俺達もよく分からないでここに来たんだ。
あんたが――失礼しました。貴女がこの神殿の主で、神と呼ばれる方でしょうか?」
ウィルは途中から慌てて口調を改めた。もし目の前の女性が神であるのならとんでもない無礼を働いていることに気が付いたからだ。
「くす、堅苦しい言葉使いはしなくても大丈夫ですよ。上辺だけ敬われても意味のない事ですし、本当に心の中にある想いこそがその者の信心となり、私の加護を受ける器となるのですから。
それで私の正体ですが、察しの通り私は太陽神サンフレアと申します。天と地を支える世界を支える1柱の神と呼ばれる存在です。
そして神秘界の騎士のThe Sunでもあります」
「太陽神サンフレア・・・すまねぇ。聞いた事も無い」
「それは仕方ありません。日曜創造神が都市に住む方々に偽の記憶を植え付けていますから。その記憶には私やこの神殿の存在はありません。
その結果、私やこの神殿は存在しないことにより人々の目には移らないようになっているのです」
サンフレアの言葉にデュオ達は衝撃を受ける。
自分の記憶にあるのは日曜都市の住民を導く貴い存在の日曜創造神だ。
その日曜創造神が自分の都合のいいように住民の記憶を書き換えていたとなれば衝撃は大きい。
だが、納得できるものもある。
今までサンフレア神殿を見なかったのは――いや、見ていても気が付かなかったのはサンフレアの言う通りなのだろう。
そして今日感じていた違和感がまさに今の自分の記憶違いを差しているという事に。
その違和感はサンフレア神殿に来てからより大きく、より確実に感じていた。
そして極めつけはサンフレアの隣にいる狐人の少女だ。
サンフレアには見えないみたいだが、デュオ達の目にはこれまでとは違い消えることなくはっきりとそこに存在していた。
「マー、思い出して」
狐人の少女の尻尾が1本から9本へと増える。
その姿を目にした瞬間、デュオは頭の中にこれまでの記憶が一気に流れ込む。
偽りの記憶は追い出され、自分が何者かをはっきりと思い出す。
「貴女のお蔭で全部思い出したわ。ありがとう、――クオ」
次回更新は3/6になります。




