75.その日曜創造神に仕えし者は闘神と星神を兼ねし者
「ん? 久々に『審判』に反応が出たな」
「お、来たか! おいJudgement。そいつらは俺の祭りの客だ。俺が相手をするからお前は手を出すなよ」
これと言って何の変哲もない金髪の青年が不意に虚空を見上げては自分の主――日輪陽菜に敵意・悪意を持つ者が現れた事に反応する。
そしてその言葉を聞いた筋肉隆々の大男はその荒々しい雰囲気を隠さずに喜びの声を上げる。
「またお前の悪い癖が出てるな。まぁいい、この件はお前に一任する。が、陽菜様には決して害が出ないようにしろよ」
「分かってる、分かってる。俺がここにいるのは陽菜様を守るためだぜ」
そう言って大男は嬉々として部屋から出て行く。
その様子を見ていたJudgementはぼそりと呟いた。
「神秘界の騎士The ChariotとThe Starの力を持った勇猛神ブルブレイヴか・・・目を付けられた相手が気の毒だな」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「ありがとう、クオ。貴女のお蔭で全部思い出せたわ」
デュオは記憶を取り戻させてくれたクオに感謝をする。
先程までサンフレアの隣に姿を見せていたクオの姿は既に無かった。
デュオの力になる為、封印状態にも拘らず己の姿を遣わしたのだろう。
「あー、くそ。やってくれたな、日曜創造神の野郎・・・」
隣ではウィルも同様に記憶を取り戻し、日曜創造神に嵌められた事に憤怒していた。
特にウィルはぬか喜びさせられた事が許せないでいた。
「どうやら記憶が戻ったみたいですね。信じられない事ですが」
「そうなのですか? サンフレア様も力を貸してくれたんじゃ?」
「いえ、私には日曜創造神の力を跳ね返す事は出来ません。私は世界を支える、もしくは維持するだけの力しか持ち合わせてません。
それに引き替え日曜創造神は文字通り創造神としての力を持っております。
精々日曜創造神と同じ太陽にと言う属性であるため、日曜創造神の能力の効果を相殺しているくらいですね」
デュオ達の記憶が戻ったのはサンフレアの力添えがあったからだと思っていたが、どうやらそうではなかったみたいだ。
だが、この神殿自体に日曜創造神の影響が及ばないようにはなっているようだ。
「但しあくまで能力の相殺であって除去ではありません。貴女方が記憶を取り戻したのは貴女方の力です」
「ううん、あたし達だけの力じゃないです。クオが力を貸してくれました。記憶を取り戻させるためにここまで導いてくれたんです」
「クオには感謝だな。あんな状態になっているにも拘らず力を貸してくれるなんてな。と言うか、デュオのピンチを察して現れるなんて都合がよすぎる気もするがな」
「それは、これのお蔭かもね。おそらくこれを通じてあたしの状況を把握したんだと思うわ」
そう言って懐から取り出したのはクオから貰った銀のペンダントだ。
尤も銀のペンダントはあくまでデュオの位置を示すビーコンであり、ペンダントが無くともデュオはクオと心が通じているのをはっきりと感じていた。
「クオと言うのは貴女の大切な方なのですね・・・」
「ええ、あたしの自慢の娘です。
それよりも早速で悪いんですけど、状況を把握したのですが。あたし達数人の仲間と日曜都市に来たまでは覚えているんですが、碌に情報を集めれないままに日曜創造神の攻撃を受けまして」
デュオはウィルとベルザとソロとフレンダの5人で日曜都市に来たところまでは覚えている。
が、日曜都市に潜入して直ぐに日曜創造神の攻撃を受け、別の記憶を植え付けられた。
この記憶改竄の攻撃は日曜創造神本人が直接赴いたわけでもなく、日曜都市全域に結界のように張り巡らされ、一定時間ごと不法侵入者に記憶改竄を施すらしい。
デュオとウィルは改めて自己紹介をし、これまでの経緯と日曜創造神を倒すための協力をサンフレアに願い出た。
サンフレアとしても日曜都市を支配し、サンフレアを孤立させた日曜創造神に従う気は無いので喜んでデュオ達に協力する旨を伝える。
「尤も、私は天と地を支える世界を支え続けるためにこの神殿を動く事が出来ませんが」
サンフレアの話によると、三柱神の3神――太陽神サンフレア・月神ルナムーン・勇猛神ブルブレイヴ――は天と地を支える世界を維持するために各々の神殿に居なければならない。
但し、3神のうち2神が神殿に居れば維持は可能なので、1神だけ一時的に神殿を離れ移動する事が出来る。・・・のだが、現在ブルブレイヴは自分の神殿を離れ放浪している為、サンフレアとルナムーンは天と地を支える世界の維持の為、神殿を離れることが出来ないのだという。
「問題は、これからの行動だな」
「目的は日曜創造神なのは変わりないけど、そのお付の神秘界の騎士が問題ね。
Judgement、The Star、The Hermit、The Worldの4人だけど、The HermitとThe Worldは既に倒しているから残りはJudgementとThe Starの2人」
「そのJudgementがかなり厄介ですね。その実力は偏った所が無く、どの武器にも通じ全ての魔法をも使いこなす強者です。
それ故に日曜都市のもう1人の支配者として有名です」
何でもまだ日曜都市の支配が安定していない頃にJudgementが活躍してそのすさまじさを見せつけたのだと言う。
Judgementの能力は『審判』と呼ばれ、日曜創造神に敵意・悪意を持つ者の前に現れ裁きを下す。
捌きとは言ってもJudgementが武力を以って制圧する事だ。
突出した能力が無いとは言え、その極限まで鍛え上げられた実力は全てに於いて凌駕する。
何よりも厄介なのが、Judgementが倒されても蘇るという事だ。
数多くの反逆者全てがJudgementの『審判』により裁かれたわけではない。中には逆に返り討ちにし、Judgementを倒した事があるのだ。
だが、一時はJudgementを退けたとしても、数時間後に再び現れ裁きを下される。
そして日曜創造神に敵対する者、悪意を撒き散らす者が溢れていた当時の日曜都市を瞬く間に平定していくことになったのだと言う。
「そうなると、記憶を取り戻したあたし達が既にJudgementの『審判』の悪意・敵意に引っかかっている可能性が大だね」
「Judgementが現れても戦闘は出来るだけ避けて仲間の捜索、日曜創造神やJudgementの情報の収集って言ったところか?」
「うーん・・・『審判』がサーチ能力兼瞬間移動能力があるのなら何処に逃げても一緒ね。
逆に一度倒してしまえば数時間は現れないからその間を突くしかないと思うわ」
ウィルは戦闘は避けて行く事を提案するが、『審判』がある限り逃れることは不可能だろうとデュオは判断し、逆に迎え撃つことを提案する。
「たった2人でか? あ、いや、俺とデュオなら出来ない事は無いが、流石に厳しいんじゃないのか?」
「それは分かっているわよ。でもソロお兄ちゃんやベルザさんの居場所がはっきりと分からないからどうしようもないわ。
だから最初の接敵で何とか倒して復活するまでの間に皆を見つけるしかないわ」
「分かっちゃいたが、対日曜創造神はかなりのハードモードだな」
一度Judgementを凌いでしまえば後は仲間を見つけるたびに難易度が下がるのだ。特に七王神のベルザや『最強の正体不明の使徒』のソロを見つけることが出来ればかなり楽になる。
「後は先に先行していたアルベルトやアラキネ、七王神のローズマリーと疾風さんの行方もね」
「一緒に行ったヴェルコ達も忘れるなよ。とは言え、こうして探す仲間の顔ぶれを見ればなんかハードルが下がった気がするな」
「問題は皆が何処に居るかなのよね」
「それなら記憶改竄を受けたものが集う住宅区域に行ってみるといいでしょう」
サンフレアによれば外部から侵入してきた者達は記憶改竄を受けた後、日曜都市の住人として生活する事になる。その為の受け入れ区域が存在するのだと言う。
外部からの侵入者を想定していた為、その区域は幾つもあるらしい。
デュオ達が住んでいた家もその区域に用意されていたものだ。
サンフレアは太陽神として、The Sunとして日曜都市を監視していたのでその区域が何処にあるのかを把握していた。
デュオ達に最近住み着いた者が居る区域を教える。
因みに、サンフレアが神殿から動けないのに日曜都市の住人が記憶改竄を受けていた事を知っていたのもこの能力のお蔭だ。
「そう言えば、The Starはどういった奴なのかは分からないのか?」
「ええ、The Starが日曜創造神の傍にいるのは分かっているのですが、どのような者なのかは不明なのです」
「Judgementの他にも温存された戦力があるのか・・・」
ただでさえJudgementが手強い相手なのに、未だ正体が分からない温存戦力があるともなれば攻略難易度は格段に上がる。
ウィルはその事にうんざりしながらも覚悟を決め、日曜都市の攻略に向け気合を入れ直す。
デュオもThe Starについて考察するも、ほぼ情報不足な状況ではどうしようもない。
名前から星――輝き、星座、天体と言った大雑把なことしか推測できず、同じ天体である太陽神サンフレアのThe Sunと月神ルナムーンのThe Moonと関連があるかと思われたが、サンフレアによれば勇猛神ブルブレイヴはThe Chariotの神秘界の騎士だと言う。
結局、The Starの正体が分からないままだが、後はぶっつけ本番で対応するしかないと覚悟を決める。
まぁ、正体不明のままで最後まで出てこなければそれに越したことは無いのだが。
「サンフレア様、ありがとうございます。これで一応の目途がつきました」
「いえ、私にはこれくらいしか出来ませんので。
後、これをお渡しいたします。私がThe Sunとして預かっている緊急脱出口のカードキーです」
日曜創造神を倒し神秘界を手に入れるのと同じくらい重要な天と地を支える世界へ戻るための鍵だ。
攻略する都市は残っている日曜都市だけなので、別行動をしている鈴鹿達が入手したカードキーを含めればほぼそろっている事になる。
本来ならサンフレアを倒すか認められなければ貰えないのだが、今回は例外と言う事らしい。
まぁサンフレア神殿に辿り着いて日曜創造神からの干渉を断ち切った事で強引に認めた事にした別口の理由もあるが。
そこでデュオは鈴鹿と共に行動をしているトリニティを思い出した。
「サンフレア様、これを預かってもらえませんか?」
そう言って腰に下げた剣――The Hermitから取り戻した蛇腹剣をサンフレアに差し出した。
「あたし達には別行動をしている仲間がいます。おそらくその仲間達もサンフレア神殿に、サンフレア様に会いに来るはずです。
その時あたしの妹のトリニティにこの剣を渡して欲しいのです」
「貴女方以外にも記憶改竄の力を退け私の神殿に来ると言うのですか?」
デュオのその言葉にサンフレアは驚きを隠せないでいた。
サンフレアにとっては記憶改竄を受けた者はサンフレア神殿の存在が消されるので神殿への訪問者は無いに等しい。
そして永い間待ち続けて奇跡が起きて現れたのがデュオたちなのだ。
それがデュオ以外にも現れるのだと言う。
「はい、必ず」
「だな。鈴鹿が簡単に術中に嵌まるとは思えねぇな。あいつなら何かやらかしてくれそうだ」
デュオとウィルはこれから来るであろう鈴鹿達を完全に信頼していた。
その言葉にサンフレアは羨ましくも思い信じることにした。
「分かりました。これは妹さんが現れた時にお渡しするようにしましょう」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
サンフレア神殿から出たデュオ達は早速サンフレアが示してくれた最近の記憶改竄を受けた者が住む区画へ向かう。
出来れば日曜都市や日曜創造神の情報を集めながら向かいたいところだが、今は余計なことはせずに最短距離で向かわなければならない。
何時Judgementの『審判』がデュオ達の前に下されるか分からないからだ。
おまけにすっかり日が落ちて辺り一面は薄暗くなっており、日曜都市の住人達は帰途の様子を見せていた。
「そう言えば今気が付いたが、神殿から出たらまた記憶が改竄されるんじゃないのか?」
「それは大丈夫よ。今はクオのペンダントが中継点となってサンフレア様の加護があたし達を守ってくれているわ」
「と言う事は、デュオから離れたら日曜創造神の記憶改竄を受けてしまうって事か」
「そ、だからあたしからあまり離れないでね」
とは言ってもデュオの感覚ではクオのペンダントの効果範囲は半径約50m位なので別行動を取らなければ問題は無い。
最短距離を走って来たのでJudgementの『審判』を受けずにデュオ達はサンフレアが示した区画へと辿り着く。
サンフレアが示した全部で4か所あり、最初に向かった区画はデュオ達が住んでいた区画でもある。
この区画の中央には雄々しい勇者の銅像が建てられており、通称勇者街と呼ばれていた。
「ここにベルザさんやソロお兄ちゃんが居ればいいんだけど・・・」
「もしくはローズマリーか疾風のどっちかでもいいがな」
だが、道行く人々や周辺の住人に訊ねて回るもそれらしき仲間の影は見つけられなかった。
仕方なしに別の区画へと向かう事にしたデュオ達だが、その道すがら中央の銅像が目に移る。
「そう言えばこの銅像、何で剣だけ本物を使ってるんだ? 見たところ最上級の金属のヒヒイロカネで造られた剣みてぇだが。普通なら盗まれるぜ、これ」
ウィルが言うように、その勇者の銅像に添えつけられた剣は本物を使用していた。
剣は地面へと突きたてられ、勇者の銅像はその柄に両手を置いてマントをなびかせている。
ちょっと柄を銅像の両手から外せば剣を持ち去ることも可能だ。
「もしかしたらこの剣に関しても何かしらの記憶改竄を受けている可能性があるわ。
あたし達がずっと目にしてきたのにも拘らず今までその事に気を向けなかったんだからね」
「つーことは、この剣は日曜創造神に取って重要なものでもあるかもしれないって事か。
・・・折角だから持って行くか?」
「惹かれる案だけど今はやめておきましょう。周りの目があるわ。幾ら気が付かないって言っても目の前で堂々と盗みを働けば騒ぎになるわよ」
「それもそうか。もしかしたら他の区画にも似たような物があるかもしれないな」
「サンフレア様が示した区画の通称を考えればあり得るわね」
サンフレアが示した残りの区画には戦士街・魔術師街・僧侶街の通称が付けられていた。
そしてウィルの言う通り、それぞれの区画の中央には銅像が建てられていた。
斧を持った戦士像、杖を持った魔術師像、メイスを持った僧侶像だ。
勇者像と同じくそれぞれの武器は像ではなく本物を添えつけられていた。
2つ目の区画――魔術師街を訪れたデュオ達は魔術師像を見てその武器たちに何かあると確信する。
「この際だから他の区画の銅像も調べてみるわよ」
「ああ、って言いたいところだが、皆が見つからない上に厄介な奴が現れたぜ」
この魔術師街でもデュオ達はベルザ達を見つけることが出来なかった。
仕方なしに残りの区画へと赴こうとしたところ、ウィルが近づいてくる強者の気配を感じ取っていた。
少し遅れてデュオも近づいてくる僅かな魔力を感じ取る。
「ここか? それらしき奴は見当たらねぇが・・・」
筋肉隆々の大男が携帯念話を使用しながらデュオ達の前へと現れる。
『今お前の目の前にいる2人組の男女がそうだ』
「はぁ? ってあいつらじゃねぇじゃねぇか!」
『そんな事は知らん。お前が相手をするって言ったんだ。責任を持って対応しろ』
「分かったよ。でもまぁ、久々に現れた『審判』の相手だ。それなりに骨のある奴だろう。少しは楽しめるかもな」
『『審判』の強さから言ってそいつらもかなりやるぞ。お前の好み程度にはな』
「ほう。そいつは何よりだ」
デュオ達はその会話から、携帯念話の向こうの相手がJudgementだと判断した。
すなわち目の前の大男も日曜創造神の配下であると言う事も。
大男は携帯念話を仕舞い、俺達へと向き直る。
「さて、と。ようこそ日曜創造神に逆らいし者たちよ。どうやったかは知らんが、日曜創造神の支配から逃れてるみたいだな。
つまりお前らは日曜創造神の敵ってわけだ」
大男は嬉しそうに腕をまわしながら戦闘準備を整えていく。
バンプアップされた筋肉は一回り大きく見え、素手であるにも拘らずその筋肉から繰り出される攻撃は全てを破壊しそうにも見える。
「あんたがJudgementって訳じゃ無いみたいだな」
「おうさ、俺は勇猛神ブルブレイヴ。そしてまたの名を神秘界の騎士The Chariot。
そしてもう1つの神秘界の騎士The Starの名を持つ者でもある!」
「はぁっ!? ちょっ、あんたが勇猛神ブルブレイヴでThe ChariotでThe Starなのか!?
なんだよそのトリプルコンボはっ!!」
ウィルが喚きを上げるのは無理もない。
三柱神の1柱、勇猛神ブルブレイヴは世界を支える力を持つ神だ。
ただでさえその勇猛神ブルブレイヴの相手をするだけでも激戦は必至なのに、神秘界の騎士の力を2つも持っているのだ。
下手をすればS級冒険者や七王神すらも上回る難敵だ。
デュオにしてもまさか半ば冗談で繋がりがあるのではと考察したThe Starがブルブレイヴだったとは思わず頭を抱えたくなっていた。
「確認なんだけど、貴方が勇猛神ブルブレイヴで間違いないのね? 太陽神サンフレア様と月神ルナムーン様の弟の」
「お? 姉さんに会って来たのか? あー、もしかしてあんたらの記憶が戻ったのは姉さん絡みか?」
「答える義理は無いわ。
それで、貴方が三柱神であるにも拘らず日曜創造神側に付いたあたし達の敵で間違いないのね」
「三柱神だからと言ってあんたらの味方とは限らないさ。ま、姉さんたちには悪いが、俺は日曜創造神側に付くぜ。なんせ、そっちの方が面白いからな!」
ブルブレイヴの言葉にデュオ達はあっけに取られる。
まさか貴いはずの三柱神が面白いと言う理由だけで敵対勢力に付くと言うのだ。
「折角わざわざ俺がJudgementの代わりに出向いたんだ。楽しませてくれよな」
「あんたの気持ちが分からないわけじゃないが、流石に神様がやるにしちゃあ、冗談きついぜ」
「楽しませて上げるつもりはないわ。あたし達はあたし達のやるべきことをやるだけよ」
楽しそうに拳を打ち付けるブルブレイヴに、ウィルはオリハルコンの剣を向けデュオはその後ろで静寂な炎を宿す火竜王を構える。
予期せぬブルブレイヴの乱入により、デュオ達は三柱神の1柱との戦いを余儀なくされた。
次回更新は3/8になります。




