67.その正体は帰る場所を失いし異邦人
「知り合いなの?」
デュオ達を取り囲む山賊――烈火神軍の残党の中に、アイリスの知っている人物がいた。
とは言っても左程動揺が見られないアイリスの様子にそれ程親しい間柄ではないと見える。
「まぁね。元『AliveOut』のメンバーよ。救出部隊の小隊長を任されてたんだけど、『AliveOut』を裏切って白土神軍に情報を渡したって噂よ。今は『AliveOut』の拠点で監禁されているって聞いたけど」
「俺は悪くない。悪いのはあいつらだろ!?
俺は作戦を遂行させるための障害を排除しただけだ。それなのに何故俺が捕まらなければならない。理不尽すぎる」
アイリスの裏切りの言葉に反応し、ギャンザは自分が間違ってないと主張する。
少し前までは『AliveOut』のメンバーを含む天と地を支える世界から来た冒険者が土曜創造神に捕まっていた。
『AliveOut』ではその仲間達の救出に向けて大規模の救出作戦が行われる予定だったのだ。
だが最近神秘界に来た冒険者は『AliveOut』とは別にその土曜創造神に捕まっている仲間を救出しようとして勝手な行動を取ろうとしていた。
ギャンザは作戦に狂いが生じるとしてその冒険者たちを止めようとしたのだが強行突破されてしまったので、已む得なく次善の策として土曜創造神側の白土神軍にその冒険者の情報を渡したのだ。
だからギャンザにしてみれば『AliveOut』の為にしたことであって決して裏切った訳ではない。
「はぁ・・・だからって敵側に情報を売るのは間違っているでしょ。
そもそも冒険者を助けるはずの救出部隊がその冒険者を敵側に捕まえらせてどうするのよ。『AliveOut』のメンバーじゃない人は助ける筋合いが無いとか言わないでよね? 救出部隊は神秘界に来た冒険者を助ける部隊のはずよ」
「こっちの事情を話してまで動かないように厳命したのに、何故向こうが自分勝手に動こうのを見逃さなければならない。その所為で大勢の仲間の救出が出来なくなるのだぞ!」
「でも救出部隊リーダーのレイダさんは計画通りに仲間を救出したって聞いたけど? それもあんたの言う自分勝手な冒険者を上手く計画に利用してって」
「それは結果論だ! 上手くいったからいいもののあんな自分勝手な奴らに場を乱されれば今後も作戦や計画に支障が出るに決まっている! あんな奴らは即刻排除するのが一番なんだよ!」
「はぁ~駄目ね。話にならないわ」
アイリスは噂程度にしか聞いてなかったが、ギャンザがその冒険者を止めようと返り討ちになったのを恨んでいるのかもしれないと思った。
アイリスとギャンザは異世界からの知己であり、アイリスはギャンザのその性格をよく知っていた。
自分の計画したことが上手くいかないとヒスを起こし、そのくせ変にプライドが高い所為か自分の間違いを認めない性格だったのを。
「それで今は逃亡兵で他の残党と共に山賊に落ちぶれているって訳ね」
「あらら、幾ら没落したからってああはなりたくないわね」
デュオやレンヒットの言葉にクロやリュナウディアも頷く。
「まぁ、どちらにせよこいつらは排除だな」
リュナウディアが走竜から降り、両拳をぶつけ取り囲む神軍残党を見渡す。
デュオ達も走竜から降り、神軍残党を迎え撃つ。
走竜から降りなくても戦う事が出来るが、相手は人間だ。魔物とは違い何をしてくるか分からないと言う点では脅威だ。
その為、地上に降りての戦闘となる。
「最後通牒よ。大人しく降伏して牢獄生活に戻るのなら命だけは助けてあげるわ。被害が他に及ぶのを見過ごすほどあたし達は甘くいられないのよ」
「断る。俺は俺の信じる道を進むだけだ!」
アイリスの差し伸べた唯一の助かる道をギャンザは一蹴する。
そしてギャンザに呼応して他の神軍残党も戦闘モードへと移行する。
尤も神軍そのものは己の欲望を満たすための組織でもあったので、その残党である彼らには大人しく降伏する道など最初から存在しないのだ。
あるのは目の前に現れた獲物であるデュオ達をどういたぶるかしか見えてない。
「交渉、決裂ね」
アイリスは少しだけ寂しそうに呟いて、襲ってくるギャンザを迎え撃つ。
元々残党と言う事もあり、ギャンザ以外の者はそれ程手こずるものでもなかった。
デュオの魔法が飛び、アイリスの剣が閃き、リュナウディアとレンヒットの拳が炸裂する。
そしてクロの死角からの蛇腹剣が神軍残党を切り刻む。
「・・・ねぇ、デュオ。あれってどう思う?」
「う~ん・・・あそこまで同じだと疑いたくなるけど、それならあたし達の前に現れる意味が分からないわ。やっぱりただの偶然だと思うけど」
クロの姿は神秘界の騎士のThe Hermitに酷似している。そしてその手にしていた武器はトリニティが使用していたと思われる蛇腹剣だ。
そしてクロもまた蛇腹剣で神軍残党を攻撃している。
ここまでそっくりだと何か裏があるのではと疑いたくはなるが、デュオ達の前に姿を現している時点でその姿は意味をなさない。姿が酷似しているのなら他にやりようがあるからだ。
戦いの後で念のためにクロの蛇腹剣を見せてもらったのだが、デュオがトリニティに贈ったギミック付きの蛇腹剣ではなく、普通の蛇腹剣だった。
その為クロの疑いは晴れたものの、デュオとアイリスは一応注意を払う事で落ち着いた。
ギャンザと神軍残党の襲撃から数分後、そこにはギャンザ以外の者は立っていなかった。
「くそっ! 何で、何で・・・!」
ギャンザは苛立たしげに剣を振り回しデュオ達を牽制する。
そんなギャンザを遠巻きに囲んでいたデュオ達だったが、その視線の先は別の場所に向いていた。
「ねぇ、ちょっと嫌な予感がするんだけど・・・」
「奇遇、私も」
「だよね~。なぁ~んか、おっきい何かが近づいて来ている気がするぅ♪」
「おい、止めろ。そんな事を言ったら・・・」
デュオ以外のアイリス達4人はギャンザの後方から迫りくる巨大な何かに怯えていた。
リュナウディアの言葉を肯定するかのように、ギャンザの背後から3mものG――ギガントコックローチが姿を現す。
「「「「キャアァァァァァァァァァァァッ!!」」」」
ギガントコックローチの姿にデュオ以外の女性陣が悲鳴を上げる。
「撤退撤退撤退撤退撤退撤退撤退―――!!!」
アイリスはギガントコックローチが姿を現したと同時に走竜に跨りすぐさま撤退を指示する。
当然他の3人も異論は無く、素早く走竜に乗り込み逃げの一手を選んだ。
ただ1人、デュオだけが戸惑い後れてアイリス達の後を追う。
「え? ちょっと、迎撃は!?」
「あんなキモイの相手しないに決まっているでしょ!」
アイリスがすぐさま撤退を指示したのは何も嫌悪感から来るものだけじゃない。
何しろ姿を現したギガントコックローチは1匹だけじゃなかったからだ。
1匹見かければ30匹はいると言われるギガントコックローチ。デュオ達の背後には見るもおぞましい光景が繰り広げられ、背後から突然現れたそれに巻き込まれたギャンザは声も無く踏み潰されていた。
少しでも遅れればギャンザと同じ目に遭うのは間違いない。それ故アイリス達は一心不乱に森を抜ける為、走竜を全力疾走させる。
ただデュオだけが若干不満そうに殿を務めながら後を付いて行ったが。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
全力疾走で森を抜けた後もデュオ達は速度を緩めずにそのままホイルフォー山へ向かう。
ハミントの森を抜けた先はなだらかな丘が連なる丘陵地帯で間を縫うようにして進んでいくが、ホイルフォー山が目前に迫ってきた辺りで日が落ちたので野営をして明日山へ向かう事にした。
「流石にあれは私も勘弁願いたい」
「うんうん、1匹だけでも気持ち悪いのにあんなにうじゃうじゃいちゃさぶいぼが立っちゃうよね~」
「Gの悪魔は全て滅べばいいのよ」
野営をしている中でリュナウディア達は今日遭遇したギガントコックローチに悪態をついていた。
「デュオはよく平気でいられるな」
「あ~、うん。前も言ったけど、あれってただの巨大な昆虫でしょ? まぁ数は多かったけど、あたしなら問題なく倒せたわよ。
何も逃げる必要は無かったと思うけどなぁ~」
リュナウディアの質問にデュオはあっさりと答えるが、幾ら簡単に倒せると言ってもそれを容認することは出来ない。
案の定、皆からはあれを倒すなんてとんでもないと言う叫びがデュオに向けられる。
デュオはそれを苦笑いしながら聞き流し、ようやく落ち着いて3人が他の話題になったところで、何故か大人しいアイリスに声を掛けた。
「あのギャンザって人が裏切ったのがショックだった?」
「―――! やっぱり、分かっちゃう、か・・・」
衝撃的なギガントコックローチからの逃走とは言え、ハミントの森を出てからのアイリスの口数が減っていれば嫌でも気が付く。
「そりゃあね。それだけ落ち込んでいれば分かるわよ。
もしかして知り合い以上の関係だったのかしら?」
「・・・元彼よ。異世界に居た時のね。
一緒にアイヲン――天と地を支える世界に来たんだけど、あいつあの性格でしょ? 終いには喧嘩別れをしてね。
その後で神秘界で再会したんだけど、やり直したいって。でもあたしは未練はなかったからバッサリ断ったのよ」
「でも向こうはそうではなかった?」
「そ、変にプライドが高いもんだから認めたくなかったみたいで、だったら意地でも認めさせてやるって手柄を上げて誇れる地位を手に入れようとしたみたい。あたしが精鋭部隊に選ばれた対抗心もあってね。
けどあいつの中で手段と目的が入れ替わって、結果あの様よ。
・・・ホント馬鹿ね」
そう言いながらアイリスはどこか寂しげに遠くを見つめていた。
もしかしたらアイリスの中ではまだ気持ちが向いていたのかもしれない。
「確かに本当に馬鹿ね。変な意地を張っていいところを見せようとしたんでしょうね。
そんな事をしなくても正しい信念を貫いていれば黙っていても女はそれに惚れるものなのにね」
「それって、自分の事を言ってるのかな? その信念を貫いている男って例えばウィルとか」
「ななな・・・何でそこでウィルが出てくるのよ。第一あいつに信念があるわけないじゃない! 何かにつけてあたしの後ろを付いてくる自分の主張がはっきりしない男なのよ!」
「あ~らら、それって惚気? はいはい、ご馳走様」
「ちょっ! そんなんじゃ無いったら!」
慌てて弁明するデュオに、先程までの落ち込んでいた様子からうって変わって明るくデュオをからかうアイリス。
そんな様子をリュナウディア達3人は見ては何事かと会話に参入してくる。
「ウィルの話題が出たようだが・・・確かにあの男は出来るな。機会があれば一度手合せをしてみたいものだ」
「え? 何々? なんか面白そうな話しをしているね。もしかして恋バナ? あたしも混ぜてもらうわよん♪」
「男は星の数ほどいる。即ち出会いも無限大。私にだっていつかチャンスが・・・!」
3人もアイリスが落ち込んでいるのが分かっていたので、少しでも元気づけるようにと場を盛り上げようとしていた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
次の日、デュオ達は謎のジジイを捜して再びホイルフォー山を目指す。
「で、ホイルフォー山の目の前まで来たのはいいけど、どうやって謎のジジイを捜すの?」
「うーん・・・レンの祝福は今の時点じゃ役に立たないのよね~
まぁ、ここはクロに期待したいところだけど」
ホイルフォー山の麓まで来たのはいいが、肝心の謎のジジイを捜索する方法が無い事にアイリスが指摘する。
デュオは当初の予定通り、盗賊であるクロに期待をしていた。
「何とか痕跡を見つけてみる」
クロを先頭にデュオ達はホイルフォー山へ足を踏み入れるが、捜索は思ったよりも難航した。
盗賊としての技能をフル回転し、謎のジジイだけでなくありとあらゆる生き物の痕跡を追っていたのだが、謎のジジイの手掛かりは見つけ出すことが出来なかったのだ。
尤も、野外での探索は本来なら狩人の管轄なので、クロが手掛かりを見つけられないのは仕方ないとも言えたのだが。
「・・・ダメ。ここまで痕跡が無いと本当に謎のジジイがこの山に来たのか疑わしい。
もしくは痕跡さえ残さないS級の謎のジジイが凄いのか」
「うーん、困ったわね・・・」
クロの判断結果にデュオはどうしたものかと唸る。
「んむふぅ~? あたし達が山に向かってきている間に他の地にいったとかは?」
「あり得るわね・・・」
「もし謎のジジイがホイルフォー山を後にしたのが今朝なら私達とすれ違う可能性もあったかもしれないが、それが無いところを見るとまだ山に居るか、私達が来る数日前に既に居なくなっていたかだな」
「・・・あ。よくよく考えたらすれ違う可能性も無いじゃない。
お爺ちゃんはガジェット――黄金騎竜で空を移動しているんだもの。そうよ、山の中を歩いている訳じゃないから痕跡なんてあるわけないじゃない」
ここに来てデュオはようやく謎のジジイがガジェットに乗って移動していることを思い出した。
つまりクロが謎のジジイの痕跡を見つけられないのは当然であり、捕まえるとすればピンポイントでガジェットが降り立った場所に向かわなければならないのだ。
「ちょっとぉ。そんな大事な情報を今まで忘れていたわけ?」
「あはは~・・・ごめんなさい」
アイリスに呆れ顔で言われデュオは大人しく誤った。
とは言え、問題は何も解決していない。
どうしたものかと頭を悩ませていると、クロが1つ提案をしてきた。
「この山の主、神秘界の騎士のWheel Of Fortuneに聞いてみるとか」
「あ、まだ攻略していない神秘界の騎士が居たんだ」
「Wheel Of Fortuneは攻略が難しいから後回しにされているって聞いたわ」
「ああ、何でもそれほど強いわけじゃないのにやり難いと聞いたな」
アイリスとリュナウディアが言ったように、Wheel Of Fortuneはやり難い事で一時攻略を停止していた。
それに加え、ホイルフォー山にはグルネルトヴォルフと言う額にヒヒイロカネの硬度を誇る角を生やしたS級魔物も蔓延っている。
幸い今のところデュオ達は遭遇はしていないが、噂によればWheel Of Fortuneはグルネルトヴォルフを従えていると言われており、攻略し難さに輪を掛けていると言う。
「うーん・・・訪ねて素直に教えてもらえると思う?」
「そこはデュオの交渉次第?」
「何であたしなのよ? こういう場合は・・・リュナウディアとか、レンとか?」
そう言ってデュオはリュナウディとレンを見る。
リュナウディアは交渉に向いているとは言えないが、武人である故に誠実な対話が出来るのではと考える。
レンヒットに至ってはその明るい口調が相手を自分のペースに引き込み有利に会話を進めれるとみていた。
まぁ、見方を変えれば軽薄すぎるが故に相手の反感を買う可能性もあるが。
だが2人はデュオの案に反対する。
「いや、私に交渉ごとは向いていない。愚直すぎるが故に不利益を被ったことがあるからな」
「うんむぅ、あたしもダメだめだね。調子に乗り過ぎて失敗するのが目に見えてるもん」
「えっと、それじゃあ・・・」
リュナウディアとレンヒットに断られデュオは残りの2人の方を向くが、アイリスとクロは揃って首を横に振る。
「はぁ~、分かったわよ。あたしが交渉をしてみるわ。
まずはWheel Of Fortuneの所に行ってお爺ちゃんの痕跡を確認するわよ」
デュオ達はまずは今時点で謎のジジイがホイルフォー山に居るか居ないかをWheel Of Fortuneの反応を見て確認することにした。
後はWheel Of Fortuneから出来るだけ情報を引き出す。
そうしてWheel Of Fortuneが居るであろう山頂に向かっていたデュオ達だが、その途中でクロが微かな斬撃の音を拾った。
この山での戦闘と言えば、グルネルトヴォルフしか居ない。もしくは山の主であるWheel Of Fortuneか。
だとすれば狼か主か、どちらかと戦っている相手は誰なのか。
可能性としては謎のジジイが高い。
ここに来てようやく手掛かりを見つけたデュオ達はその斬撃がする方へと走竜を向けた。
山の木々の間を抜けて開けた場所に出ると、そこには無数の角の生えた狼を従えた背中に輪を浮かせている男――Wheel Of Fortuneが居た。
そしてそれを迎え撃っているのが背後に黄金竜、左右には空飛ぶイルカとシャチ、そして狼を従えた謎のジジイだった。
「お爺ちゃん!? やっと見つけた!」
「ぬおっ!? デュオ!? 何故お主がここに!?」
突如姿を荒らしたデュオの姿を見て謎のジジイが驚きを顕わにする。
だが今は戦闘中。
Wheel Of Fortuneと切り結ぶ謎のジジイを見てデュオは即座に皆に指示を出す。
「話は後で! リュナウディアとレンはグルネルトヴォルフを倒して。アイリスとクロはお爺ちゃんに取り付くグルネルトヴォルフの排除を。
あたしはお爺ちゃんの援護に入るわ」
デュオの指示に従ってアイリス達は素早く行動を開始する。
突如現れグルネルトヴォルフと戦うアイリス達を見てWheel Of Fortuneはデュオ達を敵と認識した。
「てめぇらもそこのジジイの仲間か。だったら容赦しねぇぜ!」
「悪いけどお爺ちゃんをやられる訳にはいかないの。それに、貴方の持つ緊急脱出口のカードキー、折角だから頂いていくわ」
「はっ! やれるもんならやってみな!」
Wheel Of Fortuneが呪文を唱え幾つもの炎の矢を解き放つ。
「ファイヤーアロー!」
「ちょっと!? こんな山の中で火属性魔法を使うなんて正気なの!?」
デュオ達が今居る場所は木々が切り拓かれておりある程度の広場となっているが、それ以外の周囲は山の木々が生い茂っており、普通なら山火事になる可能性のある火属性魔法を使うのは躊躇われるはず。
それなのにWheel Of Fortuneは躊躇いも無く火属性魔法を使ったのにデュオは驚いていた。
「ぬうぅん!!」
襲い来る無数の炎の矢を謎のジジイは黄金のハンマーを一振り、二振りするごとに蹴散らしていく。
無論デュオも驚いてばかりじゃない。
「ダイヤモンドミスト・エリアコンセレート!」
デュオの放った氷属性魔法により、限定的にWheel Of Fortuneの周辺だけが瞬間的に真っ白になるほど空気が氷結して氷の結晶が弾け飛ぶ。
Wheel Of Fortuneの背中の車輪がカラカラ回る。
広範囲に絶対零度の氷結波を放つダイヤモンドミストを一か所に集中させて放つデュオのオリジナル魔法だ。
まともに食らえば凍傷程度で済まないほどの裂傷を負うのだが、Wheel Of Fortuneは先程放った炎の矢を自らを覆う氷白の霧に向かって自分もろとも撃ち込む。
白い空気が晴れたそこには傷は負っているものの平然と立っているWheel Of Fortuneが居た。
「うそ・・・殆んど無傷・・・?」
「おいおい、この傷を見て無傷はねぇだろ。ったく、容赦ねぇ嬢ちゃんだな。確かにこれまでの奴らとは一味違うな。
『運』の引きが強ぇ。こっちの『運』を強引に持っていきやがった。『方角』が悪ければ更にダメージが4倍ってところか」
「デュオ、奴に致命傷を与えるのは一筋縄じゃいかないが、攻撃方法は間違っておらん。周囲を囲むような躱せない攻撃をするのじゃ」
「了ー解、お爺ちゃん。仕込みはバッチリ、賢い魔法使いは一手も二手も先を読んでいるのよ。
アクアプレッシャー・デスロック!」
炎の矢で溶かされた氷白の霧が水滴状になり宙に浮いていた。
その水滴が次第にWheel Of Fortuneに纏わりつき手足を水球で圧縮し動きを止める。
本来であればWheel Of Fortuneを巨大な水球に閉じ込め水圧で潰す魔法なのだが、仕込として使った水分が霧を溶かしたものだったため手足を封じる事が精一杯だった。
だがそれでも動きを封じた事は謎のジジイにとっては絶好の攻撃のチャンスだった。
「でかした、デュオ!」
Wheel Of Fortuneの背中の車輪がカラカラ回る。
謎のジジイは必殺のハンマーをWheel Of Fortuneに叩きつける。
「ハンマーヘル!」
手足を水球に圧殺され動きを封じられたWheel Of Fortuneは微動だにせず謎のジジイの攻撃を受け入れる。
だが、謎のジジイが黄金のハンマーを叩きつける瞬間、先ほどデュオの放った氷白の霧の残骸が地面をぬからせ謎のジジイが足を滑らして攻撃を外してしまった。
「ええい、くそっ! またこれか!」
「今回は『運』がねぇな、ジジイ」
Wheel Of Fortuneは手足を封じられている水球に自ら火傷するのを厭わずに内側から火球を生み出し蒸発して拘束から抜け出した。
Wheel Of Fortuneの背中の車輪がカラカラ回る。
「ち、風向きが大きく変わりやがった。今回はここまでか。
・・・まぁいい。ジジイの邪魔は出来た。
おい、ジジイ! 次こそは容赦しねぇからな! そうなりたくなければとっとと山を下りることをお勧めするぜ」
そう言いながらWheel Of Fortuneはグルネルトヴォルフを率いて山の奥へ引き下がる。
デュオはその様子を黙って見送り、そう見せかけて引き返してこない事を確認してようやく警戒を解いた。
アイリス達の方を見れば、同じように警戒を解いていた。
「あ~ん、あの狼の角硬すぎ~。自慢の角をへし折ってやろうと思ったのに」
「あの角はヒヒイロカネ並みの硬さだ。折ろうとすること事体無謀だな」
何故かレンヒットがグルネルトヴォルフの角を折ることに執着していて、リュナウディアがそれを無謀だと諌めていた。
「何これ、かわいい・・・! こんな可愛い生き物が存在するなんて・・・!」
「愛い奴愛い奴」
「くきゅー?」
「くぎゅー?」
アイリスとクロが謎のジジイが召喚した空飛ぶイルカとシャチに心を奪われていた。
そんな様子を見ながら謎のジジイが苦笑しながらもデュオ達が助っ人に来てくれたことに感謝を述べる。
「助かったぞ、デュオ。あ奴は攻撃を躱すのが上手いからのぅ。1人で捌くのは難儀して負ったところじゃ。
じゃが・・・向こうも目的を果たしておるから痛み訳じゃがな。
はぁ、またやり直しじゃわい」
そう言いながら謎のジジイは地面見ては深いため息をついた。
元は綺麗に均されていたと思われる地面は先程の戦闘であちこち割られたりして隆起している状態だった。
よく見れば地面の表面には何か書かれていたように見えた。
デュオはそれが魔法陣ではないかと判断したが、取り敢えず今は謎のジジイを問い詰めることが先決だった。
「お爺ちゃん、いきなり居なくなるなんて酷いよ。あたし達があれからどれだけ苦労したか・・・」
「む? エレナーデの奴は協力してくれなかったのか?」
「してくれたけど、してくれたけど! そこに至るまで紆余曲折あったんだから!
お爺ちゃん、エレナーデにどんな目で見られているか分かっててそれ言っている!?」
「あ~、うむ。そう言えばそうじゃったな。何でも儂の言う事を聞いてくれるからすっかり忘れておったわい・・・」
謎のジジイにしてみれば既にエレナーデの態度が当たり前だったので、エレナーデのその想いの重さをすっかり失念していたりする。
「それにそれだけじゃないわよ。あたし達がお爺ちゃんを捜していた理由。
・・・ねぇ、お爺ちゃんって本当は何者なの?」
急に声のトーンを落とし、真剣な眼差しで見つめるデュオに謎のジジイはどう答えたものかと悩む。
だがそんな悩む謎のジジイにデュオはフェンリルやベルザ、ローズマリーと言った七王神に会った事を伝えた。
「・・・ねぇ、お爺ちゃん。あたしフェルさん――フェンリルさんに会ったよ。ベルザやローズマリーとも。
フェンリルさん達は言ってた。天地人なのにお爺ちゃんは異世界の事が詳しすぎるって。
裏切りの神に聞いたにしてはあまりにもこちらの事情に精通しすぎているって」
「そう・・・か。フェンリルたちに会ったのか。美刃が強制召喚されたからもしやと思っておったが・・・
儂が何者か、か・・・ここに来たのがフェンリルではなくデュオが来たと言う事は、デュオは薄々気が付いておったのじゃろう?」
謎のジジイのその言葉にデュオは自分の考えが間違ってなかった事を確認した。
「やっぱり・・・お爺ちゃんはフェンリルさん達と同じ異世界人なんだね」
次回更新は12/30になります。




