68.その隠者は光と影を纏いし者
100年前、魔王を討伐する為異世界から大勢の異世界人の冒険者が召喚されていた。
異世界人の冒険者と魔王の手下の戦いは熾烈を極め、大勢の冒険者が亡くなった。
男は大勢亡くなった冒険者の内の1人だった。
だがその男はある1人の神によって命を救われる。
後に裏切りの神と呼ばれる八天創造神の1人によって。
裏切りの神は魔王を倒した後の八天創造神に支配される世界を心配し、八天創造神の暗躍を防ぐために男に神の知識を与え、そして使命を与えた。
男は一度死した為に異世界へ戻る術を失い、天と地を支える世界で生きて行く事を決意する。
そして魔王は倒され裏で魔王を操っていたと言われる裏切りの神をも倒され、異世界人の冒険者は異世界へと戻っていった。
男は裏切りの神に託された神勅に従い、裏で世界を操ろうとしている八天創造神の暗躍を阻止すべく、いずれ再び異世界人が訪れる時までの永い旅が始まる。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「それが、お爺ちゃんなのね」
「そうじゃ。それ故、儂は異世界と天と地を支える世界、そして神秘界に精通しおるわけじゃ」
「お爺ちゃんは、元の世界・・・異世界に戻りたい?」
「いや、異世界で生きていた時よりも天と地を支える世界で生きていた時間の方が遥かに長い。儂は最早こっちの世界の住人じゃよ。
それに向こうには儂の体はもう無いからの」
異世界と天と地を支える世界の時間の流れは違うが、流石に異世界でも数十年単位の時間が流れており、戻らなかった謎のジジイの体は既に無い。
「デュオには前にも言ったが、儂は裏切りの神の神勅を受けて八天創造神の妨害をしておる。
儂の正体が異世界人だっただけでそれ以外は何も変わらんよ」
「・・・うん、そうだね。よく考えればお爺ちゃんが異世界人だろうが天地人だろうがお爺ちゃんには変わらないんだものね」
確かに謎のジジイの正体には不明瞭な部分がありもやもやしたものがあったが、言われてみればそれだけであり、これまでの付き合いにも何ら不都合はないのだ。
「でもフェルさん達はお爺ちゃんに会いたがっているわ。なんか色々詳しい話を聞きたいみたい。特に裏切りの神の細かな計画とか」
「そうじゃな。フェンリル達が来ているとなれば裏切りの神の計画通りじゃからの。あ奴らにも是非とも参加してもらわねば」
「でもその割には美刃さんが転移魔法陣で居なくなった時は慌ててたわよね? そう言えば、お爺ちゃんはここで何をしていたの? あたし達から急に離れた事と関係しているの?」
謎のジジイに連れられ神秘界に来た時は、一緒だった美刃が居ない事に慌てていたことを思い出す。
それから詳しい説明も無しに尚のジジイは行方を眩ましたのだ。
「うむ、奴らは異世界から強制的に異世界人を召喚する術を見つけたらしいからの。
七王神の強制召喚は裏切りの神の予定通りじゃが、それ以外の異世界人の強制召喚は避けねばならん。異世界で騒動が起きればその原因であるアイヲン――天と地を支える世界の存在が危ぶまれかねん」
その言葉にデュオは天と地を支える世界が異世界人に創られた夢泡たの世界だと言う事を思い出す。
その存在の良し悪しを異世界人に握られていることも。
「それで、その強制召喚を封じるための魔法陣・・・って訳ね。どうやら邪魔が入って上手くいっていないみたいだけど」
「強制召喚を防ぐには七曜都市を囲むように6つの魔法陣が必要なのじゃ」
謎のジジイはデュオ達と別れた後で直ぐにその魔法陣を設置すべく回っていた。
残る魔法陣はここホイルフォー山とハングドマン断裂の2か所だけだ。
「うーん、ねぇお爺ちゃん。これって地面を硬く均してそこに魔力インクで魔法陣を書いているみたいだけど、これって魔力を込めながら直接書かなきゃいけないとか?」
「いや、最後に完成した魔方陣に魔力を流して機能を動かすから、別に魔力を込めながらとかは必要ないぞ。
要は正確な魔法陣があればそれでOKじゃ」
ただ魔法陣を書くだけなのだが、謎のジジイはこう言った細かい作業が致命的に向いておらず、魔法陣1つ完成させるのに数日を要していた。
しかも今回はホイルフォー山の主である神秘界の騎士Wheel Of Fortuneが邪魔をしてその都度途中まで書いている魔法陣を破壊されていた。
「ねぇお爺ちゃん。わざわざ直接地面に書かなくても転写紙を使えば邪魔されることないんじゃない?
転写紙なら直ぐに仕舞えるから壊されることもないし」
「・・・て、転写紙?」
「・・・え? もしかして、お爺ちゃん、転写紙を知らない?」
転写紙は魔法使いが魔法陣を書くときに重宝されている魔法紙だ。
本来なら魔法陣は地面に直接魔力インクで刻み込みながら書き上げるものだが、その為書き損じなどが生じてしまうとその部分の地面を削り均さなければならず、手間と時間が掛かり過ぎてしまうのだ。
それに書き損じが多くなると、折角均した地面が歪になり最初からやり直さなければならない。
それが転写紙だと事前に転写紙に書いておく手間と転写の為に左右逆に描くと言う作業があるが、書き直しもし易く紙故にどこでも作業が出来るメリットがある。
どうやら謎のジジイはその転写紙の存在を知らずにただひたすら一生懸命魔法陣を書いていたらしい。
転写紙の存在を知った謎のジジイは異世界で言う、orzの姿で項垂れていた。滅多に見られない姿である。
「なんじゃと・・・儂の苦労って、一体・・・」
「あはは・・・お爺ちゃんドンマイ。
今からでも転写紙で・・・って知らないから持ってないか。あたしも持ってないから、結局は地面に直接書く事になるわね」
「じゃがそうなるとWheel Of Fortuneがまた邪魔をしに来るの」
「大丈夫。今度は最初からあたし達が居るから邪魔はさせないわ」
謎のジジイが召喚した魔獣たちも頼りにはなるのだが、やはり人手があるとないとでは違う。
デュオ達は体勢を万全にして謎のジジイの魔法陣を書く作業を手伝いながらWheel Of Fortuneの襲撃に備えた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「それでWheel Of Fortuneってどんな奴なの?」
魔法陣を書く作業は謎のジジイと魔法に詳しいデュオを中心とし、アイリス・リュナウディア・クロ・レンヒットは交代で周囲を警戒しながら作業を手伝っていた。
そんな中、今の時間は周囲を警戒する任に就いていたアイリスがWheel Of Fortuneに就いて尋ねる。
「うむ、奴自体はそれほど強くは無い。精々A級と言ったところじゃろう」
「充分A級だけでも厄介だと思うけど・・・」
アイリスの思わず呟いた言葉は謎のジジイには届かなかったようで、そのまま説明を続ける。
「厄介なのは神秘界の騎士としての能力じゃな。奴の名前が表す通り、運命・・・すなわち『運』を操る能力を持っておる。
こっちの攻撃が『運』が悪く足を滑らして当たらなかったりとかじゃな」
「あー、そう言えばお爺ちゃんの必殺の攻撃も当たらなかったね。『運』を引き寄せたとか『運』が無いとか言ってたもんね」
デュオはWheel Of Fortuneと対峙した時の謎のジジイの攻撃が当たらなかった不自然な現象について思い出していた。
「え? 何そのチート。断然こっちが不利じゃないの!」
「確かに。運命は自らの手で切り拓くものと言われているが、その運命を操るのであればとてもじゃないが対抗できないのでは?」
アイリスがあまりの理不尽さに怒りを顕わにし、リュナウディアは運命そのものが敵に回ったのでは抗う術がないと意気消沈する。
その反面、クロとレンヒットは運命に抗う事が面白いとばかりにやる気になっていた。
「不運は慣れっこ。寧ろ不運は私の味方」
「クロのその考えはちょっと賛同しかねるにゃあ。でもその逆らえない運命に逆らうのもまた一興♪ 思い通りの運命にならなかった時のWheel Of Fortuneの顔を見てみたいね!」
対照的な4人を苦笑しながらも謎のジジイは話を続ける。実はその『運』を操ると言うのがまやかしであると言う事を。
「まぁ、一般的にはそう言われておるが、儂が対峙した感じじゃ奴は『運』を操ってなんかおらんよ。
寧ろ奴が『運』に操られておると言っても過言ではないのぅ」
「どういう事?」
「奴の背に在った車輪は覚えておるか?」
「そりゃあ覚えているわよ。あんだけ目立つのを背負っていれば」
Wheel Of Fortuneと戦っていないアイリスでもあのインパクトのある姿はそう簡単には忘れない。
「実はあれの位置で互いの『運』が決定づけられておるのじゃ。言わば運命のルーレットじゃな」
「そう言えばくるくる回っていたわね。あの車輪」
言われてみれば、戦いの最中にもWheel Of Fortuneの背中の車輪は回っていたことをデュオは思い出す。
「いや、謎のジジイ殿。その車輪をWheel Of Fortuneが自分で回して『運』を操作しているのでは?」
「じゃったら一度決まった『運』を動かす必要は無いじゃろう? 自分で操作できるなら自分に都合のいい『運』を変えないはずじゃ。まぁ実は使用制限とかあるかもしれんが。
つまり奴は『運命操作』を自分の思い通りには出来ないと言う事じゃ」
「じゃあ、今度来たらあの車輪のパターンを覚えればこっちにも攻撃のチャンスが多くなるわね」
「そう言う事じゃ。何度かのぶつかり合いである程度パターンを把握しておるから後で皆にも教えておこう」
そう言って尚のジジイはデュオ達の方を見るが、何故かデュオ以外頭を横に振っていた。
「あたしパス。何か聞いているだけで頭が混乱しそう」
「う、うむ。私もパスだな。頭を使う作業は出来ないわけではないのだが・・・」
「むぅ、盗賊としてはこの手の攻略を率先して手を掛けなければならない・・・んだけど、そのパターンを把握できるものか・・・」
「あははっ、それこそそんなの『運』任せでいいじゃん。当たるも八卦当たらぬも八卦ってね♪」
アイリスは端から覚える気は無く、リュナウディアも思ったよりも頭を使うキャラではなさそうだった。
4人の中では唯一前向きなクロだが、謎のジジイが手掛けていると言う事で尻込みしていた。
レンヒットはこれまでの話しを台無しにしたセリフを吐いていた。
「はぁ、分かったわ。あたしが覚えておくからあたしの指示に従ってね。
まぁ尤もフォーメーションはさっきと同じになるからWheel Of Fortuneを相手するとないと思うけど。
ああ、クロはこっちに参加してね」
デュオは先程と同じくアイリスとリュナウディアとレンヒットに取り巻きのグルネルトヴォルフを相手してもらう事にした。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「む、来たか」
謎のジジイが魔法陣の作業の手を止め森の一角を見据える。
それに伴いデュオ達も手を止めすぐさま迎撃態勢を取った。
「ちっ、俺様の山で怪しげな魔法陣で傷物にしやがって・・・いい加減出て行ってもらうぜ」
森の奥から謎のジジイに睨みを効かせながらWheel Of Fortuneが現れた。
これまでと同じく数十匹のグルネルトヴォルフを率いて。
「傷物って・・・初心な女子じゃあるまいに。まぁこれまでは邪魔をされるだけじゃったが今回はお主を倒させてもらうぞ」
「ハッ、仲間が増えたからって強気になりやがって。言っておくが仲間が増えたのはてめぇだけじゃねぇんだぜ?」
そう言ってグルネルトヴォルフの方に顎をしゃくると、グルネルトヴォルフの群れが割れてそこから1匹の黒い巨体の狼が現れた。
「む・・・まさかその魔物は・・・!」
「ああ、神狼フェンリルと双璧を為すと言われる魔狼ヴァナルガンドだ。てめぇらの助っ人なんざ目じゃねぇぜ」
「むぅ・・・これは少しばかり予想外じゃ。あれの相手はお主らじゃちとキツイな」
その言葉を聞いてアイリス達が抗議を上げる。
曲がりなりにもエンジェルクエストを越えて神秘界に来た強者たちだ。それなりの自負がある。
特に竜人であるリュナウディアはこれほどの魔物相手に引くことはあり得ない。
「舐めないでよ。そりゃあ謎のジジイから見たらあたし達はまだまだだけど、簡単に屈するつもりはないわよ」
「その通りだ。寧ろあれほどの強者相手に己の力が何処まで通じるか試してみたい」
「無理じゃなくキツイって時点であたし達が勝てる可能性もあるんだよねぇ~?」
リュナウディア達3人の言葉に謎のジジイは呆れながらも反対はしなかった。
レンヒットの言う通り、勝つ可能性はゼロじゃないからだ。
「ええい、そこまで言うんじゃったら勝って来い! ガジェットたち全員を付けるから上手く使いこなせ。ここまでして負けたら承知せんぞ!」
アイリスとリュナウディア、レンヒットは互いに頷いてグルネルトヴォルフとグルネルトヴォルフを従えているヴァナルガンドへ向かって行く。
無論こちらも謎のジジイが召喚したヘルオルカのブロークン、ヘブンイルカのプロテクト、フェンリルナイトのスパイラルとストレイト、そして黄金騎竜のガジェットを率いてだ。
まぁガジェットはその巨体さ故、周囲の影響を考えそれ程大した攻撃は出来ないが。
そして残った謎のジジイ、デュオ、クロはこちらへ向かってくるWheel Of Fortuneを迎え撃つ。
基本的には謎のジジイがWheel Of Fortuneとぶつかり合い、デュオが遠距離から魔法攻撃、クロが謎のジジイが離れた間を繋ぐように攻撃をする。
そのクロの攻撃はWheel Of Fortuneの車輪がこちらに『運』が向いている時にデュオが指示を出していた。
だが車輪の動きを読んで繰り出していた攻撃は悉く外れていた。
そう、『運』がWheel Of Fortuneの味方をするように。
「ちょっと、お爺ちゃん! 聞いていたのと話が違う! パターンが全然通じないじゃないの!」
「おかしいのぅ・・・? これまでの動きを見ればそのパターンで合ってるはずじゃが」
謎のジジイはWheel Of Fortuneの躱せない攻撃を黄金のハンマーで器用に捌きながらもパターンが間違っていない事を確認していた。
にも拘らず、こちらの攻撃は当たらずWheel Of Fortuneの攻撃は吸い込まれるようにこちらへ向く。
「ハッハァ! てめぇらが『運命の車輪』が攻撃の流れに影響しているのを見破ったのは見事だよ。だがそれだけで俺に勝てると思っちゃぁ甘すぎるぜ!」
Wheel Of Fortuneは自分の攻撃が『運命の車輪』の影響を上手く受けているのを確認すると、更に攻撃の手を増やし猛攻を開始する。
「・・・! マズイ、このままだと戦線が崩壊する。向こうもヤバ気。どうする・・・デュオ?」
クロが隙をついて攻撃しているが、やはりと言うか『運命の車輪』の『運』に阻まれ届かない。
そして対ヴォルフガング戦ではアイリス達が苦戦を強いられていた。
辛うじてプロテクトのデュアルプチシールドが致命傷を防いでいたので何とかヴォルフガングの猛攻を凌いでいた。
確かにこのままだと戦況が崩れるのは時間の問題だ。
Wheel Of Fortuneの『運命の車輪』の新たな?パターンも時間があれば分析可能だが、ヴォルフガングの存在がそれを邪魔している。
たった1匹だけだがヴォルフガングの加入が戦況をWheel Of Fortuneに有利に敷いていた。
謎のジジイには悪いが魔法陣はまた書き直してもらう事にして、デュオが強力な魔法をぶっ放す方向で進めようかと迷っていた時にそれは現れた。
デュオに取って尤も頼りになるパートナーの存在が。
「っらぁぁっ!!」
地を這うように駆け抜けた影がWheel Of Fortuneを斬りつける。
ギィンッ!!
直前にその影に気が付いたWheel Of Fortuneは左右の剣を交差して防いだ。
そして同時に迫りくる謎のジジイの攻撃も敢えてハンマーに向かって行く形で間をすり抜け背後を取る。
「むっ!?」
謎のジジイは巨大な黄金のハンマーが返って仇となり、ハンマーの影に隠れて躱したWheel Of Fortuneの姿を見失ってしまった。
だが謎のジジイの背後を取ったはずのWheel Of Fortuneは絶好の機会にも拘らず、謎のジジイの斜め前に出るようにその姿を晒す。
その様子に謎のジジイは訝しみ用心を取って距離を取りデュオの方へと寄る。
同じようにWheel Of Fortuneを斬りつけた影は追撃はせずにそのままデュオ達の方へと寄る。
「よう、デュオ。ちょっとピンチみたいだな。手はいるか?」
Wheel Of Fortuneを斬りつけた影の正体はウィルだった。
ハングドマン断裂を南に下り、エンパレス山を目指していたはずのウィルが何故かここに居た。
「そうね。ちょっとばかり猫の手も借りたかったから丁度いいわ。特に向こう側なんかね」
だがデュオはそんな事は知らない。が、偶然とはいえウィルはデュオのピンチに駆けつけることに成功した。愛のなせる技か。
そしてデュオはウィルが無事だった事を知り、心なしか嬉しそうだった。そしてそれがまたこのピンチにも拘らず力が湧いてくる。
「ああ、その心配ならいらないさ。向こうにも猫の手は来ている」
そう言ってウィルがヴォルフガングやグルネルトヴォルフの群れの方を見ればこれまたデュオの見知った顔が援軍に訪れていた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
ヴォルフガングにはリュナウディア、レンヒット、スパイラル、ストレイトが当り、グルネルトヴォルフの群れにはアイリス、ブロークン、プロテクトが当たっていた。
だが流石にプロテクトのデュアルプチシールドの防御壁があるとは言え、ヒヒイロカネ並みの硬度の角を持つグルネルトヴォルフの群れを相手にするには1人と1匹では無理があった。
戦況は次第に押されてアイリスの剣がグルネルトヴォルフの角には弾かれ、もう1匹のグルネルトヴォルフの角に狙われた時だった。
ガギャッ!
青水晶の角を持つクォーツタスクが器用にその角を操りグルネルトヴォルフを抑え込んだ。
「アイリスさん、今です!」
青水晶のクォーツタスクに跨ったルーナがアイリスに呼びかける。
突然現れたルーナとクォーツタスクに驚きつつも抑え込まれたグルネルトヴォルフに剣を振り降ろした。
そして次々襲い来るグルネルトヴォルフを青水晶のクォーツタスクは押さえつけ、或いは弾き飛ばしアイリスの援護をする。
「ルーナ! 無事だったんだね!」
「はい! ですが今はこの場を収めるのが先です」
「分かっているわ! ブロークン、プロテクト、行くわよ!」
「くぎゅー!」
「くきゅー!」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
そして黒く巨体な狼――ヴォルフガングの方にも援軍は現れる。
リュナウディア、レンヒット、スパイラル、ストレイトの2人と2匹が連携を取って攻撃するも、ヴォルフガングのそのスピードとパワーに攻めあぐねていた。
「ガァァァッ!!」
ヴォルフガングの咆哮がレンヒットを直撃する。
「きゃぁっ!」
その衝撃波にレンヒットは弾き飛ばされ体勢を崩された。
そこへヴォルフガングの巨体が弾丸――いや、大砲の如く突っ込んでいく。
プロテクトの防御壁もスパイラルとストレイトの援護も間に合わず、あわや直撃かと思った時にレンヒットの前には1人の獣人が立ち塞がる。
「フゴオォォォォォォォッ!!」
ハルバートの柄を盾にして、ヴォルフガングの顔に叩き付けその突進を食い止めた。
猪の獣人、猪人のアルベルトだ。
「だぁぁぁぁぁぁっ!!」
そのままハルバートを振り回し先端の斧の部分を叩きつける。
無論これでダメージを負わせられればリュナウディア達は苦労はしない。
アルベルトもダメージが無いのは織り込み済みで、狙いは別にあった。
ハルバートを振り回すことにより、絡みついた糸が更にヴォルフガングを縛る。
そう、ヴォルフガングの突進を防いだのはアルベルトの力だけじゃなかった。
極細の蜘蛛の糸がヴォルフガングの体に絡みついてその突進の威力を削いでいたのだ。
「アラキネ! もっと蜘蛛の糸を寄越すべ!」
「言われなくても!」
木の上から現れたアラクネが左右の手に蜘蛛の糸を携えヴォルフガングに覆い被さる。そしてそのまま素早く周囲を回ってはヴォルフガングを雁字搦めにして身動きを封じる。
「今だべ! リュナウディア!」
アルベルトやアラクネの参戦に驚いたものの、リュナウディアはこの千載一遇のチャンスを無駄にしない為にも最大の一撃をヴォルフガングに叩き込んだ。
レンヒットと同時に。
レンヒットもアルベルトが庇ってくれたことにより体勢を整えてすぐさま反撃に映ったのだ。
そしてそれが偶然にもリュナウディアと同時に同戦技を放った。
「「拳蹴り連動戦技・震脚衝龍撃!!」」
震脚の力をそのまま拳に伝え、内部に衝撃を伝える拳撃を叩き込む拳戦技と蹴り戦技の連動技だ。
ブヂブヂブヂベギバギバリバリドゴンッ!!
震脚衝龍撃を受けたヴォルフガングは、蜘蛛の糸を引き千切りそのまま木々に叩きつけられへし折りながら吹っ飛ばされた。
「っし!」
「やったぁ♪」
渾身の一撃を決めたリュナウディアとレンヒットは喜んでいたが、アルベルトはヴォルフガングが吹っ飛ばされた方向を見てまだだと叫ぶ。
ストレイトとスパイラルもアルベルトと同じ方向を向いて唸り声を上げる。
「ダメージは負っているけど、決定打にはなってないみたいだべ」
アルベルトが言う通り、へし折れた木の中からヴォルフガングがゆっくりと立ち上がる。
その様子は明らかに怒っていた。
「うぇ~、あれを食らって無事なわけ? あたしの糸を無理やり引き千切って体が傷だらけになっているのに? 化けもんだわ」
アラキネはヴォルフガングの様子を見て呆れていたが、リュナウディアとレンヒットは改めて気を引き締めて構える。
「ヴォン!」
だがヴォルフガングは向かってくるどころか身を翻してその場を立ち去った。
グルネルトヴォルフを引きつれて。
この場に残ったのは呆然と佇むリュナウディア達だけだった。
「・・・え? 引いた? マジで?」
アイリスが信じられない面持ちで呟いたが、それに応える者は誰も居ない。
誰もがこれで終わりだとは思わなかったからだ。
だが暫く様子を見てもヴォルフガングは現れなかった。
怒りを滲ませ周囲を威圧していたからリュナウディア達は気が付かなかったが、ヴォルフガングはアルベルト達の参戦に不利を悟ってここは敢えて引いたのだ。
このまま戦っても勝てないわけじゃないが、決して楽な戦いにはならない。そう判断したのだ。それに先ほどの震脚衝龍撃が効いていた。
外側からの拳撃に加え、内部に衝撃を与える戦技を2重に食らったのだ。互いの戦技が反共し合いそのダメージは単純な2倍ではなく、3倍4倍にもなっていたからだ。
「ふぅ、引いたのならここは我々の勝ちだ。
アルベルト殿、貴方方の参戦は助かった。あれが無かったら戦線は崩壊していた。そうすれば向こうの戦いにも影響が出ていただろう」
そう言いながらリュナウディアはデュオ達のWheel Of Fortuneとの戦いを見る。
向こうでもこっちの決着が着いた事を悟り、戦況は終盤に差し掛かっていた。
「間に合って良かっただ。偶然とはいえ、デュオの所へ出るなんてウィルの運も馬鹿に出来ねぇだ」
「そうそう、エンパレス山に向かっていたはずなのにねぇ~」
アルベルトはある意味感心しており、アラキネは呆れながらも偶然とは凄いと頷いていた。
「ほぅ、それはどことなく面白そうな話だな。だがその話はこの戦いが終わってからだな」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
ウィルの参戦により戦況はデュオ達側へと傾いた。
それに加え、謎のジジイがWheel Of Fortuneのもう1つのカラクリに気が付いたからだ。
「よもや『運』の操作を背中の車輪だけでなく方角でも読んでいたとはのぅ」
「クソッたれ。細かいところまで目ざといジジイだな!」
そう、異世界の風水のように方角でもう1つの『運』を読んでいたのだ。
そして背中の車輪と風水による方角の2つの『運』を読んでWheel Of Fortuneの有利に働くように戦況をコントロールしていた。
だがその有利性も謎のジジイが看破したことにより、謎のジジイとデュオの2人がパターンをどんどん解明していき、『運』を読んでいるにも拘らず逆にWheel Of Fortuneが『運』が悪い方向へと導かれていた。
それにより、デュオ達の攻撃が次第に躱せずに被弾していく。
「ちっ・・・! くそ、『運』の流れが完全に変わりやがった! ・・・って、ぬぁっ!? ヴォルフガングの奴逃げやがった!?」
完全に不利になったWheel Of Fortuneは撤退を考慮し始めたところ、もう一方の戦いではヴォルフガングが先に形勢不利を悟って逃走を開始していた。
それに気を取られ、Wheel Of Fortuneは謎のジジイのハンマーを躱し損ねる。
ガヅンッ
辛うじて左右の剣を交差して二刀流戦技・十字受けで直撃は防いだものの、Wheel Of Fortuneは吹き飛ばされて背後の木に叩きつけられる。
「あー、くそ。参った、降参だ」
止めを刺そうと剣を振り上げていたウィルを目前にWheel Of Fortuneは剣を捨て両手を上げて降参の意を示した。
ウィルは振り降ろす直前で剣を止めてそのまま突き付け様子を伺う。
「下手な真似をするなよ。そん時は容赦なく斬るぜ」
「この面子でそんな真似はしねぇよ」
ヴォルフガングの逃亡によりデュオ側の戦力は一気にWheel Of Fortuneに集中することになる。
『運』の秘密を暴かれた今、Wheel Of Fortuneには勝ち目がない為にこの降参は妥当と言えた。
「とは言っても・・・この場合どうしたらいいのかしら?」
デュオ側としては謎のジジイの魔法陣の作製の邪魔をされなければそれでいいのだ。
まぁ、神秘界の騎士としての緊急避難口のカードキーの入手もあるが。
「ふむ、ならば勝者の権利として儂らが書く魔法陣の作業を邪魔せんでもらおうかのぅ。ついでに魔法陣の管理もお願いしようか」
「けっ、俺は敗者だ。おめぇらの指示には従うよ。あーくそ、こんな礼儀知らずに従うなんて屈辱だ・・・」
「・・・え? 礼儀知らずって・・・?」
デュオは何やら不穏な言葉を聞いたとばかりにWheel Of Fortuneに詰め寄る。
デュオだけではなく、ウィル達やアイリス達も何となく嫌な予感をしつつもWheel Of Fortuneの言葉に耳を傾ける。
「ああ? 何言ってんだよ。この山は俺の縄張りだって言ってんだろ。それなのにこのジジイ、俺に挨拶も無しに勝手に山を荒らしてんだぜ? 礼儀知らずを叩きのめそうとしてみれば返り討ちだ。これが屈辱でなくてなんだってんだよ」
「お爺ちゃん・・・」
デュオの、デュオ達の冷たい視線に謎のジジイが慌てて弁明を始めた。
「わ、儂は悪くないぞ? この山がWheel Of Fortuneのものだと余所者の儂が知るはずなかろう?」
「だから俺が最初にわざわざ出向いてやったのに挨拶もしないで問答無用に攻撃してきたのはそっちだろうが」
「い、いや待つのじゃ! 明らかに攻撃して来ようとしたのはそっちじゃろっ!?」
「ああ? 俺は柄が悪いがこっちから手を出したことは一度もねぇよ。勝手に勘違いして手を出す奴はいるがな。
まぁ、大抵そう言う奴らは俺に劣らず柄が悪いがな」
「・・・・・・」
流石にこれには謎のジジイも口を閉ざした。
「・・・はぁ、これはお爺ちゃんが悪いわね。ごめんなさい。Wheel Of Fortune」
「・・・けっ、今さら謝られてもな。どんな結果にしろ俺はお前らに負けたんだ。大人しく言う事を聞いてやるよ」
何とも言えない空気が流れたが、どうやら一段落が付きそうだ。
・・・と思っていたのだが、戦いの決着が着いたその瞬間を狙い、蛇のように地を這う剣が謎のジジイを背後から狙う。
無論謎のジジイも油断していたわけではない。Wheel Of Fortuneが降参をしても警戒を緩めなかった。
謎のジジイを狙う攻撃はWheel Of Fortuneからではなかったのだ。
キィン
あわや蛇のような剣が謎のジジイの首裏を貫こうとした時、それを防いだのもまた兵日のように地を這う剣だった。
「あらん♪ いつから気が付いていたのかな? あたしが敵だって」
「今さっき。ついでに言えば貴女が敵だと疑って動いたわけじゃない。いつもの貴女ならこんな時でももっと騒がしいのに大人しかったから気にしていた」
「あ~~、それは失敗失敗。ここぞのチャンスに慎重になり過ぎちゃった♪」
謎のジジイを狙ったのはレンヒット。それを防いだのはクロだった。
「その蛇腹剣・・・トリニティの・・・! それじゃあ貴女・・・あの時のThe Hermit!?」
謎のジジイを狙った剣はデュオが贈りトリニティが持っていたはずの蛇腹剣だ。
そしてその蛇腹剣を今所持しているのは神秘界の騎士のHermitのはずだった。
「我の使命はS級冒険者・謎のジジイの抹殺。謎のジジイは日輪陽菜様の懸念材料の1つ。
故にその組織力を利用して我は『AliveOut』に潜入していた」
これまでの明るい様子が一転、深く昏い沈んだ瞳に鋭利な刃物で切り裂くような冷たい声。顔は隠れていたが、間違いなく金曜創造神を殺したときのThe Hermitだった。
「そう・・・まんまと利用されたわけね。そして隙をついてお爺ちゃんを殺そうとした」
「だがそれは失敗した。まさか思いもよらぬ所からの邪魔が入るとは」
そう言い、レンヒット――The Hermitが邪魔をしたクロを見る。
「さっきも言ったけど、ただの偶然。でも・・・もしかしたら心のどこかでレンを疑ってたのかも。貴女は心を隠すの上手すぎた。かえってそれであたしは違和感を感じたのかもしれない」
「あらぁ~、完璧すぎるのも考えものねん♪ あたしの影に仕立て上げようと必要以上に構いすぎたのが原因かもね」
またしても一転、明るい口調に変わりコロコロとした表情で語る。
どうやらクロのThe Hermitに似せた姿は影武者として自分から意識を逸らすつもりで仕立て上げたらしい。
これまで一緒にパートナーを組むことが多かったため、これ幸いとばかりに仕込んだみたいだ。
だが、今回はパートナーとしての付き合いが最大のチャンスを邪魔をした。
「まぁばれた以上は仕方がない。ここは大人しく引くとしよう。
だが忘れるな。我は光と影を纏う者。何処にでも現れ何処にでも潜むのを。必ず謎のジジイの首を取る」
再び暗殺者モードになったThe Hermitはデュオ達に宣戦布告をし、影に沈んでこの場から立ち去った。
「なっ!? 消えた!? 時空魔法・・・じゃない、忍術戦技にも似ているけど・・・それも違う・・・」
「やれやれ、厄介な奴に目を付けられたもんじゃのぅ・・・さて、日輪陽菜、か。儂が邪魔とな・・・? もしや感づいておるのか・・・?」
唐突に消えたThe Hermitを目の当たりにしたデュオはその方法に熟考し、謎のジジイは自分が狙われる理由に心当たりがないか思考を巡らせる。
「おーい、何か置いてきぼりにされている気がするんだが」
「安心して。あたし達も置いてきぼりにされているから」
敗者である為、強くは出れないWheel Of Fortuneは自分を余所に話が進んでいて放置されているのに戸惑う。
そしてそれはアイリス達も同じだった。
短いながらも道中を共にしてきたのだ。その明るい態度に元気付けられたのは少なくは無い。だが、それはスパイの為の演技だったとは思いたくもなかったのかもしれない。
兎も角、クロの気持ちやアイリス達の戸惑いがあるものの、見事謎のジジイを見つけ、謎のジジイの目的であるホイルフォー山に異世界からの強制召喚を封じる魔法陣の1つを設置することが出来た。
デュオ達は最後の魔法陣の設置を目指しハングドマン断裂に向かい、その後、当初の目的である七王神たちの元へ謎のジジイを連れて行く事になる。
その行程は思っていたよりも難しいものになるのは想像に難くない。
ストックが切れました。
暫く充電期間に入ります。
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