66.その山の主は運命を回す者
デュオはアイリスとリュナウディアの2人と共に再び『AliveOut』の本拠地の屋敷に戻ってきていた。
まずはここでホイルフォー山へ向かう準備と新たなメンバー2人と合流する為だ。
既にサブマスターの狼御前から連絡を貰っていた為、新たなメンバー2人はそれほど待たずにデュオ達の前に現れた。
だがデュオとアイリスはその内の1人に違和感を拭えなかった。
「にゃは♪ ハロハロ、初めまして! あたしはレンヒット。レンちゃんって呼んでね♪ 見ての通り武闘士ですけど、一通り武器の方も精通してますよん♪」
「・・・クロ。盗賊」
1人は無駄に明るい少女で、もう1人は言葉少な目な暗い少女だった。
その暗い少女――クロにデュオとアイリスは見覚えがあったからだ。
その姿は漆黒のコートを身に纏い、顔はフードを目深に被り素性を隠すようにしていた。
そう、金曜都市で金曜創造神・小金井を殺した神秘界の騎士のThe Hermitに見えたからだ。
唯一の違いはThe Hermitは口元を黒い布で覆っていたが、クロは顕わにしているところだった。
「・・・ねぇデュオ、これってどう思う?」
「どうもうこうも偶然の一致でしょ。もしこれがそうだとしたらあまりにもあからさま過ぎるわよ」
「だよね~。如何にも疑って下さいって言っているようなものだし」
あまりにもあからさま過ぎるクロの姿はThe Hermitとの関連を疑ってしまうが、もしかしたらその疑いそのものがThe Hermitの思惑かもしれないのだ。内部分裂を誘う為のものとか。
なのでデュオはクロとThe Hermitには何の関連も無く、ただの偶然と片付けたのだ。
もしクロの正体が本当にThe Hermitなのだとしたら、大胆不敵としか言いようがないが。
「・・・何?」
何やら疑いの眼差しを受けてることに不安を感じたのか、クロは少しばかり縮こまりながらも精一杯睨みを聞かせてデュオに言う。
「何でもないわ。
それにしても、クロは盗賊だからまだ分かるけど、レンは武闘士なのよね。リュナウディアも武闘士だし、前衛職よりも後衛職が欲しかったところだけど・・・」
「Oh! あたしはミステイクだと言いたそうだね! NonNon! それに関してはあたしが探し人にピッタリな人選だと言わせてもらうよん♪」
「人探しにピッタリって・・・あ! もしかして何かそう言う祝福を持っているとか?」
レンヒットの自分要らない子じゃないアピールにアイリスが祝福ではないかと勘づく。
「にゃは♪ オフコース! 何と! あたしの祝福は導きし調と言い、この祝福により、何処に居ようが探し出すことが出来るのだぁ~~~!!!」
「おお! それは凄い!」
「じゃあ直ぐにお爺ちゃんを見つけることが出来るのね!」
レンヒットの祝福に色めき立つアイリスとデュオ。
だがリュナウディアは別の点に気が付いていた。
「ふむ、レンの祝福が本当に役立つとしたらS級は下らないはず。だがそんな祝福は聞いた事が無いな。
もしや何かリスクや欠点があるのではないか?」
「O・MI・GO・TO! よくぞそこに気が付いた! そう! あたしの導きし調は24時間以内にその人物を見たことがあるか、その人物が24時間以内に身に着けていた物が無ければ探すことが出来ないD級祝福なのだ!」
「・・・」
「・・・」
「「使えないじゃん!」」
あまりの使えなさにデュオとアイリスは叫んでしまう。
とは言え、その欠点さえ除けば一度射程に捉えてさえすれば何処に居ようとも探し出すことが出来る祝福なので、ルーベットは保険の意味合いでレンヒットを同行させたのだ。
「にゃは♪ そんな訳でよ・ろ・し・く・ね♪」
「あー、うん、そうね。一度手掛かりを掴めば逃すことは無さそうね。
こちらこそよろしくね。レン」
「その手掛かりはクロちゃんがしっかりばっちり見つけ出すから♪」
「レンの言う事を真に受けないで。私は普通」
「そ・そんな・・・あたしはクロちゃんをベストパートナーと思っていたのに・・・よよよ・・・あたしを捨てて新しい女の所に行くのね。ああ、あたしを捨てないでクロちゃん!」
自分を巻き込まないでとばかりにレンヒットを突き放すクロ。
そんなクロを捨てないでと縋り付くレンヒット。
「あれ、もしかして2人はパーティーを組んでたりするの?」
思ったよりも仲の良い2人を見てはアイリスはそう口にする。
「そうね。神秘界に来てからはクロちゃんとコンビを組んでいるね」
「・・・ただの腐れ縁」
無駄に明るいレンヒットが主体となって物事を決めているが、持ち前の前向きさが仇となり些か暴走することもあった。
それを暗めだが落ち着いているクロが諌めて2人のパーティーはうまく機能していたのだ。
「ま、兎も角、折角来たんだから2人にはお爺ちゃんの追跡に役立ってもらうわよ」
「りょうーかーい」
「・・・ん、分かった」
デュオ達は早速準備を済ませ、『AliveOut』から借り受けた走竜に乗って謎のジジイの目撃情報があるホイルフォー山へ向かった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
ホイルフォー山は火曜都市から先の北東に存在する山だ。
木曜都市から向かうには、丁度ホイルフォー山から流れ出るスターダスト川に沿って登って行けば問題なく着くことが出来る。
ただ、スターダスト川はホイルフォー山から順に水曜都市と木曜都市を横断するように流れているので、一度水曜都市を迂回してから川沿いにホイルフォー山へ向かう事になる。
その為には木曜都市の東に存在するハミントの森を抜けなければならなかった。
「ここがハミントの森ね。確か結構手強い魔物が居るって話だけど」
デュオは盗賊であるクロにハミントの森に生息する魔物を聞き出す。
勿論、ホイルフォー山へ向かう事が分かっていたので、事前に幾つものルートを割り出しそれに沿った情報を集めていた。
「ビックボアにベルセルクベア、キャタピラークロウラーやマンティスパイダーが居る」
「ぬぁ!? B級魔物ばかりじゃん! Oh My God!」
クロが連ねた魔物に大げさに天を仰ぐレンヒット。
だが厄介な魔物はそれだけではなかった。
「もっと厄介なのは群れを成すナイトアント。それにキングバジリスクにドントレント。そして何よりも一番会ったらいけない魔物が居る」
「ちょっと待って、それってA級魔物ばかりじゃない。それより上って・・・」
A級B級の魔物が犇めく森に更なる脅威があると言うクロにアイリスは思わず息を飲む。
そしてクロの口から出た魔物に叫びを上げてしまう。
「ギガントコックローチ」
「ギャ―――――!!! あたし帰る! 森になんか行かない!!」
「うむぅ・・・流石にそれには私も会いたくはないな・・・」
「にゃふぅう♪ 流石会いたくない魔物女子No1のコックローチ様。嫌われっぷりがハンパないね!」
叫びをあげたアイリスは勿論の事、リュナウディアでさえもあれは嫌悪する魔物らしい。
何せその正体は超巨大なゴキブリなのだから。
特に異世界人であるアイリスのゴキブリに対する嫌悪は当然と言えた。
逆に一番大人しいのがデュオであった。
「ん・・・? そんなに叫ぶほどの事なの? ただのおっきな昆虫でしょ?」
「何を言っているの・・・? ゴキブリだよゴキブリ! 百害あって一利なし! 1匹見かけたら30匹いると言われているあの害虫よ! あれがタダの昆虫なんてデュオ、貴女変わっているわよ」
アイリスはデュオを信じられない目で見ていた。
リュナウディアもクロも同じようにデュオを見る。
「うむ、あれは触るのも見るのも勘弁願いたいな」
「あれは女子の天敵」
ただレンヒットだけがちょっとばかり様子が違う。
「あたしは、まぁ確かに好きとは言わないけど、別にやってやれない事はないけどね~皆さん会わない事を祈りましょう! なーむー」
「よし、そう言う事なら奴が現れたらデュオとレンに任せる事にしよう。そうしよう」
「「異議なし」」
リュナウディアの提案に文句なく賛成するアイリスとクロ。
「え~、まぁ良いけど・・・その代わりちゃんと他の魔物の相手をしてよ?」
デュオも渋々ながらも了承し、早速ハミントの森に足を踏み入れる。
ハミントの森は大木が多く生い茂っており、日差しが届きにくく深く昏くなっていた。
そしてその木々の影を縫うように時折ナイトアント等の魔物がデュオ達を襲うが、デュオを筆頭にしたこのメンバーにはそれ程問題も無く退ける。
「ふーん、言うだけあって結構厄介な魔物ね」
「そう簡単に言えるのはデュオだけよ。確かに倒せないことは無いけど、やっぱり厄介な魔物よ。ここのはね」
森などの障害物などがある場所での魔法使いはその実力を発揮するのには些か不利な場所であるにも拘らず、デュオは周囲に被害を出さずに高出力の魔法で前衛のアイリス達の援護をしながら魔物を倒していたのだ。
それも焦った様子も無く、ただ淡々と状況を見極めながら。
「それにしてもアイリスは騎乗しながらの戦闘もこなせるのね」
「ん、まぁね。天と地を支える世界でそう言った機会が多かったから自然と身に着いたのよ」
「リュナウディアは・・・まぁ何となく分かるけど、レンも上手なのはビックリしたわ」
剣を持つアイリスとは違い、リュナウディアとレンヒットは素手で戦う武闘士だ。
その為、走竜に乗りながらの戦闘は余程操縦技術が高くなければ戦闘をこなすのは困難なのだ。
リュナウディアは同じ竜に連なる者として走竜の扱に長け、まるで手足の様に操り魔物たちを屠っていた。そしてレンヒットもリュナウディアに負けず劣らず木々の間を跳ねるように走竜を操っていたのだ。
「竜の里では走竜と共に生活をしているからな。扱いに長けなければ話にはならん」
「にゃふ♪ 実はレンちゃんは実は竜人の血を引いているのだ!
・・・あれ? だめ? 受けない? にゃはは、まぁ実際にはレンちゃんの実力ですよ。隠された謎のね!」
デュオはレンヒットの茶化す様な調子の良い態度に弱冠呆れるも、実力は間違いないので特段文句も言わずに歩を進めていく。
そうして時折襲い来る魔物を蹴散らしながら森を進んでいくと、索敵しながら先頭を進んでいたクロが走竜の足を止めた。
これまでなら魔物が来れば移動しながらでも警戒を促していただけに、足を止めたクロにデュオ達も周囲を警戒しながら立ち止まる。
「ん」
クロは何も言わずに1本の木を指さす。
その距離は100m。
デュオはその指示に従って素早く呪文を唱え、クロが指した木に向かって魔法を放った。
「スネークボルト!」
地を這うように進んだ雷の蛇は目標の木を舐めるようにして着弾した。
そしてそれと同時にその木の影から慌てる様な声がする。
「うぉっ!? 何でばれた!?」
木の影から飛び出したのは1人の男だった。
格好からして盗賊と思わるが、クロにあっさり見つかったところを見ると実力はさほど高くは無いように見える。
「姿は隠せても気配は丸見え」
「そうね、クロ程ではないけど簡単に気配探知に引っかかったわよ。あ、動くと命は無いわよ」
デュオが魔法を放つと同時にアイリスが駆け寄り飛び出した男に向かって剣を突きさし動かない様に指示を出しながら周囲に意識を向ける。
そう、あの距離では分からなかったが、こうして近づけは男の他にも複数の気配があちこちに存在したのだ。
クロもアイリスと並走して男の身柄を確保すると同時に周囲に居るのは分かっているとばかりにそれぞれが隠れている場所へ剣を向けアピールをしていた。
「我々を欺くのならもう少し上手く気配を画すべきだったな」
「ま、気配は隠せても魔力で探知するから同じことなんだけどね」
「おぉう、デュオっち案外容赦ないね~」
アイリスとクロが男を抑えている間にデュオ達が傍へ寄ってくる。
周囲にまだ隠れている者がいるにも拘らず、大胆にも敢えて懐に潜り込んでいた。
「で、あんた達は何なの?」
実際には周囲に10程ばかりの気配や魔力を探知できるのだが、デュオは姿を現している男を代表として問いかけた。
「何なのって、何なのはこっちのセリフだよ! こっちは八天創造神から逃れてこの森に隠れていたんだよ。それをお前らがいきなり狙ってきたんだろ」
「はい、うっそ~♪ だったら何であたし達を狙っていたのかなぁ~? あたし達が気が付かないとでも思ってた? 魔物と戦っていた時のそのし・せ・ん。
それと八天創造神から逃げるんだったらこの森じゃなく『AliveOut』に行けばいいじゃない。こんな辺鄙なところにいる時点であんた達はあっやしー♪」
「なっ・・・! 暴論だ! そりゃあ隠れ場所に誰かくれば警戒目を光らせるのは当たり前だろ。それに誰もかれもが『AliveOut』に入ると思うなよ!」
レンヒットの指摘にしどろもどろになりながらも男は反論をする。
尚も反論しようとした男をデュオはこれ以上は喋らせず、男達の目的を暴いていく。
「警戒の目じゃなくて獲物を狙う目でしょ。この場合金目の物と言うよりあたし達の体が狙いなんでしょうけど」
「あるいは両方ね」
アイリスはデュオに同意し、男を嫌悪する目で見下す。
「それと別に『AliveOut』に入らなくてもいいけど、わざわざ魔物が犇めく森に居る方がどうかしているわよ。つまりあんた達は都市に居られなくなった人たちって事でしょ」
「なるほど。つまりこいつらは神軍の生き残りって事か」
「ここから近い都市は水曜都市と火曜都市。水曜都市の神軍は少数な上、これから対神部隊が攻略する。
よって、こいつらは火曜都市の烈火神軍の生き残り」
リュナウディアが男達の正体に当りを付け、クロが何処の神軍の生き残りなのかを探り当てる。
その言葉に反応した男はやけになり、周囲に隠れている仲間へと呼びかけた。
「クソッ! 全部バレバレじゃねぇか! おい! こうなったら全員で囲んでたたんじまうぞ! 人数ではこっちが上なんだ。折角の上玉をみすみす逃がすなんて間抜けはいねえだろうよ!」
すると木々の茂みの奥から烈火神軍の残党と思われる男達が現れた。
その数探知していた通り10人。
最初の男も加えて11人がデュオ達を取り囲む。
「へへ、奇襲で訳も分からず襲ってやろうと思ったが、まぁいい。真っ向からねじ伏せてヒィヒィ言わしてやるよ」
「はっ! 折角事前に察知したのにわざわざ捕まりに固まるとは。お望み通り好きなだけ遊んでやるぜ」
「最初は嫌かもしれないが、段々と気持ちよくなってくるよ。だから素直にその身を俺達に委ねた方がもっと気持ちよくなれるよ」
現れた男達はその欲望を隠そうともせず、デュオ達へとぶつけてくる。
「何こいつ等、気持ち悪っ! ああ、神軍って確かにこんな奴らばかりだったわね」
「生憎と私はお前らにこの身を捧げるつもりはないんでな。押し通らせてもらおう」
「邪悪速斬」
「にゃはは♪ あたしモッテモテ~♪ あたし可愛い? 抱きたい? でも駄目~。あんた達はあたしのお眼鏡にかないませんでした~。だからここで死んで?」
「ここであたし達に会ったのが運の尽きだと思ってあの世で反省する事ね」
アイリスは嫌悪を更に増し、リュナウディアは拒絶の意思を顕わにする。クロは烈火神軍残党を邪悪と判定し、レンヒットはいつもの調子で話すも生かしておく気はないみたいだ。
デュオも同様で、ここで烈火神軍残党を逃せば同じような目に遭う人が出て来るので、ここで片を付けるつもりだった。
そんな中、アイリスは1人の男が見た覚えのあることに気が付く。
「あんた、もしかしてギャンザ・・・?」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
火曜都市から北東にあるホイルフォー山。その山の一角でガタイの良い老人――謎のジジイが黙々と作業を熟していた。
その一角は山中にあるにも拘らず水平に均されており、ある程度の滑らかさと硬度があった。それは謎のジジイが作業をする為に整備したからだ。
その作業が何だかと言えば、傍から見れば謎のジジイは均された地面にひたすら何かを書いているようにしか見えない。
直径15m程の円の中に、幾何学的な模様もあれば何やら魔術文字のようなものを書き込んでいた。
誰が見たところで魔法陣としか見えないが、この魔法陣が何の役割をこなすのかは今のところこの謎のジジイにしかわからない。
それ故、謎のジジイの妨害をする者もあらわれる。
「グルゥ・・・」
作業をしている謎のジジイの傍に黄金の竜――黄金騎竜のガジェットが何者かが接近していることに気が付き警戒の声を上げた。
それに他の4匹の獣も気が付き、同じように警戒の意思を示す。
「くぎゅー」
「くきゅー」
「ガウゥ」
「ガルゥ」
そして当然謎のジジイも近づいている気配に気が付いており、作業の手を止め迎撃の態勢に入る。
「やれやれ、まぁた邪魔をしにきおってからに。いい加減諦めてくればいいものの」
「だったらてめぇがとっととこの山を下りろや。ここは俺の縄張りだ。俺の縄張りで勝手な真似をするんじゃねぇよ」
そう言って謎のジジイの前に現れたのは無数の角の生えた狼――グルネルトヴォルフを率いた背中に大きな輪を背負っている男だった。
その輪は船の総舵輪のような突起が付いており、緩やかに回っていた。
「何をけち臭い事を。ちょっとばかりの落書きくらい見逃してもいいとおもうんじゃがのぅ」
「それがタダの落書きじゃないことくらい誰が見ても分かるだろ。
そんな訳のわからんものを自分の縄張りにこさえられて見逃すほど俺はお人好しじゃないんでな」
男はそう言いながら呪文を唱え、謎のジジイに向かって火属性魔法の巨大火球――バーニングフレアを放った。
「くきゅー!」
謎のジジイが防御に入る前に4匹の獣のうち1匹である背中に小さな天使の羽を生やしたイルカが前に出て無数の小さな光の盾を出して防いだ。
「ちぃ! またあの盾かよ。厄介な防御力がありやがる。
やれ! あのジジイを引き裂け!」
男は愚痴りながらも率いたグルネルトヴォルフに指示を出し謎のジジイに向かわせた。
謎のジジイもそれに対し、自分の陣営の獣に指示を出す。
「プロテクトはいつも通り魔法陣の防御じゃ。ブロークンとスパイラル、ストレイトは狼たちを蹴散らせ。ガジェットはお前が動くと折角の魔法陣が壊れるから動くなよ」
「くきゅー」
小さな天使の羽を生やしたイルカ――プロテクトは先程と同様に小さな光の盾――マテリアルプチシールドとマジックプチシールドの性質を持ち合わせたデュアルプチシールドを波の様に展開して魔法陣と謎のジジイを守る。
「くぎゅー!」
「ガウゥ!」
「ガルゥ!」
背中に小さな悪魔の羽を生やしたシャチ――ブロークンはその身を弾丸のように回転させながらグルネルトヴォルフの群れに突っ込みその連係を崩す。
ウルフ種として最上位に居るフェンリルナイトの2匹、スパイラルとストレイトはブロークンにより動きが鈍ったグルネルトヴォルフに向かって襲い掛かる。
「さて、お主の相手は儂じゃ。ほれ、かかってこんか」
謎ジジイは黄金のハンマーを片手に持ち上げ肩に担ぎ、もう片方の手で男を挑発するように手招く。
「何でてめぇが上から目線なんだよ! 俺の縄張りに土足で入り込んでるのはてめぇだろうが! ちったぁ遠慮しやがれ!」
男は左右に剣を持ち、謎のジジイに向かって行く。
謎のジジイは男に向かって遠慮なしにハンマーを振り下ろす。
「ハンマーヘル!」
男は寸でのところで足を止め謎のジジイの攻撃を躱し、左右の剣を振るい謎のジジイを切り刻もうとする。
だが叩き付ける寸前に掬い上げに切り替えた謎のジジイのハンマーが男の左右の剣を弾く。
「ハンマーヘブン!」
左右の剣を弾かれ懐が無防備になった男へ謎のジジイが止めの一撃を放つ。
「光りになれぇぇぇぇぇぇっ!!」
だが男は謎のジジイの最後の攻撃に自ら一歩踏み出しその身を晒した。
そして謎のジジイの攻撃が当たる瞬間、黄金のハンマーは軌道を変え男の脇に振り落される。
謎のジジイの必勝パターンである渾身の三連撃を躱され一瞬だが動きが硬直し、男はその隙をついて崩れた体勢から掬い上げの剣を放った。
キィンッ!
謎のジジイは辛うじてハンマーの柄を防御にし、男の攻撃を防ぎ一時距離を取る。
「相変わらず『運』が良いのぅ」
「ちぃ、『運』が良いのはそっちだろ? こっちの反撃の瞬間、俺の『運』が変わりそっちに向きやがった」
謎のジジイが最後の攻撃をした瞬間に足に積もった枯葉により足を滑らせ軌道がずれてしまったのだ。
謎のジジイはそれを『運』が良いと言い、男は逆に自分の反撃が躱されたことに『運』が謎のジジイに変わったと言う。
「中々厄介じゃのぅ。お主のその能力。儂がこの天国と地獄の攻撃を出して躱し続けた輩はそう居ないのじゃぞ?」
「そう言うてめぇこそ俺の『運』の攻撃を躱し続けるのはどっか異常だぜ。『運』がこっちにあるのに『運』が無いってどういうことだよ」
「ほっほっほ。それはこれまでの儂の徳じゃと言っておこうか。
ともあれこれ以上は無駄じゃと分かっておるが、まだ続けるのか? 儂としてはここは大人しく身を引いて邪魔をしないで貰えると助かるんじゃが」
「物分りが良ければ最初からここには来ねぇよ」
そう言って男は再び謎のジジイに襲い掛かる。
謎のジジイもそれを迎撃し、周囲では主たちの邪魔をさせまいとそれぞれの従魔が激戦を繰り広げる。
そうして暫く互いが戦い続けるが、男は突如身を引いた。
「くそっ、これ以上は『運』が悪い。
いいか、ここは引くが、いい加減この場から立ち去りやがれ! これ以上まだ何かするのならまたてめぇをぶっ飛ばしに来てやるからな!」
男はそう言って生き残ったグルネルトヴォルフを率いて去って行ってしまった。
男が引いたのを確認して謎のジジイは一息を付く。だがその一息は重苦しいものだった。
見事男を撃退したのかと言えばそうとも言えないからだ。
「やれやれ、また最初からやり直しとは・・・また来るとなると先が思いやられるのぅ」
謎のジジイは折角書いた魔法陣が破壊されている跡を見てはこれまでの苦労が水の泡と化したことに重い溜め息をついたのだ。
男は仕方なく撤退はしたが、見事謎のジジイの作業を無に帰すことに成功していたのだ。
「やれやれ。引いたとは言え、きっちり自分の利になることを残していくとは流石運命を回す者と言ったところか」
男の正体は八天創造神からはぐれた神秘界の騎士・Wheel of Fortune。
能力は背中の運命の輪を以って周囲の『運』を操る事。別名、運命を回す者。
次回更新は12/28になります。




