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死に戻った令嬢ですが、二度目の人生をくれた第一王子に溺愛されています  作者: MARUMI
第一章

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1-7.再会

 再び、広間に緊張が走る。


「国王陛下、並びに王妃殿下。第二王子殿下のご入場です!」


 ――第二王子。


 その言葉を聞いただけで、背筋を冷たいものが走り抜けた。


 反射的に、入場口へ目を向ける。


 そこから現れたのは、金色の髪に深紅の瞳を持つ青年だった。


 アレン・セス・ウィステリア。


 第二王子。


(……私を利用して、殺した男)


 姿を見ただけ。言葉を交わしたわけでもない。


 それなのに。喉の奥が焼けるように痛んだ。


 あの夜の記憶が、鮮明に蘇る。


 焼けるような喉の痛み。

 身体から力が抜けていく感覚。

 そして――最後に見た、あの冷たい紅の瞳。


「……っ」


 気づけば、私は口元を手で覆っていた。


(落ち着いて……)


 もう、あのときとは違う。

 分かっていても、身体は頭より先に恐怖を覚えていた。


 その時。


「お姉様!」


 マリアンナが、嬉しそうに私の腕へ手を伸ばしていた。


「一緒にアレン殿下のところへ行きましょう!」


(……最悪の方向へ一直線、ね)


 胃の奥が、きゅっと縮む。


 妹は何も知らない。桃色がかった瞳を輝かせ、期待に満ちた顔でこちらを見つめている。


 その姿は、この華やかな舞踏会に咲いた可憐な花のようだった。


(……そうだった)


 前世でも、マリアンナはアレン殿下に憧れていた。


 私は、それをただの「王子様への憧れ」だと思っていた。


 いや。そう思いたかったのかもしれない。


「お姉様、早く!」


 マリアンナが私の腕を軽く引く。


「他の方に先を越されてしまいますわ!」


 その無邪気な声に、私は一瞬だけ迷った。


 今のマリアンナは、まだ何もしていない。この子に、前世の罪を背負わせるのは違う。


 頭では分かっている。分かっているけれど――。


 記憶の中で私を見下ろしていた妹の顔が、どうしても脳裏から消えてくれない。


 だから、私はそっと妹の手を外した。


「マリアンナ」


「はい?」


「私は少し人に酔ってしまいそうだから……ここで休んでいるわ」


 できるだけ穏やかに笑う。


「あなたは一人で行ってきて」


「え……?」


 マリアンナの顔に、ほんの少し不満が浮かんだ。


 けれど私は気づかないふりをする。


「ほら」


 妹の背中を軽く押した。


「あなたはとても可愛いもの。きっと殿下も喜ばれるわ」


「……!」


 その言葉に、マリアンナの頬がぱっと赤くなる。


「お、お姉様ったら……!」


 照れたように笑うと、妹は嬉しそうに第二王子のもとへ向かっていった。


 その小さな背中を見送る。


「……ふぅ」


 私はようやく息を吐いた。


(これでいい)


 けれど、アレン殿下から離れるようにして少し歩いただけで、今度は別の意味で周囲が騒がしくなった。


「よろしければ、お名前を伺っても?」


「次の曲を、ぜひご一緒いただけませんか?」


「そのドレス、とても素敵ですわ。どちらで仕立てられたの?」


 次々と向けられる声。


 差し出される手。


 好奇心に満ちた視線。


「え……?」


 私は思わず目を瞬いた。


 こんなこと、前世ではなかった。


 むしろ、あの頃の私は壁際でひっそりと時間が過ぎるのを待っていたくらいだ。


(……どうして?)


 戸惑いながら、自分の姿を見下ろす。


 紫のドレス。丁寧に整えられた髪。


 首元で揺れるアメジスト。


(……お母様のおかげ、かしら)


 母が髪を整えてくれた。


 母が化粧をしてくれた。


 母が選んでくれたドレスを着ている。


 それだけで、以前の私とは違って見えるのだろうか。


(……そっか)


 胸の奥が、少しだけ弾んだ。


(私、ちゃんと変われたんだ)


 なら、今日はもう少しだけ――楽しんでもいいのかもしれない。


「ありがとうございます」


 笑顔を返す。


 差し出された手に応じる。


 話しかけられれば、丁寧に言葉を返す。


 次々に向けられる視線に戸惑いながらも、私はできる限り笑顔を保った。


 華やかな音楽。


 甘い香水の香り。


 色とりどりのドレス。


 弾む会話。


 まるで別世界に迷い込んだようだった。


 けれど――。


(……さすがに、ちょっと疲れた)


 少しだけ休みたい。


 庭園へ行くのはやめておこう。


 そこへ行けば、リオン殿下と出会ってしまう。


 なら、女性たちが化粧直しに使う控え室なら大丈夫だろう。


 そう考えて、私は人の少ない回廊へ抜けた。


 ――その瞬間。


 目の前に、大きな影が差した。


(――ぶつかる!)


 私は咄嗟に足を止めた。

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