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死に戻った令嬢ですが、二度目の人生をくれた第一王子に溺愛されています  作者: MARUMI
第三章

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3-16.変化

 翌朝、まだ朝靄の残る野営地では、兵士たちが慌ただしく荷をまとめ、馬へ鞍を付けていた。


 昨夜の焚き火は灰となり、その代わりに朝食の湯気があちこちから立ち上っている。


 澄んだ空気を胸いっぱいに吸い込むと、昨日までの馬車酔いが嘘だったように身体は軽かった。


(今日は、大丈夫)


 ゆっくりと手を握りしめる。


 昨日は殿下に心配を掛けてしまった分、今日からは頑張らないと!


 それに、アルティナ様は昨日、あんなにも優しく話しかけてくださった。

 あの方となら、きっと良い関係を築ける。それは外交にも役に立つはず。


(今日は自分から話しかけてみよう)


 そう心に決めた時だった。


「ミレイナ嬢」


 柔らかな声に振り返る。

 朝日に照らされた白銀の髪がきらりと輝いた。


「殿下、おはようございます」


「おはよう。体調はどう?」


「もうすっかり良くなりました」


「それなら良かった」


 リオン殿下は安心したように微笑んだ。


「今日も私の馬車へ来る?」


 その言葉に、胸が小さく跳ねた。


 一瞬だけ。本当に一瞬だけ、「はい」と答えそうになる。


(でも、駄目)


 私は小さく拳を握った。


「ありがとうございます。今日は自分の馬車へ戻ります」


「……そう?」


「はい。もう体調も戻りましたし、ご迷惑はお掛けできません」


(それに、アルティナ様もいらっしゃるしね)


「迷惑だなんて思っていないよ」


 優しい声だった。


「君が楽なら、それで——」


「殿下、本当に大丈夫です」


 その言葉に、殿下は少しだけ困ったように笑った。


「……分かった」


 それ以上は何も言わない。

 けれど、その藤色の瞳がほんの少しだけ寂しそうに揺れた気がして、胸が締め付けられる。


(これでいいの)


 そう自分へ言い聞かせる。外交は始まったばかり。私は殿下を困らせる存在ではなく、支える存在でいたい。


「それでは、後ほど」


 礼をして背を向ける。振り返ってしまえば、きっと決意が揺らぐ。

 だから私は、そのままベルの待つ馬車へ向かった。


 ***


 昼過ぎ。一行は川辺の広場で休憩を取ることになった。

 木陰には涼しい風が流れ、小鳥のさえずりが聞こえてくる。


(今よ!)


 昨日の決意を思い出し、私は辺りを見回した。

 すると、少し離れた場所で暁色の髪が風に揺れている。アルティナ様だった。

 侍女と話していた彼女は、私に気付くとぱっと表情を明るくする。


「あら、ミレイナ!」


 その笑顔につられて、私も自然と笑みが浮かんだ。


「アルティナ様。お隣、よろしいでしょうか」


「もちろんですわ!」


 まるで昔からの友人を迎えるように、嬉しそうに席を空けてくださる。


「来てくださるのを待っていましたの」


「え?」


「昨日はあまりお話できなかったでしょう?」


 屈託のない笑顔。公爵令嬢とは思えないほど気さくで、肩の力が抜ける。


「体調はいかが?」


「おかげさまで、もう大丈夫です」


「良かったですわ」


 胸に手を当てて本気で安心したように息を吐くアルティナ様を見て、思わず笑ってしまう。


「心配をおかけしました」


「殿下も昨夜はずっとそわそわしていらっしゃったもの」


「え、殿下がですか?」


「私が『代わりに様子を見に行きましょうか?』って申し上げても、『いや、もう寝ているかもしれないから大丈夫』って」


 そう言ってアルティナ様はくすくす笑う。


「本当に過保護なんだから」


(そんな……)


 知らなかった。そんなやり取りがあったなんて。


 アルティナ様は悪戯っぽく笑った。


「私に気なんて遣わなくて大丈夫よ」


「……え?」


「今朝も遠慮していたでしょう?」


 見抜かれていたことにドキリとした。


「私ね、それなりに人の顔を見るのが得意なの」


 そう言って、ふわりと笑う。


「ミレイナは色々考え過ぎちゃうタイプではありません?」


 図星すぎて何も言えなかった。

 そんな私の手にアルティナ様はそっと自分の手を重ねる。


「私と殿下はミレイナが思っているような関係ではないわ」


 優しい青い瞳がまっすぐ私を映す。


「政略があるから大きい声では言えませんけど、安心して」


「私とあなたは敵じゃないわ」


「アルティナ様……」


「だから」


 ぎゅっと手を握られる。


「これからいっぱい仲良くしましょう?」


 胸の奥で、固く結ばれていた何かがほどけていく。

 私はずっと、一人で思い込んでいたのかもしれない。

 アルティナ様は、最初からこんなにも温かい方だったのに。


「……はい!」


 自然と笑顔になっていた。


「よろしくお願いいたします、アルティナ様」


「ふふっ、敬語は半分くらいでいいわよ?」


「それは……難しいです」


「あら、残念」


 二人で笑い合う。一人で考え込んで悶々とするよりずっと良かった。


 ***


 その様子を少し離れた場所から眺めていたリオンは、小さく息をついた。


「殿下」


 隣に立つクリステールが、どこか楽しそうに声を掛ける。


「安心されましたか?」


「……そうだね」


 リオンは苦笑する。


「安心した半分、少し寂しい半分かな」


「おや」


「昨日までは私を頼ってくれたのに、今日は急に距離を取られてしまったから」


 クリステールは肩を竦めた。


(殿下。それはミレイナ嬢なりに、外交を成功させようと気を遣っていらっしゃるからですよ)


 その言葉は胸の内だけにしまい込み、代わりに微笑む。


「焦らずとも、旅はまだ始まったばかりです」


 その言葉に、リオンはアルティナと楽しそうに笑い合うミレイナを見つめながら、小さく笑みを零した。

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