↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死に戻った令嬢ですが、二度目の人生をくれた第一王子に溺愛されています  作者: MARUMI
第三章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
49/71

3-13.新たな仲間

 それから出立まではあっという間だった。


 家庭教師の仕事を休む間の代わりの講師はクリステール様が公爵家のツテで見つけてくれ、伯爵家の仕事は父と執事で分担してくれることになった。

 

 王妃の目を欺くために殿下と直接会うことは叶わなかったけれど、グラウス子爵の名前での文通を使って外交に向けての情報交換をした。


 そして気付けば出立の日——。


 季節は既に夏から秋に向かおうとしていて、夜気の涼しさを残した風が、王宮前広場を吹き抜けていく。


 豪奢な馬車が並び、騎士たちは鎧を鳴らしながら持ち場を確認していた。


 百名を超える外交使節団の約二か月に及ぶ長い旅が、今まさに始まろうとしている。


「お嬢様、お荷物はこちらで」


「ありがとう、ベル」


 私は伯爵家から乗ってきた馬車を降りると、深く息を吸った。

 目の前に広がる光景は、前世でも見たはずなのに、まるで別の景色のようだった。


 あの頃の私は第二王子の婚約者として参加した。

 けれど今は違う。私は第一王子をお支えする侍女として、この場所へ立っている。


(……ここから始まる)


 自然と背筋が伸びた、その時だった。

 遠くから規則正しい蹄の音が聞こえてくる。


 カツ、カツ、カツ――。


 広場へ集まっていた騎士たちが一斉に振り返った。

 王宮の門をくぐり抜けてきたのは、ミラー侯爵家の紋章を掲げた騎馬隊だった。

 統率の取れた動きで馬を止めると、先頭の青年が軽やかに地面へ降り立つ。

 陽の光を受けた黒髪が揺れ、見慣れた笑みがこちらへ向けられた。


「おはよう、ミレイナ」


「……ルイ?」


 思わず目を見開く。


「どうしてここに?」


 ルイは肩を竦めて笑う。


「今回の外交使節護衛を任された」


「護衛……?」


「王家から正式に任務を任されたんだ」


(侯爵家の騎士団が?)


 前世ではこんなことは無かった。確かにミラー侯爵家はサウザンドやミネルヴァ等の北方の国境を守る家門。護衛を頼むのにこれ以上の適任者はいないだろう。


「そうだったのね! 頼りになるわ!」


「あぁ、任せとけ」


 ルイの後ろに整然と並ぶ騎士たちはどの顔にも隙はなく、精鋭であることが一目で分かった。


「それよりミレイナ!

 使節団入りが決まったなら俺にも一言――」


 その時、低く落ち着いた声が響いた。


「ミレイナ嬢」


 振り向くと、白銀の髪が朝日に照らされ、眩いほどに輝く。


 正装へ身を包んだその姿は、まるで神話から抜け出してきた人のようで、思わず息を呑む。

 何度会っても、この人には見惚れてしまう。


「……リオン殿下」


 私は恭しく礼をした。王妃や第二王子サイドの目もある以上、私たちは親しくあってはならない。

 

 殿下はルイへ視線を向けながら微笑んだ。


「今回は移動距離も長い。護衛の増強を進言したところ、侯爵家が快く引き受けてくださったんだ」


「侯爵家の騎馬隊なら安心ですね」


 そう言うと、ルイは照れくさそうに頭を掻いた。


「期待に応えられるように頑張るよ」


 そのやり取りを見ていたリオン殿下が、小さく笑う。


「私も頼りにしている」


 ルイは表情を引き締めると、王子へ真っ直ぐ敬礼した。


「侯爵家騎士団一同、この命に代えても使節団をお守りいたします」


 その声には迷いがなかった。リオン殿下も静かに頷く。


「頼んだよ」


 短い言葉だけれど、その中には互いへの信頼が込められているようだった。


(……殿下とルイって仲いいのかな……)


 前世ではこの二人が話しているところなんて見た覚えがないけれど、なんだか二人は息があっているように見えた。


(前世とは変わっている……のかな?)


 ミラー侯爵家は例え国王であっても簡単に手を出せない家門だ。ルイが居てくれるだけで第二王子側への牽制になるはず。


(いい兆候だわ)


 その時、暁色の髪を優雅に揺らした令嬢がこちらに向かって歩いて来た。


「殿下、私の紹介は、まだしていただけませんの?」


 少しだけ頬を膨らませながら立っているのはペルシャンティ公爵令嬢だった。

 彼女の陽の光を受けた青い瞳が悪戯っぽく細められる。


 彼女とは舞踏会で一度だけ挨拶を交わしただけだけど、やっぱり可愛らしい方。


(だけど、どうしてこの方がここに……)


 前世では彼女は外交使節団に加わっていなかったはずだった。


「今するよ、アルティナ嬢」


 リオン殿下は小さく笑って私へ視線を戻した。


「彼女はペルシャンティ公爵家の令嬢、アルティナ嬢」


 彼女は一歩前へ出ると、優雅に裾を摘まむ。


「改めまして、アルティナ・ペルシャンティです。

 舞踏会ではご迷惑をおかけしましたわ」


 ふわりと笑うその表情は、舞踏会で見た時よりもずっと柔らかい。


 公爵令嬢でありながらこんなにも気さくに話しかけてくださる優しいお方……。


 なのに、私の心は冷えていくのを感じた。


(この場で殿下の婚約者候補だと、紹介されるのかしら……)


 前世では、もう少し後でこの方が殿下の婚約者になられた。


 それが今回は、早まったということ……?


 そう思っただけで胸の奥がきゅっと締め付けられた。


 それでも私はできるだけ冷静を装って礼を返す。


「その節はご挨拶出来ずに申し訳ございません。ミレイナ・フェリエールと申します。よろしくお願い致します」


「今回の外交にはアルティナ嬢も同行して貰うんだ」


(やっぱり……)


 外交への同行は彼女の妃教育の一環なのかもしれない。


 前世では私が第二王子の婚約者としてこの場に立っていたように、彼女はリオン殿下の婚約者候補として外交に呼ばれたのだろう。


 そう思うと、胸の奥へ冷たい水を流し込まれたような感覚がして、思わず笑みがぎこちなくなる。


 だけど、次の瞬間、ペルシャンティ公爵令嬢は私の方に更に一歩近付いてニコッと笑った。


「今回、殿下から『ミレイナ嬢を支えてほしい』とお願いされていますのよ。微力ながら、ご一緒させていただきます」


(……私を?)


 思わずリオン殿下を見上げたけれど、殿下はいつものように穏やかに微笑むだけだった。


「ですから、仲良くしてくださいね!」


「そんな、ペルシャンティ公爵令嬢――」


「アルティナでいいわ。私もミレイナって呼んでいいかしら?」


「は、はい……。もちろんです」


 その時、リオン殿下が分かりやすく咳払いした。


「あら、殿下、焼きもちですか?」


「ミレイナ嬢が困っている」


「まあ。困っているのではなく、照れているの間違いではなくて?」


「……アルティナ嬢」


「ふふ、ごめんなさい」


 やがて王宮の鐘が高らかに鳴り響く。出立の合図だった。


「ミレイナ」


 アルティナ様は私を呼ぶと、更に一歩こちらへ歩み寄って、そっと私の両手を包み込んだ。


「アルティナ様?」


 手袋越しでも、包み込まれた手からその優しさがじんわりと伝わってきた。


「私、殿下からたくさんお話を聞いて、お会いできるのを楽しみにしていましたの」


 殿下は私のことを、この方にも話していらっしゃる。二人の積み重ねてきた時間を思うと、少しだけ羨ましかった。


「これからよろしくお願いしますね」


「アルティナ嬢」


 穏やかな、それでいて少しだけ呆れたような声が響く。


 視線を向けると、リオン殿下が苦笑を浮かべていた。


「あまり急に距離を縮めると、ミレイナ嬢が驚いてしまうよ」


「……分かりましたわ。では、ここで失礼させていただきます」


 アルティナ様はそう言って優雅に礼をすると、公爵家の馬車の方に歩いて行かれた。


 私がふっと息を吐こうとすると、広場の空気が再びざわめき始めた。


「第二王子殿下がお見えです」


 近衛騎士の声が響く。その一言だけで、その場の空気がわずかに張り詰めた。


「堂々と遅刻されるなんて……」

「まるで避暑にでも行くかのような装いだな」


 そんな囁き声を制するようにアレン殿下の護衛が辺りに睨みをきかせた。


 現れたアレン殿下は煌びやかな赤があしらわれた装いを身にまとい、マリアンナは大きなリボンのついたフリル付きのドレス姿だった。


 アレン殿下はリオン殿下の姿を見つけると、含みのある笑みを浮かべてこちらに歩み寄ってきた。


「ミラー公子にアルティナ嬢まで……。中立派を味方につけたつもりか」


「まさか。今回の外交に協力してくれる方々ですよ」


 アレン殿下はリオン殿下を見つめ、それからゆっくりと私に視線を移した。


「マリアンナの姉までそばに置くとは……」


 その一言に、場の空気がわずかに張り詰める。

 私は反射的にリオン殿下を見上げた。


 殿下は表情を変えない。ただ、ごく自然に半歩だけ前へ出た。


 たったそれだけのこと。けれど、その白いマントが視界を遮った瞬間、アレン殿下の視線は私へ届かなくなる。


(庇ってくださった……?)


 そう気付いた私の頬は小さく熱を帯びた。


「王妃殿下よりミレイナ嬢を侍女にするよう言われました。優秀な令嬢をお選びいただけたこと、感謝致します」


「そうだったな。ミレイナ嬢には俺も期待している」


 アレン殿下の視線が、再び私へ向けられる。その値踏みするような視線。まるで新しい玩具でも見つけたかのような――そんな錯覚を覚えた。


 嫌な予感が胸をよぎる。


 その時だった。


「アレン殿下」


 ルイの快活なよく通る声が響く。

 いつの間にか、リオン殿下の反対側から私とアレン殿下の間へ半歩進み、騎士として美しい礼を取る。


「恐れ入りますが、アレン殿下の護衛配置の最終確認ができておりませんので、ご協力をお願い致します」


 完璧な口実だった。アレン殿下は一瞬だけルイを見つめ、やがて笑みを浮かべる。


「分かった」


 その背中が離れていくのを見送りながら、私は気付かれないよう小さく息を吐く。


「大丈夫?」


 隣からリオン殿下が小さく囁いた。


「はい」


 そう答えると、殿下は安心したように微笑む。


「それじゃあ、私たちも馬車に向かおうか」


 馬車に向かう殿下の横顔を見上げると、いつもの穏やかな雰囲気は影を潜め、外交へ向かう第一王子としての覚悟が宿っていた。


 私も小さく拳を握る。


(今度こそ)


 前世とは違う未来を掴むために。この外交を、必ず成功させる。

 そう心に誓いながら、私はゆっくりと馬車へ乗り込んだ。


 爽やかな風が旗を大きく揺らし、馬車の車輪が石畳を鳴らし始める。


 王都がゆっくりと遠ざかっていく。

 前世とは違う旅、違う仲間。きっと未来も変わるはず。

 期待と不安が入り交じり、指先が震え出す。


 だけど、今回、私の隣にはリオン殿下が居てくれる。

 ルイもクリステール様もロアン様も……。それに、アルティナ様も。


(だからきっと、大丈夫)


 私は震える手を握りしめて、前を見つめた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。