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文化祭はミニチュア街で(私立クリスティ学園シリーズ 魔法使いの生徒会編7)  作者: 月森琴美


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7

 帝たちが校門前にテントを立てて薔薇の花瓶を並べている時間、1年A組では着々と教室の内装が進んでいた。

「この分だと午前中で終わりそうね」

 奈々と茉理は区切ったゲームコーナーに、ラッピングした景品を運ぶ。

 3つのゲームコーナーは、机を積んで作った仕切りによって区分けされ、仕切り用に積み上げた机や段ボール箱に趣向を凝らした壁紙や装飾を貼って囲むことで、お化け屋敷の雰囲気を出していた。

 腕相撲のスペースには机と椅子が二脚、それに景品を置く机と待機してるお化けが座る椅子も置いた。

 壁は黒いすす汚れたレンガの模様を描き、天上に蝙蝠や白いゴーストを形作った飾りがぶら下がっている。

 雰囲気を出したいと景品を置く机の上には水晶玉やタロットカード、杖やおもちゃの短剣なんかを置いて不気味な雰囲気を出した。

 クイズコーナーは和風にしようと仕切りの壁紙にはお墓をたくさん描き、ダンボールと紙で作った丸い井戸と柳の木が二本立っている。

 井戸の真ん中には椅子が一つ置けるスペースがあり、当番のお化け役はここに座って来た人にクイズを出す。

 クイズは全部で三問出され、一問正解するたびに景品をもらえる。全問正解で景品三個を獲得出来るという仕組みになっていた。

 ダーツのコーナーは洞窟のようになっており、紙を丸めて岩の色に塗り、それを壁紙にたくさん貼り付けて、魔獣などの潜むダンジョン風にした。

 奥にダーツの的を下げて、使う矢は一人三本。対戦相手のお化けと交互に矢を投げ合って、単純に的の中央に近い所に刺さった方が高得点となり、景品がもらえるというゲームである。

 3つのコーナーを回って出口に来たら、挑戦したい人はお化け探しのカードをもらう。これにはマス目が5つあり、校内を徘徊しているお化けを5人見つけてサインをもらい、教室の受け付けに提出したら景品がもらえるという仕組みである。

「お昼休みにさ、ちょっと他のクラスも覗いてみない?」

 奈々はいたずらっぽく片目をつぶった。

「茉理がいれば、上級生のクラスも覗けそう。普段はさ、なんか恐れ多くて用事もないのに先輩たちの階なんて上がれないじゃない。こういうときに行かないと」

「それはそうかもね」

 奈々のよくわからない熱意はともかく、一年生の身では、何の用事もなく上級生の階へ行くことなどほぼないと言ってもいい。

 彼女自身、いくら帝と付き合っているといっても、あまり三階には上がったりしなかった。

(確かに先輩たちの階は、ちょっと気になるかも)

 そんな事を考えながら、茉理は奈々やクラスメイト達と午前中の作業を終えた。



 手早くお弁当を食べて、茉理たちは校内探検を開始する。

 隣のB組に行ってみると、奈々の初等部時代からの親友である祥子がいた。

「二人ともどうしたの?」

「いやあ、ちょっと他のクラスはどうしてるかなあって」

 奈々が答えると、流石付き合いの長い祥子はああ、とすぐ納得する。

「うちのクラスは部活動とかやってる子が多いから、みんな部の展示とかで忙しいみたいなの。それでクラスの企画にはあまり関われないっていうことで、簡単なものにしたのよね」

 そういうB組の教室には、子どもがよく庭で使うビニール製のプールがあった。

 中には糸をつけた水風船が沢山入っている。

「水は明日の朝入れる予定よ」

 祥子はそう言って笑った。

「縁日かあ。楽しそうだね」

「といっても簡単な物しかないけどね」

 壁に景品の入った小さなビニール袋が糸でたくさん吊るされた箇所を見て、茉理が首をかしげていると、祥子が説明してくれる。

「射的のつもりなの。ほら、これが銃よ」

 実に原始的な割り箸とゴムを使った手作りの銃を見て、茉理はなるほどと思った。

「ゴムを飛ばして少しでもビニール袋に当たったら、それがもらえる仕組みよ」

「意外と難しそうね」

「こっちは?」

 奈々は別な方を指差す。

 そこにはダンボールで作った長いレールが出来ており、奥にプラステックのペットボトルに装飾をほどこしたものが9本置いてあった。

「それはボーリングよ。横のかごに入ってるゴムボールを投げて当てるの」

 他にも磁石を紙で作った魚につけて、同じく磁石をつけた釣竿で釣るゲームや、おみくじを引いて横に設置されたダンボール製の木の枝に結び付けられるようになっていたりと、いろんなものがあった。

「明日は全員縁日らしく浴衣を着る予定なの」

 ちょっと寒そうだけど、と祥子は微笑んだ。

 確かに浴衣は夏の衣装なので、肌寒い11月には中に色々着込まないといけないだろう。

 明日はがんばろうね、と挨拶して、茉理と奈々はB組を出た。

 C組は関係者以外立ち入り禁止の紙が教室の扉に貼られていて、中を覗くことは出来ない。

 奈々の事前情報では、ここは展示をするのだという。

「びっくり美術館とかいう企画だそうよ。世界の名画にわざと滑稽な部分を入れ、偽の絵画を作り上げて展示するんですって」

 怒ってるモナリザとか、落穂拾いじゃなくてお金拾いとかだって、と奈々は教えてくれた。

 D組はしごく真面目な研究発表で、魔獣の生態と種類を書いた模造紙やパネルを展示していた。

 また魔法使いの中でも名のある魔獣を倒した有名な人物の事なども紹介している。

 E組は1年生の中で唯一カフェをするクラスだった。

 カフェと言っても、中学生がクラスで料理をするわけにはいかない。

 仕入れた市販のケーキやお菓子を紙皿に並べて出したり、やはり市販の飲料を紙コップに注いで出すという物で、内装は教室の三分の二が机と椅子を置いたカフェのホールで、奥の三分の一がキッチン仕様になっていた。

 お客様用のテーブルにはテーブルクロスがかけてあり、ペットボトルを改造した花瓶にお花紙で作った花が生けてある。

 教室後ろ奥のロッカーや掲示物が張られた壁などは、模様のついた紙やカーテンのような布などで目隠しされて教室感を少しでも減らそうという工夫が見えた。

 斎に会えるかと思ったが、生徒会の企画ブースを手伝わないといけないとかで、そっちにかかりきりになっているらしい。

「生徒会の企画ブース?」

 そんな話は聞いてないと茉理が首をかしげると、E組の子も詳しく聞いてはいないらしく、曖昧な返事しか来なかった。

「わたしも知らないよ。なんだろう、そんな企画あったんだ」

 情報通の奈々も首をかしげている。

(あとでもし遠野君に会うことがあったら、聞いてみよう)

 茉理はそう思い、挨拶をしてE組を出た。




 二年生の教室へ行こうと階段を一段上がると、突然奈々がぐいっと茉理の腕を引く。

「や、やっぱやめよう。明日文化祭になってから行こうよ」

「別にいいけど、どうしたの?」

 見たいって言ってたのは奈々なのに、と茉理は階段の一段目にかけた足を戻した。

「だってさあ、やっぱりちょっと行きづらいよ。ほら、まだ準備段階でやじ馬みたいに一年生がうろうろするのもさあ」

 そう言って、奈々はおじけづいた顔を茉理に見せる。

 言い出したのはいいけれど、やはり本当に行くととなると躊躇してしまうのだろう。

「教室戻ろう、ね。まだ細かい作業は残ってるし」

「そうだね」

 奈々が見たくないというのなら、それでいいかと茉理は方向を変えて教室の方を向く。

 その時、階段の上から声がかかった。

「あら、あなた。確か雅人様のファンの子よね」

 階段を仰ぎ見ると、光沢のある絹のような髪を揺らした上級生の先輩が一人、にっこり微笑んで降りてくる。

 奈々はあわててお辞儀した。

「はい。覚えていただいて光栄です。野田会長」

(会長?)

 茉理は先輩なのであわてて一礼しながら、相手の女生徒をこっそり見る。

 この中等部で会長と呼ばれる存在は、生徒会長の帝だけだと思っていたので、奈々の発言に疑問しか浮かばなかった。

 つけている記章の色で二年生だとわかる。

(それにしても、また綺麗な先輩だな)

 二年生で美少女と名をはせているのは、去年帝の彼女だった円城寺美奈子が真っ先に思い浮かぶが、この先輩もそれとはるぐらい美人だと茉理は思った。

 少し彫りの深い端正な顔立ちと、天然パーマがかかったチャコールグレーの長い髪。

 着ている物はドレスじゃなくて制服なのに、まるでアンティークドールが歩いているかのような雰囲気をまとっている。

 西洋人形のような先輩は、奈々の前に立った。

「確かお名前は……ごめんなさい、いろんな方がいるから忘れてしまって」

「1年A組 川本奈々です」

 奈々はうっとりと野田先輩を見上げて返事を返す。

「川本奈々さん、可愛いお名前ね」

 微笑んで野田先輩は、にこっと笑った。

「お忙しいのに呼び止めてごめんなさい。実は急遽ソロリティが校庭にブースをいただいて、出店することになりましたの」

「えっ、そうなんですか」

 奈々もそうだが、茉理も目を丸くする。

 今回の文化祭では舞台でバンドなどの同好会が参加するとは聞いていたが、部室もないそれ以外の自主同好会が何かをするとは思っていなかった。

「もちろんわたくしたちのプリンス、雅人様の素晴らしさを皆様にお披露目するためのお店よ。雅人様に関連したグッスをたくさん用意してありますの。よろしかったら明日立ち寄ってくださいね」

「はいっ。もちろん行かせていただきます」

 奈々は目を輝かせて返事を返す。

 では明日、と優雅な微笑みと共に野田先輩は去っていった。

(今の会話から考えると、あの先輩は雅人様親衛隊の会長ってことか)

 茉理はそういえばこの間この人見たな、と体育祭でソロリティの応援団が雅人を応援しまくっていたときのことを思い出す。

 雰囲気が全然違うから気付かなかったが、確かあの先輩は応援団の先頭に立って皆に号令をかけ、思いっきり大太鼓をばちで叩きまくっていた人だ。

(なんか全然イメージ違うから気づかなかったな)

 奈々の方を見ると、まだ野田先輩の去っていった方をあこがれのまなざしで見つめている。

「あーっ、本当に素敵な人よね、デイジーお姉様」

 まだ出会いの余韻が残ったままの上気した頬で、奈々はつぶやく。

「デイジーお姉様?」

 茉理はどうしてそんな呼び名になるのか、首をかしげた。

「野田会長は本名を野田雛菊と言うのよ。だから」

「ああ、雛菊って洋名でデイジーだもんね」

「わたしたち雅人様ファンにとっては、あこがれの存在よ。頭から爪の先まで雅人様のためにあるようなお姉様」

「あ、頭から爪の先って……」

「実はわたしさ、入学してすぐソロリティの説明会に行ったんだ。でも規約が厳しくて、願書を出すのをやめたのよね」

 だからその時、ちらりと見た奈々の顔を覚えていたんだろうと彼女は言った。

「願書なんて本格的ね」

 茉理はただの同好会――というか雅人のファンクラブに受験なみの書類が必要だなんて思わなかったので、正直驚く。

「雅人様の事はあこがれてるし、お近づきになれたら嬉しいけど、わたしの中学人生すべてをかけて雅人様を讃えることはやっぱり出来ないかなあ。中学三年間を全部雅人様に捧げる覚悟がないとソロリティには入れない。わたしじゃ覚悟は足りないって思ってね」

「それはそうでしょ。正直わたしにはあのソロリティの人たちの方が、よっぽどどうかしてると思うよ。まあ、わたしには関係ないし、誰が誰に人生を捧げようと否定する権利はないんだけどね」

 茉理は自分の思ってる事を口にした。

(雅人先輩ってそこまであこがれの対象になるほど格好良いかな。わたしにはそうは思えないよ)

 帝の方が数倍良いと思ってしまう辺り、恋は盲目の域に達しているのかもしれないが。

 奈々と並んで教室に戻る頃には、昼休み終了のチャイムが鳴る。

 そのまま細々とした作業をして、今日はクラスごとの自主解散という事で、思ったより早く茉理たちA組は下校出来ることになった。




 帝と思念で連絡をしたら、今日の放課後はやはり忙しいらしく茉理は別々に帰ることを提案した。

 普段は朝、校門前で待ち合わせをするのだが、明日から三日間はそれぞれ文化祭のクラス準備があるし、気を使わないよう待ち合わせもやめる。

 帝は不満そうだったが、茉理が絶対に文化祭で帝のクラスに行くし、一緒に演劇部の舞台を見ることも約束したので、引き下がってくれた。

「茉理、帝様と一緒に帰らないのなら、ちょっとつきあってよ」

 奈々に声をかけられ、茉理はうなずく。

 二人は校庭に出て、例のプリンス・ソロリティが出している店を覗いてみた。

 でも残念な事に周囲を綺麗なカーテン(薔薇の花付き)で覆われて、テントの中を見ることは出来ない。

「ま、明日のお楽しみってことね」

 奈々は明るく笑い、二人はそろって校門を出た。

 もうすぐ訪れる冬の気配が、あちこちにただよっている。

 葉の落ちた木々、時折吹き付ける風の冷たさ、どんどん日が暮れる時間が早くなり、夜の闇が近づいてきた。

 奈々の明るいおしゃべりに返事をしながら歩いていくと、あっというまに駅前の大通りに着く。

「じゃあまた明日。文化祭がんばろうね」

 笑顔で手を降り、別方向へ歩いていく奈々を見送って、茉理は駅に向かい、電車に乗った。

 通勤ラッシュにもまれながら、彼女の心は明日への期待に胸が高鳴る。

(楽しい文化祭になりますように)

 初めての文化祭に胸ときめかせる少女を乗せて、電車はいつもと変わらぬ早さで走っていった。



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