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文化祭はミニチュア街で(私立クリスティ学園シリーズ 魔法使いの生徒会編7)  作者: 月森琴美


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7/23

 文化祭前日になった。

 授業は全て免除となり、朝から全クラス文化祭の準備に勤しむ。

 茉理たちは完成したお化けの衣装を持ち出して試着し、サイズや動きやすさを調整していた。

 メイクが得意な子が家から簡単なメイク道具を持ってきて、それぞれ化粧もしてみる。

「大丈夫そうね」

 猫娘の衣装に着替えた奈々は、猫耳のついたカチューシャの位置を鏡で直す。

「その衣装可愛いよね。奈々によく似合う」

 茉理は心から褒めた。

「そうかな。ありがと」

 奈々はご機嫌な顔で、鏡の前で横を向いたり正面でポーズを取ったりしている。

 耳だけじゃなくて両手にはモフモフした肉球つきの猫型手袋、フワフワ合成毛皮のベストの背中には後ろに尻尾がついている。

 足は普通の靴だけど、長いモフモフレッグウォーマーで足首から膝下まで包み込み、猫感を出していた。

 ちなみに茉理は白い着物に白い帯、足には白足袋とぞうりである。

 髪はお下げを解いてバサバサとただのストレートに伸ばし、額には白い三角の布をつけた。

 顔はいつもより白いファンデーションを塗って頬の赤みを消し、逆に血のように真っ赤な口紅を塗って不気味さを出している。

 彼女の幽霊ぶりに、奈々も流石によく似合うという言葉は言わないでくれていた。

「ぞうりが歩きにくいかも。いいな、奈々はスニーカーで」

「何言ってんの。幽霊なんだからスニーカー履いて、どしどし廊下を勢いよく歩いていたら雰囲気がだいなしよ。ちゃんとしずしず音をなるべく立てないように、ゆっくり歩きなさい」

「うーっ、努力する」

 鏡の前であーだこーだと言ってる二人に、他のクラスメイトから声がかかる。

「ほら、衣装合わせ終わったらさっさと脱いで。他にもやることあるんだし」

「あ、ごめん」

 すぐ着替える、と言って、茉理と奈々は急いで衣装を脱いで仕舞うと、メイクを落とした。

 教室は机や椅子を廊下に出して、むきだしの床が見えている。

 これからお化けとゲームをする場所を作って、内装を飾る作業があった。

 クラスで行うゲームは簡単なもので、お化けと腕相撲、お化けクイズ、お化けとダーツの三種類だ。

 それぞれその時間にゲームコーナーを担当するお化けと対戦して、勝てば小さな景品がもらえる。

 景品はすべて手作りだ。

 綺麗な紙で作った栞、フエルトで作ったマスコット、ビーズで作った指輪や腕輪などの簡単なアクセサリーは、空き時間や自宅でコツコツみんなが作り上げたものである。

 それを透明なビニール袋に入れて、リボンをかけた。

「こうしてみるとなかなか良い景品に見えるわよね」

 一緒にラッピング作業をしながら、奈々は笑う。

「確かにむきだしのままより、ずっと見栄えがするかも。リボンが付くだけで違うね」

 せっせと景品を小包装しながら、茉理も同意した。

 そのまま渡すかラッピングするか、ささいなことでもめたクラスの話し合いも、今では楽しい思い出となっている。

「そういえばさ、知ってる? 茉理」

 奈々が声を潜めて言った。

「藤昇先輩っていたじゃない。ほら、こないだ体育祭で帝様とやりあった」

「うん、いたね」

 茉理はあいずちを打ちながら、微妙な顔をする。

 藤昇先輩と帝との対決は、体育祭最後の種目三年生の旗取り合戦八百長問題という展開を見せた。

 結局わざと負けて勝ちを昇に譲るはめになった直樹と雅人の二人によって、八百長のすべてがあきらかになったあげく、クリスティ一族分家代表である生徒会メンバー達が校庭にひしめく父兄と生徒、来賓の目の前で帝を支持する宣言を出したことで決着がついたのだ。

 その後、藤昇の処遇はどうなるのか、クリスティ一族を敵にまわした彼に未来はあるのか、茉理も密かに心配していたのだが、一週間ほど欠席していた彼がまた普段通りの顔をして登校してきたので、ほっとしたものだ。

 詳細を帝に聞くのもはばかられ、結局今日に至るまで何も聞けずにいる。

「なんでもびっくりな話なんだけど、なんとクリスティ第2の分家筋の家と養子縁組したんですって。今はまだ混乱するから卒業まで学校では藤昇で通すらしいけど、卒業して高等部に上がったら苗字が変わるって言ってたわ」

「そうなの?」

「藤家を捨ててクリスティ一族になる、ということで、先輩はお咎めなしみたい。まあ、元々総帥の孫だって話もあったしね。旗取り合戦では凄い魔法使いだって証明してたし、結果としては良かったんじゃないのかな」

「そうだね」

 具体的に排除とか処刑とか血を見ることにならなくて良かったと、茉理は思う。

 自分はホラーとか陰謀とか、とかくその手の話題には弱いのだ。

 小さい頃からすごく苦手で、あまり良く覚えてないけど子どもの頃は誰かと誰かがけんかするたび、言い争いを始めると自分は関係ないのにそれを見ただけで怖くて体が震え、半狂乱になって泣き出したりもしていたらしい。

 勘の鋭い子だとか精神的に弱いとか散々言われてきたが、大きくなった今でもそういう事は極力見たくないし、聞きたくなかった。

(最近はもっと変な感じだしな)

 時折、誰かの強い感情――怨念だったり願望だったりを感知すると、それが脳内にイメージや幻聴のようなものとなって伝わってくる。

 体育祭のときもそのせいで気を失い、側にいた双子の姉妹たちを心配させてしまった。

(魔法じゃないけど、やっぱり何かの力だよね。今度おばあちゃんに聞いてみよう)

 流石に何度か気絶を経験して、茉理も自分の中に何かがあるということを自覚せざるを得なかった。

 もっともその事は自分個人の問題であって、帝を含む魔法使いの社会とは何の関係もないだろう、と思っていたので、あえてそんな自分の気持ちを帝たちに打ち明けたことはない。

「どうかしたの、茉理」

  いつの間にか考え事をして、手が止まっていたようだ。

 奈々が不思議そうに彼女の顔を覗き込む。

「大丈夫。何でもないよ」

 そう返事をして、茉理はまた文化祭の準備に集中した。



 二年生の教室がある三階では、A組の教室前で人だかりが出来ていた。

「帝様、素敵」

「意外と似合うな。使用人の格好なんて、王者の帝様には違和感しかないんじゃないかと思ってたけどな」

 帝は今、黒を基調とした執事服一式をきっちりと身につけ、教室に立っている。

 白手袋をはめて服のサイズを確認している彼は、文句なく今時流行りの執事喫茶などにいるイケメン執事そのものだ。

「あの姿は尊すぎるわ。あとでこっそり写真撮らないと」

「帝様の担当時間、聞かなくっちゃ。あの帝様に『お帰りなさいませ、お嬢様』なんて言われてみたい」

(誰が言うか、そんな台詞)

 帝は内心周囲のささやきに毒づいた。

 一応コンセプトとしては執事とメイド喫茶ということになっているので、客としてやってきた人にかける言葉もそれなりにしようとクラス会議で決められている。

 しかし帝はこの姿になることを了承するのと引き換えに、絶対執事風の台詞は口にしないとクラス全員に宣言していた。

 それならむしろその方がいいと、何故か女子にはもろ手をあげて歓迎されてしまう。

『俺様風の執事なんて尊すぎるわ』

『エモすぎでしょ。もう絶対お店が流行ること間違いなしね』

 開店始めから一時間、昼食時の一時間が帝の担当時間として決められた。

 しかしもし生徒会の用事が入ったり、緊急時にはもちろんそちらが優先である。

 いつまでもこの格好でいたいと思えなかったので、もういいだろうと着替えようとしたら、珍客がクラスに入ってきた。

「帝、いますか」

 入ってきたのはチェック柄の肩にケープがついたインパネスコートと帽子をかぶった英司。

 後ろに淡い水色のエプロンをつけた斎と、カメラをぶら下げた生徒を一人連れている。

「なんだ」

 執事服のまま振り向いた帝に、まだ着替えてなくて良かった、と英司はつぶやき、話を続けた。

「彼、新聞部のカメラマンなんですけど、文化祭の記事を書くのに写真を撮らせてもらえないかって言われまして」

「写真? そんなの当日撮ればいいんじゃないのか」

 帝が目を細めて意義を申し立てると、カメラを持った生徒は申し訳なさそうに言う。

「明日もクラスを回って写真を撮る予定なんですけど、ばたばたして皆さん、中々集まれないでしょう。生徒会役員皆さん全員の集合写真が欲しいと思ってまして、協力していただけませんか」

 前日に撮ってしまおうという事だとわかり、帝は了承した。

「わかった。で、どこで撮るんだ」

「えーと校門と、それから生徒会主催のブースでも一枚お願い出来たらと思ってるんですが」

 カメラマンの生徒の申し出に、帝は怪訝そうな顔をする。

「生徒会主催のブース? そんなのは聞いてないぞ」

「あ……その、ですね、帝。それなんですが」

 英司は少々困った顔をする。

「俺もさっき知ったんですけど、直樹先輩が教職員の屋台の横でやるそうです。ほら、結局あの先輩、クラス企画から締め出されちゃったじゃないですか。それでせっかく最後の文化祭なのに何もしないのは面白くないとか言って、勝手に申請して決めちゃったみたいです」

「会長の俺に一言の断りもなしにか。まったくあいつは……」

 ぶつぶつ言いながら、帝は動き出す。

「校門に行くぞ。さっさと撮って終わらせる。他の二人には連絡ついてるのか」

「はい。思念でさっき支度して校門に来てほしいと頼んだので、来ると思います」

 歩く帝の横について、英司は答えた。

「ところでお前のその格好は何だ」

「あ、これですか」

 英司は少し自分を見下ろして、苦笑いした。

「俺達のクラスは映画上映じゃないですか。撮影の時に着た衣装なんです」

 当日は当番を決めて受付役をするのだが、出演者は撮影時の服を着て接客することになったのだと英司は言う。

「俺達の映画は推理物なんです。クリスティ学園2年B組で生徒が一人謎の不審死を遂げ、同じクラスメイトである刑事の息子と自称名探偵である生徒との推理バトルが展開するっていう筋書きで、主人公の刑事の息子を学級委員が、ライバルの探偵役を俺がやってるんですよ」

「それでその格好か。某有名探偵の衣装のパクリだな」

「流石に未成年なのでパイプはありませんけど、かわりに虫眼鏡を持ってます」

 英司はポケットから、よくお年寄りが老眼のため家に置いてある少し大きな虫眼鏡を出した。

「なんか青い上着と眼鏡に蝶ネクタイ、半ズボンの方が今時の日本の探偵っぽくていいんじゃないかと言われましたが、ちょっとそっちは遠慮しました。俺は昔からのスタイルの方がいいですね。自分が着るのなら」

「いいんじゃないか、それで」

 そんな話をしながら校門に着くと、すでに人だかりが出来ていた。

「きゃーっ、雅人様、素敵」

「がんばってください、お芝居絶対見に行きます」

「ブースもがんばって売りますわ。絶対グッズ完売してみせますから」

 野獣の被り物を片手に持ち、王子様のようにマントをひるがえして立つキラキラしい貴公子に女子たちが群がっている。

 その横に体操服ジャージの上下に、派手な薔薇模様のついたエプロンをかけた黒眼鏡の長身の姿もあった。

「ありがとう、レディたち。当日は心に響く感動と愛の物語を君たちに届けるよ。ぜひ期待してくれたまえ」

「きゃーっ、絶対ですよ」

「あとで一緒に写真お願いします」

「あ、わたしもわたしも」

「もう、あなたたち、雅人様がお困りよ。ちゃんと写真撮影はソロリティを通してちょうだい」

 ぎゃあぎゃあ騒ぐ女子たちを目の前にして、帝はこめかみの痛みを指で押さえた。

「撮影どころじゃないな。英司、散らせ」

「はい」

 肩をすくめて英司は、女子の集団に近づいていく。

「ごめん、皆さん。ちょっとどいてもらっていいですか」

 これから俺達生徒会で集合写真を、と言いかけた英司だったが、振り向いた女子たちの矛先が一斉に彼に向く。

「きゃーっ、英司君よ。その格好も可愛い」

「ついてる。英司君にも会えるなんて」

「文化祭、クラスに絶対行きますね」

「あ、あの……ちょっと離れてもらえると」

 英司はあたふたしながら頼むが、お目当てのものを見つけた女子力の凄さはそんなものでは止まらない。

 これがのちの未来ではバーゲンセールに群がるおばちゃんパワーに変化するのだなと、帝の後ろで傍観している斎とカメラマンはそう思った。

 英司が対処どころか巻き込まれて更に事態が拡大していることを見て取った帝は、鶴の一声を上げる。

「おいっ、貴様ら、どけ」

 その声で、その場はしーんと静まり返った。

 つかつかと帝が歩み寄ると、雅人や英司を囲んでいた女子たちはさあっと波がひくように道を開ける。

「おお、我らが王よ、今日はまた一段と凛々しいお姿ですね」

「やかましい。王子服のお前に言われたくないぞ。まったくこの格好のどこがいいんだ。理解出来ん」

 帝はさも嫌そうに顔を歪め、ため息をついて横を見る。

「直樹、お前もなんだ、その格好は」

 長身に黒眼鏡、ちょっと目線を変えたらあぶないヤクザ役がよく似合いそうな彼は、体操服のジャージを着て、その上に黒地に真っ赤な薔薇が大きく刺繍されたどう見ても似合わないエプロンを着用していた。

「しかたないだろう。生徒会企画で俺は花屋をやるのだから。商品宣伝の意味も兼ねて、これをつけているんだ」

「花屋?」

 帝は生徒会の企画で何故花屋を、と思ったが、英司はそれでかと納得する。

「生徒会室のある特館の庭に、雅人先輩が世話してる薔薇園と温室があるじゃないですか。そこで薔薇が思ったより狂い咲いたと雅人先輩が喜んで、最近やたらと薔薇の花を飛ばすんで、こないだ直樹先輩とただ投げるよりいっそ文化祭で花屋をやったら女子によく売れるんじゃないかって、冗談交じりに話してたんですケド、まさか本当に店を出すとは思いませんでした」

「お前には事後承諾になって悪いと思っているが、俺は他にやる事がなかったのでな。最後の文化祭だし、大目に見てくれ」

「そうだよ、帝。それにとても素敵なお店になっているんだ。僕が手塩にかけて育てた薔薇たちが、美しく校庭で咲き誇っている。他にも心躍る素敵なグッズが沢山販売されているんだ。君もきっと気に入るよ」

「……あとでチェックする。それより写真だ。さっさと済ませるぞ」

 いつまでもここに立っている気はない、と帝は言い、五人はすでに校門に設置されている文化祭の看板前に並んだ。

 一瞬、周囲のささやきが帝の耳に入る。

「雅人様も英司君もかっこいいけど、帝様も素敵ね」

「俺様執事、尊すぎる。絶対クラスに行かなくちゃ」

(また余計な事を言いやがって)

 そう思う反面、少しだけ嬉しい気持ちも沸いた。

 彼女たちのまなざしは賞賛に満ちている。

 つまり今の自分は、女子にそういう瞳で見つめられる存在だということだ。

(あいつもきっと俺に見惚れるに違いない)

 胸の奥で彼女の事を思いながら帝は不敵な笑みを浮かべ、写真撮影を済ませた。




 生徒会企画ブースの前に移動した帝は、そこで一瞬言葉を失った。

 英司と斎も初めて見る商品の数々に、目を丸くしている。

「あ……なんというか」

『これって生徒会企画というより、雅人様の親衛隊によるショップというのが正解かと』

 英司と斎は、それぞれ思う事をつぶやいてしまった。

 校庭の中央に設けられた教職員や父兄有志によるフードコーナー。

 パラソルつきのテーブルや椅子を中央に並べ、その周囲を囲むように出店用のテントが出ている。

 その一角にある生徒会企画ブースは、ある意味別世界のようだった。

 白いテント屋根の下につけられた桃色のレースと薔薇をふんだんにあしらった薄いカーテン。

 店の中には金色の大きな花瓶やバケツに生けられた大量の薔薇の花。

 赤、白、黄色、他にも色とりどりの薔薇たちが、並んで香りを放っている。

 ひしめく薔薇の横に置かれた机には、何故か金色のシルク光沢を持ったテーブルクロスがかけてあり、そこに帝を絶句させる商品の数々が並んでいた。

 フエルトで作った雅人様マスコット人形、大小様々なサイズの伊集院雅人のプロマイド写真に写真集、雅人様Tシャツ(憂いを込めた雅人の顔を大きくプリントしたもの)、後ろの方の仕切りには雅人様等身大ポスターと、来年の雅人様カレンダー。

 他にも本人から提供されたという本人使用済みボールペンやシャーペン、ハンカチにもう読まなくなった単行本、使わない鞄や服や枕(何故ここに寝具があるのか、帝は理解に苦しんだ)などの謎グッズたち。

「おいっ、今すぐこのブースを燃やせ。なんだ、この厚顔無恥な店はっ」

 怒り心頭に達して今にも店を電撃で破壊しようとする帝を、あわてて英司と斎は止めに入る。

「帝、ちょっと落ち着いてください。ここで電撃落としたら、周囲の他のブースも粉々になりますって」

『先輩、気持ちはわかりますけど、薔薇の花に罪はありません』

 二人のとりなし(斎の思念は帝に届かなかったが)で、何とか帝は怒りを押さえ込む。

「これが生徒会企画の店だと? 冗談じゃない。俺は絶対に認めないぞ」

「気持ちはわかる。それに関しては、俺もすまないと思ってるよ」

 普段見せない情けない顔の直樹に、帝も気を落ち着けて、どうしてこうなったのか事情だけでも聞く姿勢になった。

「実はな、花屋をすることにしたのはいいが、俺だってパトロールの時間帯もあるしな。店を開けて商品を盗まれても困るし」

「誰かに持っていかれても、別に問題ないと思うんですけど」

 ここにそこまで価値のある物があるのか、という顔で突っ込んだ英司を、直樹は鋭い表情で黙らせる。

「そこでボランティアの店番を誰かに頼もうと考えたのだが、思いついたのは雅人の追っかけ達だった。この薔薇は雅人が育てた薔薇だということを売りにして出す予定だったから、彼女たちなら雅人の名を出せばすぐ引き受けてくれるのではないかと思ってな」

「で、声をかけたら二つ返事で引き受けてくれたのだが、結果として他のグッズも追加されてこうなったというわけか」

 帝は実にくだらない理由だと、思いっきり脱力する。

「俺から雑用を頼んだ手前、断るに断れなくなってな。すまない、帝」

「事情は理解した。店に関しては出店を許可するが、この悪趣味極まりないグッズと一緒に売ることは許さん」

「しかしだな」

 言い募ろうとした直樹の袖を、斎が引っ張った。

 彼は静かに微笑むと、そっと指から細かい砂を出し、空中に文字を書く。

[この場所は雅人先輩の親衛隊の人に譲って、僕達と薔薇はあっちに行くというのはどうでしょう]

 斎が指差した場所は、校門のすぐ横だった。

[校門を入ってすぐの場所に、綺麗な薔薇の花があったら素敵だと思うんです。別にテントはいらないし、青空の下で売ってもいいと思います。雅人先輩の薔薇は色々魔法効果も付与されてて、喜ばれると思います]

「それは良い考えかもしれないね、斎君」

 ずっと後ろにいたのに全然発言しなかった雅人に対し、帝の怒りが爆発する。

「お前、一体これはどういうことだ。何故生徒会企画の花屋で、お前の使用済みグッズが販売されるんだ。何考えて、こんな物を提供した」

「そう怒らないでくれよ、僕の可愛い執事君。僕だってさっき知ったんだからね。あの僕のグッズは随分前にソロリティに提供した物で、まだ誰の手にも渡っていなかったなんて知らなかったよ。これも僕の美しさと高貴さが成せる業だね。ああ、なんて罪深いんだろう、僕という存在は」

 帝の怒りに火を注ぐような大仰な身振りで、雅人は薔薇の花を片手に王子衣装で憂いのポーズを取る。

「ああっ、雅人様、なんて麗しいお姿……」

「写真よ、写真。これも撮って販売よ」

「雅人様の華麗なお姿を、校内とお客様全員に広めなければ」

 更にその後ろにしっかり張り付いていた雅人様を褒め称えるソロリティの面々が、次々に写真を取り始め、勢いにのって雅人は様々なポーズを披露していた。

「バカはほうっておいて移動しよう。面倒だから魔法で移動させるぞ」

 そう言って帝はブースの中の薔薇たちに手をかざし、全部校門の横に瞬間移動させる。

「じゃあ、あっちで花瓶を並べるか。英司、倉庫に行って、白テントを一式持ってこい。まだ残っていたはずだ。斎は俺と一緒に校門前で店を開く準備をするぞ」

 直樹の指示に二人はうなずき、英司は探偵の衣装のまま倉庫に瞬間移動していった。

「俺も行こう。早く済ませて、この服を脱ぎたいしな」

 帝はそう言うと、突然薔薇が無くなって空いたスペースに驚いている雅人の親衛隊たちの方を向く。

「そういうわけで生徒会はこの場所から手を引く。ここはお前達に譲ってやるから、飾るなり売るなり好きにしろ」

「えーっ、いいんですか」

 彼女たちははしゃいだ声で、すぐに空いた場所に何を置くか楽しそうにしゃべりだした。

「おい、ソロリティの活動もいいが、自分たちのクラスや部の企画をおろそかにするなよ。それだけは言っておく」

 一言釘をさすと、帝は背を向けて直樹たちと校門前に戻っていった。



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