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体育祭の前も練習や準備で盛り上がったが、文化祭の準備もなかなか楽しいものだった。
授業はきちんと受けなければいけないが、休み時間や放課後はそれぞれ割り当てられた役目を果たすため、みんな一生懸命動く。
体育祭と違って各クラスに準備金として予算が割り当てられ、きちんと会計役を決めて管理することになった。
その予算の中からクラスの企画に必要な物を買うのである。
茉理は奈々と一緒にお化けの衣装を作る係りになった。
他にも裁縫の上手な子や衣装デザインを考える子などがいて、どんなものを作るか放課後一緒に考える。
「お化けと言えば、とりあえず幽霊よね」
奈々は一番に言った。
「他には?」
「男子向けのも考えないと」
みんな首をひねって知恵を出したり、図書館でお化けの本を借りてきたりして、どんなお化けにするか決めていく。
「衣装が作りやすいのがいいよ。複雑なのはちょっとね」
「あ、吸血鬼は? 黒いタキシードとマントがあればいいでしょ」
「いいね。あとは……猫娘とかどう? とりあえず猫耳つけとけばいいんじゃない?」
「トイレの花子さん」
「どうやって服を作るの? 花子さんっておかっぱに普通の服しか着てないじゃん」
「うーん、そうだ。ダンボールか何かで便器を作ってリュックみたいに背負う」
「それで歩けば笑いが取れそうね」
みんな、便器を背負った花子さんを想像して笑った。
「いいじゃん。見つけやすいのも作っといたほうがいいって」
「そうね。じゃ、それはあなたが着てね」
「うーっ、わかった」
花子さんは提案者が着ることになる。
「幽霊、猫娘、花子さん、吸血鬼っと。あとは」
「男子のがないね。ねずみ小僧とかどう?」
「それってお化けなの? 泥棒じゃないの?」
「アニメには出てたよ」
「そうだっけ」
「どっちかわからないのははぶこう。鬼は? 頭に角つけて、棍棒持ったらいけるでしょ」
「じゃあ、それで」
みんなでワイワイ騒いで、仮装するお化けを決めた。
男子は吸血鬼、鬼、河童、狼男、スケルトン。
女子は女幽霊、猫娘、トイレの花子さん、雪女、メデューサの衣装を作る。
それぞれ衣装は二着ずつ作り、予備のお化け衣装も製作することに決めて、今日は解散となった。
今日は帝が放課後生徒会で忙しいと朝言われたので、茉理は一人で帰宅するつもりだった。
そのはずだったのだが――。
「お姉様っ」
なんと校門横の桜木の下に、体育祭で知り合った双子の美少女小学生が立っていたのだ。
「今からお帰りですか」
ピョコンと可愛く跳ねて、茉理の側に寄ってきたのは緋色の髪をツインテールにしたるいだ。
るいの後ろからゆっくりと歩いてくる、黒髪をポニーテールにした少女はれい。
二人とも周囲の学生たちが振り向くほど愛らしい顔立ちをしている。
「るいちゃんとれいちゃんも今帰りなの?」
茉理は驚いた。
小学生が帰宅する時間ではない気がするし、何よりこの門は中等部の校舎に続く門である。
わざとここにいたとしか思えない。
茉理の顔色を察し、るいはふふっと笑った。
「もちろんわざとです。お姉様に会いに来たに決まってるじゃありませんか」
「そうなの? どうして……」
戸惑う茉理の腕をるいはさっと取り、自分の腕をからめてしまう。
「お姉様にお会いしたかったからですわ。他に理由が必要ですか」
「えっ、そうなの?」
そんなに好かれるような事をした覚えはないのだが、と首をかしげる茉理にれいは言った。
「それよりお姉様、今日はわたしたちが帝様のかわりにお姉様をご自宅までお送りします」
「はあっ、いいよ。そんな」
それこそ茉理は仰天する。
いくらなんでもそれは違うだろう。
年上で平凡な顔立ちの自分より、年下でアイドルのように可愛い彼女たちの方が襲われる可能性は高いに違いない。
むしろ自分の方が、彼女たちを守ってあげねばならない立場なのではないだろうか。
「駄目ですわよ、お姉様。ちゃんとわたくしたちの言う事を聞いてください」
るいはすかさず茉理の腕をぐいっと引っぱる。
「すみません。でもナル先輩と眼鏡先輩より、お姉様をご自宅までお送りするよう言われましたので」
淡々とした表情で、れいは言った。
ナル先輩とは彼女たちがつけた雅人の愛称で、眼鏡先輩はトレードマークが黒眼鏡の直樹である。
ちなみに二人は雅人の従姉妹であると、体育祭の時に教えてもらっていた。
「えっ、どうしてわたしを」
「それはお姉様がとっても可愛いからですわ」
るいは満面の笑みでそう主張する。
「るい、それではお姉様が納得しないわよ」
「えーっ、だって可愛いじゃない、お姉様」
「そうだけど、ご本人がそう思ってないのだから、そういう時は別な言い訳を作っておくのよ」
「別な言い訳?」
「そう。お姉様は護衛の必要がある人だと納得していただけるものにしないとね」
「ふーん」
るいはわかってるのかわかってないのか、別にいいわと茉理の腕を更に引っ張る。
「もう。言い訳なんてなんでもいいじゃないっ。わたくしはお姉様と一緒にいたかったから待っていたのよ」
「本音をぶつけるだけじゃ駄目な時もあるでしょう」
「でもごちゃごちゃ変な理由を作る方が、お姉様に嫌がられると思うけど」
二人の会話を聞きながら、茉理は頭がなんだかこんがらがってきた。
(だから、結局どうしてわたしが二人に護衛されないといけないのかな)
しかし二人は結局あーだこーだとそれらしい会話をしてるのに、さっぱり聞いてて要領を得ない。
茉理の顔を見て、れいはふうっとため息をついた。
「話はここまで。るい、いつまでも校門で立ち話してると、面倒な先輩たちにからまれるわ」
「わっ、そうだった」
お姉様、お早く、とるいに引っ張られ、茉理はもつれそうになる足をなんとか進ませて帰途についた。
結局二人は強引に電車に乗り込み、茉理の家の前まで送ってくれた。
「ありがとう、二人とも」
実にきまずい気分だったが、一応ここまで来てくれたので茉理は二人にお礼を言う。
「明日も参りますわ、お姉様」
「えっ、別に明日は」
たぶん帝先輩が、と言いかけた茉理に、れいは静かに言った。
「帝樣がご一緒出来ないときは、わたしたちが側に付きますので、ご了承ください」
「……」
「すみません、でもわたしたちも先輩達もお姉様のことが心配なんです」
「心配って」
何故、と戸惑う茉理の顔を、れいは真っ直ぐ見る。
「お姉様、体育祭の時に意識を失われたでしょう。お嫌かと思いましたが、先輩たちにご報告したんです。すみません」
「あー、そうだったんだ」
茉理はやっと何で心配されているのか、思い当たった。
体育祭の時、突然学園理事藤ゆり子の思念が茉理を包み、その激しい野望の念が彼女の意識を過去へと飛ばしてしまったのだ。
確かに双子の前で突然気を失って倒れたわけだし、二人はさぞ驚いたことだろう。
帝たちも校内にいたが、体育祭の間は茉理をかけて双子と対決勝負をしていたため、すぐ連絡してというわけにはいかなかったはずだ。
「あの時は驚いたでしょう。ほんとごめんね」
茉理は思いっきりあやまる。
あの時は本当に二人に迷惑かけたなあ、と思っていると、るいがすかさず茉理に抱きついてきた。
「もうお姉様、あやまらないでくださいませ」
「驚いたけど、お姉様に異常がなかったのだから大丈夫です」
れいは淡々と言うと、べたべた茉理にひっついてるるいをぎゅーっとはがす。
「こら、るい。どさくさに紛れてお姉様にくっつかない。そのうちうっとおしいって嫌われるわよ」
「えーっ、そんなことないってば。ちゃんと大好きなお姉様を堪能してから帰るんですわ」
「そんな事は駄目。この変態」
「変態って何よ。健全なスキンシップでしょ」
「どこが健全よ。健全の文字が泣くわ。この下心まるだしの盛り猫っ。帰るわよ」
そう言うと、れいは無理やりるいを引き剥がし、茉理に礼をして去っていった。
二人の姿を見ながら、茉理は苦笑する。
(相変わらずだなあ。二人とも)
体育祭で初めて出会った時から変わっていない。
小学生とは思えないほどしっかりした美少女で、性格もるいが明るく人懐っこいのに対し、れいは冷静沈着なクール系。
顔立ちはよく似ているのに、まるで正反対の二人は見ていて飽きない存在である。
それにしても、体育祭の時のことが帝たちに伝わっているとは思わなかった。
(文化祭も体育祭に負けずおとらず人が来るだろうし、わたしも気をつけないとね)
何をどう気をつけなければいけないのかはわからないけれど、茉理は心に気合を入れてから家に入っていった。
茉理の家の角を曲がった先で、るいとれいは立ち止まる。
人目がないのを確認すると、ポンッと変身魔法を解き、本来の自分達に戻った。
美少女から、美少年へと。
「あー、今日も姫姉ちゃんは可愛かった」
自称茉理に恋する少年瑠衣は、先ほど抱きしめた彼女のぬくもりを思い出しながら余韻にひたる。
「ほんと変態行為だぞ。まったく」
男だとバレたあかつきには茉理は脱兎のごとく逃げ出してしまうだろうと、先の事を思い、怜はため息をついた。
「俺、あの時ほど美少女に変身してて良かったって思ったことない」
「良かったな。でもお前、ずっとそのままだと姫に自分を男として一生見てもらえないぞ」
「うっ、それを言うなよ」
瑠衣はたちまち表情を曇らせる。
「まあ、当分僕達は正体を隠して行動すべきだ。姫も僕達が異性だと知ったら、今まで通り側で守らせてはくれないだろう」
「それは困るよ。姫姉ちゃんは俺が守るの」
ぶうっと頬を膨らませ、瑠衣は断言した。
「はいはい。それはわかったから、少しは自重しろ」
へたに嫌われて苦手意識をもたれたら、護衛の任がやりづらくなる。
怜はもし茉理に距離を取られてしまった場合、どうやって護衛すべきかまで頭の中で考えてため息をついた。
そんなことになったら今までの計画が水の泡になる。
小難しい事を考えてる弟の背中を、瑠衣はコツンと拳で軽く叩いた。
「わかったよ。気をつけるから、そう考え込むな。眉間のしわが増えるぞ」
「誰のせいだよ、まったく」
ぶつぶつ言う怜に、瑠衣はすかさず話題を変える。
「そう言えばさ、今度の週末ナル兄の家でパーティーするって知ってるか」
「知ってるも何もうちがらみのパーティーだろうが。新しく出来た兄貴を一族に紹介するためのパーティーだ」
「きっとご馳走いっぱい出るよね。楽しみ」
「僕は一族の連中の前で、あの姿をさらして参加しないといけないと思うと、頭が痛い」
怜は嫌そうに顔をしかめた。
「ああ。親戚のおばちゃんたちに、るいちゃんもれいちゃんも将来は美人さんになるわねー、もう好きな子とかいるの? うちの子はどう? なあんて言われるやつか。面倒くさいよね、あれ」
「大体大人のパーティーに、なんで未成年の僕達が参加しないといけないんだ」
「しょうがないだろ。一応俺達の家族紹介ってやつやるわけだし」
「なんでうちに来たのかな、昇兄さんは」
「そりゃ一番分家当主の家に近い親戚だからじゃないか、北原家が」
「確かにな。あとうちは今のところ僕達が女装しているせいで、男子がいないことになっている。父さんが有望な魔族の少年を養子にする大義名分は十分にあるってところか」
「一族も一枚岩じゃないもんね。大義名分は大事だよ、怜」
「知ってる。大人の世界は面倒だな」
「面倒だねー。でもさ、昇兄ちゃんはなかなか良い人だったよ。何するにしてもやる気なさそうなところがいいよね」
「性格悪い兄貴とか最悪だが、昇兄さんはそうではなさそうだ」
怜は少しだけ口元に笑みを浮かべた。
「僕達の女装理由もしっかり納得してくれたし、話のわかる奴でよかったよ、ほんと」
「かなり同情してくれたしね。ナル兄と陰険眼鏡が嫌いだって言ったら、僕も同じだって言ってくれたしさ」
「これから楽しみだな。きっと俺達とたくさん遊んでくれるよ、あの人」
「それは無理だろ。来年高校になったら、この間第二の分家で立ち上げたモバイルゲーム会社で暫定的に仕事することになっている。ゆくゆくは、あの会社をまかされる身になるらしい」
「えーっ、もうそんな面倒な事しないといけないのか。可哀想」
遊べないじゃん、と口を尖らせる瑠衣に、怜はしかたないだろと続けた。
「更に婚約者もいるそうだ。週末はデートに使わないといけないだろうし、僕達と遊ぶ時間は皆無だな」
「養子になったらなったで、すっごくこき使われてるね。昇兄ちゃん」
「うちは人を馬車馬のように働かせつつ、その横で薔薇持って高みの見物してるドSな奴が代表だからな」
「生徒会でもお茶組みしかしてないって話だよ。雑用ほとんど山下先輩がやってるってさ」
何故小学生が知っているのか怪しい情報を口にしつつ、二人は家路に向かって歩いていった。
家に帰った茉理は制服を脱ぐと、ラフな服装に着替えて携帯を見る。
「ん? けっこう溜まってるな」
学校にいる間は携帯は職員室預かりとなってしまうため、着信やメッセージの確認は出来なかった。
茉理は次々と自分に来たメッセージを確認する。
「わ……梓だ。あっちも文化祭やったのね」
小学校の時の友達から来た、自分の中学でやった文化祭の時の写真。
以前仲良しだった3人の友達は今、茉理が以前住んでいたY町の公立中学校に通っている。
そこでそれぞれ彼氏を作り、楽しくやっているようだ。
写真は梓と彼氏が文芸部の手作り冊子を手に持って写っているツーショットの他に、さやかと朱鷺ちゃんもそれぞれ彼氏と二人で写っている画像まで送付されている。
『茉理も文化祭やった? 彼氏と写真撮ったら送ってね』
そう書かれたメッセージを見て、彼女は軽くため息を落とした。
(写真は撮ってもいいけど、あんまり送る気はしないな)
どのみちあと数ヶ月でお別れする彼氏との写真なんて、以前の友達に見せたいとは思えない。
『写真ありがとう。うちの学校はまだ文化祭やってなくて、これからだから写真はまたね』
そう返して、ほっと軽く息を吐いた。
するとまたすぐ返信が返ってくる。
『さやかが生徒会の人たちの写真もお願いって言ってるよ。よろしく』
(そういえば、さやかは会ってたっけ)
夏休み、梓やさやか、朱鷺ちゃんと4人でテーマパークへ遊びに行った。
偶然生徒会の帝と直樹と英司(中身は雅人)の三人もテーマパークに来ていて、茉理とさやかはそこで彼らに会ったのだ。
彼氏もいるのに、さやかが帝たちの美少年っぷりに心動かされた様子だったことを思い出す。
(まあ、あれはアレよね。あこがれのアイドルとか見るような目線ってやつだ)
茉理は夏休みの出来事を思い出し、くすっと笑った。
色々あったけど、あれはあれで楽しかった。
もう一人のはた迷惑な彼の事も思い出す。
帝を強くライバル視して、事あるごとに挑戦してくる少年天の川翔太。
帝とはクリスティ学園付属クリスティ幼稚園時代の友達で、その時帝に負けたことを根に持って、テーマパークでも勝負をしかけてきたのだ。
茉理はその対決に巻き込まれて散々な目に会ったが、何とか無事にテーマパークから生還した。
(あの先輩もなかなかくせが強い人だったよな。もう会うこともないと思うけど)
真っ赤な忍者の偲び装束を身に纏い、大きな手裏剣を背中に背負って現れた翔太の登場シーンは、きっと一生忘れることはないだろう。
『撮れたら送るけど、あんまり期待しないでね』
『わかった。じゃあまたね』
最後に可愛いスタンプが送られてきて、茉理も手持ちのスタンプを送り返した。
メッセージの確認がすべて終わり、充電器に接続して携帯を机に置く。
そのまま宿題をやろうと鞄を開けたら、学校からのお知らせプリントが目に飛び込んだ。
文化祭の日時と父兄の為のチケット配布のお知らせだ。
少し迷ったが、結局茉理はお知らせを机の引き出しにしまった。
両親は当然魔法使いの世界の事は知らない。
文化祭は基本魔法禁止なので大丈夫だと思うが、最近学校行事でよく厄介事に巻き込まれる身としては本当に危険はないのか不安になった。
(明日、先生に相談してみようかな)
他の父兄は全員魔族だから問題ないけど、うちの親はまったく違う。
展示や周囲の会話などで、変な誤解をされても困るだろう。
(来て欲しい気もするけど、余計な騒動になるのはごめんだしね)
そんな事を考えながら、茉理は台所に行って母が夕食を作るのを手伝い、ごはんとお風呂と宿題を済ませて一日を終わらせた。




