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文化祭はミニチュア街で(私立クリスティ学園シリーズ 魔法使いの生徒会編7)  作者: 月森琴美


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 まだおぼろげな意識のまま、茉理が目を開けると、最初に目に入ったのは黒髪の端正な顔立ちだった。

(あれ……夢、かな)

 あの人がここにいるわけがない。

 自分は英司と一緒に不思議な魔法の街に迷い込んで、そこから戻れなくなってしまったはずだ。

(帝、先輩……)

 頭の中は、今見えている彼の名前でいっぱいだ。

「み、かど先輩」

 思わず口に出してしまう。

「なんだ、茉理。起きたのか」

 帝が優しいまなざしを向けてきた。

 こんなに近くに、彼の顔があるなんて信じられない。

 なんだろうか、この体勢は。

(抱きしめられてる? まさかね)

 そっと伝わる規則正しい心音が、彼女の心を安心させた。

(優しい音……どきどきするよ)

 回された腕の安定感、時折髪に絡んでくる指先の優しさ。

 茉理は彼の胸に安心してもたれ、また目を閉じた。

「……」

 次の瞬間。

「えっ、えっ、ちょっとまさか」

 彼女の意識は、あらぬはずのぬくもりをはっきりと感じ、急速に目覚める。

(ゆ、夢じゃないっ。帝先輩)

 茉理は自分の状況を見て、顔から火が出るほど赤くなった。

 彼女は座っている帝の膝の上に毛布ごと横抱きにされていたのである。

「ど、ど、どうして」

「お前を連れにきたに決まってるだろう」

「こ、こんな場所まで、ですか」

「当たり前だ」

 帝は、彼女をしっかりと抱きしめる。

「どこだろうとお前を見つけて、迎えに行ってやる。異次元だろうと、ガラクタの街だろうとな」

(ああ、そういえば異次元でも一緒だったっけ)

 以前ユーフォリアに来てくれた事を思い出し、茉理は胸の動悸が高鳴るのを感じてしまった。

 着替える隙もなかったのか、彼はいまだに執事服だ。

 しばらく彼の腕の中に収まっていた茉理だったが――。

「ただいま戻りましたっ」

 元気な声で英司がお店の中に入ってきたのを見て、我に返る。

 帝はいかにも当たり前のように彼女を抱きしめているが、これは他の人に見られるのは相当恥ずかしい体勢だ。

 茉理はあわてて彼の腕から降りようともがいたが、逆にじっとしていろ、と強く抱き返されてしまう。

 英司は彼女が帝の膝の上にいるのを見て、良かった、起きたんだね、と全然気にしてない声で言ってくれたので、なんとか平静を保つことが出来た。

「お、ご苦労様、英司君」

 いい写真は撮れたかな、とにこにこ笑顔で声をかける昇の存在に、茉理は更に驚く。

「えっ、藤先輩?」

「おはよう。後野さん。えーと君とは多分初めてだよね」

 昇はまったく動じずに、笑顔で挨拶してきた。

「はい。先輩が体育祭実行委員長の挨拶で、クラスに来た時に、初めてお会いしましたけど」

「まあ、でもその時は個人的に話とかしなかったしね。改めまして、藤昇です。どうぞよろしく」

「はあ」

「あ、でも僕、もうすぐ北原って家の養子になるんで、藤の姓はもう使わないんだけどね」

「そうなんですね」

 返事をしながら、茉理は親友の奈々から聞いた昇の養子話を思い出した。

(北原って苗字、どこかで聞いた気が……あっ)

 彼女の脳裏に明るく可愛い双子が浮かぶ。

「あの、もしかして双子の女の子がいるお家ですか。れいちゃんとるいちゃんっていう」

「そうそう。その家。いやあ、あの二人、君も知ってるのか」

「はい。とっても可愛いですよね、二人とも」

 アイドル並みの愛らしい双子の姉妹を思い出し、茉理は微笑む。

「あー、まあ、そーだね。可愛いっちゃあ可愛いか」

 苦笑しながら昇は答えた。

 二人が会話をしている間に、英司はPCのキーを打ち込み、写真を送っている。

「送信しましたよ。何かわかるといいんですが」

 作業が終わった英司の言葉に、茉理は首をかしげた。

「あの、それって」

「今、このPCは外の直樹たちとつながっている。この街の写真を撮って送信した。直樹ならば画像を解析して、何かわかるだろう」

「直樹先輩たちと連絡が取れたんですね」

 良かった、と茉理はほっと笑みをうかべる。

「あの、その」

 洋子が少し遠慮気味に声をかけた。

「なんだ」

「帝様でしたっけ? 本家の方ですよね」

「そうだ」

「そして山下さんが第四の分家で、えーと、あなたは」

 洋子の視線が昇に向く。

「こいつは俺の従兄弟で、同じく総帥伊集院雷導の孫だ。分家で言えば第二の分家北原家の人間になる」

「あー、初めまして。北原昇です」

 とりあえず養子先の苗字を使い、昇は挨拶した。

「第五の分家 遠野洋子です」

 洋子も丁寧に頭を下げる。

「といっても60年前、遠野家の跡取りだっただけで、今はどういう立ち位置になるのかしら」

 わたしが消えたあとの遠野家ってどうなったの? というつぶやきに、帝は答えた。

「遠野家はお前が消えたあと、お前の母がほどなく死去。それで当主は新たに若い後妻を迎えて、息子を一人設け、彼が後継ぎとなって今に続いている」

「母が……そうだったんですね」

「遅ればせながらお悔やみ申し上げます。魔族の女性は子を持つと短命になる。しかたないことですが辛いですよね」

 昇はそう言って、目を伏せた。

「僕の母も僕が三歳の時に亡くなりました。妹が一人いるんですが、彼女は父と再婚相手の子で、僕とは母が違います」

「そうなんですね」

「あ、俺の母も俺が7歳まで生きてましたが、事故で逝去しました。もっともすでにその時持病で余命宣告されてたって父にあとから聞いたんですけどね」

 英司は寂しげに会話に加わる。

「どうして女性は、そんなに短命なのかな」

 茉理の問いに、さあなと帝は一言だけ言った。

「例外もあるけどね。例えば魔族の家に六花家ってあるんだけど」

 昇の言葉に、洋子はうなずいた。

「知ってるわ。日本で代々土地を守ってきた由緒ある巫女の家でしょ。確かにあそこの女性たちは、子どもを生んでも長寿よね」

「土地の加護があると言われているけど、その血を受け継いだ子孫も同様に、女性は子を産んでも長寿だ。僕の祖母も今年76歳になるけど、まだピンピンしてますよ。祖母の母君が六花家出身だったそうで、おかげで雷導様の子どもを生んでも、70歳以上生きてます」

 昇は少しだけ祖母の長寿を皮肉っぽく話す。

 茉理は、歌劇大好き、背中に大羽しょって絢爛豪華な舞台衣装と派手メイクの昇の祖母を思い出し、気持ちはわかると心の中で同意した。

「あなたは分家の方でしょ。だったら、おばあさまは雷導様の」

 洋子はそこまで言いかけて、言葉を止める。

 昇は苦笑しながら、洋子が言おうとした言葉を口にした。

「そうです。祖母は(つがい)(きみ)でした。額に本家の紋章が浮かばなかったので、父と一緒に本家を出されましたね」

「そうだったの。それであなたも孫というわけね」

「そうなりますね。でも、まあ、特に孫らしい待遇って受けたことはないですけどね」

 昇の返事に、帝はそっけなく付け加える。

「総帥は数多くいる孫の誰にも無関心だからな。唯一の例外はあるが」

「例外ですか?」

 目をまたたかせる洋子に、英司は不思議そうに問う。

「それ、俺も気になってました。孫の中で唯一雅人先輩だけが、総帥に可愛がられてますよね。あれってどうしてなんですか」

 まさか総帥も薔薇が好きで趣味が合うとか、くだらない理由じゃないですよね、とぼやく英司に、帝はため息と共に答えた。

「くわしくは知らん。ただ噂で聞いた話だと、雅人の祖母は総帥が心から愛した唯一の女性で、二人の間に生まれた娘をことさら総帥は可愛がっていた。その娘が生んだ子が雅人だ」

「つまり自分の一番大事な女性との間に生まれた愛娘が残した子が、雅人先輩だってことですか」

「そういうことになる。雅人を幼い時より近くに呼び、寵愛するのはそのためだというのが、もっぱらの一族内のうわさだ」

「そうなんだー。初めて知ったよ」

 昇は全然動じないのんびり声で言うと、肩をすくめた。

「こう言っちゃなんだけど、雅人君もお疲れ様だね。くせのあるおじいさまに気に入られちゃってさ。僕はそんな立場にならなくて良かったよ。気楽に空気扱いされた方が、ずっと自由だしね」

「違いない」

 帝もにやりと強気の笑みを見せる。

 そのやり取りを聞いて、洋子は深いため息をついた。

「歳をとっても雷導様は変わってないのね。孫にまでそんな風に言われるなんて」

「人間早々変わらないだろう。特にあの方は頑固で、自分の意見は絶対まげない。自尊心の高さはおりがみ付きだ」

「ですよね。俺もそう思います」

 英司は帝の言葉に、もっともだと同調する。

 茉理は四人の会話を聞きながら、一度も会ったことのない帝の祖父について考える。

(頑固で、自尊心が高く、帝先輩よりも俺様な魔王かあ)

 そして何故か祖母の藤子を見初めたが失恋、可愛さ余って憎さ百倍の手ひどい虐めで責め苛んだ。

(おばあちゃんが魔族を嫌うのって、きっとこれが理由なのね)

 何故かマムシか毒蛇でもあるかのように、魔族を嫌悪する祖母。

 茉理がクリスティ学園に通いたいと言った時、天地の終わりでも来たかのごとくひっくり返って反対した。

(わたしもいじめられるって思ったのかな。まあ、確かに最初は苛められたけど)

 そっとすぐ上にある帝の顔を見る。

 一学期、彼にあらぬ誤解をされた彼女は、しばらく魔法で嫌がらせを受けてしまった。

 結局そのあと彼の一年間付き合う彼女選抜イベントを勝ち抜いてしまい、こうやって大事な存在としてかまってもらっているわけだけど。

(おばあちゃんも、雷導様のことを受け入れてたら、山ほど贅沢させてもらったのかな)

 帝は伊集院財閥の御曹司で、その財力はかなりのものだ。

 彼女となった女の子がねだれば、それこそ何でも買ってくれるだろう。

 以前あれこれ高級そうなプレゼントをされ、茉理も辟易してつき返したものだ。

(本気で好きでもないのに、彼氏の義務でくれる物なんていらないよ)

 そう思っていたのだが、きっと祖母もそうだったに違いないと、茉理は考える。

(帝先輩には、おばあちゃんと雷導様のことは言わないでおこう)

 自分の祖母が実は帝の祖父の失恋相手で、報復に拷問まがいのちょっかいを出されていたなんて、彼としてもショックだろう。

(A君はそうでもないだろうけど、裏の優しいB君はきっと気をつかっちゃうだろうな)

 そう考えて、茉理はこの事は自分の胸の奥にしまっておこうと心に決めた。


補足: どうして帝が突然茉理を膝上抱っこしているのか?  それはお店に人数分の椅子がなかったからです(笑)

 茉理を自分の膝に乗せれば全員座れそうなので、彼なりに気をつかった結果です。

 さてお店に椅子は何脚あったでしょうか。

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