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文化祭はミニチュア街で(私立クリスティ学園シリーズ 魔法使いの生徒会編7)  作者: 月森琴美


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 時計の針が、午後2時半をさした。

 昇に連れられて、2年A組に行っていた斎が生徒会室に戻ってくる。

「何かわかったか、斎」

 直樹の問いに、斎は無念そうに首を横に振った。

「まあ、これからだよ、斎君」

 そう言って昇はポンポンと優しく気落ちした後輩の背中を叩く。

「座れ。これから今後の捜査について話し合おう」

 帝がそう言うと、雅人が立ち上がった。

「その前に二人も来たし、お茶を入れ直すよ」

 昇と斎が座って一息つく間、雅人は手早く香り高い紅茶を入れて、全員にカップを配る。

「全員そろったところで、今後の対策だが」

 直樹が言いかけたその時だった。

「待て」

 帝がその声をさえぎる。

 彼の目は、円卓の中央に注がれた。

「あんな手紙、さっきまであったか」

「変だね。あったっけ」

 気付かなかったよ、と昇は首をひねる。

「俺もわからなかった。突然手紙が現れるとは、一体何だ」

「不思議な事もあるものだね」

 雅人は手紙を取り上げた。

「生徒会の皆へ、だってさ」

 表書きを読み上げ、ひっくり返して封筒の裏を見た瞬間、彼の顔は驚きで固まる。

「どうした、雅人」

 彼はふっと微笑みを浮かべると、金色の髪をかきあげて愛おしそうに手紙に熱いまなざしを注ぐ。

 そして彼は、その手紙を帝に渡した。

「誰からだ」

 そう言って、差出人の名前を見た帝も、瞬時に驚きで言葉が止まる。

「英司、からだ」

「何だと?」

 直樹も驚愕の声を上げた。

「英司からだと? まさか、いや……そうか」

「えーっ、どうして英司君が手紙を出せたの? どこかわからないけど行方不明になった場所から、無事に生還出来たのかな」

『無事に脱出出来たのなら、今頃ここにいると思います、英司先輩は』

 斎も驚きでいっぱいの視線を手紙に向ける。

「開けるぞ」

 帝はそう言って、手紙を開封した。

 文面にすばやく目を通し、顔が険しいものになる。

 そして最後まで読み終えると、手紙を直樹に渡した。

「面倒なことになった。英司と茉理は無事だが、自力での脱出は難しそうだ」

「どういうこと?」

 雅人の問いに、直樹が立ち上がる。

「全員、聞け。俺が今から手紙を読み上げる。回して読むよりその方が早い。帝、いいな」

「ああ、頼む」

 直樹は抑揚のない冷静な声で、英司からの近況を知らせる手紙を読んで聞かせた。




「――以上が英司からの報告だ」

 直樹は手紙の文面をすべて読み上げ、また席に座る。

 全員、内容が内容だけに、しばらく何も言えなかった。

 帝が、がたっと立ち上がる。

「どうしたの、み、か、ど」

 雅人の問いに答えることなく、彼はそのままドアに向かった。

「待て、帝」

 直樹が小型PCを彼に投げる。

 背を向けたまま、難なく帝は受け止めた。

「持っていけ。英司のだ」

 直樹は黒眼鏡を鈍く光らせる。

「それから伝言を頼む。『帰ったら説教だ』と」

「わかった」

 そう言うと、帝は手首につけたブレスレッドに魔力を流し込んだ。

 瞬時にブレスレッドは砕け散る。

 彼はそのまま振り返ることなく、生徒会室から2年A組に瞬間移動した。




 帝が消えてから数秒後、時計の針が三時を示す。

「間に合ったかな、王様は」

「大丈夫だろう。あいつは誰よりも早い」

 雅人の問いに、直樹は余裕の笑みを浮かべた。

 出遅れた斎は、心配で顔を曇らせる。

『帝先輩……』

 僕も一緒に行けば良かったという後悔の色が、瞳に宿っていた。

 横の席を見ると、先ほどまでいたはずの昇の姿がない。

「流石優秀だね、彼は。無理やり引き抜いただけのことはあるかな」

 深紅の薔薇を一輪、香りを堪能しながら雅人は微笑む。

 帝が消えたと同時に、昇も瞬間移動した。

 彼は自分の役割をきちんとわきまえているようだと、直樹も思う。

「さて。俺達はこちら側でやるべき事をやるとしよう」

 直樹は口調を改め、残った一同を見回す。

「中のミニチュア街のことは、帝と昇、英司にまかせるとして、俺達は入り口だな。A組のロッカーの扉を調べて解析しよう。扉はおそらく時間が過ぎたら、仕掛けが見えなくなる仕組みにしてあるはずだ。まずこれをはずす」

「それから描かれた魔方陣の解除だね。これが出来ればロッカーを開けられる。開けたら、中の人たちを救助。そして街にしかけられた魔方陣を消去すれば、この件は片付くってわけだね」

「段取りとしてはそうだが、上手く事が運ぶとは限らない。最新の注意をはらって行動するぞ」

『わかりました』

 直樹の言葉に、斎と雅人はうなずいて立ち上がった。




 二時五十九分四十秒。

 帝はミニチュア街の門の前に立っていた。

 あと二十秒遅ければロッカーの接続扉は見えなくなり、ここに入ることは難しかっただろう。

(これが英司の書いて寄越した魔法使いの街か)

 門の中を覗くと、美しい町並みが見える。

 だが魔力を宿す帝の目は、不快そうに細められた。

(なんだこれは。全部ガラクタで出来ているのか)

 街自体の原材料は、厚紙やダンボール、小石や砂、発泡スチロールやアルミホイル、プラスチックのペットボトルなどを利用して出来ていた。

 その上に幻影魔法をかけ、青空や西洋風の家々などを視覚するようになっている。

 色々細部まで細かく廃材を利用して造ってはあるが、所詮ガラクタの寄せ集めかと彼は落胆した。

「へえ、けっこう凝ってるねえ」

 がんばって作った街じゃない、とのんびりした声が横から聞こえ、帝は憮然とする。

「お前……何でここに」

「いやいや、王様一人でカチコミって普通ないでしょ。お供の一人ぐらい同伴しないと」

 昇は邪気のない笑みを浮かべた。

「……どうなるかわからんぞ」

 先の事は保障できない、とつぶやくと、昇は全然顔色を変えず、マイペースなノリで答える。

「ま、なんとでもなるから大丈夫でしょー」

 彼の余裕綽々の笑みに、帝はため息を一つつき、門に近づいた。

 二人が側に行くと、門の左右に立っていた門番が声をあげる。

「ようこそ、古の魔法使いの街へ」

「ここは……って、げっ、あ、貴方様は」

 二人とも帝の姿を見た瞬間、がたがた震えだした。

 いかにも不機嫌そうな顔の帝に対し、あわててひざまずいて頭を下げる。

「もっ、もうしわけございません、次期総帥」

「お、お許しくださいっ。私どもはただの門番でして」

 彼らの態度に、帝の機嫌は更に悪くなった。

 しかし彼は怒鳴ることはせず、威厳を込めた王らしい声を発する。

「ここに俺の女がいる。通してもらうぞ」

「は、ははははいっ。確かにおります」

「ど、どうぞ」

 震えながら返事をする門番をそのままに、帝と昇は門をくぐって中に足を踏み入れた。




 門から真っ直ぐ伸びる大通りは人がざわめき、活気があった。

 だかそれも一瞬で変わる。

「ひいいっ」

「う、嘘っ」

「なんでここに、あの方が」

 道行く人が帝の姿を見るなり、怯えて通りの端に整列する。

 そして全員、まるで昔の時代劇でお殿様が通るお籠に町人がするようにひざまずき、頭を下げて絶対に上げない。

「うわーっ、ちょっとこれはすごいねえ」

 一緒に並んで歩きながら、昇はうめく。

「僕達のおじいさまって、どれだけ恐ろしい人だったんだろう。超絶怖がられてるよ」

「知るか」

 帝は人々の反応を無視して、さっさと通りを前へ進む。

 時々魔力で周囲を探知しながら、英司と茉理の気配を探した。

 市場を過ぎ、建物の間にある小道に入り、更に奥へと突き進む。

「ここか」

 古いが趣のある木造の店。

『白金の雫』

 ――帝はその扉に手をかけて、勢いよく押し開けた。




 帝が店に到着する数分前。

 英司が手紙を過去に置いて戻ってくると、店の中で茉理は熟睡していた。

 椅子にもたれて眠る彼女には、薄い毛布がかかっている。

「疲れていたみたい。起こさないであげてね」

 小声で洋子がささやくと、英司はうなずき、空いている椅子に腰掛けた。

「どこに行っていたの?」

 洋子は英司のためにお茶を入れて、持ってくる。

 カップを受け取りながら、彼は答えた。

「手紙を出してきました。俺の仲間たちに」

「この街の外に出たというの? どうやって」

 驚く洋子に、英司は曖昧な笑みを浮かべる。

「俺は第四の分家代表なんです。時を操ることは、俺の専売特許ですよ」

「……そう」

 洋子とて由緒ある分家の出だ。

 魔法についても研鑽を積んでいる彼女は、英司が何をしたのかすぐに察する。

 だがその顔色は微妙だった。

「来るといいわね、仲間が」

 まるでそんなことは期待すべきではないとばかり、失望の色を浮かべながら彼女は言う。

 慰めの言葉を口にしたのだろうが、英司は顔をあげて自信有りげにさわやかな笑顔を見せた。

「来ますよ、彼は」

 そう言ってカップを傾けて、お茶を飲もうとした時。

 バンッ。

 乱暴に店の扉が開く。

 洋子、そして英司は立ち上がり、目を丸くした。

「嘘……」

「えっ、すごく早いじゃないですか、帝」

 一体どうやって、と驚く英司の前に、帝はつかつかと歩み寄る。

 そして彼をしっかりと見た。

「俺に黙って突然いなくなるとは、いい度胸だな、英司」

「すみません。心配かけちゃって」

 英司は素直にあやまる。

「いやあ、素敵なお店ですね。お邪魔しまーす」

 後ろから入ってきた昇に、英司はまた目を丸くした。

「藤先輩まで、どうしたんです?」

「いやさ、君からの手紙を読んで王様が一人で特攻しようとしたから、ついてきちゃったよ。いくらなんでも一人はまずいでしょ」

「それはそれは……なんかすみません」

「いいっていいって。無事だったんだから、結果オーライだよ。それより後野さんは?」

 昇の問いに、英司は椅子にもたれて眠る茉理を視線で示す。

 帝は彼女の側に寄ると、そっと寝顔を確認し、髪に触れた。

「心配かけやがって……いつもお前は」

 口調とはうらはら、愛おしそうなまなざしで髪を優しく撫でる。

「信じられない。あなたは一体……」

 驚愕の眼で帝を凝視する洋子に、彼は向き直った。

「お前が遠野洋子か」

「そう、ですけど、あなたは」

「俺は伊集院帝。伊集院雷導の孫だ」

 帝は完結に自己紹介する。

「雷導様の孫、ですか。本当によく似てるわ」

 洋子は繁々と帝を見て、そう言った。

「もしかして本家の……あなたが今、跡取りなのでしょうか」

「そうだ」

「雷導様は……」

「生きている」

「そうですか。ご息災なのですね」

 洋子は震えながら聞いた。

「あの、ここへは、その、雷導様は、このことをご存知なのですか」

 彼女の恐れがどこにあるかわかり、帝は不快そうに眉をひそめる。

「総帥の指示ではない」

「そうなのですね」

 洋子は、あからさまにほっとする。

 その表情に、帝の機嫌は瞬時に悪くなった。

「言っておくが、俺はお前達を救いに来たわけではない。その罪を断罪するために来た」

 帝の言葉に、洋子はさっと顔を青ざめさせる。

「貴様たちが勝手に余計な街を造ったせいで、この60年、一体どれだけの人間が被害にあったと思っている。無罪放免で済むと思うなよ」

「……それは」

「学級委員の狭間弘一、及び元高等部2年A組全員にはしかるべき処分を受けてもらう。覚悟しておけ」

 そう言い捨てると、帝はポケットから小型PCを取り出して英司に渡した。

「受け取れ。お前のだ」

「あ、ありがとうございます」

 英司は満面の笑顔で、PCを手にする。

「あと直樹から伝言だ『帰ったら説教だ』だそうだ」

「あー、やっぱそうなりますか」

 英司は、とほほと情けなさそうな顔になった。

「まあまあ、説教で済めばいいほうじゃないの。変な罰ゲームみたいなのはなさそうだしさ」

「罰ゲーム?」

「ほら、開発中のあれやこれやの実験台とか」

「うわっ、絶対嫌っす」

「変な味のジュース飲むとか」

「味だけ変だったらいいけど、追加でついてくる魔法機能はちょっと……」

「あれ、味は変でもいいのかあ」

「いや、まずいのは、やっぱり嫌です」

 昇との会話を弾ませた英司は、大分元気を取り戻す。

「おい、英司。PCをつなげ。直樹たちと連絡するぞ」

「はい」

 英司は小型PCをカチャカチャと操作した。

 すぐ画面に、黒眼鏡のドアップ顔が映る。

「うわっ、直樹先輩。えーと、そのう」

 いきなり画面いっぱいに出た顔に、英司はすみませんと、ひとまず謝った。

「やっほーっ、え、い、じ、君。元気そうだね」

 今度は薔薇の花に囲まれた金色の端正な顔。

「元気ですよ。雅人先輩は相変わらず薔薇ですか」

「ふふっ、僕ほどこの花が似合う美少年はいないだろう? 僕は愛と美の象徴である薔薇の化身なんだからね」

「あー、はいはい。そうですね」

 適当に返事をして、英司は流す。

「そちらの状況を教えろ。帝はどうしてる?」

「俺はここだ」

 英司の横で、帝は小型PCを覗き込んだ。

「後野さんは無事か」

「今は疲れて寝ているが、問題ない」

「そうか。良かったな」

 直樹は安堵の笑みを口元に浮かべる。

「そっちの状況は?」

「今、ロッカーの扉を解析中だ。さっき時間外消去魔法を消したから、扉に描かれた魔方陣がよく見えるようになったぞ。随分凝った造りだが、あと数分あれば、なんとかなるだろう」

「そうか」

「街の方はどうだ。何かわかったか」

 直樹の問いに、帝は顔をしかめる。

「今、英司と合流したばかりだ。まだ何も調べていない」

「ならば英司、お前は小型PCについているカメラ機能を使って、出来るだけ街の写真を撮れ。上空からの全体図と前後左右、街をあらゆる角度から撮影した画像を送って欲しい」

「画像からも解析可能か」

「全部とはいかないかもしれないが、読み取れるものはあると思うぞ」

 帝の問いに、直樹は答える。

「わかりました。じゃ、俺はちょっと行ってきます」

 英司はPCを持つと、勢いよくお店から出て行った。

 帝は一息つくと、椅子を茉理の横に寄せ、どっかりと座る。

「しばらくここで待たせてもらうぞ」

「はい、どうぞ」

 洋子は若干引きつった笑顔でそう答え、帝と昇にお茶を出すべくカウンターの後ろに下がっていった。

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