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文化祭はミニチュア街で(私立クリスティ学園シリーズ 魔法使いの生徒会編7)  作者: 月森琴美


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17/24

16

 英司と茉理が音信不通になってから、三時間が過ぎた。

 午後二時。

 本来なら昼食を終えて、午後の文化祭を楽しむ時間だが、生徒会室には重苦しい空気が立ち込めていた。

 円卓を囲む五人は、それぞれ悲痛な面持ちで座っている。

 その中でカチャカチャとPCを打つ音だけが、響いていた。

 帝は自分の席に座りながら、右手で拳を握りしめ、苛立ちを押さえるのに必死である。

(一体どうしてこうなったんだ)

 本来なら今頃は、茉理と楽しくクラスを回っていたはずなのに。

 あれから昇と二人で校内をめぐり、英司と茉理の目撃情報を集めた。

 そして最後に自分のクラス――2年A組で足取りが途絶えたという事実が判明する。

 ここは数年に一回ほどの割合で、生徒が文化祭で消えている場所だ。

 60年前の100人を超すほどの失踪ではなかったが、5年前にも中学生が一人消えている。

 最悪の結果を受け、帝は我を忘れそうになるほど己の中の魔力が膨れ上がるのを抑えられなかった。

(英司、茉理)

 ――二人は、もうこの世界のどこにもいないかもしれない。

 そんな最悪の想いに飲み込まれ、怒りまかせに教室で暴れそうになった彼を、昇は瞬時に等身大の人形3体で拘束し、すぐさま屋上に瞬間移動した。

 そして結界を張ったのち、好きなだけ暴れていいよと人形の拘束を解いたのである。

 帝の怒りは罪もない人形三体にぶつけられ、どの人形も電撃を激しく浴びて粉々に粉砕された。

 魔力を放出して破壊した事で、帝の心がかなり静まる。

「流石帝君、凄い威力だ」

 結界の外からパチパチと手を叩き、昇は文字通り粉と化した人形の残骸を消す。

「落ち着いた? ショックだと思うけど、一旦気を静めよう」

 興奮してたら見えるものも見えなくなるしね、とユルい口調で言う昇の態度に、帝の体から力が抜ける。

 なんとなく平和でのんびりマイペースな彼を見ていると、怒るのが馬鹿らしくなってくる――そんな不思議な沈静作用が、昇の行動にはあった。

 帝の気が治まったのを見て、昇は結界を解く。

 そしてまだそこに立ち尽くして動けない帝の肩に、自分の片手を置いた。

「大丈夫だって。きっとみんなで力を合わせれば、何とかなるよ」

 物事はそんなものだからさ、と変わらぬ口調で言う昇に、帝の神経は宥められる。

「もちろんこれから捜索開始の本番だ。まずは直樹君が言ったみたいに、校内の生徒達やお客さんの安全確認と避難が優先。それを終えてから、本格的な対策を考えよう」

「わかった」

 ふうっと帝は息を吐き、秋晴れの空を仰ぐ。

「すまなかったな。止めてくれて助かった」

「どういたしまして。またいつでもどうぞ」

 のほほんとどうってことないよと笑う昇に、帝は心の奥が少しだけ軽くなるのを感じた。




 昇が思念で雅人と直樹に連絡し、すぐ二人も屋上にやってくる。

「最悪の事態だが、まあいい。まずはやるべきことをやってしまおう」

 そう言って、直樹はすぐ帝に理事長たちへの説明をゆだねた。

「生徒や客への対応は先生達におまかせしよう。給料分の仕事はしてもらわないとな」

「これって給料分を超える超過勤務案件になってるけどね。ま、その分ボーナスと臨時休暇、事件解決後には盛大かつ豪華な文化祭お疲れ様打ち上げ会でもやるとしようか」

「そういうのはお前にまかせる。俺はすぐ理事長以下、職員へ対応要請をしてくる」

「お目付け役で昇君も行ってね」

「はいはい。お任せを」

 雅人に軽くウインクされ、昇は肩をすくめて了承した。

「俺はあっちを片付けてくる」

「あっち?」

 雅人の問いに、直樹の黒眼鏡がきらりと光る。

「天の川の連中だ。適当に追い返す。へたに知られて、首を突っ込まれても面倒だからな」

「どうするの?」

「頭の中をちょっといじって、別な記憶を植えつける。今は昼だが、連中には午後三時半で文化祭終了時間だと錯覚させ、一日楽しく遊んだ記憶を脳内で作成し、さっさとお帰りいただくとしよう」

「穏便な手だね。しくじらないでよ」

「誰に言ってる」

 まかせろ、と言うなり、直樹はすっと姿を消した。

「僕は斎君と校門の生徒会ブースを片付けておくよ。今日はもう店じまいだ。全員すみやかに帰宅してもらわないと。高校の先輩たちにもお礼を言って帰ってもらうことにしよう」

 雅人は手に持つ薔薇をひらひら振って、浮遊魔法で屋上から校門まで飛び去っていく。

「俺達も動くぞ。まずは理事長室だ」

 昇とうなずき合うと、帝は即座に屋上から瞬間移動し、自分の役目を果たすことに専念した。




 あれから全員で校内を動き回り、文化祭を中断して校内の全員を帰宅させた。

 帰宅前にクラスで人数点呼をしたのだが、いなくなったのは英司と茉理の二人だけである。

 生徒達には突然校内に爆弾設置したという脅迫状が届いたため、安全を考慮して一時中断するという嘘の理由を語っておいた。

 皆、残念そうであったが、今日中に爆弾(英司と茉理)が見つかって問題解決したら、文化祭を明日からまた再会すると言ってある。

 ある程度落ち着いて、一旦これからの対策を練り直そうと、全員生徒会室に集まることにした。

 そして五人で集まって、今に至る。

「やだなあ、みんな。そんなに悲痛な顔しちゃって」

 まだ二人が死んだわけじゃないんだよ、と雅人はわざと明るい声で言った。

「そうだが楽観視出来るというものでもないだろう。よりによって英司の奴、小型PCを置いていきやがった」

 ふうっとPCを打つ手を止め、直樹は苛立ちと共にぼやく。

「帰ってきたら説教だ。分家代表としての自覚が足りんぞ、まったく」

「そう言わないの。英司君らしいじゃないの」

 雅人は微笑むと、何かお茶を入れようかと立ち上がった。

 斎は白い顔を更に白くして、静かに席から立つ。

「どうした、斎」

 帝の問いに、彼は険しい表情で思念を送った。

『すみません。もう一度2年A組を調べてきます』

 そう言うと、ぺこりとお辞儀をし、生徒会室を出て行く。

「やれやれ。せわしないことだ」

 直樹は斎の後ろ姿を見送ってつぶやいた。

「そう言わないの。二人の事が心配で、いてもたってもいられないんだよ」

 雅人が、温かいお茶のカップを4つお盆に乗せて持ってくる。

「これはお茶菓子。今日家庭科部で売ってたクッキーね。午後販売する分が余っちゃったから、この僕が華麗に全部引き取ってきたよ」

「いただきます。おっ、美味しい」

 昇はさっそく出されたクッキーに手を出した。

「帝君も何か口に入れた方が落ち着くよ。さ、どうぞ」

 ポンっと小指ぐらいの大きさのメイド服を着た人形を出すと、クッキーを持たせて帝の前に出す。

 彼は、顔をしかめて受け取った。

 口に入れるとココアを入れた香ばしいクッキーの甘みが舌に広がり、ほっと一息つける。

 帝はしばらくクッキーを味わっていたが、やがて飲み込んでぽつりと言った。

「今までこの件に関して、うちの一族は動いたことがあったのかな」

 それはいつもの王様気質の彼ではなく、裏に潜む人格の方だ。

 直樹は突然人格が変わったことに動じることなく、ないな、と完結に答える。

「俺の知る限りはない。この件に関して本家及び分家は捜索に介入してこなかった。むしろ放置していた、と言った方が正しい」

「これだけ人が消えたというのに、何もしなかった?」

 帝の声が沈んだ。

「そうだろうね。文化祭の最中に起こった失踪事件だし、一応責任を負うのは学園責任者って所だろう。むしろ監督不行き届きとか責任だけ追及されて、事件そのものは迷宮入りしてしまったんじゃないかな」

「ひどい……消えた人たちにもきっと帰りを待ってる家族がいたはずなのに」

 消え入りそうな彼の憂い声が、円卓に響く。

「でも今年は違う。必ず俺達でこの事件の真相を突き止めよう」

「絶対にね。英司君と茉理姫を取り戻さないと」

「まあ、あきらめるっていう選択肢はないっすね」

 その場にいた先輩3人組は、事件に心痛める弟分に優しく声をかけた。

「そうだな。必ず茉理と英司は見つけ出す。お前達、力を貸してくれ」

 帝は瞳に力を取り戻し、決意のまなざしを向ける。

 人格がいつもの王様に戻ったが、それを不思議がる者はこの場にいなかった。

「お前がそう言ってくれて助かる。実は俺なりにこの事件を調べていたんだが、一つ気になることがあってな」

 直樹は黒眼鏡をきらりと光らせ、話を続ける。

「事件と直接関係があるかはわからんが、文化祭当日、クリスティ一族の闇に関わる事件があった」

「えっ、他にも何かあったってわけ?」

 昇が驚いて声を上げた。

「消えた2年A組の生徒を調べてみたんだが、いわくつきの生徒を一人発見した。狭間弘一(はざまこういち)、当時クラスの学級委員をしていた生徒だ」

狭間(はざま)? うちの傘下か? 聞かない家だが」

 首をかしげる帝に、直樹はそうだろうなとつぶやく。

「狭間家は現在存在しない。60年前に衰退した」

「衰退って穏やかじゃないね。どうしたのさ」

 薔薇の花を口元に、その香りを堪能しながら雅人は問う。

「実は文化祭の日の早朝、狭間家当主並びに一族の主だった者全員が、狭間家本邸で殺害されている。一族郎党皆殺しって奴だ」

「ええっ、一族全員殺されたの? 文化祭当日の朝に?」

 昇の声が衝撃で高く上がった。

「殺した犯人はわかっている。当時魔族の歳で17歳だった跡取り息子の弘一だ」

「つまり子どもが親兄弟を殺害したっていうのかい、直樹君」

「そういうことだ」

「……何だそれは」

 あまりの事に、帝は言葉を失ってしまう。

「実は狭間家当主はその当時、総帥だった伊集院千影(いじゅういんちかげ)様の側近中の側近で、一族の闇を管理する役目を負っていた。高い信頼を千影(ちかげ)様から得ていたんだ」

「そんな信任厚いお家柄の跡取り息子が、どうして家族殺しなんてしたんだろう」

 首をかしげる昇に、直樹は言った。

「本当の動機なんて本人にしかわからんさ。ただ推測される事はある。実は弘一の父である狭間家当主は、実の息子である弘一と仲たがいしていたそうだ。それも半端な仲たがいじゃない。弘一は優秀で、将来雷導様の側近として期待されていたほどだったが、一族のためになると主張し、ある改革案を出していた。どうもその案が、一族にとって非常にまずい内容であったようだ」

「まずい内容?」

「詳しくは伏せるが、弘一はその改革案を熱心に推し進めようとし、雷導様からも総帥からも、そして父からも反感を買い、一族内では危険人物として目をつけられるようになった」

「一体どんな改革案だったんだろうね。親にすら警戒されるなんて」

「正気の沙汰ではない提案だった。しかも彼はそれがいかに一族にとって有益かを示そうと、いくつか狂気じみた事件を起こしている。そのたびに影が出動し、後始末をしていたと記録にあった」

「影?」

 昇の疑問に、直樹は答えた。

「雷導様が学生の時に組織した、一族内の優秀な魔法使いを集めて構成された部隊だ。全員黒マントで身を包み、まさに舞台上の黒子のように暗躍して、様々な闇の指令を遂行していた」

「うわーっ、なんか随分怪しい組織だね」

「一族のためと称して、公表できない悪事にも手を染めてきた戦闘集団だよ。雷導様に絶対の忠誠を誓うよう、主従の契約魔法を取り交わしていたしね」

「それって究極の闇魔法じゃん。雷導様ってそんなのに手を染めてたわけ?」

 昇の顔が険しくなる。

「おじいさまの所業を聞いたら、きっと君も全身の血を捨てたくなるよ。この一族に生まれたことを後悔するだろうね」

 当然君にもその血は流れてるからね、と雅人はにこやかに笑って付け足した。

「うわーっ、やめてくれよ。そういうのとは縁遠く生きたいのに。君たち、ずぶずぶ一族の泥沼にはめようとしてるでしょ、僕のこと」

「よくわかったな」

 直樹はにやりと笑む。

「安心しろ。沼に沈んでも生き残れる生きのいい奴ばかり選んでるから、そこがお前の墓場になることはない。むしろ俺達と組んで、泥掃除といこうじゃないか」

「何、今度はハウスクリーニングのバイト勧誘?」

「最近は流行ってるみたいだよ。汚部屋を片付けてくれる正義の必殺仕事人。自分で自分の部屋一つ、片付けられない人が増えてる社会だ。需要は多いし、見せ場は沢山あるだろうね」

「隠密同心じゃないだけましか。死して屍拾う者なし、だと速攻逃げ出すよ」

 昇は肩をすくめて答えた。

「話がそれてるぞ。時代劇ネタはよそでやれ」

 帝の言葉に、三人は話題を戻す。

「あとで死人の体から記憶の残像を取り出してみたところ、どうも文化祭の朝、一族が集まって弘一を処刑しようとしたのだが、思わぬ抵抗に合い、返り討ちされて全員死亡した」

「今、何気にさらっととんでもない事言ったよね、直樹君」

 流石の雅人も顔をしかめる。

「じゃあ弘一君は家族に殺されそうになって、正当防衛でやむなく家族全員を惨殺したってこと?」

「想像するだけで吐き気が……聞くんじゃなかった」

 昇は顔を青ざめさせて、片手で口を覆った。

「一族をすべて皆殺しにしたあと、弘一は何もなかったような顔で登校し、文化祭でクラスメイトと行方不明だ。何か関連があるのではと俺は疑っている」

 直樹の言葉に、他の三人も同意する。

「絶対何かあるな。怪しいのは、奴が主張していた案か」

 帝の発言に、僕もそう思うと昇が一票賛成を投じた。

「当時の総帥は同じ日に起こった二つの事件を、それぞれ別な事件であると判断し、結び付けなかった。よって別個に対応し、記録にも分けて記載されていたため、関連性があるかもしれない可能性に気付かなかったのだ」

「なんかそれも不自然だよね。同じ日に起こった事件で、共通する人物が関係してるってのに、何も関連してませんって」

 昇の発言に、直樹はうなずく。

「当然わざとだ。本家はこの事件を関連付けたくなかったと見ていい。だからわざと結びつけず、記録も後の調査でわかりにくいように別個に記載したのだろう」

「本家がぼかして60年隠しぬいてきた情報を引き当てた君の手腕には、いつも感嘆させられるよ、直樹君」

 雅人が賞賛のまなざしを送ると、直樹は顔をしかめた。

「やめろ。俺はわざとバラバラにしてあったパズルのピースを集めただけだ。これをきちんとはめて一枚の絵に完成させられるかどうかは、まだわからないんだぞ」

「まあ、もしかして本当に関係ありませんでしたって説も、まだ可能性としてはあるわけだしね」

 昇は両手を組んで頭の後ろに乗せ、椅子の背にもたれかかって後ろに引く。

「よほど狭間弘一とやらの案件が、本家にとって知られてはまずいものだったようだな」

 帝は考え込みながらつぶやいた。

「そうだな。一族の宿命に大きな方向転換を迫る内容であったらしい。口の硬いお偉方の脳内をちょっと探らせてもらったが、当時一部の一族の中ではその案を採用すべしという勢力もあったそうだ」

「それってかなりやばい内容だったってことだよね。うわーっ、ますます関わりたくないよ」

 怖い怖いと昇はぼやく。

「事件が治まった後、秘密裏にその勢力たちは闇に葬られている。表向きは事故死、病死、自殺など本家とは関係ない死因なんだが」

「それって絶対裏で始末されたやつだよね。今回僕達は、その闇と挑戦しないといけないってことか」

「本家が――雷導様が出てくる可能性はある。どうする、帝」

 直樹は彼を真っ直ぐに見た。

「お前次第だ。この件を深く探れば、総帥と対立する可能性もある。狭間一家惨殺事件はひとまず置いておいて、英司と後野茉理を別方向から探すという手もある。本家の禁忌に触れないようにな」

「……」

「それともこの件も関連在りとして調べるか――お前の判断を聞きたい。俺達はお前の選択に従う」

 帝は一瞬目を閉じて考え込み、やがて強い意志を持った瞳を見せる。

「英司と茉理の捜索を優先する。本家に横槍を入れられるのは避けたい。表向きはな」

「ふうん、で、裏の本音は?」

 雅人の問いに、彼は更に真剣な声で答えた。。

「そんな本家の弱みになりそうな案件を見過ごす事は出来ないだろう。当然秘密裏に調べろ、狭間家の事をな」

「了解した。では表向きと裏向きの作戦を作成する。少し待ってろ」

 そう言って、直樹はまたPCをカチャカチャと打ち始める。

「お茶を入れ直すよ。昇君、悪いけど斎の事、見に行ってもらえるかな」

「2年A組だね。どうする? こっちに連れ戻すの?」

 作戦会議するんでしょ、と言うと、直樹はうなずいた。

「ああ。事件に対する方向性が定まったから、全員で話し合いたい。頼んだぞ」

 了解~とのんびりした声で昇は答え、瞬間移動でA組に飛ぶ。

 雅人は立ち上がって新しいお茶を入れながら、しばらく退屈しないで済みそうだねと周囲が聞いたら眉をひそめそうな台詞を心の中でつぶやいた。

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