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文化祭はミニチュア街で(私立クリスティ学園シリーズ 魔法使いの生徒会編7)  作者: 月森琴美


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 直樹は帝と昇を生徒会室に瞬間移動させ、待っててくれと言うなり、瞬間移動で校門前の花屋にいた斎を連れてくる。

 その間に演劇部午前中の公演を終えた雅人まで、思念会話で召集した。

「どうしたの? いきなり全員集めて」

 雅人はただならぬ雰囲気に、いつもの大仰な台詞は控え、舞台衣装のまま直樹に問う。

 彼は口元から牙を抜き取ると、集まった四人に向けて言い放った。

「全員じゃない。英司が消えた」

「は?」

 昇は思わず目を丸くする。

「消えた? 消えたって確か彼は天の川学園の連中から後野さんを離すために、一緒にA組から出て行ったんだろう?」

「そうだが校舎内どこを探しても気配がない。思念会話も弾かれる。後野茉理も一緒に行方不明だ」

「なっ」

 帝は顔色を変え、直樹に詰め寄った。

「あいつらが行方不明とはどういうことだっ」

「わからない。何が起こったのか俺にもさっぱりだ」

 だが連絡は途絶え、校内を水魔法で探知しても気配がないんだ、と直樹は力無くつぶやく。

「くそっ」

 帝は拳を円卓に叩きつけた。

「わからない、ではすまないぞ。今すぐあいつらを探せ。絶対に見つけろ」

「わかってる。そのつもりだ」

「まあまあ、落ち着いてよ、帝様」

 興奮して怒りに満ちた彼の表情に、のほほんと昇は割って入る。

「そうだよ、僕の可愛い帝。そんな怒りに満ちた顔は、今日の君には似合わない」

 雅人はポンッと薔薇の花を出して、彼に差し出した。

「ほら、これをあげるから気を静めて」

「ふざけるなっ」

 帝は差し出された薔薇の花を、雅人の手から叩き落す。

「あいつらがいなくなるなんて、そんなことあってたまるか。絶対にどこかにいる。間違いない」

「ああ、そうだ」

 直樹は帝の肩に手を置いて、肯定した。

「何らかのトラブルに巻き込まれたのだとは思うが、相手は英司だ。奴は見かけによらず強い。多少の障害ぐらいで、英司をどうにかできるものなど存在しない」

「だったら逆に妙ではあるけどね。そんな英司君をさらっていけるだけの存在なんて、多少の相手や原因ではないと考えてしかるべきかな。油断は禁物ってことだよ」

 雅人は肩をすくめて、そうつぶやく。

「とにかくまずやることは、二人の足取りを追うことだね」

 昇は提案した。

「僕がパトロールがてら、二人の目撃情報を探してみるよ。いなくなってからまだ一時間ぐらいしか経ってないし」

「そうだな。頼む。それと」

 直樹は思案顔で、一同を見回す。

「今、俺は最悪を想定して二つの仮説を立てている。そのどちらにも対応出来るように動きたい。お前たちも頭に入れて、協力してもらいたいんだが」

「その仮説とやらを言ってみろ」

 帝の言葉に、直樹は続けた。

「まず一つ。先ほど雅人が言ったように、並みの相手では英司をさらっていくことは不可能だ。そもそも英司にさらわれる理由はない。だが目的は英司ではなく、横にいる後野茉理だったとしたら可能性はある」

「後野さん? 彼女に何かあるの?」

 意外なことを聞いたという風に、昇は首をかしげた。

「後野さんは今回天の川翔太に求婚まがいの交際申し込みをされた。そしてその流れの中で、あっちの副会長が言ってたそうだが、天の川建設社長からある命が出たらしい。もし相手がまともそうな女性だったら、拉致してでも話を決めてこいと」

「つまり天の川建設の手の者が、茉理姫を翔太坊ちゃまの将来の嫁として誘拐したってこと?」

 江戸時代の嫁盗みじゃあるまいし、と雅人はあきれた口調でつぶやく。

「そしてそれを阻止しようとした英司も一緒に捕まった、か。それは無理があるだろう」

 帝はあっさり否定した。

「あの忍者集団を相手に英司が遅れを取るとは思えない。あっちは建設のプロだが、戦闘のプロではないんだからな。それにもし茉理をたてに、抵抗出来ないように英司を脅したとしても、必ずあいつは何らかの形で痕跡を残す。俺達に何の連絡もせず、黙っていなくなるとは思えない」

「俺もそう思う。ただ物事には絶対はないし、英司の状況が俺達への連絡手段を絶たれるような非常事態に陥った可能性は捨てきれない。よって天の川の連中への監視と動きに注視しておくことは重要だ」

「まあ、確かに。あの連中が陽動で僕達の目をひきつけ、別働隊が後野さんと英司君を攫ったって線はあるかもね」

 昇はうーんと考え込む。

 斎は静かに手を上げた。

 帝がうなずいたので、指先から砂文字を出す。

[僕はずっと校門の横にいました。店番のついでに僕の魔法で校内全体をずっと探知してたんですが、少なくとも不審人物は入ってきていないはずです。校門から出入りした人たちと校舎内にいる人の人数は一致していたかと思います]

「随分がんばってくれていたんだね、斎君。僕は誇らしいよ」

 雅人は嬉しそうに斎をぎゅっと抱きしめる。

「そうか。並みの魔法使いではお前の探知に引っかかるだろうな。だがこれも例外はある」

 体育祭を覚えているな、と直樹に言われ、斎はうなずいた。

 体育祭の時、帝と英司と斎は、直樹と雅人の提案で優秀な後輩二人と魔法勝負をしたのだが、結果はほぼ敗北に近い形で終了している。

 後野茉理を後輩二人が三人の目から隠して守り、斎たちは隠された茉理を見つけ出すという勝負だったのだが、探知魔法を駆使しても茉理の気配を探れず、結局自力で彼女を探し出すことは出来なかった。

[つまりあの時のように、僕や先輩の探知魔法にひっかからない遮断された場所にいるかもしれないということですね]

 斎の砂文字に、直樹はうなずく。

「それも可能性の一つだ。彼らの気配だけじゃなく、校内にそういう場所がないか探す必要もある」

 そして一瞬目を閉じ、呼吸を整えると直樹は口調を改めて言った。

「もう一つの可能性。こっちの方が正直俺はありえると思っている。だがこっちだった場合、最悪だ。英司と後野さんを見つけ出せる可能性が低くなる」

「えーっ、そんなひどい状況ってある?」

 昇が困惑して問うと、直樹はため息をついて続ける。

「お前は知らないだろうが、この学園には60年以上前から未解決の文化祭で起こる失踪事件があってな。二人はこれに巻き込まれて消えたかもしれない」

 直樹の言葉に、全員が驚愕の表情で固まった。

「60年前の未解決事件?」

「そういえば今日って11月15日だったね。すごくまずいよそれは」

 雅人の言葉に、直樹はうなずく。

「もしそれに巻き込まれたのなら、非常にまずい。何しろ今まで一度だって消えた人間は帰ってきてないんだからな」

「あー、ちょっと説明が欲しいんですけど」

 皆の会話についていけてない昇に、帝が簡潔に説明した。

「――というわけでな」

「うわあっ、そんなミステリーがうちの学校にあったわけね」

 話を聞き終えた昇はうめく。

「ではこの二つを踏まえた上で、これからの行動を決めよう。まず斎、お前は引き続き校門にて花屋をやりつつ、不審人物の出入りを監視して欲しい。特に怪しい荷物や気になる人間をみつけたら……そうだな」

 ここで言葉を濁し、直樹は指を鳴らした。

 ポンっとグラサンをかけたうさぎのぬいぐるみが出てくる。

「ラビ。以心伝心ピアスを寄越せ」

「えーっ、まだモニターの途中ですよ」

 試作品なのに使うんですか、ご主人様、とラビはぬいぐるみらしい可愛い仕草で、ピョンと跳ねて驚いた。

「ここまで試せば上々だ。問題ない」

 直樹がそう言うと、ラビは長い耳の先についていた銀色の小さなキューブ型をしたピアスをはずす。

 そして斎の側に来て、ピョコンとお辞儀をした。

「始めまして、斎様。直樹様のうさぎ人形ラビといいます。どうぞよろしく」

 ラビは二本足で器用に挨拶する。

「へえ、魔道具の人形か」

 面白そうだね、と昇は興味深々だ。

「お前も似たようなのが作れるんじゃないのか」

「僕の場合は知能を与えるとかそういうんじゃないからね。生成した人形を僕の意のままに使役できるってだけさ」

「そうか。一度その辺りについては、お前とじっくり話してみたいものだ」

「そうだねー。いいよ、僕も君の研究に興味があるし」

 みんなの見ている前で、ラビはピアスを斎に差し出す。

「これはご主人様が斎様とお話したくて開発した『以心伝心ピアス』です。どうぞお受け取りを」

 斎は目を丸くして、ピアスを受け取った。

「お前と意思疎通できるのが、英司と後野茉理だけでは不便だからな。いざという時に連絡手段がないのは困る」

「へえ、これはどういう魔道具なんだい? 直樹君」

 興味深々で、雅人は席から立ち上がり、斎の側に来て手のひらに載ったものを見る。

「つけた人間の思念を自由に思った相手に送信できる。最小限の魔力しか消費しないから、魔力が少ない者でもこれをつければ思念会話が可能だ。もちろん受信も出来るぞ」

 斎は驚きのまなざしを直樹に送った。

 彼のために開発してくれたのだと思うと、胸の奥が熱くなる。

「ぜひお使いください、斎様」

 ラビはピョンピョン跳ねて、愉快そうに続けた。

「ご主人様は、ずううーっと斎様とお話出来る英司様がうらやましくて仕方なかったんですよ。絶対自分の手で魔道具を作り上げ、斎様と会話してみせると息巻いて、そりゃあすごい執念でした」

「おい、余計なことは言わなくていい」

 直樹はあわてて指をまた弾き、うさぎを異空間に戻す。

「なんて素晴らしい兄弟愛なんだ! 僕の胸は今、感動ではちきれそうだよ!」

 感極まった声で叫んだ雅人は、さっと斎からピアスを自分の手に載せた。

「さあ、お兄ちゃんが君にこれをつけてあげよう。君はまだ耳に穴を開けてないのだがら、まずそれからだね。大丈夫、痛くしないよ。体の力を抜いて、すべてこの僕にまかせるといい。最後までちゃんと優しくしてあげるからね」

 意味深な微笑みを浮かべて斎にせまる雅人に、容赦のない一言が飛ぶ。

「それは穴のいらない磁石製のピアスだ。お前が無駄な色気を出す必要はまったくない」

 直樹はそう言うと、瞬間移動で雅人の指からピアスをまた斎の手に戻した。

「早く装着しろ、斎。感度を確かめるために、俺に何か言葉を送れ」

 斎はうなずくと、手早く両耳にピアスをつける。

 ぐずぐずしていたら雅人にまた余計なちょっかいを出されるかもしれないと、彼はすぐに言葉を送った。

『直樹先輩、聞こえますか』

 直樹は一瞬身を硬くしたが、やがてにやりと笑む。

『ああ。お前はどうだ。俺の言葉を感知出来るか』

 大切な先輩の言葉を直接受信して、斎の瞳が若干緩んだ。

『聞こえます。夢みたいだ。こんなの……こんなの』

 それ以上言葉に出来ず、斎はあわてて下を向き、瞼を袖でこする。

 再び顔を上げた時、そこには温かいまなざしで彼をみつめる先輩4人の姿があった。

 斎は顔をひきしめ、再び頭を下げる。

『直樹先輩、皆さん、本当にありがとうございました』

「良かったね。これからも一緒にがんばろう」

 昇がにこやかにそう言って、場はなごやかな雰囲気に包まれたが、それも一瞬だった。

「これで十分な意思疎通が図れる。話を戻すが、斎、お前は校門の見張りだ。頼んだぞ」

 直樹の言葉に、一同はさっと顔を引き締める。

『分かりました』

 斎は大きくうなずいた。

「藤昇、お前にはさっき言ってた聞き込みと二人の足取りを探ってほしい。もし万が一二人の最後の行く先が2年A組だった場合」

「最悪のシナリオ発動ってわけね。60年前の未解決事件を洗い直さないといけないっていう展開か」

 昇はわかったよと了承する。

「俺は斎と同じように探知魔法で校舎や周辺を探る。雅人、お前は午後の公演前に警備室に行って監視カメラとモニターをチェックしてくれ。斎が見張っていた校門は大丈夫かもしれないが、駐車場の方はノーマークだったからな。不審な車両や不審人物がいないか確認してくれ」

「わかった。この僕にまかせてくれたまえ」

「帝、お前は藤昇と一緒に聞き込みをしてくれ。もし万が一2年A組が引っかかったら、すぐ理事長と職員に報告し、対応しなければならない。その指示を頼む」

「対応って何するの?」

 昇の問いに、直樹は顔をしかめて答えた。

「まず2年A組の封鎖だな。そして各クラスの人数点呼――他にも行方不明者がいないか確認しないといけない。そして残念だかまた発生するかもしれないから、午後からの文化祭は中止して、お客はすみやかに帰宅してもらう」

「大がかりだね」

「それだけの大事ということだ。もちろん俺達は帰宅出来ないぞ。そのまま手がかりを求めて、探索続行だ」

「了解です。じゃあ、そろそろ行きますか、帝様」

 昇はにこにこと邪気の無い笑みを帝に向ける。

 彼は眉を寄せて、昇に言った。

「お前に一言言っておきたいんだが」

「えっ、なんですか。僕、何かしちゃいましたか」

 ちょっとあせる顔の昇を、帝はじっと見つめる。

「俺に敬語を使うな。お前は俺の従兄弟で年上だろうが」

「え……」

「もう身内なんだし、臨時だが生徒会の助っ人だ。いい加減雅人や直樹と同じように呼べ」

「いや、でもですね」

「ああ、それはいい提案だ」

 更にあせりを見せる昇に、横から直樹がにやりと笑って口を出した。

「お前が帝をそう呼んで敬語をはずすことで、お前はクリスティ本家次期総帥の帝から絶大な信頼を寄せられていると判断される。一族にお前が無害な存在だと示す良い方法だ」

「僕もそう思うよ、昇君。君も僕達と同じクリスティ一族の一員で、地獄の果てまでも一緒に行く仲になったわけだしね」

「うわーっ、何それ。僕、なんか一族の泥沼にズブズブはまっていってる気がするんだけど」

 それは勘弁してくれと彼はうめく。

「もう無理だよ。君は引き返せない。それは死を意味することと同じなのだから。君の未来には一族の運命を背負って生きる、血と汗に彩られた鮮血の道しか残されていないのだ。さあ、勇者昇よ、勇ましく突き進みたまえ。願わくば君の行く道に勝利の女神が微笑まん事を!」

「あああ、この手のノリってほんとうにうざいんだよね。雅人君、絶対君は藤家に生まれるべきだったよ」

 頭を抱えて昇は肩を落とす。

 彼の実家たる藤家は過激なほど歌劇が好きな一族の長のせいで、かげき一家と異名をつけられてしまうほど魔族界では有名だ。

「噂では藤一家のクローゼットは素晴らしい衣装コレクションがそろってるそうじゃないか。今度ぜひ見せておくれ。僕がまだ見たことない素晴らしい衣装が眠っているかもしれない。期待に胸が高鳴るよ」

「いや、もう全部進呈するよ。必要に迫られて購入するはめになっただけで、あんな服は僕の趣味じゃない。もう全部捨てるつもりだったしさ」

 一生着るもんかと息巻く昇に、雅人はもったいないと本気でぼやく。

「おいっ、いつまでくだらないことを話してる。行くぞ」

 帝はそう言うと、昇の腕を引っ張って生徒会室から出て行った。

 去り際、昇の脳裏に意味深に微笑む雅人から、思念のメッセージが届く。

『必死に冷静さを装ってるけど、僕達の王様は繊細で仲間思いだ。だから実はすごく二人の事を心配してる。不安と怒りのあまり、何かしてしまうかもしれない。頼むよ、昇君。王様のことをよろしくね』

『……了解。あんたたちも気を付けろ』

 昇は帝にばれないようにこっそり思念で返事を返し、天上を仰ぐ。

 まさか自分が、この生徒会メンバーの仲間になる日が来るとは思っていなかった。

 運命とは、かくも悪戯好きで意外な展開を好むものなのだろうか。

 その事をまったく嫌だと思っていない自分がいる。

(平凡で地味に生きる人生じゃなくなったけどさ、これはこれで悪くないか)

 そんなことを思いながら、昇は生徒会室のある特館から帝の後ろを歩きながら校舎に戻っていった。


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