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文化祭はミニチュア街で(私立クリスティ学園シリーズ 魔法使いの生徒会編7)  作者: 月森琴美


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10

 茉理は奈々の横で、帝を見て安堵のあまり体中の力が抜けた。

(来てくれた、帝先輩)

 怒りと悲しみで強張っていた彼女は、その場に崩れるように座り込む。

「あっ、茉理。大丈夫?」

 奈々が気付いて手を差し伸べるが、それより早く茉理の体は瞬間移動して帝の腕の中に納まった。

 彼は彼女を横抱きにして、自分の胸に寄りかからせる。

「遅くなってごめんね」

 優しいささやきが茉理の耳をくすぐった。

(あ……B君だ)

 これはいつも帝の奥にいる繊細で優しい方の彼。

 だがそんな表情も一瞬で消え、また不敵な笑みを浮かべる魔王のごとき少年へと変化する。

 瞳に宿るのは、捕食者の殺意。

 流石の三人組もぶるっと震えた。

 屋上に一触即発の空気がただよう。

 沈黙を破ったのは、恒星だった。

「本丸のご登場やな。どうも、クリスティ学園生徒会長はん。お邪魔してまっせ」

「へえ、この人がそうなんか。随分西洋かぶれした格好しとるな」

 あれ制服なんですか、と飄々とした声で言う詠美。

 一応顔は恐れ入ったような風を装っているが、目は笑っていた。

 彼の魔力を感じても少しも恐れていない様子に、帝は警戒心を強める。

「はっはっはっ、夏の決戦以来だな、伊集院帝。逃げずにのこのこ俺様の前にやってきた度胸は褒めてやろう。さあ、いざ尋常に勝負だ」

 相変わらずの勢いで、翔太は帝に再戦を申し込んだ。

「うるさい。お前らは文化祭で余計な妨害放送を流した時点で、客ではなくなった。すみやかに排除させてもらう」

 帝は茉理を横に下ろすと背にかばい、更に殺気を露わにする。

「おー怖っ。こっちの会長はん、マジ怖いっす。流石魔王の異名を取るだけのことありますな」

「臆するな、詠美。あっちは一人だ。こっちは三人。いくら魔王でもうちら三人一度に相手するのはしんどいでっせ」

「はっはっはっ、自慢じゃないがこの二人は俺様も認める優秀な戦士だ。むろん俺だって負けてはいない。どうだ、伊集院帝。三人を目の前にしてぐうの音も出まい。おとなしく降参しろ。今ならまだ許してやってもいいぞ。さあ、俺様の前にはいつくばって許しを請うがいい」

「口だけは達者だな。御託はいい。三人まとめてかかってこい」

 にやりと帝は笑みを浮かべる。

「久しぶりに楽しめそうだ。俺を退屈させるなよ」

「って一人でやる気ですか、帝。ちょっと待ってください」

 突然一陣の風が吹き、明るい茶色の髪にチェック模様の帽子を乗せた少年が現れる。

 他にもう一人、吸血鬼のごとき装いの黒眼鏡を光らせた長身の少年も。

「山下先輩、森崎先輩も」

 茉理は思わず二人の名を呼ぶ。

「おはよう、後野さん。何か初日からトラブル発生だね」

 英司はさわやかな笑顔で挨拶を返した。

「まったくだ。他校の文化祭を邪魔するとは、完全なマナー違反。君達には即刻出て行ってもらおう」

 吸血鬼は冷静な声で退去を言い渡すが、三人は動じなかった。

「あの人たち、誰ですの? 恒星はん」

「お前は一年だから初めてどすな。あの能天気な探偵服着とんのが二年の山下英司っつってな。そっちの怖い吸血鬼が三年の森崎直樹いいますのや。よう覚えとき」

「山下はんと森崎はんか」

「どっちも魔王の強力な手下やさかい、翔太坊ちゃんの邪魔しに来おるはずや。顔しっかり頭に叩きこんどきや」

「どっちも本気でしばいてもよかですか」

「もちろんかまへん。どつきまわして世間様に顔向け出来ん面にしてまえ」

「……何なんですか、この人たち」

「一体どこの国の言葉でしゃべってるのかわからないほど、方言が混じってるな。聞きかじった言葉を適当に格好つけて並べ立ててるだけだと一発でわかる。実にお粗末だ」

 直樹は黒眼鏡をキラリと光らせた。

「O府とK県とK都と……その他エトセトラって所だな。まったくその県に住んでいる県民の皆さんに土下座して謝って欲しいくらい、とんでもない交じり言葉だぞ」

 彼は日本有数の地域の名を出し、あきれた声でつぶやく。

「青い忍者は速見恒星、三年生で副会長。黄色い方は丸須詠美、一年で書記だ」

「ええと、早見先輩と丸須君、ですね。覚えました」

 直樹の説明に、英司はしっかりうなずく。

「お久ぶりどすな、森崎の旦那。相変わらず変なもんばかり、ごっつい造ってますんやろ。万屋(よろずや)にこないだもなんかけったいなもん、置いてあったしな」

「ああ。あの粘着質の高い接着剤でしたっけか。ばってんあれは凄かもんでしたよ、恒星はん。ちゃんと無理やり空いてしもうた異次元空間の穴まで塞いでしもうたんどすから」

「役に立てたのなら何よりだよ。それより異次元空間に穴なんか開けるとは、君たち一体何をやったのかな」

 きらりと好奇心に光る黒眼鏡に、二人の忍者はうっと答えに詰まる。

「そ、そんな事よりこっちの決闘を進めまひょや」

「そやそや。さっさと決着つけて、坊ちゃんの彼女はんを魔王の元から取り戻さなあかん。さあ、お三方、覚悟しいや」

「はっはっはっ、そうだ、さっさとかかってこい。伊集院帝。今日こそは貴様との因縁の対決に決着をつけてやる」

 やる気満々の三人を見て、英司ははあっとため息をつく。

「直樹先輩、何かすっごくやる気が失せるんですけど」

「あのどうしようもない方言交じりの言葉が、俺達の戦意喪失の原因だろうな。一応決闘なんだろうけど、全然そんな緊迫した雰囲気にならない。ある意味凄いぞ、あのマジリ語」

「なんか今、もう一つ言語が発生した気がするんですけど、なんですか、そのマジリ語って」

「深い意味はないさ。日本語から派生した特別言語だ。天の川学園に通う生徒のみ話す言語だと覚えておくことにしよう」

「二人とも気を抜くな。言葉はともかく相手は本気だ。全力で挑め」

 帝の声に、英司と直樹も目の前の三人に集中する。

 帝は早々と己の魔力を高めはじめた。

 威力を持つ電撃を放つつもりのようだ。

 対する翔太もポケットから取り出した手裏剣を巨大化させ、しっかりと構える。

 手裏剣の周囲には激しい気流が流れていた。

 睨みあうこと数分。

 先手必勝とばかり帝の指から無数の電撃が放たれ、翔太は手裏剣を思いっきり投げつけたまさにその瞬間。

 六人の足元に、それぞれ魔方陣が出現した。

 それはたちまち六人の動きを抑え、魔力攻撃を封じてしまう。

「はいっ。そこまで」

 マイペースなのんびり声がして、全員そちらの方を向く。

 いつの間にか屋上に上がり込んで帝たち全員の魔力を一瞬でかき消した彼は、やれやれと肩をすくめて歩み寄った。

 その腕には生徒会の腕章があり、足元には警官もどきの服を着た人形が六体ほど出現している。

「なんか屋上で異様な魔力の高まりを感知したんで来てみたら、違反者が生徒会って笑えないんですけど、帝様」

「……藤昇か」

「えーとこれってあきらかに違反ですよね。だって魔法禁止なのに、全員私的な理由で魔法使って決闘でしょ」

「まだ未遂だ」

「そうだけど、でもお役目なんで、ペナルティってことで」

 そう言うと、昇は足元の警官人形に合図する。

 六体の人形はすぐ六人の腕に飛びつくと、白いブレスレットを手首に装着した。

「おいっ、そこの怪しい人形屋。これは何だ」

「えー、魔力封じのブレスレットです」

 翔太の言葉にのほほんと昇は答える。

「文化祭の最中は魔法禁止なんですよ。すみませんがお客も例外じゃなくてですね。違反者は、今日一日このブレスレットを装着する決まりなんです」

「なんて不可解なしろものなんどすか。そもそもここは魔法学校でっしゃろ。魔法使こうて何が悪いんどすか」

「そやそや、理不尽ですわ。はよはずせーっ」

 きいきい言い立てる黄色い忍者に、昇は肩をすくめて答えた。

「理不尽でも何でも決まりなんで。僕が決めたんじゃないですので、苦情はこの学園の理事長にでもお願いします」

「はあ? 何それ。笑えませんがな」

「あー、別に笑いを取る気はないので、笑わなくてもいいですよ」

 変な方言交じりの言葉にもペースを乱すことなくきちんと答える昇に、ある意味凄いと英司は思った。

「おいっ、藤昇っ。これをはずせ」

 帝が怒鳴るが、昇は笑うばかりで手を出さない。

「生徒会でも文化祭の進行に支障をきたす可能性があるなら、使っちゃ駄目でしょ。ね、帝様」

「お、お前……」

「いや、でも悪いのはあっちですし」

 もごもごと英司は、三人の忍者を指差す。

「そうだ。俺達は文化祭を粉砕しようとする首魁と戦うために」

「まあ、そうなんでしょうけど、でも駄目ですよ」

 きっぱりはっきり昇は言い切った。

「だってこれはずしたら、森崎君は何するの? 魔力封じられたあの三人を自分の魔力でねじ伏せて、一方的に排除するんじゃないかな」

「そこまで乱暴にする気はないが……」

「する気だったね」

 あっさり図星をさされ、直樹はうっと言葉につまる。

 昇はため息をつくと、帝の後ろで棒立ちになっている茉理と、彼女の横に駆け寄って事の成り行きを見守っていた奈々に近づいた。

「ほら、あんたたちがエスカレートするからお嬢さんたちが怯えちゃってるじゃない。どうしてくれるの」

「茉理」

 先ほどの双方の敵意むき出しの気に当てられたのか、茉理の顔は蒼白だ。

 そして心配そうに奈々が彼女を横で支えている。

 帝ははっと気付いて、顔を歪めた。

 茉理がこういう負の感情に弱いことは知っていたはずなのに、さっさと教室に帰しておかなかった自分の不注意さを、彼は責めずにはいられなかった。

「あの、もう大丈夫です。藤先輩が止めてくれましたし」

 ありがとうございました、と茉理は昇に頭を下げる。

「いやいや、お役目なんで。それより生徒会のみなさん、事情はさっきこの二人から軽く聞きましたけど」

 昇は六人に向かって面倒くさそうに続けた。

「このままで勝負なしってのもなんですよね。だったら魔法以外のもので勝負したらいいじゃないですか」

「魔法以外のものだと?」

 帝は思いもよらない提案にいぶかしむ。

「そうだ。皆さん、うちのクラスに来ませんか」

 奈々が突然声を上げた。

「うちのクラスの企画は、お化けとゲーム屋敷なんです。そこでゲーム対決なんてどうでしょう。三種類のゲームとお化け探しゲームがあって、一番多く景品を獲得した人が今日の勝者ということにしたら」

「はっはっはっ、面白そうだな。いいだろう。俺はやる」

 高笑いをしながら、翔太は奈々の提案に乗った。

「どんな勝負でもかまわん。伊集院帝、今日こそ俺はお前に勝つ」

「いいだろう」

 帝は腕につけたブレスレッドを忌々しげに睨みながら言い放つ。

「そこまでいうなら貴様の願いどおり、魔法なしの勝負、受けて立とう。返り討ちにしてやるから覚悟しておけ」

 しかし火花を散らす二人に対し、周囲はそこまで燃えてはいなかった。

「あほらし。こんな勝負やる意味ありますのん」

「俺もめんどくさいでっせ。会長はん、もう帰りまひょうよ」

 青と黄色はやる気なし。

 そして帝の横の二人も同様だった。

「ふむ。あまり気乗りはしないな。興がそがれたという奴だ」

「俺はやってもいいけど、対戦相手がやる気なさそうだしパスってことで」

 四人の反応を見て、昇はのんびりした声を上げる。

「じゃあ会長同士の対決ってことで。二人とも頑張ってくださいね」

 場所は1年A組ですから、と言うなり、彼はパチンと指を鳴らした。

 あっという間に屋上にいた全員が、1年A組の前に瞬間移動する。

 突然現れた彼らを見て(特に忍者三人組はインパクトがありすぎて)、A組受け付けにいた生徒達は驚いた。

「帝様? それにその……後ろの人たちは」

「お客よお客。これからここでゲーム対決することになったから、さっさと案内して」

 奈々がさっと出てきて、受けつけ担当のクラスメイトに声をかける。

 そして自らどうぞと教室の中に案内を始めた。

 いきなり開催されることになったクリスティ学園と天の川学園、中等部生徒会長同士のゲーム対決。

 ――勝負の行方はどうなるのか、今二つの学園の会長同士、因縁の戦いが幕を開ける。





 いきなり決戦の場となった1年A組。

 一同はぞろぞろと教室に入り、最初のコーナーに向かう。

 最初の勝負は腕相撲だ。

 そこに待機していたお化け役二名も、突然予期せぬお客様に目を丸くする。

「え? 帝様と……忍者さん?」

「天の川学園の生徒会長よ。これからうちのクラスで会長同士の学園対抗決戦をやることになったから。さ、お二人とも、この椅子に座ってください」

 本当は来たお客と待機しているお化け役との勝負になるのだが、奈々はさっさと片方の椅子に帝を、対戦する椅子に翔太を座らせた。

「腕相撲ですか。これはうちの大将が有利でんな」

「そやそや。あちらの会長はん、女みたいに腕ごっつい細いしなあ。筋肉ないんとちゃいますの?」

 見た目は帝の方がスリムで細身。対する翔太は、忍び装束の下からでもわかる上腕二等筋が目立っている。

「どうかな。腕相撲は筋力の差だけで勝敗が決まるものでもないだろう」

「そうですよ、帝、ファイトです」

 各二人の応援を従え、二人はバチバチと机ごしに火花を散らしあった。

 しかし流石に体格差はあるので、茉理も後ろではらはらしている。

 そんな彼女に近づくと、奈々はある物を手渡した。

「ほら、茉理。これに着替えて」

「わたしの鞄? どうしたの、奈々」

「そんな幽霊の格好じゃ逃げられないでしょ。制服に着替えなよ」

「逃げるって……」

「もちろんあの赤忍者から逃げるに決まってるでしょ。ここで帝様があの会長の相手をしている間に、どこかへ隠れて見つからないようにしなきゃ。勝負で帝様が勝ったとしても、ああいう男子はしつこいわよ。ずうっとストーカーのようにつけまわされるに決まってるわ」

「うっ、それはありえる」

「だから今のうちに逃げちゃいなよ。山下先輩、一緒に行って、この子をどこかに隠してもらえませんか」

「えっ、俺?」

 奈々がこそっと横の英司にささやくと、彼は目を丸くした。

「生徒会室とかどこでもいいんで、あの変態忍者が迫ってこないような場所にかくまってください。あの手の男子は、はっきり断っても聞き入れなくてしつこいじゃないですか。この子が困ると思うんです」

「行ってくるといい」

 直樹が黒眼鏡をにぶく光らせ、同意した。

「こんな意味不明な勝負の場に、後野さんがいる必要はない。君への交際申し込みだって、あのイカれた忍者男が帝に対抗したいがために言い張ってるだけのものだ。いちいち付き合う必要などないよ」

「はあ、それはそうですね」

 でも、と茉理は心配そうに帝を見る。

「あいつなら大丈夫だ。君をかけた勝負事で簡単にやられるような男じゃない。信じてやれ」

 そう言うと、直樹は英司の手首についている魔法封じのブレスレットに指先で触れた。

 魔力を流し込まれたブレスレットは、粉々に砕けて塵となって消える。

「魔法を使うほどの大事にはならんと思うが、念のためだ。英司、彼女の事は任せたぞ」

「わかりました」

 その場にいる他の人たちの目が帝と翔太に集中している隙に、英司と茉理はそっと教室を抜け出した。




 英司を廊下に待たせ、茉理がまず駆け込んだのは女子トイレだった。

 彼女はそこで女幽霊の衣装を制服に着替え、洗面台でメイクを落とす。

 髪をいつものお下げ髪に結って、鏡の中の自分に向かい、ほっとため息をついた。

(なんかとんでもないことになっちゃったな)

 朝、登校した時には今日の文化祭に胸をわくわくさせ、開始と同時に役目を果たしながら午後の帝と一緒にまわる時間を考え、どきどきして気持ちが落ち着かなくなったり、でも期待で胸躍らせていたというのに。

(この分じゃ帝先輩と文化祭を楽しむのは無理ね)

 あの翔太の事だ。

 帝との勝負に決着をつけて、素直に帰ってくれれば良いのだが。

(幼稚園からの積年の想いがこもってるもんなあ。帝先輩への気持ち)

 翔太がただ帝が憎くて毎回決闘を申し込み、帝に挑戦し続けているわけではないことを彼女は知っていた。

 誰もが強気で俺様気質の帝こそ彼の本質だと思っている中、翔太だけは幼稚園時代にそうであった帝のもう一つの人格を覚えている。

 本当は繊細で優しくて争いを厭い、皆と仲良くしたいと願う少年の事を。

 家の教育方針のため、帝は本来の自分を心の奥に封じ込めて嫌悪し、今は帝王のごとき態度で周囲に威圧感を与えていた。

 しかしそれは本当の彼ではない。

 表に出ている強気の人格を叩きのめすことで、彼本来の優しい自分に戻って欲しい。

 あまりにも屈折した友情だが翔太はそう願い、毎回帝に挑戦しているのだ。

 この戦いにもし勝敗をつけるとしたら――。

(表の帝先輩が敗北し、普段眠っているB君が天の川先輩の前に出てくる事かな)

 もう一つの人格の帝は、そのことをわかっているはずだ。

 以前茉理に言っていたのだ。

 ――彼の僕を想ってくれる気持ちは嬉しい。だからこそこれ以上の争いはしたくない、と。

(帝先輩、頑張ってください)

 茉理は心の奥で彼を応援する。

 これは単なる勝ち負けの問題ではない、まったく別な決着の付け方が必要なのだ。

 その事に彼が気付いて実行できるかどうかによって、これからの翔太との関係性が変わってくる。

 翔太の挑戦行為を打ち切らせたいのなら、今まで絶対に出来なかった苦しい決断をするしかない。

 それをすることで彼の作り上げた表の人格が衝撃を受けるとしても。

 茉理は帝がどうするのか心配で、胸の内が重くなった。

 やはり逃げるのではなく、側で見守りたい。

 そう思った時、ふと先ほどの直樹の言葉が脳裏を過ぎる。

 ――あいつなら大丈夫だ。君をかけた勝負事で、簡単にやられるような男じゃない。信じてやれ。

(そうだよね、信じなきゃ)

 茉理は自分の両頬をパチンと両手で軽く叩いて、気合を入れ直した。

(わたしはへたに巻き込まれて帝先輩と天の川先輩の間を混乱させないよう、どこかで静かにしていよう)

 もしゲーム勝負で帝に負けた場合、彼への腹いせに翔太たちが茉理に危害を加えないという保障はどこにもない。

 直樹もそれを危惧して、わざわざ英司をつけてまで彼女に隠れるよう言ったのだろう。

 自分の立ち位置を確認し、茉理はトイレから出る。

「お待たせしました」

「じゃ行こうか」

 英司はにこりと微笑むと、とりあえずこの階を離れるよと言って、茉理を連れて一階上の二年生の教室がある廊下へと階段を上がっていった。


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