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文化祭はミニチュア街で(私立クリスティ学園シリーズ 魔法使いの生徒会編7)  作者: 月森琴美


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10/24

 文化祭初日の午前中、茉理は教室を担当していた。

 午後から帝とあちこち見てまわる約束をしていたため、午前中に役目を果たしておこうと思ったのである。

 女幽霊となった茉理が歩きにくそうにぞうりを履いて静々と進むのを見たクラスメイトたちは、彼女をゲームコーナーではなく出口でお化け探しカードを配る役にしてくれた。

 教室には各コーナーごとに男女1人ずつ担当がつき、それぞれ来た人とゲームをする。

 男子が来たら対戦相手も男子がして、女子が来たら女子が対応出来るようにしてあった。

 そうしないと腕相撲のコーナーなどでは特に実力の差が出てしまう。

 3つのゲームコーナーにそれぞれ男女の二人がつき、入り口に二人、出口に二人と教室担当は計十人だ。

 それ以外のクラスメイトたちはそれぞれ校内を徘徊し、誰かがお化けを探しに来たら持っているカードにサインをすることになっている。

 半分自由時間のようなもので、他のクラスを見てまわったりしてもかまわない。

 ただお化けの衣装は、下校時刻まで脱がないことになっていた。

 茉理だけは例外で、帝とまわるときには制服に戻ってもかまわないと言ってもらった。

(流石にこの格好でいたら、帝先輩の逆鱗に触れるかもしれないものね)

 幽霊の格好をした彼女を連れて、校内をデートしたいとは思わないだろう。

 それこそ激怒して教室のお化け屋敷を魔法で粉砕しかねないと、皆思うことは同じだった。

 立ち寄ってくれるお客様が少ないのでは、と危惧していたが、開始してから結構頻繁に立ち寄ってくれる人がいる。

 教室に入ってゲームはしないけど、お化け探しはしたいという生徒もいて、茉理は教室後ろの扉の前でカードを手渡したりして忙しかった。

 始まって30分ほど経った頃。

 突然全校舎内に、声が響き渡る。

「はっはっはっ、あーとーのーまーつーりーいーっ、どこだあっ。あーとーのーまーつーりーいーっ。ででこーいっ」

「えっ、何?」

「何だこの声」

 廊下を行き交う人や教室にいる生徒達、ほぼ全員が一瞬動きを止めた。

(なっ、何? 何事なの)

 茉理も当然驚いて、手に持つお化け探索カードを落として床にばらまいてしまう。

「はっはっはっ、あーとーのーまーつーりっ。この俺様が会いに来てやったぞ。早く屋上に来いっ、はっはっはっ」

 聞き覚えのある笑い声に、茉理はカードを拾い集めながら全身に悪寒が走る。

「何々? 後のまつり? 何言ってるの、この放送」

「後のまつりって何が後のまつりなんだ。何かあったのか、屋上で」

 廊下で何も知らないお客様たちが、不思議そうに首をかしげている。

(ああっ、そうよね。これが名前だなんて誰も思わないよね)

 茉理は校舎や教室ところかまわず大音量で響く声に、頭を抱えてしまった。

 無視しようかと思ったが、いつまでも高笑いと共に彼女の名を連呼する声は止まらない。

「ま、茉理。これってさあ」

 顔を引きつらせながら、奈々が猫しっぽをふりふり駆け寄ってくる。

「茉理のこと呼んでるの? この人」

「あああああーっ、もうっ。ごめん、奈々」

 茉理は手に持つ探索カードをよろしくと奈々に押し付け、教室を飛び出した。




 全力疾走したくても、鼻緒の痛い草履では限界がある。

(江戸時代の人たちって本当にすごいわ。これ、普段履いて走ったりとかしてたのよね)

 余計な事まで頭をよぎるほどに、茉理は頭の中が沸騰寸前だった。

(何でどうして、あの人が来るのよ)

 いや、文化祭だから他校の生徒が見学に来ても、まったくおかしくない。

 おかしくはないのだが――。

(どうして帝先輩じゃなくて、わたしの名前を呼んでるの、あの人が)

 彼はいつも帝をライバル視し、事あるごとに帝に決闘まがいの魔法勝負を挑み続けては敗北していたはずだ。

 茉理も夏休み、偶然その勝負に巻き込まれ、散々な目にあったばかりである。

 おかげで知り合う必要性がまったくなかった彼と、顔見知りになってしまった。

 天の川(あまのがわ)学園中等部二年、天の川翔太(あまのがわしょうた)

 なんとか屋上にたどり着くと、予想通り彼がいた。

 相変わらずふてぶてしい態度で、メガフォン片手に大声で叫んでいる。

「あーとーのーまーつーりーっ、あーとーのーまーつーりっ」

「あのさあ、会長はん。もういい加減にやめなはれ」

「そやそや。訳分からんこと叫んでないで、彼女はんの名前を呼びなはれ」

 横にいる二人の忍者服の少年が、あきれて赤忍者天の川翔太からメガフォンを奪おうとしていた。

「そりゃあな、その彼女はんに一目ぼれして、もう他の女の事は考えられへん、後のまつりや言う会長のお気持ちはごっつうわかりましたさかい」

「そうそう、そういう事はお相手来てから言うもんですえ。さ、そのメガフォンこっちに」

「くそっ、お前ら、俺様の恋路を邪魔する気かっ。放せっ、それを寄越せっ」

 メガフォンを長身の青い忍者に奪われ、必死に取り返そうとしている彼の姿を見て、茉理はうめいた。

(もう絶対に係わり合いになりたくないよ)

 でもここで止めなければ、次は何をしでかすかわからない。

 せっかくの文化祭が、夏休みの時の様にいろんなものを巻き込んでパニック状態になったら大変だ。

「いい加減にしてくださいっ、天の川先輩っ」

 せいいっぱいの大声をはりあげ、茉理は三人の忍者に近づく。

 三人は目を大きく見開いて、彼女を凝視した。

「はっはっはっ、後野茉理っ。久しぶりだな」

「そーですね。どうもお久しぶりです」

 茉理は何と言ってよいかわからず、とりあえず返す。

 赤い忍者服(天の川学園の制服である)を来た天の川翔太の横に立つ、二人の忍者は驚愕の目で彼女を見た。

「会長はん、まさかこれが」

「会長はんのおなごですか」

「はっはっはっ、そうだ。これが後野茉理だ」

「は? 後のまつりって……この幽霊はんが、会長の心を射止めて、もう後のまつりやっていう人ですか」

「会長はん、けったいな趣味ですな。幽霊ですか」

 茉理は顔が赤らむのを止めることが出来なかった。

 勢い込んで屋上まで来たはいいが、今の自分は女幽霊の装束でメイクもちょっと怖い感じに仕上がっている。

 年頃の少年たちの前に出るには、女の子としてかなり恥ずかしいものがあった。

「はっはっはっ、後野茉理っ。今日はまた随分面白い服を着てるじゃないか。なかなかいいぞ。似合っている」

「……どうも」

 翔太はまったく気にしていないようだが、茉理は穴があったら入りたいと真剣に考えてしまう。

「あー、ところで失礼ですが、会長の彼女はん。お名前教えてもらえませんか。うちら、聞いても全然教えてもらえへんのどす」

「そうそう。あとのまつりだ、あとのまつりだってそればっか連呼するんですよ。もう本気でマジあんたはんに会長が惚れてるのは、ようわかりましたんですが、うちら名前で呼んだ方が礼儀にかなうと思うんですよ」

「……」

 茉理は憮然としながら答えた。

「初めまして。後野茉理です」

「は? いや、あの名前を」

「だからっ、あ、と、の、ま、つ、りです。よろしくお願いします」

 茉理はヤケになって叫ぶ。

 一瞬微妙な沈黙が屋上を支配した。

 青い忍者が非常に微妙な顔で問う。

「あのう、もしかして本当にそれ、あんたはんの名前……でっか」

「そうですが」

 茉理は自分でも久しぶりだなと思いながら肯定する。

 小学校時代はよく名前でからかわれて、初対面の相手にこの手の反応は当たり前だったが、最近校内ではクラスメイトも先生も慣れたので、名前で決まり悪い思いをするのは久しぶりだ。

「あー、あとのが苗字で、まつりが名前、とかでっか?」

「はい。そうです」

「あ……そ、そりゃあ失礼しました」

 黄色い忍者が、頬をヒクヒク動かしながら口でだけあやまってくれる。

 だがその顔は青い忍者も同様だが、次の瞬間突っついただけで笑いだすに違いない。

 正直実に微妙な空気で、茉理はいたたまれない思いのまま彼らの前にいた。

(もう。なんでこんなお客が来るのよ)

 文化祭だし遊びに(というか帝に挑戦しに)来てもおかしくはない。

 問題は何故自分を呼び出したのかだ。

(呼ばれる覚えはまったくないんだけどなあ)

 茉理はそう思いながら、口を開く。

「あの天の川先輩、なんでわたしを呼んだんですか。用事はなんでしょうか」

「はっはっはっ、お前に会いたいから会いに来た。呼んだのは、お前がどこにいるかわからなくて、探すより屋上から呼び出した方が早いからだ。どうだ、俺様の作戦はすごいだろう」

 胸を必要以上に張って得意満面の翔太に、茉理は思わず頭を抱えてうめきたくなった。

 一体彼の中で常識というか、世間体というか、他人への気遣いというか、そういうものは存在しているのだろうか。

「あのですね、先輩」

 茉理は言っても無駄だとわかってはいるが、一応意見した。

「普通こういう時は、こうやって大音量で叫ぶのではなく、受け付けとか一年生の教室に行って、誰かに聞くとかするものなんです。文化祭の最中、いきなり訳わからない笑い声と呼び出しが天井から響き渡ったら、みんなびっくりして迷惑します。すごいどころか先輩の作戦は最悪の下策ですよ」

「なにいっ、俺様の作戦が下策だと」

「はい。もう今、みんな迷惑してます。先輩がどう思おうと、他の人が不快に思う行動を取ってはいけません。やめてください」

「はっはっはっ、何を言うかと思えば。お前の目は節穴か。この俺様はいずれ天下の大魔王になる男だぞ。魔王というのは我侭で人に嫌われるほど迷惑極まりない奴の事だ。お前が不快に思うほど、この俺の行動は凄まじかったというわけだな。ならば尚良し。この俺はあの伊集院帝をも凌駕する大魔王の素質有りということだ。はっはっはっ」

(うっ……わかっていたけど、やっぱり話が通じない)

 茉理は言うだけ無駄だったと改めて思いながら、ため息をついた。

「会長はん、会長はん。それより彼女はんにうちらのこと紹介してもらえませんか」

「そやそや。俺らかて、会長はんの幽霊さんに挨拶せなあきません」

 青忍者と黄色忍者が横から口を出す。

 茉理は改めて翔太の側にいる二人を見た。

 二人とも彼と同じ忍者服を着ている。

(色が違う。確か天の川学園ってこの忍び装束が制服で、学年ごとに色が違うんだっけ)

 赤い翔太が二年生なら、横の二人は三年生と一年生だろう。

 そんなことを考えていたら、長身の青い忍者が髪を指でかきあげながら一歩前へ出た。

「あー、後野はんでしたっけ? 初めまして。俺は天の川学園中等部生徒会副会長三年(なつ)組 早見恒星(はやみこうせい)言います。以後お見知りおきを」

「うちは天の川学園中等部生徒会書記やっとります一年冬組 丸須詠美(まるすよみ)です。これからよろしゅうおたの申します、(あね)さん」

「はあ。っていうか(あね)さんって……」

(まるでヤクザ映画に出てくる親分の奥さんとかみたいな呼ばれようだわ)

 戸惑う茉理をよそに、早見恒星はほっと顔をほころばせる。

「ま、見た目はともかく性格はまともそうですな。こりゃあ良かった。社長はんに良いご報告が出来ますな」

「は? あの報告って一体何ですか」

 彼女は目を瞬かせた。

「そりゃあ翔太坊ちゃんの将来のお相手がまともなおなごはんで良かったってことですよ。ああ、あんたはん、翔太坊ちゃんが天の川建設の社長の息子や言うことは知ってますか」

「はい。以前聞きました」

「そいでな、社長はんから言われてますねん。このたび、うちの坊ちゃんが結婚を前提にお付き合いしたいいうお方が出来たと聞きまして、そのお方がどんな人かじっくり人物観察して来いと」

「は? あの結婚を前提にお付き合いですか」

 更に訳のわからない内容が出てきて、茉理の頭は混乱する。

 彼女にかまわず恒星は言い放った。

「そいでもし多少なりともお相手がまともな女やったら、すぐさま縄で縛って拉致してでも話を決めろて言われてますのや。これを逃したら、もう坊ちゃんにまともな嫁は来んかもしれないから、絶対に逃がすなと厳命されてましてな」

「突然のことで、あんたはんにはさぞご迷惑なことでしょうけど、一つ坊ちゃんの事よろしくおたの申します」

「……」

 茉理は一体何がなにやら理解が追いつかず、頭がパニック状態になる。

(何の話よ、これは。結婚とか婚約とか、どうしてそういう話になるわけ?)

 二人の言った言葉を整理すると、どうやら大きな勘違いをされているらしい。

 何故か茉理は翔太の彼女になっており、それで将来の結婚まで約束して来いと、この二人は翔太の父親に言われてきた、ということになる。

(まずは誤解を解かないと。わたしは天の川先輩の彼女じゃないし)

 そう思って口を開こうとした茉理の目の前に、いきなり大輪の薔薇が出現した。

 翔太がずいっと先ほど手に入れた薔薇の花束を、彼女の顔面に突き出したのだ。

「はっはっはっ。この俺様が用意してやった手土産だ。後野茉理、今日俺様はお前に正式に交際を申し込んでやる。ありがたく受けるがいい。はっはっはっ」

「なっ、なんでわたしに」

 茉理は翔太の爆弾発言に、それ以上言葉が出てこない。

「もちろん貴様が俺様の永遠の好敵手(ライバル)、伊集院帝の女だからだ。お前があいつより俺を選べば、俺はあいつに勝ったことになる。どうだ、あいつに勝つための、この完璧な勝負方法は。さあ、後野茉理、あのいけすかない帝を捨てて、俺を選ぶと言え」

「……」

「俺はあいつとは違ってお前の事を玩んで捨てたりしない。交際を申し込む以上、きちんと結婚まで視野に入れて責任ある男の態度で臨んでやる。どうだ、あいつには逆立ちしたって出来ない芸当だろう。さあ、俺の方が数倍良い男なんだから、さっさとこれを受け取って、あいつを敗者にするがいい」

 薔薇を受け取るどころか、あまりの申し込みに彼女の中でふつふつと怒りがこみ上げた。

 翔太は茉理の事を好きでもなんでもない。

 ただどんな方法でもいいから帝に勝ちたい、それだけのために彼女に交際を申し込みにきたのだ。

(帝先輩といい、天の川先輩といい、魔族の男って恋愛に対する感覚どうなってるのよっ。異常すぎて言葉も出ないわ)

 茉理は手を伸ばすと、薔薇の花束を翔太の手から叩き落した。

 そして思いっきり足で踏みつける。

 美しい薔薇の花びらが、屋上の床に飛び散った。

「なっ、何をする」

 予想もしていなかった彼女の行動に、翔太はあっけに取られてしまう。

 茉理はその頬めがけて、思いっきり右手でビンタをかました。

 バチンっと小気味良い音がして、翔太の頬は真っ赤になる。

「この女、なにしやがるっ」

 翔太は怒気も露わに茉理に怒鳴るが、彼女は更に目を真っ赤にさせて叫んだ。

「冗談じゃないわっ。わたしの気持ちなんて完全に無視して、こんなの最低よっ」

「は? どこが最低だ。この俺様は最高の男なんだぞ」

「どこがよどこがっ。じゃあ先輩はわたしの事好きなんですか。だから交際したいって本気で思ってるんですか」

「お前のことはまだよくわからん。だがあの帝の野郎をぎゃふんと言わせる事が出来るなら、どうでも良い女の一人や二人、喜んでつきあってやろうじゃないか。俺様はそれだけ心の広い男なんだぞ。良かったな、後野茉理。思いっきり俺に惚れろ」

「ますます最低。そんな申し込み、受けられるはずないでしょ。却下です。縛られて吊るされたってお断りだわ」

「何を言う、お前の事を将来まで面倒見てやるって言ってるんだぞ。これ以上はないぐらい破格の待遇だろうが」

「先輩に面倒見てもらうぐらいなら、この屋上から飛び降りた方がよっぽどましです。ここで先輩の女とやらになるぐらいなら、すっぱりそうします」

 茉理は勢いよくそう言うと、フェンスの方に近づいていく。

「うわあっ、ちょっと待ちいや、(あね)さん」

「そやそや、早まるなて。今すぐほんまの幽霊にならんでもよかですよ」

 横の二人があわてだした。

「来ないで」

 茉理の方に近寄ろうとする彼らに、彼女は叫ぶ。

 悔しくて、どうしようもなくて、涙が頬を伝って止まらない。

(どうして皆、わたしの心を無視して勝手に決めつけるの。いい加減にしてよ)

 自分という存在は彼らにはどうでも良いものなのだと思うたびに、心が悲鳴をあげていく。

「いや、もしかして(あね)さん、飛び降りるゆうたかて本当は浮遊魔法でここから逃げるつもりなんじゃないんどすか」

「ああ、そういえばそうどしたな。浮遊魔法があったの忘れとったわ」

 恒星と詠美はあせった表情を元に戻した。

(うっ、そういえばこの人たちも魔法使いよね)

 茉理は少しは自分の気持ちをわかってもらえるかと勢いでした発言が、彼らの前では何の効果も持たない事に気がつく。

 まさか茉理が魔力ゼロ。魔法がまったく使えないなんて考えもしないだろう。

(どうしよう。なんかかえって逆効果?)

 先ほどの驚きは三人とも消え去り、早くここから飛んてみせろとばかりの顔を茉理に向ける。

 まさか本当に飛び降りるわけにもいかず、茉理は進退窮まって動けなくなった。

 その時。

「駄目よ、茉理。早まっちゃ」

 彼女の側に猫耳と尻尾のついた少女が走りよる。

 奈々だ。

 どうやら心配して屋上まで来てくれたらしい。

 彼女は茉理をぎゅっと抱きしめると、すぐ良かった、と耳元でささやいた。

「帝様たちに連絡しといたから、速攻で来るよ」

 そう言うと彼女は茉理を離し、三人の方に向き直る。

「すみません、これ以上この子の事からかわないでもらえませんか。彼女はとても真面目なので、本気で飛び降りて自殺しかねません」

「あほな。浮遊魔法でひとっ跳びするだけやあらへんの」

「それは出来ません。だって文化祭ですから」

 奈々はきっと三人を睨む。

「受け付けで説明されませんでしたか。チケットに書いてあると思いますが、今日から三日間、校内は魔法禁止です。生徒会と教職員の先生以外、魔法を使ってはいけないんです」

(ナイス説明だわ、奈々)

 茉理は心の中でほっとした。

 何故かはわからないが、他校の彼らに自分が魔法を使えない一般人だと知られたくなかったのだ。

(絶対変な勘ぐりとか入れられそう。ただでさえわたしってイレギュラーな存在なんだから)

「つまり魔法使えへんの? こりゃあ随分けったいな文化祭やな」

 ここ、魔法使いの学校でっしゃろと不思議そうな顔で恒星はつぶやく。

 しかしその余裕の笑みは、一瞬で崩れた。

 天空から凄まじい電撃が、真っ直ぐ翔太に向かって落ちたのだ。

「坊ちゃん、危ないっ」

 すばやく横の二人は、翔太をかばって防御バリアを展開させる。

 電撃はバリアに阻まれ、翔太に直撃しなかった。

「ったく危ないですなあ。何が魔法禁止ですか」

「ごっつう魔法発動させとるやないですか」

「何事にも例外はあるということだ」

 臨戦態勢を取る二人と翔太の前に、黒い人影が姿を現す。

 黒い執事服を纏った伊集院帝が、怒りのオーラを全身に漲らせて屋上に登場した。



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