第45話 夢
すぐに自分の部屋に戻るからと、アリーアはドアの前で立ったままで話した。
「ロレスは
いまの暮らしは
好き?」
「うん、もちろん。
まずこの場所が最高でしょ?
砦を改修した家もいい感じだよね。
ピザ窯も露天風呂もあるし。
畑はすごく良い野菜が作れるし。
まだまだやりたい事あるけどね!」
「あはは。
ロレスが嬉しそうだと、私も嬉しい」
アリーアはいつもの笑い声を響かせてから、少し目を伏せた。
「私もね。
ここってとても素敵だと思う。
でもね……そう感じるのって……」
一瞬、何か言いかけたような顔をしたが、すぐにふわりと微笑んで首を振った。
「おやすみなさい。
それを言いにきたの。
ロレス、いい夢を」
そう言うとアリーアはドアを閉めた。
その少し後にアリーアの部屋のドアが閉まる音が小さく聞こえる。
アリーアと俺はきっと同じ事を考えている。
この場所は最高だけど……それは2人が一緒にいるからなんだ。
わかってるんだ、そんな事は……だけど……。
俺は布団に潜り込み、明日の夜の作戦をまた考えながら、いつの間にか眠りについていた。
《もしも〜し》
声が聞こえる……どこかで聞いたことのあるような声だ……誰の声だっけ?
《聞こえますか〜?》
どなたですか、と尋ねたくても俺は声が出せない。
ただ聞くだけしかできない。
お久しぶりですね。16年ぶりでしょうか?
お元気そうでなによりです。
あっ! そうそう。
転生していただく時に、私ったら記憶を消去するの忘れてしまいましたね。
連続でポンコツっぷりをお見せしてしまって、お恥ずかしい限りです。
そっちの世界では私、けっこう崇拝されていますから失敗したのは内緒にしておいてくださいね。
さて……。
日本で過労死してしまったあなたは、スローライフの人生を夢見ていました。
それは前世とは真逆の、のんびりした丁寧な暮らしです。
でも実際にはたくさん苦労して、誰かのために動いて、時には自分の時間すら削ってきましたね。
明日の夜も、大変なことが待っているようです。
それでもあなたは、誰かの笑顔のために動こうとする。
……あなたは、もう気づいているんです。
本当の「スローライフ」って、ただ静かで楽なことじゃない。
誰かの隣に、自分の意志で立ち続けること。
その人を想って、笑って、怒って、守りたいと願うこと。
人と人が優しく助け合うこと。
前世であなたは、人との関係を築くことができなかった。
人を信用していなかった。人に信用されていないと思っていた。
でも、今のあなたは、どんどん手に入れている。
“絆”という名の、あたたかな関係を。
それが、あなたが本当に求めていた「スローライフ」なんですよ。
──絆ということでいえば、なによりも。
アリーアさんのこと。
あなたは自分の気持ちは、もう分かっているのでしょう?
なのにまだ、心のどこかで自分にそれを許していない。
「本当なら、まだ誰かの隣に立つ資格はない」
そう思っているようですね。
でもね、それは違います。
あなたは、もう十分に誰かを想い、誰かに想われている。
怖がらないでください。
失うことを恐れてばかりいると、本当に失ってしまいますよ。
愛というのは、持つ資格があるかどうかじゃない。
持とうとする勇気のことなんです。
あなたの魂は、もう癒えています。
あなたの望む人生には、誰が必要ですか?
あなたが選ぶことができるなら、それはもう、“愛”なのです。
窓から差し込む朝日で目が覚めた。
本当に女神様が語りかけてきたのか、ただの俺の夢なのか……それは、わからない。
「おはよう、ロレス」
「おはよう、アリーア」
キッチンのかまどの火を起こして、黒パンをトーストしてベーコンを焼いて目玉焼きを作った。庭の畑の野菜で作ったサラダとワサビドレッシングも準備した。
リビングスペースの小さなテーブルにそれらを並べて食べる。
しあわせな時間だ。
でもこのしあわせは、素敵な家や畑があるからじゃない……それはおまけなんだ。
俺は目の前で、いつもと変わらずおいしそうに食べている顔を見ながら、そう思った。
それから身支度を整えて、アリーアの実家でガイナスと合流した。
「アリーア、ガイナス。
女神像を取り返す為の
計画を伝える。
……今夜、予定通り決行しよう」
自分の気持ちを伝えるのは……すべて終わってからだ。
次回『第46話 地下の玉座』
お読みいただきありがとうございます!
次回は「勇者が作った女神像を何に使っていたのかが判明する」というお話です。
この物語は全50話で完結しますので、のこり5話となります。
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