第39話 重婚
俺とファリィ姫は城から馬車で出発した。
国境の関所やガナール村まで行った時に使った乗合馬車が路線バスなら、真っ白で美しい二頭の馬に引かれて走るこのお姫様の馬車はリムジンだった。
車体は深い藍色で側面には王家の紋章が刻まれた銀板がはめ込まれている。
窓には薄絹のカーテンが揺れて、扉の取っ手にまで細工がある。
俺と姫が座っている座席はソファーのようなクッション性があってお尻が痛くない。
……というかそもそも車輪が違うのかな? 乗合馬車とは振動がぜんぜん違う。
姫の馬車の前後左右は、馬に乗った付き添いの王護騎士団によって固められていた。
馬車の中で向いに座っているファリィ姫は少しだけ興奮しているようだった。
「ロレス様はご結婚されて
らっしゃるんですよね?
一緒に暮らされてる方は
どのような女性なのですか?」
「アリーアは、
旧街道沿いの宿屋の娘で、
王都学舎の同級生です」
「ご学友の方なのですね。
……なんだか、いいですね」
馬車は丘のふもとに到着した。
ここから中腹にあるエウレカには徒歩で行くしかない。
俺を先頭にファリィ姫と王護騎士団の4名は細い坂道を登っていった。
しかしこの坂道は未舗装で両側からの草も体に当たる。
「すいませんファリィ様。
来るのが分かってたら
前もって、なんとかしといたんですけど」
「お気になさらず。
皆さんもここを登られたのなら
私だけが特別ではないのが
嬉しいくらいです」
「……そういうもんですか」
そして俺たちは木のトンネルを抜けて丘の中腹にあるエウレカに到着した。
ロープに洗濯物を吊るしていたアリーアがすぐ目に入った。
「あっ!
ロレスおかえりー。
お城どうだったー?
……あれ? お客様?」
ファリィ姫はアリーアの前まで進んで、お辞儀ってここまで優雅になるものだと感心するようなお辞儀をした。
「私はハーライト王国王女
ファリィでございます。
お見知りおきくださいませ」
「お姫……様?
えええええ!?」
そのあと姫は、「ここが馬小屋ですね、それでお住まいはどちらに?」というようなベタベタなお姫様ボケをする事もなく、家や畑を興味深そうに見て回った。
王護騎士団の2人は家の屋上に、もう2人は木のトンネルの入り口付近に立っている。
一通りエウレカの説明が終わったので、絶景ポイントにテーブルと椅子を出して、ハーブティーと朝焼いたクッキーでお茶をする事にした。
「これが
神肥料で育てたハーブなのですね。
本当にいい香りです」
「喜んでいただけて何よりです。
神肥料のおかげもあるんですが
アリーアはお茶淹れるののうまいんですよ」
「まあ、そうなんですね!
アリーア様、今度お茶の入れ方を
ぜひ私に教えてください!」
「そんな教えるなんて程のものじゃ……。
でも、はい!
私なんかで良かったら!」
さすがに最初は緊張していたアリーアだったけど、二人は馬が合うのか、アリーアが合わせるのがうまいのか、しbらくすると女子的トークで盛り上がっていった。
お姫様は眼下に広がる雄大な風景を眺めた。
「私、お城や王都を
こんな風に上から見たのってはじめてで
感激しています。
この風景、まるで絵画の中の世界に
足を踏み入れたようです」
銀に輝く姫の髪の毛はさらさらと風でなびいている。
ファリィ姫はここからの風景を絵画のようだと感じたみたいだけど、俺からすればファリィ姫自体が美しい絵画のようだ。
「……それで、
ロレス様に大事なお話があるのですが」
「大事な話?
なんでしょう?」
「ロレス様。
……私と結婚していただきたいのです」
アリーアが口に含んでいたハーブティーを吹き出した。
「ちょっ! 熱っ!
アリーア、かかった!
あ……あのう。
聞き間違いかな?
……いま、なんて?」
「ロレス様と結婚したいんです」
どうしよう……意味がわからない。
そして、たぶん短い時間なんだけど、やけに長く感じた全員の沈黙のあとファリィ姫が話しはじめた。
「私は小さい頃から
勇者様と結婚するのが夢でした。
……100年ちょっと前に現れた
勇者セリックはご存知ですか?」
「はい。
王都学舎の歴史の授業で
名前くらいは……」
「勇者セリックと
当時のハーライト王国王女は
結婚して、子供が産まれました」
「……え?」
「この国の王位継承法では
男女を問わず最初に生まれた子
が王位を継ぎますから、
ふたりの間に生まれた子が
後に王となりました。
……つまり私には、
勇者セリックの血が流れております」
「ちょっと待ってください!
そんな話、授業で習ってませんよ!」
「勇者セリックは我がハーライト王国だけでなく
ネスカリム王国とブフ王国とロンスレット王国の
王女とも結婚していたのが後に判明しました。
この事実はよく思わない人もいます。
それで歴史書から意図的に省かれたのです」
「全部の同盟国の王女と!?
……なにをやってるんだ
その勇者」
「恋多き男性だったのでしょうね。
でもいつしか私は100年前の王女と同じように
勇者と結ばれる事に憧れるようになったのです。
……そしてロレス様が現れました」
お姫様は無邪気で嬉しそうな顔をしている。
「あのう……ファリィ様。
ロレスはもう私と
結婚してるんですけど……」
アリーアはちょっと怒ってるような口調だ。
だけど姫は悪い人じゃないから戸惑ってもいるのが、見ていてよくわかった。
「そ、そうですよ!
だからその……すいませんが
ご希望には添えないかと……」
「ですが、それでも……。
私もロレス様の傍にいたいのです
アリーア様と争うつもりはありません。
共にロレス様を支える妻になれれば……」
「共に……俺を支える妻って……」
「勇者特典には【重婚の権利】がありますから
何も問題はないかと思われます。
勇者セリックもそうしたのですから
勇者ロレスも複数の妻をもてば良いのです」
重婚の権利ができたのは、勇者セリックが原因なんだろうな。
それはともかく……どうやって穏便に断ろう……。
次回『第40話 姫の嫉妬』
お読みいただきありがとうございます!
次回は「三人の気持ちが複雑に絡み合う」お話です。
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