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第38話 お姫様への報告

太陽は真上にあって、これから午後になっていく時間帯。

俺はお姫様に会う為に城内に入った。


石造りの回廊を抜けると、そこには柔らかな緑に包まれた静かな空間があった。


ミント、ラベンダー、タイム、ローズマリーなどのさまざまな香りがする……ハーブ園だ。

中庭よりもさらに奥まった場所で、誰にも邪魔されない静けさがあった。


 「……こちらでございます」


従者の女性が一礼して、白い藤棚の下を指し示した。


そこにあるベンチに──ファリィ姫はいた。


姫は謁見の間で会った時のような豪華なドレスではなく、しかし普段着というにはあまりにも美しくて上品すぎる姿をしている。光を受けて透けるような布地は、庭の緑とよくあっていた。


 「……勇者ロレス様。

 わざわざ起こしいただき

 ありがとうございます」


姫は書物を閉じると、ほんの少しスカートの裾を持ち上げてお辞儀をした。

従者はいつの間にかいなくなり、庭にはふたりきりになった。


「詩集を読んで心を落ち着けていたんです。

 ロレス様がこちらへ向かわれているという

 報告を聞いてから、

 そわそわしてしまって」

 

銀色の髪をした美しいお姫様の雰囲気は、以前謁見した時よりもう少し同世代の女性のように感じられた。

王様やお妃様がいないからだろうか。


「ロレス様にお会いしたいと

 侍従長に伝えたのです。

 まさかすぐに叶ってしまうなんて

 ……とても幸運です」


促されて向いのベンチに座ると、ファリィ姫は宝石のような目で俺をまっすぐ見つめている。

前会った時も思ったけど、緊張するというよりもなぜか恥ずかしくなってしまう。

 

「ロレス様は謁見の日のお約束、

 覚えていらっしゃいますでしょうか?

 才覚の儀の時のお話と

 冒険のお話をぜひお聞きしたいのです」


ファリィ姫は好奇心いっぱいという顔だった。


とりあえず俺は才覚の儀の話をした。

勇者認定後の面倒な手続きの話などを姫は楽しそうに聞いていた。

意外だったのは、勇者特典の存在を姫が知っていた事だ。


「冒険の方は

 いかかでしょう?

 魔王討伐に向けて

 順調でございますか?」


「魔王討伐……ですか

 それは、ええと……」


俺が毎日どんな事をしているか知ったらお姫様はガッカリするだろう。

……でもまあ仕方ないか。


「すいません。

 俺は魔王討伐をする

 つもりなんてないんです。

 それはもう、こちっぽっちも」


「魔王討伐をしない?

 どういう事でしょうか?」


「魔王が引きこもっていて

 一応は平和なんで

 戦う必要はないと思ってます。

 俺は静かで丁寧な生活を求めて

 毎日を過ごしているんです」


丘の石をみんなで撤去した話、不用品をもらって砦をリフォームした話、ピザ屋さんと物々交換をしている話、畑を作ってそれがすばらしい環境だという話、冷蔵庫が作りたくて外国へ行った話……これまでにあった様々な事を姫に話した。


お姫様は少し驚いたような顔をして聞いていた。


「私は勇者らしいお話を……

 過去の偉大な勇者たちと同じような

 冒険譚を聞かせていただけると

 思ってました」


ですよね……もしかして怒らせてしまった?


しかしファリィ姫の驚きの顔は微笑みに変わった。


「とても興味深く

 …………とても素敵です」


「え?」


「私はロレス様のお考えに共感しました。

 それにロレス様の周りは

 優しさや思いやりが輪になっています。

 皆さんが助け合って生きている姿が

 とても素晴らしくて……。

 正直言えば、私は羨ましく感じました」

 

「羨ましいって……いやいや!

 このハーブ園とか凄いですし、

 俺はこんなのを作りたいんですよ」


「このハーブ園は

 私が欲しいと願ったら

 大急ぎで作られただけで

 私は土を触る事も許されません。

 それに助け合う仲間もいませんし」


ファリィ姫は微笑んではいたが、目には寂しさが現れていた。

そうか……そうだよな、王様の娘だもんな。


それにこの人はただ王様の娘というだけじゃない、王様の子の中で最も年長だった。

この国の王位継承法では男女関係なく最初に生まれた子が王を継ぐ……つまりいずれは女王となってこのハーライト王国を治める特別な存在だ。


「ロレス様。

 そのエウレカという場所に

 お伺いしてもよろしいでしょうか?」


「ぜんぜん構わないですよ。

 いつでもお気軽に

 遊びにいらしてください」


ファリィ姫は立ち上がって、サイドテーブルに置かれていたハンドベルを鳴らした。

すると、すぐに三人の従者がやってきた。


「すぐに馬車の用意を。

 ……では勇者様

 今から行きましょう!」


「え…………今から?」



次回『第39話 重婚』

お読みいただきありがとうございます!

次回は「過去の勇者がいろいろとやらかしまくっているのが判明する」お話です。


もし少しでも面白いと感じましたら、ブクマや評価で応援して頂けると嬉しいです!

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