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第36話 試食会

俺とアリーアがエウレカに到着するとノーラさんがいた。

ノーラさんは麦わら帽子をかぶって、相変わらずの無防備な格好だ。


「書き置き残して

 いなくなっちゃうんだもの。

 それで用事は済んだのかしら?」


「はい。

 半月以上留守にしてしまいました。

 ……それにしてもビックリしましたよ。

 帰ったら神野菜の農園が完成してるなんて。

 ノーラさんってすごいんですね!」


「そうよー、私はすごいのよ。

 もっとすごい事もできるけど

 ……ふたりきりで知りたい?」


「あの……それは……。

 遠慮しておきます」


俺たちが留守の間にノーラさんはエウレカに通ってワサビの栽培に成功していた。

しかもエウレカは野菜にとって最高の栽培環境となっているので、通常なら最低1年はかかるワサビがもう収穫可能になっているらしい。


ノーラさんが作ったワサビ農園は直射日光が当たりにくいエウレカの隅の方にあった。


ワサビはとにかく繊細で敏感な作物らしく、気温、水温、水質、光量……様々な条件が揃わないとうまく育たないそうだ。


エウレカはそれらの条件を満たしていたけど、ワサビが好む「流水」に関しては難しかったそうだ。

水量が圧倒的に足らないのだ。


そこでノーラさんは魔法石でコントロールする水の循環システムを作ってしまった。普通の水ならだんだんと濁っていくけれど、神殿の不思議な水瓶から出ている水は常に澄んでいて問題なかった。


「それで……ノーラさん。

 この神野菜はどうしましょう?」


「勇者くんの

 好きにすればいいんじゃない?

 私は育てたり調教がするのが

 好きなだけだしね」


「ねえ、ロレス!

 私これ食べてみたい!」


「あっそうだね、

 とりあえず食べてみるか」


俺は平たい石にナイフで格子状の傷をつけて、その石でワサビをすり下ろしていった。


アリーアとノーラさんが「?」と顔を見合わせている。


「どうした?

 何か変かな?」


「うん、とても変だよロレス」


「そうね、勇者くん。

 まるで神野菜の事を

 以前から知ってたようにしか

 見えないんだけど」


「…………え?」


ヤバい、ヤバい……そうだよな。ワサビってこの世界じゃ、ほとんど知られてなかったんだ。


「ええと……あの……

 なんでだろうねえ。

 勇者の勘的な能力なのかな?

 あははは……ははは。

 ほら! すり下ろせたよ!」


「あっ!

 じゃあ、さっそく!」


とアリーアは、俺が止める間もなくワサビの塊を口に放り込んだ。


その後どうなったかは、説明する必要もない。


「ロ……ロレス……。

 私の鼻から炎でてなかった?

 なによ、これ……。

 これ……絶対に栽培失敗してる!

 全部捨てるよ!」


「捨てちゃだめだー!

 落ち着け!」


「ロレスには勇者の勘があるんでしょ?

 じゃあこの悪魔の野菜を

 美味しく食べる方法、教えてよぉ」

 

……悪魔の野菜呼ばわりかよ。

でもアリーアはワサビははじめてだけど、ノーラさんは知ってるわけだよな。


「ノーラさんって

 神野菜を料理でどんな感じに

 使ってるんですか?」


「それがね。

 実は私もあまり食べた事がないのよ。

 こんなに沢山育ってる状況はじめてだし」

 

なるほど……つまりワサビに関しては俺が一番よく知っているわけか。

よし、じゃあ2人にワサビを使った料理を出して食べてもらおう!


俺は大急ぎで王都城下町の市場に行って食材を集めた。

その間、アリーアとノーラさんはおしゃべりをして待っていたらしく、俺が戻ってきた時にアリーアは顔を真っ赤にしていた。


ノーラさん……アリーアにどんな話をしたんですか?


そして俺はワサビを使った料理を2人に出した。


「まずは神野菜、酢、油、塩、蜂蜜を混ぜてつくった

 神野菜のドレッシングです。

 生野菜にかけて食べてください」


アリーアとノーラさんはここで採れた野菜のサラダにワサビドレッシングを少しかけて、フォークで口に運んだ。


「さっき食べた時は

 神野菜ってただの辛い野菜って思ってたけど、

 こんな感じに使うとすごくいいんだね。

 野菜の味がちょっと濃くなったように感じる」


「鼻に抜ける少しの刺激、

 甘みのある爽やかな香り。

 これは今までに体験した事のない味ね。

 クセになりそう」


サラダを片付けて、すりおろしたワサビをステーキの上に置いてアリーアとノーラさんに提供した。

香ばしい煙が立ちのぼり、塩と黒胡椒を振って焼いただけの脂のしたたる肉の表面がわずかに揺れている。


「つぎは神野菜ステーキです。

 ソースはないです。

 神野菜の風味だけでお楽しみください」


「ソースなしで神野菜だけで?

 ……あれ……でも美味しいかも。

 牛肉の重さや、脂っこさが

 神野菜の辛味でふわっと軽くなってる」


「そうね、

 噛めば噛むほど香りが広がるわ。

 これはいいわね。

 神野菜ってお肉と相性がいいのね」


なかなか良い反応だな。

ワサビ&ビーフは前世の日本ではポテトチップスのフレーバーにもあった。ワサビと牛肉って最強の組み合わせだ。


そして最後は……やっぱり刺身だろう。

元日本人としては生の魚をワサビで食べてほしい。


冷却魔法のおかげで王都では新鮮な海の魚が手に入る。

俺は何種類かの魚を捌いて薄く切り、ワサビと魚醤と一緒に提供した。


「ロレス……これ生魚よ?

 いくらなんでも

 野蛮すぎない?」


「勇者くん、

 アブノーマルは嫌いじゃないけど

 こういうのは私もちょっと……」


「いやいや、美味しいんだから!

 じゃあ、俺が食べてみるから、見ててよ」


俺は刺身を食べた。転生してからはじめてだ。


「ああ〜美味しい、

 やっぱりお刺身にはワサビがないとなー」


2人はドン引きしている。

まるで虫を食べている人を見るかのような目だ。


生魚を食べた事がない人たちに食べさせるのはかなりハードルが高いっぽい。

ワサビが合うとか、そういう話以前の問題だった。


今日用意したのはこれだけだけど他には何があるかなあ?

やっぱり蕎麦? でも蕎麦自体見た事ないし、あったとしても蕎麦打ちって難しいっぽいから俺にできるのかわからないけど。


「ロレス、

 ずいぶんと悩んで頑張ってるけど、

 どうして?」


「せっかくの貴重な神野菜じゃん?

 アリーアの実家の宿屋でうまく使って

 お客を呼べないかなって思ってさ」


「え……ロレス……。

 そんな事考えてくれてたんだ……」


なにかあればいいんだけど……う〜ん。



次回『まさかのワサビソフト』

お読みいただきありがとうございます!

次回は「アリーアとふたりで城下町の市場に行く」お話です。


もし少しでも面白いと感じましたら、ブクマや評価で応援して頂けると嬉しいです!

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