第35話 美術は「2」でした
女神像がなくなっている事が判明した夜、また魔獣がやってきた。
その魔獣の群れの中に、今までの相手とはあきらかに違う、「あ……これヤバいやつだ」ってのが混じっていた。
巨大熊のアンデッドだ。
俺とガイナスはこれまで連携とか考えずにバラバラに戦ってきたけど、こいつはそれじゃあマズイ気がすると思っているとガイナスが近づいてきた。
「俺はあの熊の一撃を受け止める。
踏ん張っている間にお前が倒せ。
勇者には勇者、戦士には戦士の
役割がある」
「ガイナス……」
「お前とアリーアが来てくれて助かった。
……そんなに長くは持ち堪えられない。
俺を無駄死にさせないでくれよ」
俺はガイナスの目を見て深くうなずいてから、やぐらの上にいるアリーアに向かって叫んだ。
「この熊は俺とガイナスで
なんとかするから!
アリーアはそれ以外の魔獣を
少しでも減らして欲しい!
できるか?」
「りょーかーい!
ここで毎晩戦って
魔術師スキルレベル上がってるから
まかせてー!」
よし! やるぞ!
まずアリーアがやぐらの上から声を張り上げ、次々に雷魔法で魔獣を弾き飛ばした。
ガイナスは巨大熊に向かって一直線に走っていく。
少し後方を走る俺は、ガイナスの進路を塞ぐザコを風魔法で吹き飛ばしていった。
激しい雷と風の中、巨大熊は自分に向かってきたガイナスに体当たりした。
ガイナスは熊の前脚を、盾と体格でギリギリ受け止める。
「いまだ! ロレス!」
「吹っ飛べ、俺ッ!」
ここでの連夜の戦闘でアリーアの魔導師スキルが上がったように、俺の勇者スキルもレベルアップしていていて、火属性の中級魔法である爆裂魔法が使用できるようになっていた。
俺は魔力を込めて足元に爆裂魔法を放ち、その爆風で高く吹っ飛んだ。
巨大熊の頭上に飛んだ俺は重力で落下し、熊の脳天に短剣を刺し込む。
巨大熊のアンデッドは、不気味な咆哮をあげてから完全に静止した。
やぐらの上から「終わったー?」とアリーアの声がする。
ガイナスは膝をついていたが、どうやら無事らしい。
俺はガイナスに手を差し伸ばして、彼を立たせた。
「やったな、ガイナス!」
「ああ……
なんとか今夜も
村を守れた……」
俺たちは今夜も魔獣から村を守った。
しかし、女神像がなくなってる事が魔獣が生まれてくる原因だとしたら、女神像を元の場所に戻さない限りまた明日も魔獣はやってくる。
やはり新しい女神像を作るしかないのかな……俺が……。
翌日、俺は村長の家にいた。
俺の前には粘土が置かれている。
「さあさあ、勇者様。
どうか素晴らしい女神像を
我らにお与えください」
「は……はあ」
村長の家に集まった村人たちは俺を取り囲んで、俺が動き出すのをじっと待っている。
どうしよう……俺の美術の評価は10段階で……2なんですよ。
そういうセンスが俺にはいっさいないんです!
女神像じゃなくて、邪神像になるかもしれませんよ!?
「……すいません。
俺とアリーアだけに
してもらえませんか?」
「これは失礼しました!
芸術には集中が大事だと聞きました。
そうですよね、人が多すぎますよね。
皆の衆、帰った帰った!
勇者様の邪魔になってはいけない」
部屋には俺とアリーアだけになった。
「アリーアってさ、
エウレカの家の飾り付け
うまかったじゃん?
ちょっと手伝ってくれないかな?」
「勇者がひとりで作るから
意味があると思うの。
はい、がんばって!」
「……わかりました」
粘土をこねて、とりあえずはボーリングのピンのような形にはなった。
女神像……この世界で信仰されてるアマテ様の像……。
アマテ様……かあ、俺は会ってるんだよな。どんな顔してたっけな?
ボーリングのピンのようなものに、竹串でディティールを作っていく。
削りすぎたら足して、また削って……難しいなぁ。
アリーアは俺が悪戦苦闘する様子をニコニコ笑って見ていた。
「アマテ様は戦いの女神様だけど、
自分の為に戦うんじゃなくて
誰かを守る為に戦う存在なんだって」
「へえ、
そうなんだ!
それは知らなかった」
「だから誰かを守りたいって気持ちを込めて
女神像を作ればいいじゃないかな?」
「誰かを守りたい……気持ちを込めて……か」
数時間後、なんとか女神像は出来上がった。
はっきりいって不恰好だ。でも自分的には精一杯頑張ったつもりだ。
出来がった粘土の女神像を、村でただひとりの陶芸家さんに預けた。
本来ならば窯で焼く前に数日間粘土を自然乾燥させないといけないらしいけど、陶芸家さんは自分の職業スキルでそれは省略できた。
しかし窯で焼く時間とその後の冷却時間は省略できないそうで、完成までに一晩かかると言われた。
そんなわけでその夜は、やっぱり出てきた魔獣と戦い……そして翌朝。
俺が作った女神像は完成した。
白いうわ薬のツルツルした光沢が朝日を反射して光っている。
村長さんは以前女神像が置かれていた石の上に、女神像を置いた。
「これで魔獣がでなくなれば
良いのですが……」
ガイナスが俺のそばに寄ってきて、小さい声で言った。
「おい、ロレス。
この女神像って
アリーアに似てないか?」
「えっ?
……そうかな?」
言われてみればそんな気もする。
守りたいって気持ちで作ったからだろうか……。
その夜……魔獣は現れなかった。
勇者が作る像には、魔封じ的な効果があるという予想は正しかったみたいだ。
翌朝は村人全員でお祝いとなった。
やっと終わった……これで帰れる。
ガイナスは王都には戻らず、盗難された女神像がどこにあるのか調査するらしい。
お祝いの宴の隅っこでアリーアは女の子の両手を握っていた。
「ガイナスはコワモテでとっつきにくいけど
基本的には単純だからね! 頑張って!」
「はっ、はい!
アリーアさん!」
やっぱり平和ってすばらしいね。
そして俺とアリーアを乗せた王都方面行きの乗合馬車は、村の人たち全員に見送られて出発した。
ひさしぶりにエウレカに戻ると、出て行った時にはなかったものがあった。
──ノーラさんが、ワサビ農園を完成させていたのだ。
次回『第36話 試食会』
お読みいただきありがとうございます!
次回は「ロレスがワサビを使った料理を色々作ってみる」お話です。
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