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第十一話 歓迎されない子

 次の日、夢美は八重子と"珍竹林"を訪れた。今日も耕助が店番をしており、暑そうに団扇を仰いでいる。八重子は手早くパイン味の飴と硬貨型のチョコレートを取り、ミルク味のアイスキャンディーを指の隙間に挟む。空いた方の手で小銭入れを取り出し、会計を済ませた。八重子はすぐさまアイスキャンディーの袋を開け、一気に頬張る。


「もうすぐ盆祭りだに、父ちゃんも母ちゃんも忙しいんだべ」


「アタシも毎日お稽古でしんどいわぁ」


二人は暑さに参り、ぐったりと腕を垂らす。そんな二人の様子を見ながら、夢美は駄菓子を籠に入れていた。飴にスナック菓子にお洒落なパッケージのチョコレート。彼が好きな物は一体どれだろう? 夢美は山積みのお菓子が入った籠を、耕助の前に出した。


「すんげぇ、夢美ちゃんこれ全部食べるん?」


「そんな事はしないよ。一緒に食べる用に買うの」


耕助がビニール袋に菓子を詰める。八重子も驚き、パンパンになったビニール袋を見ていた。夢美は腕を痙攣させながら、ビニール袋を抱える。一つだけアイスキャンディーを取り出し、夢美は少しずつ齧《かじ》る。


「へぇ、誰と一緒に食べるん?」


「鎮って言う子だよ。二人とも知ってる?」


鎮の名前が出た途端、八重子と耕助は凍り付く。駄菓子屋の張り詰めた空気を、夢美は肌で感じ取る。思わずビニール袋を落としてしまう夢美。何か口にしてはいけない禁句を紡いでしまったような、そんな雰囲気が漂っていた。


「鎮って……あの元総社《もとそうじゃ》の?」


八重子が躊躇い気に尋ねる。夢美は訳が分からず、目を泳がせていた。八重子と耕助の距離が、次第に遠くなるように感じられる。


「元総社……?」


「神流神社の子だべ。あまり学校に来ねぇんだ」


耕助も小声で言う。太い眉をハの字に曲げ、あまり良い印象を持っていないようだ。


「あいつ、何考えるか分かんないだんべ。全然口も聞いてくんないし」


「そうかな? そうには見えなかったけど……」


夢美の言葉に、八重子はアイスキャンディーを落としそうになる。自身に向けられた視線に、夢美はそれ以上何も言えなかった。無邪気な子供のものではない、畏怖の視線。また、私はこの村から仲間外れ。また、よそ者になってしまうのだ。せっかくできた友達を失いたくない。夢美は口をつぐむ。


「よう! のめし(*怠け者の意)の耕助。今日も来てやったんべ!」


甲高く無遠慮な声が聞こえ、暖簾が乱暴に払い除けられる。耕助はうんざりしたようにため息をつく。夢美の話題も忘れ、粗野な客人を見る。背の低い少年が、駄菓子屋の中に入ってきた。坊主頭の少年は団子っ鼻を掻き、商品をガサガサ漁り、乱暴に掴む。


「おい、商品おっかくなら、買ってもらうべ」


「えらそーに。どうせ客なんか来ねぇだんべ」


耕助に怒鳴りつけ、少年は会計の棚に商品を叩きつける。耕助は渋々と金を受け取る。


「ん? オメェ、よその奴じゃねぇか?」


よそと言われ、夢美は背筋が凍り付く。ポケットに駄菓子を入れたまま、少年は夢美を見ていた。


「兄ちゃんが言ってたんべ。よそから来たやつがいるってよ」


「ちょっと、いきなり"のめし"とか"よその奴"とか、失礼だんべ」


八重子が少年の前に立ち塞がる。自身の前に立つ八重子を見て、少年はうんざりしたように唸った。


「よその奴によそ者って言って何が悪いだんべ」


少年は自身より背の高い八重子を睨む。少年は八重子達より一回り年下だが、引き下がる気配はない。二人は睨み合い、しばらくの間動かなかった。


「元博《もとひろ》、何やってやがんだんべ」


鋭い声が元博の後ろから聞こえてくる。その声が聞こえた途端、元博の威勢はなりを潜め、声の主の後ろに隠れる。元博と顔立ちがよく似た少年。夢美はその顔を見た途端、その場から立ち去りたいと思った。忠治だ。


「あ、兄ちゃん。なんかこいつが突っかかってきたんべ」


「八重子か、何のつもりだべ?」


忠治は弟が睨む先を見る。八重子は忠治を見ても、毅然とした態度を取っていた。夢美を庇い、自身よりも大きい忠治を睨む。


「ワラジこそ、弟のしつけがなってないんじゃないの?」


「またよそ者と一緒にいやがって。よそ者は、あいつみたいに何しでかすか分からねぇぞ」


忠治の語気が強くなっていく。八重子は眉間に皺を寄せ、忠治を睨みつけた。夢美は忠治の言っている事はよく理解できていない。だが、その言葉は明らかに夢美に対する悪意があった。


「帰るぞ、元博。コイツらはよそ者と仲良くなっちまったみたいだからよ」


「こんな駄菓子屋潰れちまえ!」


忠治と元博は捨て台詞を残し、暖簾を押し除けて駄菓子屋を出て行く。あまりの勢いに、暖簾のつっかえ棒が落ちてしまった。耕助は慌てて、暖簾を元に戻す。


「おととい来やがれ! 馬鹿兄弟!」


八重子は荒々しい剣幕で怒鳴る。普段の楽観的な態度からは想像もつかない勢いだ。思わず八重子は肩で小刻みに息をする。


「ごめん、私のせいで」


「夢美ちゃん、気にしないで。あの兄弟いつもあんな感じだんべよ」


「そうそう、ほっとけばいいだんべ。あんな馬鹿」


二人の友人は口々に夢美を擁護する。夢美はよそ者である自分を庇う二人を見て、胸が痛くなった。よそ者である自身と一緒にいることによって、二人もよそ者として扱われてしまうのだ。夢美の口の中に残っているアイスキャンディーの甘みが、嫌な余韻を残していた。


「……ねぇ、よかったら夢美ちゃん、盆祭り見に来ない?」


しばらくの沈黙に耐えきれず、八重子が口を開く。突然の提案に、夢美は首を傾げた。


「盆祭り?」


「龍神様を祀るお祭りだべ。昔から伝説にまつわる劇をするんだ」


「アタシ、主役で踊るからさ。夢美ちゃんも見に来てくれないかなって」


八重子は照れ臭そうに頰を赤く染める。夢美は元来、賑やかな雰囲気は嫌いではなかった。祭りに参加したら、村人達との交流も増えるかもしれない。


「……うん、私行くよ」


「本当!? ありがとう!」


躊躇い気な夢美の返答に、八重子ははしゃぎ回る。あまりの勢いに、駄菓子の陳列棚に倒れそうになり、耕助に止められた。素直に自分を歓迎してくれる友人達に、夢美の胸が暖かくなる。たとえよそ者と言われても、ここに変わらない友達がいる。夢美はそれだけでもよかった。

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