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第42話 共存      (2589)

 カナクではローグ山にレーザー砲台が設置されて以降、サラルの姿を見る事はほぼなくなり、サラルとの戦闘は激減していた。ノード政府は、サラルとの戦闘で苦戦している討伐隊を山岳地帯から撤退させ、カナクの防衛に専念させるという指令を出した。

 カナクの南20キロの地点に展開していたサラル討伐隊は撤退を了承したが、サラルの来襲を防ぐため山岳地帯に多数の鉄製罠(わな)や小型地雷を敷設し、撤退時は何度も待ち伏せ攻撃を繰り返すなど、時間をかけて撤退する方法を取った。討伐隊は約2ヵ月をかけてカナクに戻って来た。


 6年ぶりにカナクに帰還した「サラル討伐隊」の隊員達は、カナク警備隊やカーソン主任率いるレーザー砲台の技術者達からの出迎えを受けた。サラル討伐隊はカナク警備隊に統合され、ドーム付近の各所の防御陣地でサラルの襲来に備える事となった。高齢のアルビン隊長は退任し、(おとり)作戦を発案したマテオが新しい隊長となった。

「アルビン隊長、この度カナク警備隊の隊長を務める事になりました。承認いただいて感謝します」

「サラルとの戦いは続く。君の手腕に期待する」


 カナクでは、サラルを撃ち落とすためにローグ山のレーザー砲台が時折稼働し、ごく稀に南の山岳地帯で地雷の爆発音が遠くに聞こえる以外は何事も起こらない平穏な日々が続いていた。サラルの攻撃により損害を受けてきた太陽光発電パネル、風力・水力発電機等の復旧が進み、ドーム周辺の農業施設でイモ類・砂糖きび・パイナップル・バナナ等の農作物の生産が回復していった。しかしエネルギー・食料の自給環境が整っても、カナクはノードを守るための前線基地であるという事実には変わりなく、高齢者の多い隊員の中に自分の家族をカナクに呼ぼうとする者は皆無だった。


 ある日、カナクの港に到着した船から珍しく若い、と言っても40歳以上に見える男女6名の隊員が到着した。この新入り隊員達はアルビン・ヘンリー・ジャックの子供たちで、それぞれ、家族の反対にもかかわらず、自分達が父親たちの代わりに警備隊員になるためにノード当局にカナク行きを志願したらしい。負傷除隊したジャックとその妻オリビア、そしてアルビンの妻イザベラとヘンリーの妻グレースがノードに帰還してから十数年は経っていた。出迎えたアルビンとヘンリーは心配げな表情で6名の子供たちを出迎えた。

「オーマイゴッド、お前達なんでカナクに来た?ここは危険な処だ」

「パパたちが戻ってこないから、家族みんな心配して、代表で来たんだよ」

「パパたち、もう良い年なんだから自分達と交代でノードに帰ってよ。みんな会いたがってるよ!」

 実際、アルビンとヘンリーはそろそろ七十歳を迎え定年退職する年齢だったが、本人達はまだまだカナクで警備隊員を続けていくつもりだった。しかし子供たちの説得の結果、体力的に役に立たなくなった事を認め、カナク警備隊を退任しノードに帰還する事になった。

「分かった。定年になったら引退してノードに帰ろう。しかしサラルは危険だ。お前たちも気を付けて任務を果たしたら無事でノードに帰るんだ」

「サラルの槍は何時何処から降って来るか分らん。気を付けていてもジャックの様に大怪我をする事もある。くれぐれも気を付けるんだ。ジャックは元気か?」

「パパなら元気だよ。片目と片腕のジャックはサラル討伐隊の英雄だとみんなに尊敬されてるよ。伯父さん達もノードに帰ったら英雄だよ」


 翌年、定年を迎えたアルビンとヘンリーはノードに帰る事になり、長年共にサラルと戦った隊員達に見送られつつノード行きの船に乗り込んだ。波の穏やかな北極海に乗り出した船からは、ローグ山のレーザー砲台とカナクの平和なドーム群が遠ざかっていくのが見えた。

 数日後到着したノードの港には、アルビンとヘンリーの二十年ぶりの帰還を出迎える家族友人などの多くの人の姿があった。ノード政府の歓迎式典が執り行われ、アルビンの妻イザベラ、ヘンリーの妻グレース、そしてノードに帰還していた車椅子のジャックとその妻オリビアが居並ぶ中、アルビンとヘンリーに名誉市民賞が贈られた。ノード政府の広報官は、サラル討伐に長年尽くしたアルビン達が、百年以上前に警備ロボットを修復したカナクの電気技師サムの子孫であり、サラル討伐の英雄アリス、ルーシー、リッチの孫であり、伝説の歌姫エミーの家系である事をノード市民に伝えた。拍手歓声が続く中、6人の老人たちはエミーの思い出の歌「明日に架ける橋」を出席者全員と共に歌う事になった。


【Bridge over Troubled Water (Simon & Garfunkel)】

 When you're weary, feeling small

 When tears are in your eyes, I'll dry them all

 I'm on your side, oh, when times get rough

 And friends just can't be found

 Like a bridge over troubled water I will lay me down・・・


 この頃2台のレーザー砲台が設置されたノードでも、人々はサラルの脅威を忘れたかのような平穏な日々を取り戻していた。人々の中にはサラルが山岳地帯に生息し、人類がノードとカナクのドーム都市に居住するという「人とサラルの住み分け」が出来るのではという楽観的な意見も出始めた。

「レーザー砲台がサラルを近付けないから大丈夫だ」

「サラルもカナクやノードに近付いてレーザー砲でやられるより山で平和に暮らす方が良かろう」

「とにかくサラルの居る山岳地帯に近付かなければ良いのだ」

「山岳地帯のサラルを刺激しなければ、人とサラルの共存が出来るはずだ」という意見さえあった。


 しかしノード政府によるドローン調査では、この間も山岳地帯に生息するサラルは数を増やし5万を超す群れとなっていた。ノード政府はこのままサラルが増え続け、人類の数を圧倒する事になれば、レーザー砲台でもカナクやノードを守る事が出来なくなる可能性があると危惧していた。

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