表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
壺の少女~真実を映す器~  作者: 大日向郁美


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/13

第6章 囁きの書庫

 リュシエンヌは息を殺し、書棚の陰で身を縮めた。

 ランプの明かりがゆらりと揺れ、光が床を這う。


 セラフィーヌは仕立ての良い深紅のドレスを身を包み、宝石をきらめかせていた。侯爵夫人の所作を完璧に体現している。その指先がテーブルをなぞるたび、静かな冷たさが室内に広がる。


「レオン……王の容体はどう?」


 低く、抑えた声が返る。フードの影に隠れた騎士ーーレオンが答えた。

「医師は、もってあと数週間だと」

 

 セラフィーヌは口角をわずかに吊り上げ、淡い笑みを漏らす。

「そう。ならば急がなければ。……世代交代は間近よ。アドリアン派が優位に立てば、私たちは終わる。」

 

 セラフィーヌの声は冷たく澄んでいた。

「愚弟が……。王子暗殺をしくじりおって。」


 レオンは舌打ちをし、短く肩をすくめた。

「……あの方は、予想以上に手強いお方です。長く護衛として仕えておりますが、隙が無い。しかし、王子に放った矢には‘‘灰蓮草‘‘の毒を塗り込んでます。今頃身動きが取れなくなってるでしょう」


「王妃様が何の為にお前を護衛に据えたか、分かっているのか。あの証拠を消さねば、すべてが露見する」


「手は尽くしています。」レオンは低く答える。

「先ほど、侯爵領の森で足跡と血痕をみつけたという報告がありました。奴はこの近くにいる。王妃様の指輪も王子が持っているでしょう」


「森、ね」

 セラフィーヌはまつ毛をゆっくりと動かした。

 唇にそっと指をあて、思案するように笑う。やがて声を甘く落とす。


「いっそ都合がいいわ」


「どういう意味だ?」

 レオンが眉をひそめる。セラフィーヌは艶やかに目を細め、楽し気に言葉を紡いだ。


「侯爵の娘、リュシェンヌは‘‘呪いの娘‘‘と呼ばれている。誰も近づかない。もし死体のそばにあの娘がいたなら、だれも疑わないでしょう?」


 その笑みに、レオンの息が一瞬止まる。だが彼は理性的に返す。

「王子を殺し、罪を娘にかぶせるつもりか?」


「そうよ」セラフィーヌの声は氷のようだった。

「そうすれば侯爵家の血筋は絶える。女侯爵の座は私のもの。王妃様も功績を称えてくださるわ。……あなたも恩恵にあずかれる」



 リュシェンヌは、セラフィーヌとレオンの会話を聞き続けた。

 言葉の一つ一つが、冷たい刃のように心に突き刺さる。


 リュシェンヌの耳に、思わぬ言葉が引っ掛かった。


(矢に毒……?灰蓮草……?)

(森で怪我をしていたあの人は……もしかしてーー)


 二人の会話を聞き漏らさないよう、手に持った本をぎゅっと抱きしめた。

 意識が会話に集中し、少し頭を傾けすぎたのかーー

 

 ーーカタン


 被っていた壺が書棚に当たってしまった。


 セラフィーヌの声が止まる。レオンもランプを掲げてこちらを見ている。

 リュシェンヌは慌てて後ろの書棚に逃げ込むが、すでに二人の視線は音の方向へ向けられていた。


「……誰か、いるのか?」


 レオンが前に一歩踏み出す。

 リュシェンヌの心臓は喉にまで上がり、鼓動が耳を打つ。


(……見つかったら、どうしよう……)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ