第99話 やぶってみた
「イリスさん! キモノの襟は右前…… あの、向かいあった人から見ると、左の襟の上に右の襟がのってるようにするんですよ!」
{はいなのです!}
俺たちが関所を無事に抜けるためには、ゲイシャに変装しなければならない ――
難易度の高いミッションだと思ったが、ここで、意外と活躍してくれているのが、ミアである。
竜神族にしてはアクティブな彼女は、ゲイシャにも詳しかったのだ。
なんでもミアは、かつてヤパーニョ皇国にちょこちょこ遊びに行っていたそうで…… 遊女たちの奉納舞などを目にしたことが、幾度もあるらしい。
俺はその辺はさっぱりだから、本当に助かった。
ミアの指導に従い、イリスは徐々に、ゲイシャ (ミアが言うには 『マイコ』 だそうだが) らしくなっていく。
独特な日本髪に、造花や宝石のかんざしを挿したイリスは、ぷにゅっと小首をかしげた。
{ミアさん! これで、どうですか?}
「うーん、だいたい、いいんですけど…… すみません。キモノを、もう少し華やかにしてみましょうか」
{やってみるのです!}
ミアのオーダーを受けたイリスは、しばらくぷるぷる震えていたが、やがて、ぷにゅんと地面にへたりこんだ。
{ぷうううう…… なんだか力がぬけていく…… のです}
「ほい、スペア心核、交換」
{同期率10%…… 50%…… 80%…… 100%…… リンタローさま、ありがとうなのです! げんき、100ばいなのです!}
どこかのあんパンのヒーローみたいだな、イリス。
(とすると、俺はジャムおっさんか)
{けど、スペア心核…… そんなに使ったら、なくならないですか?}
「大丈夫だ。いま、イリスが変身してるあいだに、追加錬成しといたから」
{さすが、リンタローさまなのです! ぬかりないのです! ありがとうなのです……!}
「いや、たいしたことないって」
おかげでスキルレベルも、49まで上がったしな。
―― スキルレベル49では、たいした特典もなかったが 《座標転移術師》 という称号が増えていた。
AIの説明によれば、この称号によって、座標の位置に正確な転移陣を一瞬で張れるようになるらしい ……転移を習得しており一定のレベル以上だともらえる称号だそうだ。親切設計だな。
{じゃあ、もういちど! 変身するのです……!}
ぷるぷるぷる、ぷるっ……
イリスが細かく、震える ―― やがて。
無地だったキモノの表面に模様が浮かびあがった。
―― 水色の地に、流水紋? だったか…… 流れる川のような白っぽい線。その上を、色とりどりの蝶が飛んでいる。
いまの季節らしい、涼しげなデザインだ。
「イリス、よく似合ってるな」
{えへへへ…… リンタローさまにそう言ってもらうと、お世辞でも嬉しいのです!}
「お世辞じゃない! イリス姐やんは、かわいいぞ!」
ミリンが偉そうに保証すると、イリスはてれたようにグリッターを漂わせた。
「ふう。まあ、こんなところですね!」 と、ミアも満足そうだ。
「さあ、次はリンタローですよ!」
「ええっ、俺も、ゲイシャに!?」
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