第90話 逃げまくった
ヤパーニョ皇国に到着して、9日 ―― 俺とイリス、ミアの3人は、デジマ奉行からあてがわれた豪華な和風旅館にいた。
なにをするというわけでもなく、畳の上に寝転がり、遠くからかすかに響く太鼓と銅鑼の音に耳を傾けている。開け放った窓からは、心地いい、そよかぜ。
{ぷぁぁぁぁ…… たいくつ、なのですぅ}
イリスが、小さなグリッターを漂わせてあくびした ―― まあ、気持ちはわかる。
ヤパーニョ皇国でただひとつという、最高神教の教会。きらびやかな花街に、土地神を祀ったとかいういかにも和風な神社……
この7日間で、もう、デジマ内はだいたい観光しつくしてしまったからな。
ちなみに、いま遠くから聞こえている太鼓と銅鑼の音はヤパーニョ船競漕のものだ。
大人数が太鼓と銅鑼にあわせていっせいに櫂を動かし、豪華に飾り立てられた船を漕ぐ ―― 掛け声も勇ましく、波をけって猛烈な勢いで進む船のレース。
華やかで爽快感すらあり、見飽きないには違いないのだが……
たいたい2日に1回は開催されているこのレース、俺たちがデジマについてから、今日で3回目である。
さすがに、観る気にはなれないよな…… もはや、楽しみより焦りのほうが勝ってしまってる。
なぜこうも、必要な情報がまったく、入ってこないんだろう。
「はやくイリスの心核を取り戻さないと、いけないのにな……」
「ォロティア義勇軍の消息、まだ、つかめないんでしょうかね」
竜神族のミアが、青い眉とその下の金色の目を曇らせる。
―― ここデジマに到着したとき、奉行は駕籠を寄越して、俺たちを丁重に迎えてくれた。
俺たちがォロティア義勇軍を追っていることを聞くと、すぐに捜索を始め、わかったことがあれば知らせると言ってくれた。
もしォロティア義勇軍が国内に入りこんでいた場合、捕縛のために俺たちが鎖国結界を通れるよう、すみやかに入国手形を発行することも約束してくれた ―― のだが。
それからいっこうに、音沙汰がない。
ミアが何度か、捜索の進みぐあいを奉行にたずねてくれたが、その都度、相手は言葉をにごす。そして、新しい観光名所を紹介されて終わってしまう。
イリスがまだ問題なく動けているから、カゲ太郎に抜き取られてしまった心核は無事だと推測はできるが……
だからといって、安心なんかできたもんじゃない。
一刻も早く取り戻さなければ、ォロティア義勇軍になにをされるか ――
「どうも、慇懃無礼といいますか……」
ミアがごろっと向きを変え、手でひたいを押さえてためいきをつく。
「イリスさんの心核がヤパーニョ皇国にあることは、わかってるんですけどね」
「まあ、ウィビーをいくら見直しても、表示この辺だからな」
{わたしも、ヤパーニョ皇国内だと思うのです!} と、イリス。
「もしかして…… デジマ奉行と義勇軍、すでに」
癒着してたりして。
ここ数日、なんどか脳裏をよぎった懸念を、俺が口にしようとしたとき。
窓の外の空気がふいに、緊迫感をおびた。
声にならないどよめきは、ヤパーニョ船競漕の観客のそれとは違う。
たとえば、武装した一軍がこちらに向かってきているような……
「リンタロー」 {リンタローさま}
ミアとイリスも、気配を感じたらしい。ほぼ同時に、起き上がった。
「これヤバいやつ」 「と、思います」 {逃げるのです……!}
俺たちは素早く、立ち上がる。
逃走経路は ―― ばんっ
襖が乱暴に開かれた。現れたのは、時代劇の中から出てきたような役人たちだ。同心、だったか、たしか。
「御用だ!」
抜き身の刀が放つ、ぎらっとした白い照りが目に飛び込む……
「竜神様の従者、リンタロー及びイリス! 夢見薬抜荷の罪により、召し捕る! 覚悟せよ!」
== なろう版はここまでです ==
続きが気になったら、広告下の《リンクボタン》をクリック! 『ネオページ』にて独占配信中です。




