第77話 新婚カップルじゃなかった
{新婚旅行なのです!}
「たしかに、それっぽいカップルが多いな」
深い青の海面を、鋭い舳先が切り分けるようにして進む……
遠くを見れば雪の残る切り立った崖とそれを映す静かな入江、真下を見れば陽光のなかでひときわ輝く、踊るような白い波しぶき。
俺とイリスは、ノルドフィノ高地へ向かう客船のデッキでタイタニックしていた。
イリスがはしゃぐのを引きとめていたら、たまたまそういう姿勢になったというだけで他意はないし、イリスがビキニ姿なのは、たまたまそのデッキにプールがあったからで、俺がリクエストしたわけではない。
そもそも俺とイリスがこの船に乗っているのは、仕事 ―― ノルドフィノ高地の 『魔石』 採掘権を得るための交渉に行く途中なのだ。
―― 魔素電池の代替としてノルドフィノ高地の 『魔石』 を使う案がドゥート皇国で通り、俺とイリスが交渉代理人に指名されたのが、1ヶ月前のこと。
それから、俺とイリスは、まずアンティヴァ帝国に戻って久々にウッウたちコボルト親子と会い、ピエデリポゾの村のみんなで歓迎会を開いてもらって彼らが持ってきた錬金術の仕事を高速でこなし (スキルレベルが1あがった) 、イリスの祖父のバ美肉スライム爺ちゃんに挨拶に行って恩返しされかけ、アシュタルテ公爵に報告に出向いて戦闘をしかけられ (強くなったとほめてもらった) 、旅のしたくを整えて出発。アシュタルテ公爵領北部の港から客船に乗り、いまに至る ――
アシュタルテ公爵領からぐるっと海をまわってノルドフィノ高地とその南のバアル公爵領を経由し、ヤパーニョ皇国のデジマ港に到着する約15日間の航路。
俺とイリスは5日後にノルドフィノ高地近くの港で降りるが、大体の客はデジマを目指す。
デジマ以外は鎖国しているというヤパーニョ皇国だが、異国情緒あふれる人間の国は魔族に人気の新婚旅行先であるらしい。
そのためかデッキプールには、イリスの言うとおり、仲良しの魔族カップルでいっぱいだ。
―― 小柄でかわいいコボルトやゴブリン、いかついオーク。ふさふさの耳と尻尾の美男美女はウェアウルフか。プールサイドで制服を着ているマーマンは、客船のスタッフだ。
ひとくちに魔族といっても、いろんな種類がいるな。
「お、あそこにいるの、人間だな」
{ほんとですね! リンタローさま以外で、珍しいのです。しかも、男性どうしの新婚旅行なのです!}
「いや、新婚旅行とは限らないだろ」
どっちかというと、ビジネスっぽいよな。
からだの大きな男と、普通サイズの男のふたり連れ。普通サイズは長い髪をうしろで1つに束ねている。
プールサイドなのに水着じゃないし、難しい顔で話しているし…… と、目があってしまった。
気まずくなって、俺はあわてて目をそらす。
だが、向こうも俺が人間だと気づいたらしい。
普通サイズが忙しそうに去ったあと、大きいほうが話しかけてきた。
「おたく、ヤパーニョまでいくのか?」
「いや、バアル公爵領の北のほうだ。いい薬草を探しにね」
とっさに嘘をついたのは、もちろんノルドフィノ高地の 『魔石』 の存在に気づかれないようにするためだ。
だが、男は怪訝そうな表情になった。
「薬草? なんだそれは?」
「ポーションに混ぜると効果が上がるものを探していてね。俺は錬金術師なんで」
「ほお。錬金術師か。珍しいね」
「よく言われるな」
「そうだろうね。しかし、残念だね」
「なにがだ」
含みをもった物言いに、俺が顔をしかめたとき。
船が、大きく揺れた。
{リンタローさま、あぶないのです!}
「大丈夫だ、イリス」
寄り添う俺とイリスの前で、ふいに男の唇が、にいっと歪む…… まがまがしさすら漂う、笑み。
「祭りが、始まるんだよ」
男はアイテムボックスから舶刀を引き抜いた。海上戦闘用の、湾曲した刃を持つ短剣 ―― 海賊だ。
船上ではアイテムボックスからものを出せない仕様になっていたはずなんだが、いったいどんな技をつかったんだろう。気にな…… ってる場合じゃない!
俺が、よける暇もなく。
男は間合いに、踏みこんできた。
海水でも錆びないであろう、つややかで鋭い金属の刀身が俺の首を軽く叩く。
「まずは、おたくから……」
== なろう版はここまでです ==
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