第73話 砂の山が残された
「―― どうぞ、雑事はすべて我々、下の者におまかせください、グロア女皇陛下。陛下には、お好きなパーティーをぞんぶんにお楽しみいただけることが、臣下の喜びでございます」
「有り余るお心遣いをありがとう、長官…… ですが、ォロティア義勇軍への対処はいままでどおりが良いでしょう。何度も言いますが、国としてあのような者たちを支援することは、なりません ――」
「…… ふあ…… ねえ、医官はまだなのか? このままでは、ソフィアねえ…… 公女が……」
軍部長官とグロア女皇の水掛け論が延々と続き、皇子があくびを抑えつつ侍従にたずねるなか。
俺とカゲ太郎は超ちっこいイリスたちのようすを、じっと見守った。
作戦が成功するまで、敵に俺たちの存在を勘付かれるわけにはいかない…… 俺たちは、ただひたすら気配を殺す。
―― くノ一・スライムとでも呼ぶべきだろうか。
5ミリに満たないサイズのイリスたちはみんな、からだにぴったりとした忍者のようなボディースーツ姿だ。色は敵の服と同じ。変身ぶりが、とどまるところを知らないな。
―― しばらくして。くノ一・イリスたちの先鋒が、ようやく3人の敵それぞれの袖口にたどり着いた。
イリスたちは、さっそく、袖口に縫い付けられた毒針を外しにかかる。
まずは、毒針の糸を切るところからだ。
俺からみれば細い糸も、身長5ミリ弱のくノ一イリスたちから見れば、神社の注連縄レベルの太さ ―― どうするつもりだろう。
くノ一イリスたちが、無言でうなずきあう。そして、先頭のひとりがノコギリに変身。
みんなでギコギコ引きはじめた…… これ、敵にバレないか……?
見ているだけで、はらはらするな。
「―― 女皇陛下は、支援とおっしゃいますが…… 各国と協調し、ォロティア義勇軍を大陸から追い出すことも、お考えになっては?」
「それは…… 彼らは、単なる傭兵団ではないのですよ? もともと、この大陸において重要な役割を担っている存在でもあること ――」
グロア女皇は、くノ一イリスたちにも気づいているようだ。
敵方の ―― 軍部長官と使用人たちの注意をそらすように、若干、言い争う声を大きくしてくれている。
俺も、なにかできるといいが…… 残念ながら、いま動くと敵に悟られてしまう。できるのは、出番を待ちながら見守ることだけだ。正直、もどかしい。
15分ほどたったころ ――
やっと、くノ一イリスたちは、3人の敵それぞれの毒針の糸をすべて切ることに成功した。
毒針が、するっと使用人たちの袖口から落ち、それを床ににじんで待機していたイリス 《本体》 が音もなくキャッチする。
用を終えたくノ一イリスたちは、次々と使用人たちの服からこぼれ、イリス 《本体》 に溶けて消えていった。
くノ一イリスたちが全員、イリス 《本体》 に戻ったあと ――
ぷりゅんっ
イリスは俺の隣で少女の姿に戻り、無言で俺に毒針を渡してくれた…… 侍従2人とメイド1人の袖口にそれぞれ1本ずつ仕込まれて、計6本。取りこぼしなしだ。
さすが、イリス。
俺も無言でイリスにサムズアップを送った。
―― この段階でも、まだ…… 茶色チョビヒゲ軍部長官と使用人たちは、俺たちをまったく感知していない。
グロア女皇に注目しているせいだろうか…… だが、ちょうどいい。
俺は、ひそかにカゲ太郎に目配せする。
―― 凶器さえ回収してしまえば、あとは簡単。
カゲ太郎のスキルで異層に敵ごと転移して軍部長官をガッツリと脅し、その野望を挫くだけだ ――
カゲ太郎はかすかにうなずき、スキルを使おうと指をかまえた。
そのとき。
「まったく。らちが、あきませんな」
軍部長官が、いらいらと床を靴先で2度、けった。
これが合図だったらしい。
3人の使用人がいっせいに、皇子めがけて動き出す。
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