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【連載版】出戻り転生傭兵の俺のモットーは『やられたらやり返しすぎる』です  作者: 楽市
第十五章 金鐘崎、新年早々、死屍累々

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第408話 二日/夜/金鐘崎小夜子の懲罰、あと美智子も

 父は、金鐘崎銀太。

 母は、金鐘崎千代子。

 他に兄弟姉妹はなくて、金鐘崎欣司の弟の家に一人娘として生まれたのが彼女。


 ――つまり、金鐘崎小夜子である。


 まず前提として、銀太と千代子は悪い人間ではない。

 銀太は欣司の弟だが、兄のワンマンっぷりに幾度も苦言を呈している。


 千代子も、よく夫を立てる淑女であるが、それは自我が薄弱ということとは違う。

 二人はお見合いによって結婚したが、常に仲睦まじく暮らしてきた。


 三日星に住まう者の中に、銀太が金鐘崎本家を継げばいいと思っていた者もいる。

 しかも少数ではなく、それなりの数だ。

 銀太本人にその気はないので、結局欣司が継ぐことになったのだが。


 そう、銀太は金鐘崎の人間としてはまともな方だ。

 千代子も、銀太と同じく、悪い人間ではない。


 ただそれは『まとも』という意味ではない。

 文字通り、比較的『まともな方』ということでしかないのだ。


 結局は、銀太も千代子も御多分に漏れず金鐘崎の人間。

 それを無残なまでに証明している存在こそ、一人娘の小夜子であった。


 両親の何が悪くて、小夜子がどうそれを証明しているのか。

 決まっている。二人は一人娘の小夜子を悪い方向に溺愛してしまったのだ。


 銀太と小夜子は、元より子供ができにくいという診断を医者から受けていた。

 そして、その状況で結婚四年目に生まれたのが、小夜子だった。

 それだけを見れば、二人が小夜子を溺愛するのは至極当然といえた。


 ただ、溺愛しすぎた。

 父も母も、小夜子が可愛い一心で、ロクに叱ることもせず甘やかしてしまった。


 それに加えて小夜子の生来の性格が傲慢だったのもある。

 結果としてできあがったのは、我慢の利かない『三日星のお姫様』であった。


 なまじ、銀太が三日星で人望を集めていたのが悪かった。

 銀太が叱らない以上、周りの大人は誰もが彼に忖度して小夜子を怒れなかった。


 するとどうなるのか。

 子供は、常に自分こそが一番であると考える生き物である。


 負けることを嫌い、従うことを嫌い、誰かの下にいることを嫌う。

 幼少期の金鐘崎小夜子は、まさにそうした子供の厄介さを濃縮した存在であった。


 年上の子供に何かされれば速攻でその子供の親か自分の両親に告げ口をした。

 大人が自分のわがままに従わなければ、それもまた自分の両親に泣きながら報告した。


 まともな大人なら、まずは確認をするだろう。

 子供と思っている浅はかな大人なら、そもそも取り合ったりはしないだろう。


 しかし金鐘崎銀太は浅はかではないが、まともでもなかった。

 彼は娘の言葉を直ちに真に受け、小夜子に従わない大人に罰を与えた。


 そんなことがしょっちゅうあった。

 小夜子が小学校に上がっても、中学生になっても、高校生になってすら。


 少なくない人間から本家の家督をと望まれた銀太は、もうどこにもいなかった。

 小夜子の後ろ盾は、半ば暴君と化した金鐘崎銀太。

 そして、妻である千代子もまた同じ。小夜子は絡むと正常な判断力をなくした。


 こうして、金鐘崎小夜子の『お姫さまっぷり』は日増しに横暴さを増していった。

 当たり前だろう。

 彼女は、精神的な成長というものを一切しないまま今に至るのだから。


 子供の成長を助けるどころか阻害した。

 その意味で、銀太と千代子は親の務めを果たせなかったということになる。


 小夜子は子供の頃から何も変わることなく『王女様』としてあり続けた。

 本家姉妹がどちらも心の弱い人間になったのと対照的に、強気で傲慢で、尊大で。


 だから、本家の美智子は、小夜子に従ってしまった。

 本来であれば、小夜子の方が美智子の下につく立場であろうに、そこがねじれた。


 小夜子は心底気持ちがよかっただろう。

 分家の自分が、本家の次女を従えて、長女をいじめ抜いたのだから。


 しかし、何事にも終わりというものはある。

 実に二十年以上続いた小夜子の栄華にも、ついに終止符が打たれるときがきた。


 きっかけは、小夜子の妊娠だった。

 高校二年くらいから、小夜子は男遊びが派手になった。


 元より金があり、そして田舎の三日星に辟易していた彼女だ。

 外に出て男と遊ぶことが急に増えて、銀太と千代子はそれに危機感を募らせた。


 それでも、その懸念が十代のときに現実とならなかったのは僥倖だろう。

 だが結局は小夜子が二十代前半のときにそれは起きた。

 適当に遊んでいた軍司という男との間に、子供ができてしまったのだ。


 生まれたのは、一卵性の男女の双子。

 つまり、カリンとジンギである。


 最初こそ、銀太と千代子は二人の誕生を祝福した。

 しかし、小夜子はすぐに子育てを放棄した。親であることを投げだしたのだ。


 これには、銀太も千代子も仰天し、娘を諫めようとした。

 だが、精神的に子供のままの小夜子が、それを聞き入れることなどするだろうか。

 もちろん彼女がそんな殊勝な人間なはずがない。


 ここで、銀太と千代子は思い知ったのだ。

 自分が親として失敗したことを。そのツケを孫に押しつけた事実を。


 以降、二人は今さら小夜子を教育しようとして、失敗し続ける日々を送る。

 そして小夜子は、孫二人を人質にして、自分の両親から金を搾り上げていった。


 孫二人が小学五年になった今、銀太も千代子も小夜子の被害者でしかない。

 当然、彼ら二人に、小夜子に対する愛情など残っているはずがなかった。


 残されたのは、生まれてしまった孫二人への愛情と、それを大きく上回る罪悪感。

 そして、そこにつけ込んで、小夜子は親から金をせびり続ける。


 やがてそんな生活の果てに――、カリンとジンギは『出戻り』した。

 死因は餓死。

 そうなった原因は、小夜子からの過酷な虐待であった。


 では、ここで質問だ。

 金鐘崎小夜子に『救い』は必要だろうか?



  ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 小夜子が目を覚ましたのは、やけに寝苦しいからだった。


「な、何……?」


 ずっと意識を失っていた彼女は、ジリジリと肌を焼く熱に気づいて、目を開ける。

 すると、そこはひどく汚れた狭いアパートの一室。


「ここ……」


 薄暗く、ゴミにまみれた生臭いその部屋は、ガキ共を住まわせていた部屋だった。

 電灯はついておらず、光源はない。

 だが、暗くはあったが何故か辺りの様子がわかる程度の明るさがある。


「何なのよ、何よ、これ?」


 その臭い部屋の床に、自分は寝かされてる。

 しかも、手足を鎖で縛られて、モゾモゾと蠢く程度しかできない。


 彼女が辺りに視線を巡らせている間にも、空気は熱を増し、湿度も上がっていく。

 ここはまるでサウナの中。

 しかも、湿度の高さゆえに生臭さもひどいことになって、不快指数が高すぎる。


「何よこれ、ふざけんじゃないわよ! 何なのよ!」


 異様ともいうべき蒸し暑さの中、小夜子は大声で叫ぶ。

 誰だ、自分をこんな場所に放置したのは。

 誰だ、自分をこんな鎖で縛りつけてくれたヤツは。


「私を誰だと思ってるのよ、ちょっと! いるんでしょ、出てきなさいよ!」

「ぅ、う……」


 鼻が曲がりそうな悪臭に吐き気を催しながら叫んでいると、近くから声がする。

 聞き覚えのある声だった。


「……美智子?」

「ぁ、え、さ、小夜子、さん?」

「く、この……ッ!」


 ロクに動けない小夜子が苦労して声がした方に体を向ける。

 すると、そこに自分と同じく鎖で繋がれて床に投げ出されている美智子がいた。


「美智子、あんたもここに……?」

「も、って、小夜子さんも? あの、ここは一体……、ぅ、くさ……」


 場に漂う悪臭に美智子も顔をしかめる。

 自分の借りている部屋だとも言いにくい小夜子は「知らないわ」と言おうとした。

 だが、先に美智子の問いに答える声があった。


『ここはワシらの部屋を再現した『絶界』じゃよ』


 空間を切り取るようにして、二人の見える位置に四角いスクリーンが現れる。

 そこに映っていたのは黒い和服姿のおかっぱ頭の少女と、背を丸めた陰気な少年。


「あんた達……」

「え、あ、小夜子さんの……?」


『一応、今はまだ金鐘崎花梨と名乗ってやろうかのう』

『…………金鐘崎神祇』


 異世界での名前ではなく、あえて金鐘崎姓を名乗るカリンとジンギ。

 そして、その背後にもう一人、小夜子達が知る人物が控えていた。


『一応、アタシもいるよ』

「あ、あんた、美沙子……!?」


 小夜子にとっては長年いじめ続けてきた相手であり、美智子にとっては実の姉だ。


「何よこれ、何なのよ! 一体どういうことよ! この鎖、ほどきなさいよ!」

「姉さん、何なの? これは何、どういうことなのよ?」

『どっちも同じようなことしか言わないねぇ』


 画面の向こうで美沙子は呆れ顔になり、代わってカリンが軽く説明をする。


『うむ、正直おんしらと話すこと自体時間と脳細胞と声帯と体力の無駄なのでさっさと言っておくな。おんしら、今からそこで放置されて、飢えて死ね』

「はぁ……!?」

「な、何言ってるのよ……!」


 ニコニコ笑うカリンの言葉に、小夜子と美智子は激しい戦慄を見せる。


「ウソでしょ? 何言ってんのよ、あんた! 人に死ねとか、何考えてんのよ!?」

『おんしがそれをワシに言うのって、ぶっちゃけただのギャグじゃよねー』

『…………しかもサムいヤツ』


 笑うカリンの横で、ジンギが一切表情を変えずに体だけ震わせる。


「じ、冗談よね、姉さん。そんな、飢え死にしろとか……」

『冗談なモンかい。アンタはそこで苦しみ抜いて死んでおきな、美智子』


「何でよ、どうして! どうして私が……!?」

『それが仕返しだからさ』

「し、しかえ……」


 声に大した感情も乗せずに言う美沙子に、美智子は絶句する。


「そんな、姉さんのことをいじめてたのをまだ根に持って……!」

『バカだね、アンタは。そんなことじゃないよ』


 てっきりそれかと思っていた美智子に対し、美沙子は笑って肩透かしを食らわす。


「え……」


 またしても驚く美智子に、美沙子は顔から笑みを消して理由を告げる。


『アキラをさらおうとしただろ、アンタ。そこの小夜子と結託してさ』

「ぁ、そ、それは……」


 急にトーンを落とした美沙子の声に、美智子は顔色を悪くする。

 だが、美沙子に、彼女の言い訳を聞くつもりは一片たりとも存在していなかった。


『死にな、美智子。アンタはそのあとで人形に造り変えてやるよ』


 告げる美沙子の指先に、蜂が止まっている。

 崟吾への仕返しにも使われた憑依型の魔獣クグツバチだった。


「ひ、ぃ……! ま、待って! 姉さん、わ、私が悪かったから、待っ……!」


 涙を浮かべ許しを乞おうとする美智子だったが、画面が切り替わった。

 美沙子から、再びカリンとジンギへ。二人が見るのは、小夜子の方である。


「花梨、神祇……!」

『…………きったねーばばあがいる』

「ふざけんじゃないわよ! あんた達、親にこんなことしていいと思ってるの!?」


 ジンギに鼻で笑われ、小夜子がブチギレる。しかしカリンがそれをさらに嘲笑う。


『ヌハハハ、片腹いてーわ、女の形をした汚物めが。ワシら、おんしには散々やられてきたからのー。しっかりと苦しんでこの世から退場してもらうぞ』

「た、退場……」


 カリンの言葉が意味するところを察し、さすがに小夜子も表情を引きつらせる。


「ね、ねぇ、花梨? 冗談よね? そんな、ウソでしょう? ォ、お母さんを……」

『あ、ウチのかかさまね、ミフユ・バビロニャっていうの。おんしじゃないよ』

『…………ボクの母親もミフバビ』


 画面の端っこで苦しく自己主張するジンギを、カリンがペシンと軽くはたく。


『かかさまを略すな、愚弟!』

『…………親愛の証だぞ、愚妹』


 自分が産んだはずの我が子が、自分のことをまるで見ていない。

 その事実は、小夜子にとって予想外に大きな衝撃をもたらす。当然の話なのに。


「ぁ、あんた達……」

『『死ね』』


 二人の子供が、眼光をギラつかせて声を揃えた。


『死ね。ワシらが飢え死にした真夏の閉鎖された部屋で、今度はおんしが死ね』

『死ね。ボク達が死んでなくて残念だったおまえは、死んでボク達を喜ばせろ』

「ぁ、ぁ、ああ……」


 カリンとジンギに己の死を求められ、小夜子の口から声が漏れる。


『その部屋の温度は優に五十度を超えておる。そこで空腹による飢餓と、熱による息苦しさと、腐ったゴミが放つ悪臭と、のどの渇きに苛まれながら、乾き果てろ』

『ボク達は苦しかった。ボク達はおなかがすいてた。ボク達は臭かった。ボク達はのどが渇いていた。ボク達はおまえを恨んで恨んで恨み続けた。だから、死に果てろ』

『そういうことさ』


 共に目を見開き、小夜子に死を求め続ける双子の頭を、美沙子が撫でる。


『死になよ、小夜子。そしてアンタは、美智子と違ってここで終わるんだよ』

「何、それ……? 何よ、それェ!?」


 美沙子の言葉の意味がわからずに、小夜子は大声で問い返す。

 それはあるいは理解できないのではなく、理解したくないだけなのかもしれない。


『ワシらの祖父、銀太に報告しておいたぞ。おんしが行方不明になったと』

「え、ぇ……?」

『銀太は言うておったよ。『探す気はない』、とな』


 だが、カリンから知らされたその事実は、本当に意味がわからないものだった。

 銀太が、自分を探す気はない。それは、それはつまり――、


『金鐘崎小夜子』


 カリンが、自らの母親だった女に、最期に告げる。


『この世界に、おんしがいなくなって困る人間は一人もおらん。――朽ちるがいい』


 そして、呆然となっている小夜子が見ている前で、スクリーンが消える。

 あとには、鎖に繋がれ身動きがとれないゴミまみれの臭い中年女が二人いるだけ。


「ふ――」


 小夜子が怒りを爆発させた。


「ふざけんな! ふざけんじゃないわよ! 出せ、出しなさいよ! この鎖をほどけ! 私を誰だと思ってるのよ、あんた達! 花梨の分際で、神祇の分際で、美沙子の分際で! ほどけ、ほどけほどけ、ほどいてよ! ふざけるなァ――――ッ!」

「うるさいッ!」


 だが、それに対して、さらなる大声で美智子が抗議をする。


「ぁ、あんたなんかの言うことを聞いたから、私まで……! いやよ、私、死にたくない……。死にたくない! お願い姉さん、許して! ごめんなさい! 許して!」

「な、美智子、あんた……。あんた、私を裏切る気なの? あんたみたいな虫けらがいい思いできたのは誰のおかげだと……!? この、恥知らずッ!」

「何よ、あんたなんかが――」


 美沙子に許しを乞い始めた美智子が許せず、小夜子は面罵する。

 すると、美智子もそれに大声で言い返し、二人は灼熱の中で醜く言い争う。


 だが、それも長くは続かない。

 体をロクに鍛えていない二人には、こんな地獄で言い争える体力などなかった。


 早々に疲れ果てて、二人は床の上にぐったりと横たわる。

 しかし、そうして寝ていても体力が戻ることはない。

 尋常ではない気温と湿度が、二人の体から汗を流して水分と力を奪っていく。


 何もない。

 何もない。

 ただ、死ぬまで続く苦しみだけが、そこにある。


「ぃ、いや……!」


 それに気づいたとき、小夜子の口から出たのは恐怖による拒絶の声。

 仮に謝罪であったとしても、聞く者は美智子だけで、許してくれる者はいない。


「ぁぁ、ぃ、や、いや! いやッ! やだ! 死にたくない、死に、死……!」


 それが、かつて自分の子供達二人が味わった気持ちであることを彼女は知らない。

 知らないままに、金鐘崎小夜子は腐ったゴミに埋もれて、干からびていく。


「いやよォォォォォォォォォォォォォォォォォ――――ッ!」


 それから『絶界』内で五日後、現実での二時間後、小夜子と美智子は枯死した。

 飢えと衰弱に苛まれ、ひたすら泣き続け、苦しみ続けた末の死だった。

 彼女達が苦しみ抜く様を、カリン達は、外から『金色符』を通じて観察していた。


 美智子だけが回収され、小夜子の死体は『絶界』の閉鎖と共に消滅した。

 誰からも悲しまれることのない、ある人でなしの末路であった。

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