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【連載版】出戻り転生傭兵の俺のモットーは『やられたらやり返しすぎる』です  作者: 楽市
第十五章 金鐘崎、新年早々、死屍累々

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第400話 二日/昼/Side:アキラ/墓に轢かれて死ぬ女

 俺が息を吐くたび、空気が焼け付く音がする。

 焦げ臭い。今、俺の周りは焦げ臭い。


異能態(カリュブディス)――、『兇貌刹羅(マガツラ・セツラ)』」


 昼間、薄暗い山の中、マガツラと一体化した俺は、小柄な黒鬼へと姿を変える。


「な、何だこいつ……!?」


 姿を変えた俺を見るなり、グラサンが驚きの声をあげる。

 本当に、悠長なモンだ。

 今からおまえら全員、この世界から消えるのになぁ。


 ビシビシと、空間に黒い亀裂が入っていく。

 相変わらず俺が異能態を使うと『異階』が壊れていく。毎度のことで慣れたが。


「おまえからだ」


 一番近くにいるグラサンのもとへ、俺は一歩で肉薄する。


「……へ?」


 いきなり眼前に現れた俺に、グラサンは気の抜けた声を出す。

 バカが。普通の人間に、今の俺の動きを認識できるかよ。

 俺はグラサンの右腕を掴む。


「な、何しやが……ッ」

「――『亡却業火(オーバーブレイズ)』」

「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッ!?」


 小夜子と美智子、残る男共が見ている前で、グラサンが白い炎に焼き尽くされる。


「ひッ、な、何だありゃあァ!」

「まず一人」


 存在を焼かれて無色透明となったグラサンを粉砕し、俺は次の目標を定める。

 次は、タマキを変な目で見てたチャラ男にするか。


「な、お、オイ、来るなッ! 来るなァ!?」


 チャラ男が俺に向かって木刀を振り回す。

 しかし、ただの木の棒でしかないそれは俺に当たる前に燃え上がり、炭と化す。


「うあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!」


 武器を失ったチャラ男が俺に背を向けて逃げ出すが、俺はチャラ男を指さす。

 指先から放たれた魔力光が、チャラ男の肩を撃ち抜いた。


「ぃぎッ!?」


 痛みに声を出し、チャラ男は地面に転がる。

 そして、空間に亀裂が走りゆく中、俺は大股に闊歩してチャラ男に追いつく。


「ひぃ、ひぃ、た、助け……」

「やだね」


 丁寧に一言断りを入れて、俺はチャラ男を踏みつけて『亡却業火』を発生させる。


「あああああああああああがあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッ!」


 チャラ男は硝子の像となり、俺はそれを踏み潰して粉々にする。

 こうして、二人目がこの世界から抹消された。


「ひ、な、何だよ、おまえ、ぉ、おまえェェェェ……!?」


 軍司がヘタリと腰を抜かして声を震わせる。


「おまえらは全員こうなるよ。おまえがしたことは、残念ながら消えないがな」


 マガツラが自律するようになった影響か、自分の異能態への理解も深まった。

 これまでは判然としなかった『亡却業火』の効果範囲が認識できるようになった。


 例えば、この場で軍司と小夜子を抹消しても、カリンとジンギは消えない。

 どうやら『生死が関わる状況』は、当事者が抹消されても修正されないようだ。


 だから二人が『出戻り』した事実も消えることはない。

 だけど、このクソ親共の記憶や記録が消えるなら、多少なりともマシではあろう。


 消してやるよ、おまえら全員。

 自分の全てを焼き尽くされる苦しみの果てに、無へと帰すがいいさ。


「オイ、ォ、オイ!?」


 軍司が中ボスに呼びかける。

 俺が異能態となって以降、こいつだけは目立った反応はしていなかったが――、


「どうにかできるか、こんな怪物……!」


 諦めていただけだったらしい。いやぁ、笑うわ。

 だが、軍司はこの中ボスのことを頼りにしている御様子。だったら、なぁ?


「ぁ、れ、消え……?」


 俺は軍司の前から、一気に中ボスの足元へと移動する


「よぉ、デカブツさん」

「な、このガキッ!」


 俺に気づいた中ボスが、顔を引きつらせながらも殴りかかってくる。

 抹消された二人の反応を思えば、それだけでも大したモンだ。


 だけど、格差を感じてるクセに無策で突撃かい?

 そいつはただの自殺とどう違うんだい、なぁ、中ボスさんよォ!


「ぐぅあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッ!?」


 中ボスの絶叫が、壊れかけた『異階』に響き渡る。

 バカだよねぇ、今の俺には触れたらアウトだってわかるだろうに。

 何も考えず殴ってくりゃ、そりゃあ受け止めて『亡却業火』さ。苦しんで消えろ。


 ああ、結局は軍司以外の三人の名前もわからずじまいか、悲しいなぁ。

 こうなったのも、全部、小夜子が悪い。くだらんコトを考えた小夜子のせいだ。


「ぁ、ああぁ、あ……!」

「何で、何が、何よ、これぇぇぇぇ~……!」


 小夜子と美智子は目の前で三人が消された事実に、ただ愕然となっていた。

 こいつらは、ただ存在を抹消するだけじゃ終わらせない。


 特に小夜子には念入りに仕返しをしてやる。

 お袋のこともある。カリンとジンギのこともある。

 ただで死ねるとは思うなよ。


「うぅ、ぅあ、あああああああああああああああああああああああああああああ!」


 恐怖に耐えきれず、軍司が悲鳴と共に逃げ出す。


「芸がない、全く」


 俺は一瞬背その背中に追いつくと、勢いのままにドロップキックを一発。


「ぐひぃ!?」


 軍司は情けない声をあげて、地面に顔を打ちつけた。


「何、逃げてんだよ、パパさん。まだ子供がそこにいるのによぉ?」

「ぅひ、ぃ、た、たす、助け……」

「…………」


 俺は、業火を使うことなく鋼鉄の装甲に覆われた腕で軍司の顔面を殴る。


「ギヒッ! がッ!? うぎっ、ぎゃあッ! ぁ、が、あああぁぁぁぁぁぁぁッ!」

「苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。苦しめ。カリンとジンギの万分の一で苦しんで死ね」


 壊れゆく『異階』の中で、俺は軍司に馬乗りになってその顔面を殴り続ける。

 グチャという音がする。頬骨が砕ける感触が届く。折れた鼻から血が流れ出る。


 だが足りない。全然足りない。

 こんなものじゃ、全然足りちゃいない。苦しめ。もっと苦しめ。


「や、やめでぇぇぇぇぇぇぇええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!?」

「イヤだね」


 顔を変形させ、命乞いを響かせる軍司に俺は告げて、その首に手をかける。

 さぁ、焼き尽くしてやるよ、お父さん。

 とことん苦しみ尽くして、挙句の果てにこの世の全ての記憶から消えちまいな。


「おとしゃん……ッ!?」


 タマキの切羽詰まった声が俺へと届く。

 何事かと振り返れば、俺のすぐ背後にヤツがいた。赤い影の異面体。


 それは、年始の挨拶のときのように影の鎌を振り上げている。

 奇襲にはまさに絶好のタイミング。俺が隙を作るのを待ってやがったようだ。

 なるほどね、小夜子が動いたのはそういう理由か。


 異面体の本体に炊きつけられでもしたのだろう。

 今まさに鎌を振るおうとする異面体を前に、俺は冷静に分析する。


「ととさま!」

「…………父親、避けて」


 カリンもジンギも、俺にそう声をかけてくれるが――、


「バカがよ」


 影の大鎌が俺に届く寸前、赤い異面体は黒い炎に包まれる。


『――――ッッ』

「異面体が異能態に勝てるワケねぇだろうが。焼かれて消えろ。おまえはあとだ」


 声なき悲鳴をあげる異面体に告げて、俺は今度こそ軍司を白い炎で焼く。


「あッ、ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッ!?」

「ぐ、ひッ!」


 軍司が存在を焼かれる一方で、小夜子はいきなり苦しみ出してその場に倒れる。

 崟吾と同じような反応。今回の『仮の本体』はこいつだったか。


 尋問が必要だな。

 小夜子を『仮の本体』にした赤い影の異面体の本体。

 そいつを聞き出さなきゃならん。


「そしてこれで、四人」


 無色透明の像となった軍司を、俺は握り潰して破砕する。

 同時に『異階』が限界に達して崩壊し、俺達は現実世界へと帰還する。


「残ったのはおまえだけだぜ、美智子さんよォ?」


 人の姿に戻った俺が、顔だけを美智子に向けて、一言投げかける。

 それだけでも、美智子の恐怖を煽るには十分だったようだ。


「ゃ、いや! いやァァァァァァァァァァァァァァ――――ッ!?」


 美智子が一目散に逃げだした。

 そして、近くにあった軍司の車に乗り込もうとする。だが、


「な、何でよ! 何で動かないのよ、どうして!?」


 キーは差してあるのに、車はピクリとも動かなかった。

 当たり前だよ。タマキがエンジンに大穴開けたモン。気づいてねぇのかよ。


「捕まえるぞ」

「ほ~い」


 俺とタマキが、美智子の乗っている車に近づく。


「ゃだ、やだ! いやよ、やッ! ぃや、やあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 美智子は、やたら情けない声をあげて車から出る。

 そして親分の小夜子をその場に残して、広場から逃げ出そうとする。


 逃がすワケねぇだろう?

 おまえと小夜子には、じっくりと苦しんでもらわなきゃいけねぇんだからよぉ。


 駆け出そうとする美智子に、俺とタマキが近づいていく。

 しかし、そこに妙な音が聞こえてきた。


 ヂリンヂリン、という変なベルの音。

 それに加えて聞こえるジャアアアアア、という音は斜面を下る車輪の音のような。


 ――え、まさか?


 斜面になっている方から、チャリに乗った怪人物が草木を蹴散らし突撃してくる。

 その男の頭は、墓石。刻まれた名は『貴様之墓』。


「うおおおおおおおおおおおおッ! その迷子に叛逆だァァァァァァァァァ!」


 ヤ、ヤジロだァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ――――ッ!?


「え」


 いきなり現れた常識を駆逐する存在に、美智子が固まる。


「フ」


 そして、何故か一声笑う墓石頭のチャリ野郎。

 二人は綺麗に直線上で結ばれていて、それはつまりどういうことかというと――、


「激突する! だがここで俺は回避に叛逆し、さらに加速するぜェ――――ッ!」

「あばあああああああああああああああああああああああああああああ!?」


 衝ッ、突ッ、事故ッッ!

 俺とタマキが見ている前で、ヤジロの乗ったチャリが美智子に正面衝突。


 衝撃にチャリがひしゃげ、美智子の体も折れ曲がり、変にもつれ合う。

 そしてそのまま、二人+一台はグルングルンと派手に回りながら、近くの大木へ。

 大木の幹に激突したときの音は、ちょっと、形容しがたい。


「あ~あ~あ~ぁ……」


 木に近づいたタマキが、チャリと美智子の様子を見て声を漏らす。

 ヤジロが乗ってきたチャリは、原形を留めないところまで破壊されていた。


 フレームが四つ折りになってるんだが?

 どんな力の加わり方したら、こんな風になるんじゃい?


 美智子も、まぁ、無残なモノだった。

 即死、だろうねぇ。首、腕、足、胴体。折れ曲がってないところが皆無だよ。


 こりゃひでぇ。

 ドラゴンにでも体当たりされたんか、っていう有様だぞ。


「――フ、軟弱だな」

「そして何でおまえは無傷なんだよ。頑丈にも程があるだろ!?」


 涼しい声で言ってのける墓石の六男に、俺は叫ばずにいられなかった。


「俺は孤高のアウトロー! この程度の正面衝突、叛逆せずして何とする!」

「ビシッとキメるだけでどうにかなるほど、物理法則さんは甘くねぇんだよ!」


 事実、ヤジロは無傷だが、かぶっている墓石には亀裂が入っている。

 その亀裂は瞬く間に広がって、墓石マスクは真ん中からパカッと左右に割れた。


「……あれ?」


 露わになったヤジロの素顔を見て、俺は首を傾げた。


「何で角生えてんの、おまえ」

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