第401話 二日/昼/Side:美沙子/アウトロー、推参!
左胸に赤いバラのような血色のシミを残し、少女は平然と立ち上がる。
那岐和八雲は泣くのをやめて、妹である彼女を見上げる。
「ゃ、八白……、ぁ、と、十萌?」
「…………」
少女は、しばし無言のまま、右手で自分の左胸に触れる。
まだ乾ききっていない赤い血が、手のひらにベットリと付着する。
「――――フ」
その右手で自分の髪を掻き上げると、シンラがその場に駆けつけてきた。
「無事か、十萌嬢!」
「無事かだと? ああ、無事だよ。無事だとも。この身は全くの無傷さ」
まるで口調が変わった少女に、シンラはすぐさま変化を感じ取る。
「その物言い、まさか『出戻り』を? ……トモエ様か!」
「ク、ハハ、そうか。そうだな。その名が出ても仕方がない。だが、だがな!」
「……何?」
トモエ、ではない?
その想定外すぎる展開に、シンラは目を見開いて少女を見据える。
「だがここでブラザー・シンラに答えるという常識的な流れに叛逆だッ! くらえブラザー・八雲! これが俺の、俺様の、孤高のアウトロー・黄金の右ストレート!」
八雲の顔面にめりこむドロップキック。
「ぶぎゃああああああああああああああああああああああああッ!?」
悲鳴と共に鼻血を散らして吹き飛ぶ八雲。
そして、彼の前に腕を組んで仁王立ちする那岐和十萌――、ヤジロ・バーンズ。
「ヌハッハッハッハハハハ! 見たか、この俺の叛逆を! だが特に意味はない!」
「え……?」
今の言葉で、シンラは目の前の少女の正体をどうしようもなく理解する。
が、理解したがゆえに、余計に理解が追いつかない。
やたら明るい陽キャのお手伝いさんが、今はワイルドに笑って腕組みしている。
そして、叛逆叛逆とうるさいその物言いは間違いなく、自分の弟。六男。
だが、その六男とはついこの間、アキラの部屋で遭遇したばかりで。
しかし目の前の少女は、どう見てもその六男で――、え? ……えッ? えェ!?
頭の中を刹那の間に様々な考えが巡る。
だが、その果てに彼がとった次の行動はひどく単純で明快なモノだった。
「……ヤジロ、なのか?」
「違うな、ブラザー・シンラ!」
「うむ、そこでそう答えるおまえはヤジロ以外の何者でもないな」
「俺の叛逆すら織り込み済みか、イイぜ、仕方がねぇ。認めてやるさ! そうとも、俺はヤジロ・バーンズ。孤高のアウトローにして竜騎士団団長、ヤジロ様よ!」
うなずくシンラの前で、直前まで那岐和十萌であった少女は右腕を振るう。
威風堂々と胸を張るその立ち姿は、間違いなく、シンラの知るヤジロ。
「色々と混乱はするが、ひとまずは置く。それよりもだ――」
鼻血を流してぶっ倒れた八雲の向こう側。
まだそこで、戦闘が続いている。
美沙子と、王原率いる王原組の構成員。派手な銃撃戦が繰り広げられている。
「あ~ぁ~、何だいありゃあ、なっちゃいねぇなァ! 叛逆したくなってくるぜ!」
「ヤジロ、力を貸せ。あの連中を制圧したい」
「おや? 俺の力が必要かい? 勝負は見えてンだろ、ありゃよォ?」
ヤジロがそんなことを言って意地悪く笑う。
そう、勝負は見えている。美沙子の勝利は揺るがない。
しかし、シンラは首を横に振る。
「わかったことを聞くな。おまえとて、この戦いに至るまでの経緯は知っていよう」
「もちろん。八白の、いや、十萌の嬢ちゃんがしっかり見てたからな」
言って、ヤジロは「しかし、十萌ねぇ」と呟いて、クスクス笑う。
「さて、金を貸せよ、ブラザー。十円でいいぜ」
「持っていないのか?」
「生憎、十萌の嬢ちゃんは着の身着のまま出てきちまったんでね。熱い嬢ちゃんさ」
シンラから十円玉を受け取って、ヤジロはそれを右腕の人差し指と中指に挟む。
すると、彼女(彼)の右腕に変化が生じる。
右腕を肩まで覆う、白銀の外骨格。煌めきを伴うそれこそ、ヤジロの異面体。
「とくと見ろ、銃撃戦に対する俺の叛逆を――、『乾坤哮牙』ッ!」
ジジ、バヂと、外骨格の表面に赤い放電が発生する。
ヤジロは指に挟んだ十円玉を振りかぶって、そのままオーバースローで投擲する。
撃ち放たれた十円玉は、赤い輝きを帯びて戦場へと飛来する。
そして、その直線状には、王原組の構成員が撃った弾丸が――、命中!
ギィンッ、と硬い音を立てて弾丸が十円玉に弾かれる。
その弾丸と、同じく弾かれた十円玉が、今度はそれぞれまた別の弾丸を直撃する。
さらに、そうして跳ね返った三発の弾丸と十円玉が、別の弾丸に当たる。
空間を飛び交う全ての弾丸が跳弾と化し、美沙子と王原の間に火花を散らす。
「何だァ、こ――」
驚きに叫びかけた王原の左胸に、自身が撃った弾丸が深く食い込んだ。
「な、バ、カな……ッ」
心臓を貫かれて、王原がその場に倒れ伏す。
「ぐ、ッ、あァ!?」
「うっぐッ!」
「痛ッ、あぐぁ!」
王原だけではなかった。
周りにいた構成員全員の頭や急所に、跳ねた弾丸が次々と命中していった。
最後に、弾き返されて宙を舞う十円玉を、ヤジロが右手で掴み取る。
「――叛逆、完了」
「見事だ」
王原組の完全制圧を達成したヤジロに、シンラが心からの拍手を贈った。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
その後、起きたこと。
まずは当然というべきか、事実を知った美沙子が顔から色を失った。
「え、十萌ちゃんがヤジロ……、さん? ちゃん? だったのかいッ!?」
「フッ、そこで認めることに叛逆することに対して叛逆だッ! つまりYES!」
「これは間違いなくヤジロちゃんだねぇ……」
美沙子も、一瞬で納得したようだった。
「じゃあ、あの墓石の頭の人は一体誰なんだい?」
「俺の名を名乗り、トモエを探す墓石の男か。なかなかの叛逆力を感じるが、状況がすでに答えを告げている。だが、その答えを俺が告げることに、叛逆だッ!」
「つまり、あちらがトモエ様なのだろう?」
ヤジロが口に出さなかった答えを、シンラが言ってしまう。
すると、ヤジロは顔を右斜め45度に傾けて、口角をわずかばかり上げる。
「そうとしか言わないかもしれないが、そうとも言うかもなッ!」
「参ったねぇ、本当に墓石の人とノリが一緒だよ……」
「慣れてください、美沙子さん。こやつに対してはそれしか対処法がないのです」
弟を未知の病原菌のように表現し、シンラが見るのは床に転がる王原組。
一度皆殺しにした連中はすでに蘇生され、今は気を失っている。
「シンラさん」
「何でしょうか、美沙子さん」
「どうして、ヤジロちゃんの力を借りたんです? 別に、アタシ一人でも――」
抱く疑問をシンラにぶつけようとする美沙子だが、そこにヤジロが割って入る。
「おっと、ここで説明役を俺が奪うという叛逆を見せてやるぜ!」
「説明してくれるならどっちでもいいんだけどねぇ」
「クク、だとよ。ブラザー・シンラ。悪いが、今この瞬間、ビッグマザー・美沙子への説明役という唯一無二の役割を、この俺が果たさせてもらうぜ、この俺が!」
クルリとシンラに背中を向けて、ヤジロが肩越しに彼を見てニヤリと笑う。
一瞬『イラッ』としたシンラだが、ここはグッと堪える。
「いちいちポーズをつけるな。説明するならしてしまえ」
「つまり、叛逆だ!」
「だからといって、説明にならない説明をするのはやめろ!」
美沙子が棒立ちになってしまっている。
それに、ヤジロが非常に短い説明をしてみせる。
「したくもねぇ納得なら、さっさと叛逆してりゃよかったんだよ、あんた」
「そりゃ、アタシが王原さんを殺したくないように見えたってことかい……?」
「そういうことです、美沙子さん」
シンラが深くうなずく。
「確かに王原兼続とあなたは考え方の違いから袂を分かった。しかし、あなたはあの男を父親代わりとまで言った。……彼に銃を向けたあなたは、苦しそうでしたよ」
「……見透かされてますね」
美沙子は強がることなく、苦い笑みを浮かべてそれを認める。
「かかる火の粉を払う手はあなたの手じゃなくてもいい。それだけの話ですよ」
シンラは穏やかな調子で言うと、美沙子も無言でうなずいた。
「……信じられねぇ」
そこに聞こえてくる、王原の声。
「王原さん、目が覚めたんですか」
「ええ、お嬢さん。たった今ね」
他の組員がまだ寝ている中、王原は身を起こして、自分の頭をツルリと撫でる。
「俺ァ、死んだと思った。けど生きてやがる。他のヤツもだ。どうなってんです?」
「秘密ですよ。でも、アタシ達にはそれができるんです」
「なるほど……。撃っても死なねぇ、殺した相手も生き返らせられる。つまり、今の美沙子お嬢さんは、得体のしれねぇバケモノになっちまったってことですかい」
「おっと、ミスター・王原、そいつは――」
「いいんだよ、ヤジロちゃん。王原さんの言う通りさね」
王原の言葉は、何も間違っていない。
自分達『出戻り』は、日本に住まう者から見ればバケモノも同然の存在ではある。
「でもね、王原さん。確かにアンタから見ればバケモノだろうけど、それでもアタシは金鐘崎美沙子なんだよ。アンタと茅野さんに面倒を見てもらった、美沙子なのさ」
「美沙子お嬢さん……」
王原が、美沙子の方を向く。
美沙子は、自分を凝視する王原に、しっかりと視線を返す。
二人の間に流れるものは、シンラには察せれない。
ただ、そこにあるのはきっと、言葉にはできぬもの。そして、王原が口を開く。
「お嬢さん、俺ァ、この一件から手ェ引かせていただきやす」
「王原さん……」
「こうなっちゃ俺にできることなんて何もありゃしねぇ。暴力団が暴力で負けちまったら、面子もへったくれもねぇですわ。勝てねぇ相手とは喧嘩しませんよ、俺ァ」
ハァ、と、嘆息して、王原兼続は首を横に振る。
美沙子はただ「わかりました」とだけ返し、それ以上は何も言うことはなかった。
「それにしても、風見さん。いや、皇帝陛下でしたっけ?」
「む、余に何か?」
「少しは恥ずかしがれよ、あんた……」
王原が、今度はシンラを見て眉をしかめる。
だが、当初は刺々しさばかりが目立っていたシンラへの態度も、今は柔らかい。
「あんたは、お嬢さんのことをちゃんと考えてくれるお人のようだ。聞いてた話と随分違ってやがる。やっぱ人の噂ってのは、アテになんねぇモンだ……」
「聞いてた話……?」
肩をすくめる王原に、シンラが反応する。
王原も、金鐘崎本家も、シンラには全くいい印象を抱いていないようだったが。
「風見慎良は美沙子お嬢さんを介して金鐘崎本家の資産を狙ってやがる。そんな話を聞かされりゃあ、そりゃ、いらぬ警戒だってしちまうってモンですよ」
「余が、美沙子さんの資産を!?」
さすがに、聞き捨てならない話であった。
いや、本家の人間から見れば、シンラは得体のしれないどこぞの馬の骨だろうが。
「言いたかねぇが、美沙子お嬢さんは前に男に騙されてるでしょう? だから、今度もそうなんじゃないか、ってな話を前に聞かされたんですよ。奥様にねぇ」
「美喜子に、ですか……」
王原が出した名前に、美沙子が眉をしかめる。
「王原さん、それは、アタシを本家に呼び戻そうって話が出てからですか?」
「いいえ、その前ですよ。むしろ、それが全てのきっかけでしてね。最初に奥様がそんな話を持ち出してきて、それから欣司の旦那が美沙子さんの再婚話を――」
彼からそれを聞かされて、美沙子の表情が硬さを増していく。
さすがに気になって、シンラが確かめようとした。
「美沙子さん、どうされました?」
「いえ、考えにくいと思いまして……」
「御母上のことですか?」
「そうです。あの人は、前の『あたし』と同じです。自分だけじゃ何もできない人間で、誰かに何かを求められて、やっと動き出せる人なんです」
美沙子の説明は、強い確信に満ちていた。
シンラは、以前の『美沙子』のことも十分以上に知っている。
なるほど確かに、あの人は、自分から動き出せる性格はしていなかった。
金鐘崎美喜子がそれと同じだというのならば――、
「《《性格が変わった》》」
答えを口に出したのは、ヤジロであった。
「そう、俺や、ブラザー・シンラや、ビッグマザー・美沙子のようにな」
「つまりは、金鐘崎美喜子は『出戻り』かもしれない?」
示された可能性に、シンラも美沙子が思い浮かべているのは赤い影の異面体。
その本体が、美喜子だというのだろうか。
「こりゃ、さっさと屋敷に戻った方がよさそうだねぇ」
「ええ。急ぎ、戻りましょう」
「クックク、叛逆のし甲斐がありそうな話だぜ」
三人がうなずき合う。
もはや、この王原邸にいる理由はない。早々に金鐘崎本家屋敷に戻らねば。
「ま、待て……!」
だが、そこで三人を呼び止める者がいる。
それは、髪を乱して顔に鼻血の跡をつけたままの、那岐和八雲であった。
「待て、み、美沙子さんは、僕の……」
「諦めろ」
何かを言おうとする八雲だったが、それを先んじて制したのは、ヤジロだった。
「……十萌?」
「ブラザー・八雲。その実らぬ想いに、叛逆だ」
彼女は、近くに落ちていた拳銃を拾い上げると、八雲へと近づいていく。
「今のあんたから見て、俺は奇異に映るろう? さっきまでの『あちし』と何もかもが違うように見えるだろう? 態度も、言動も、雰囲気も、立ち方も、目つきも、その他の全て、指先の動き一つですら、違和感の塊に思えるだろう?」
そしてヤジロは、八雲の額に銃口をグリと押しつけた。
「ぁ、あ、と、もえ……?」
実の妹に拳銃を突きつけられて、八雲の顔が汗にまみれる。
唇を哀れに震えさせる兄に向かって、ヤジロは冷たい声で事実を叩きつける。
「那岐和十萌はもういない。あんたが殺した」
「ぁ……」
八雲の瞳が、揺れる。そして彼が見るのはヤジロの左胸の、乾いた血の跡。
「十萌の嬢ちゃんは、あんたは悪くないと言ったがな。そのせめてもの慰めに泥玉投げつけて叛逆をするのがアウトローの流儀ってヤツなんでね、言わせてもらうぜ」
「な、何を……?」
「那岐和十萌が死んだのはあんたのせいだ。あんたが悪い」
「――――ッ」
「十萌との間にあった、薄くとも確かな絆を、あんたは自分自身の愚かさで断ち切っちまったのさ。自分を想ってくれた妹の殺害という、最悪の形でな」
八雲が大きく息を飲み、表情を凍らせたまま、その場に膝をつく。
ヤジロはそれを興味薄げに見下ろして、手にしていた拳銃を放り投げた。
「どうしてそうなったかは自分で考えることだな。それでまたビッグマザー・美沙子やブラザー・シンラをマトにしようってんなら、そんときゃ、俺が殺してやるよ」
「ぅ、ぅぅ、う、ぅ……!」
そしてヤジロは、両手で頭を抱えて呻く八雲に背を向ける。
「さよならだ、ミスター・八雲。……元気でね、兄貴」
「ゃ、八白、八白……ッ! あぁ、ぁぁ、あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああァァァァァ――――ッ!」
応接間に響き渡る慟哭を耳にしながら、ヤジロは美沙子達と共に外へ出た。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
三人は、飛翔の魔法を使って本家屋敷へと急ぐ。
『腹が減ったな』
途中、食堂が眼下に見えて、魔力念話でヤジロが漏らす。
『ああ、お昼時だモンねぇ……。何なら、どっかに寄って食べてくかい?』
『フフフ、お気遣い感謝だぜ、ビッグマザー。だが、その心遣いに叛逆だッ!』
『つまりは食わんということだな』
『そろそろ、ヤジロちゃんの言い回しにも慣れてきたねぇ』
シンラが通訳し、美沙子がそれに納得する。
何故かヤジロは腕を組んで、空中きりもみ三回転をキメる。特に意味はない。
『本当にいいのかい、ヤジロちゃん?』
『問題はある。ゆえに、問題はない。全ての条件はオールグリーン! &レッド!』
『赤信号が点灯しているではないか……』
何かと的確に読み取るシンラである。
『こんな胸で店に入っても驚かれるだけだ』
言って、ヤジロが示したのは自分が着る和服。
左胸の部分に、デケェ血の跡がくっきりとついたままだった。
『アウトローは着る服を選ばない。だが、意図せぬ叛逆はアウトローの未熟さの証。叛逆とは、叛逆せんと思ったときにこそするもの! あと食事どきに流血はダメ!』
『何故最後だけ常識的なのだ……?』
『俺は孤高のアウトロー。俺の叛逆は、常に大胆不敵に模範的なのさ!』
模範的なアウトロー、とは。
しかし、いちいちいカッコつけているヤジロだが、その姿は十萌のモノなのだ。
これについては、シンラもなかなか慣れそうにない。
『――さて、叛逆の時間と行こうじゃねぇか』
また、ヤジロが何かを言い出す。
『今度は何についてだ?』
『無論、今回の事件の真相についてに決まってるじゃねぇか、ブラザー』
『真相……?』
今回の事件の真相。
それは、金鐘崎美喜子が引き起こした、ということではないのか?
『『出戻り』を果たして性格が変わった美喜子が全ての黒幕である可能性が一番高い。が、高いだけだぜ、ブラザー・シンラ。何事も、事実が確定するそのときまで決めつけちゃあダメさ。思考停止は敗北フラグだと思いなよ?』
『むぅ……』
饒舌に語るヤジロだが、言っていることには一定の理があった。
『ならば、おまえにはあるのか、ヤジロよ。他に何か、推論が』
『ない!』
ものすごく、力強い否定であった。
『ククク、今の流れなら俺に何かがあると思うよな? その期待に叛逆だ!』
『ヤジロよ……』
『そう、今の時点では何もない。が、発想ってのは割と人と話してるときに出てくるもんだぜ、ブラザー・シンラ。いっちょ、ブレストと行こうじゃねぇか』
何やら、唐突に空中ブレインストーミングの時間がやってきてしまった。
他にやることもないため、シンラと美沙子も余興のつもりでそれに加わる。
『さて、例えばだが――』
そこでヤジロが真っ先に思い付きで一つの推論を披露する。
取るに足らない邪推。それを聞いた美沙子は、そのように感じた。しかし……、
『待て、ヤジロよ。今の仮説を、もう一度聞かせよ』
シンラが、それに反応を示す。
ヤジロは『オーライ!』と応じ、今一度、同じ話をする。
『まさか……』
『シンラさん、どうかしましたか?』
『はい、美沙子さん。もしかしたら――』
自分を心配してくれる美沙子に、シンラは、とんでもないコトを言い出した。
『此度の一件、全ての原因は、余にあるやもしれませぬ』




