28.二度目の初めて
薄暗い中でも、バチッと目が合ったのを感じた。シルヴァは巡回でもしていたのか、とにかく通りかかってノーナの声が聞こえてしまったに違いない。
どうしよう。自分はいったいどう見えている?
うつ伏せのような変な体勢で、枕に埋めていた顔は真っ赤だろう。潤んだ目に気づいた彼が近づいてこない理由はなく……
「どうしたんだ。苦しいのか?」
「あっ。う……えーと……」
わざとらしく視線を逸らすしかない。
「大丈夫です……大丈夫なので! もうおやすみなさ……ひゃあっ!」
もう寝るアピールをしてみるものの、絶賛お付き合い中の恋人がここで大人しく引き下がるはずもない。
ベッド脇で屈んだシルヴァは、ノーナの頬を指の背で心配そうに撫でてきた。その繊細な刺激にノーナはぴくんと震えてしまった。
「……なにしてるんだ」
急に飛び出した甘い声に、さすがの彼も違和感に気づいたらしい。低い声で尋問され、言い訳を考える間もなく毛布が剥ぎ取られた。
「…………」
「こ、これはっ。準備しておかないと、って……」
「……俺に、抱かれるために?」
「……はい」
大人しくベッドの上で起き上がって、上着で下肢が隠れることにほっとしながらノーナは正直に告げた。余計な嘘をつくと碌なことにならないと、もう学んでいる。
押し倒す計画は失敗だが、ここは腹を括って彼の意思を聞くしかない。険しい表情を隠さないシルヴァを上目遣いに見上げ、ノーナは尋ねた。
「僕は……シルヴァさんともっと、ふれ合いたいです。……い、嫌ですか?」
寝間着の裾を両手で握りしめる。どうしていつも、自分は失敗ばかりなんだろう……シルヴァにだけは嫌われたくないのに。
情けなさに目頭が熱くなって、ぎゅっと目を閉じた――次の瞬間。
ポスン、とベッドに押し倒されて、ノーナは天井を……そして覆いかぶさって見下ろしてくるシルヴァを見上げた。バーガンディの瞳に情欲の炎がちらついたような気がする。
ノーナは思い切って、シルヴァの頬へ片手を伸ばした。
「ね。シルヴァさん……キス、してください」
「〜〜〜っ! 知らないからな!!」
目尻を赤らめたシルヴァが、怒りに任せたように唇を合わせてくる。しかしその態度と裏腹にキスは優しい。
甘えるようにシルヴァの服の裾をツンと引っぱる。なにかに悶えながらも躊躇いなく脱いだ身体は、男らしさを体現している。久しぶりに彼の裸体を目の当たりにし、ノーナはうっとりと声を漏らした。
「わ、かっこいー……」
小さなランプと、カーテンの隙間から射し込む月明かり。それらが隆起する筋肉を照らし、美しい陰影を作っている。短い銀色の髪もノーナが乱したおかげで絶妙な色気を醸し出していた。
貴族特有の明るい髪色が羨ましい。ノーナも脱がされながら頭の中でひとりごちた。自分も黒髪じゃなければ少しくらい輝いて見えただろうか?
「ノーナは美しいな。俺の、俺だけの星だ……」
枕に散らばった髪をサラリと梳かれて、「夜空の色だ」とシルヴァは幸せそうに囁いた。
その言葉に……心が揺さぶられる。あふれる気持ちを表現できる言葉が見つからない。胸が満ちて苦しい。涙を隠すために、彼へと全力で抱きついた。
夜空の星をノーナみたいだと言ったシルヴァは、ノーナの記憶の中にしかいない。けれど、やっぱり彼は彼だ。ノーナの好きになった人。
「すき……大好きです、シルヴァさん」
「その……敬称はなくしてくれないか?」
「え、いいんですか?」
「さっき呼んでいただろう。ノーナの記憶に残る俺に、負けたくないんだ」
顔が羞恥に染まる。さっきの、そこまで聞こえてたのか……あああ…………
それにしても自分に負けたくないなんて、拗ねた様子が可愛い。シルヴァが六つも歳下であることを思い出したノーナは、くすっと笑みをこぼして彼の名前を呼んだ。
***
「ふぁ、すご、かった……ね」
「あぁ、くそ! ……夢中になってしまいそうだ」
「え?」
無事に行為を終え素直に感動していたノーナは、シルヴァのらしくない悪態にキョトンとした。ピロートークはしないタイプに見えるけれど……
ノーナがどうしたのか尋ねると、彼の両親は多くの相手と身体の関係を結んでいたらしく、シルヴァはそれを嫌悪していたのだという。
結局自分も同じじゃないか……なんて落ち込むシルヴァがなんだか可愛くて、ノーナはよしよしと彼の頭を撫でた。
「好意のある同士なら当然の欲求でしょう? それに、僕が誘ったんですよ? こんな身体だし……満足してもらえたなら嬉しいです」
「ノーナ……! きみほど魅力のある人はいない。もっと自信を持ってくれ」
「ふふっ。――はい。また、しましょうね」
「くっ。かわいさが限界突破してる……その……も、もう一回」
「ふあぁ……ごめんなさい。もう、眠くて……」
ノーナは久しぶりの激しい運動で、想像以上に消耗していた。無意識に無理をしたのか、肩も痛くて熱を持っている気がする。
期待に目を輝かせる年下の男がかわいくて愛おしくて仕方がなかったけど、ノーナは電池が切れたようにコトリとシルヴァの肩に頭を預け、夢の世界へと旅立った。




