3 デンサ要塞へ
翌朝。砂漠の上空は、夜明け前の静寂に包まれていた。
薄暗い黄色が混じり合う、まだらの緑色をした不気味な空。その下を、三つの影が疾走していく。
黄色いスクーターの装甲を強引に移植されたような機械的でもあり、生物的なダチョウの脚を持つ三羽の乗用動物――『アシ』。その背にはそれぞれ、モーニングスターを携えたトレン、人工筋肉ボウガンを携えたリオ、そしてモトラのエースであるエルウイの姿があった。
砂塵を巻き上げ、三人の乗った異形の鳥たちは、かつてオアシスと呼ばれた地――ルーブランド国デンサ要塞を目指して、果てしない砂の海を進んでいく。
装甲をまとった乗用動物『アシ』の背は、歩くたびに特有の鈍い上下の揺れを乗り手に伝えてくる。
吹き荒れる砂塵の中、アシに揺られながら、トレンが声を張り上げた。
「モトラの兵士さんよー。滅ぼした国に何の用があるんだ?」
砂埃のため、目にゴーグルをはめたエルウイが、正面を見据えたまま淡々と説明する。
「デンサ要塞に配備されている赤刃兵のほとんどが、何者かに殺られた。我々の任務は奴の正体と居場所を探し……可能であれば捕獲か殺害することだ。わかったか?」
二人の後ろからは、朝日を反射してギラリと光るサングラスをかけたリオが、ニヤニヤと笑いながらついてきている。砂埃が舞うが頭が大きいためフードは被っていない。
トレンは唯一残された右手の親指をグッと突き出した。
「おー。とにかく赤刃兵を殺ればいいんだろ?」
トレンは砂埃対策として、丸いガラス製のぞき穴と、丸い防塵マスクのついたフルフェイスのフードを深く被っている。そのため、その表情を外から窺うことはできない。
「ちがう!」
エルウイの容赦ないツッコミが、砂嵐の中に響いた。
◇
その日の夜、三人は野営をしていた。
涼しい砂漠の闇の中、赤々と燃える焚き火の傍ら、地面には古びた地図が広げられている。
エルウイがパチパチと鳴る炎から地図へと視線を落とし、口を開いた。
「あとどのくらいで着くのだ?」
「デンサ要塞はルーブランドの中心部だ。あと二日はかかるだろうな」
トレンが地図を指差しながら答える。
すると、横で横着に寝そべっていたリオが、サングラスの奥の目を光らせて呟いた。
「俺の出番は二日後か」
「あー?」
トレンは「何言ってんだこいつ?」と言わんばかりの、低く不機嫌な声を漏らした。
その瞬間、それまで自信ありげだったリオの表情が、「え?」という、どこか決まりの悪そうな顔に変わった。
昨夜の酒場での密会など知る由もないトレンの純粋な疑問に、リオは一瞬だけプロの仮面を剥がされたようだった。
◇
二日後、三人は山岳地帯の峠へと差し掛かっていた。
トレンは鬱陶しいフードをガバリとめくり、久々に新鮮な空気を胸いっぱいに吸い込んだ。のぞき穴のガラス越しではない、故郷の景色が眼前に広がっている。
それは、圧倒されるほど壮大な遠景だった。 巨大な大砲がそびえ立つ城壁。それを囲むように、居住区の古い建物がびっしりと密集して一つの巨大な都市の形を成している。そしてその外周は、すべての命を潤すように全周が美しい運河で囲まれていた。砂漠の中に現れた、あまりにも巨大なオアシス。
その水面から、三人の気配を察した無数の川鳥たちが、バサバサと羽音を立てて一斉に大空へと飛び立っていく。
「あれがデンサ要塞だ」
トレンは静かに呟いた。
「これだけの大都市が、廃墟となったのかよ……」
リオがアシを止め、サングラスに遠景を映し、ぽつりと漏らした。
この後、三人はアシを降り、ついにデンサ要塞の内部へと足を踏み入れた。人っ子一人いない、静まり返った無人の廃墟を、足音を忍ばせながら散策する。
「と……トレえン!」
不意に、裏通りからリオのテンパった、裏返ったような声が響いた。
「あー?」
「なんだよ……コレは……!」
リオのいつもと違う取り乱し方に、トレンが駆け寄る。
「赤刃兵。化物の体に石の脳を移植した生体兵器だ。三年前、ルーブランドを滅ぼした」
トレンは淡々とそれを出迎えた。
裏通りの埃っぽい地面に、骸骨のマスクが大きく欠け、胴体を無残に真っ二つに切断された赤刃兵の死体が、ゴロリと転がっていた。
エルウイは二人の背後で腕を組んだまま、静かにトレンの話を聞いている。
「やけにくわしいな?」
息を呑むリオの問いかけに、トレンは一瞬の間を置き、
「前に……ちょっとな……」
そう言って、肘の上から失われた自身の左腕の付け根を、右の手のひらで引きちぎらんばかりに強く握り締めた。
さらにその奥を覗き込むと、そこは地獄絵図だった。
十数体もの赤刃兵の死体が、あるものは切り裂かれ、あるものは原形を留めないほどに叩き潰され、無残に広がっていた。
「で、今からどーするよ、モトラの兵士さん」
トレンは感情を押し殺した目でエルウイを振り返った。
――その時、三人の背後。
彼らを見下ろす古い建物の小さな窓の闇の奥で、ギロリと、赤刃兵の不気味な眼光が灯り、三人への照準を完全に捉えていた。




