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第61話 記録官レメル

 ――霧の王国ヴェイル、中央記録庁。


 塔は、街の中心にあった。


 石造り。

 装飾は少ない。

 だが、その存在感だけは異様に重い。


 霧の中でも、輪郭がはっきりしている。


 まるで――


 ここだけ、消えない。



視聴者:44

【絶対ボスの家】

【塔ってだいたいヤバい】



 レインは扉を押し開けた。


 軋む音。


 中は、静かだった。


 天井まで届く棚。

 並ぶ記録書。

 整然とした机。


 そして、その中央に。


 ひとりの男が立っていた。



 霧色のローブ。

 白い手袋。

 穏やかな笑顔。


「ようこそ」


 柔らかな声。


「王国記録官、レメルと申します」



 ミナが、わずかに後ずさる。


 この男は、違う。


 街の住民とは。


 “揃っていない”。


 だが――


 揃わせている側の気配。



 レインは直球で切り込む。


「少女ユイの母親はどこだ」


 レメルは瞬きもせず答えた。


「そのような人物は、存在しません」



視聴者:51

【来た即否定】

【テンプレ回答】

【でも怖い】



 レインは机に置かれた帳簿を指さす。


「記録にないから、いない?」


「ええ」


 レメルは微笑む。


「この国において、“記録にない”は“存在しない”と同義です」


「事実とは、記録ですから」



 ミナが、唇を噛む。


「……それ、違う」


 レメルは優しく首を傾げる。


「感情は尊いものです」


「ですが、王国は感情で動きません」



 レインは目を細めた。


「なら聞く」


「なぜ、“忘れる”?」



 レメルは一歩、前に出る。


 足音が響く。


「忘却は、穏やかさです」


「悲しみは、波紋を広げる」


「怒りは、秩序を乱す」


「だから我々は、削るのです」



 ミナの肩が震えた。


 ルナリスで見た“止める支配”とは違う。


 ここは――


 “消す支配”。



視聴者:63

【理屈が整いすぎて怖い】

【思想型ボスきた】

【殴れない敵更新】



 レインは低く言う。


「削った先に、何が残る」


「穏やかさ」


 即答。


「誰も争わない国です」


「誰も悲しまない国です」



 レインの視線が鋭くなる。


「誰も、“覚えてない”国だろ」



 一瞬。


 レメルの笑みが、ほんのわずか揺れた。


 すぐに戻る。


「あなたは、危険です」



 棚の奥から、ひとつの帳簿が浮いた。


 勝手にページがめくられる。


 ぱらり、と音がする。


「レイン」


 名前を呼ばれた。



視聴者:72

【名前呼ばれた】

【え、もう記録されてる?】



 レインは動じない。


「何を書いた」


「あなたの来訪」


「少女ユイとの接触」


「そして、“名前を取り戻す”発言」



 レメルは微笑む。


「残念ですが」


 ページが白く塗り潰されていく。


「王国は、不穏を残しません」



 帳簿から、レインの名前が消えた。


 視界が、ほんの一瞬だけ歪む。



視聴者:83

【え?今消えた?】

【ログ消し?】

【これヤバいぞ】



 ミナが、慌てて言う。


「レイン、大丈夫!?」


「ああ」


 だが、違和感はある。


 記録に干渉された。


 ほんの一瞬、存在が“薄れた”。



 レメルは静かに言う。


「あなたのような存在は、秩序を乱す」


「だから」


 机の奥から、紋様が浮かぶ。


 円環。

 幾何学。

 精密な線。


「処理します」



 レインの目が、細くなる。


(紋様)


 ルナリスで見た“完全紋様”とは違う。


 だが――


 似ている。



視聴者:97

【紋様きた】

【下っ端じゃない】

【黒幕の配下確定】



 空間が、歪む。


 棚が揺れる。


 紙が舞う。


 レメルの背後に、霧騎士団の影が現れた。


 重装甲。


 兜の奥に、感情のない瞳。


「霧騎士団長、グレイヴ」


 レメルが紹介する。


「秩序のための剣です」



 グレイヴが、低く告げる。


「記録にない者は、排除する」



 ミナが息を呑む。


「……レイン」



 レインは、一歩前に出た。


「排除?」


 口元が、わずかに歪む。


「面白い」



 足元の床が、微かに震えた。


 だが――


 霧が濃くなる。


 生成空間の輪郭が、ぼやける。


(座標が定まらない)



視聴者:108

【生成効き悪い?】

【霧が邪魔してる】

【主人公初ピンチ?】



 レメルは優しく言う。


「この塔は、王国の中心です」


「記録の中では、あなたは存在しない」


「存在しない者は、生成できません」


(存在を消されれば、生成も消える)



 一瞬。


 レインの足元の紋様が、揺らいだ。


 ダンジョン生成が、不安定になる。



 ミナが、叫ぶ。


「レイン!」



 グレイヴが、剣を抜いた。


 鈍い金属音。


 その刃には、細かな紋様が刻まれている。


 “埋め込み型”。


 強化個体。



 レインは、ゆっくり息を吐いた。


(なるほど)


(塔の中は、不利)


(生成は“空間に依存する”)


 霧が座標を狂わせる。


 記録が存在を削る。


 ここは、相手のホーム。



 レインは、静かに言った。


「今は、引く」



視聴者:119

【え!?】

【逃げるの!?】

【学習回だ】



 レメルは、わずかに首を傾げた。


「逃走は、穏やかではありません」


 その声から、柔らかさが消える。


「記録から外れた者が、秩序を乱すことは許可できません」


「あなたはここで、“削除”されるべきです」



 次の瞬間。


 レインは、塔全体を鑑定した。


 《塔基礎構造:固定型/霧循環制御:上層依存》


 情報が流れ込む。


(支えてるのは……上じゃない)


(“下”だ)


 レインは足元へ意識を落とす。


 霧の塔の地下――


 記録を支える基盤石の構造を読み取る。


 もう一度、


 レインは、足元に小さな生成円を刻む。


 ほんの数秒。


 塔の外縁部、地盤の一部を書き換える。



 塔がぐらり、と揺れ、床に亀裂が入った。



 棚が傾く。

 紙が舞う。

 霧騎士団の足がわずかに崩れる。


 グレイヴが舌打ちする。



 レインは、床の亀裂へ飛び込んだ。


 生成で空洞を掘り、塔外壁の下へと通路を形成する。


 塔全体を壊すのではない。


 支えの“偏り”を作っただけ。


 霧の中では、これが精一杯。



 霧の塔の外。


 石畳の一角が盛り上がり、砕ける。


 次の瞬間、レインとミナが飛び出した。



 塔の最上階。


 レメルは帳簿を閉じた。


「観測対象、レイン」


「生成能力確認」


 窓の外、霧が揺れる。


「“造形師”に報告を」



 その言葉に、背後の紋様が微かに脈打った。


 より精密な線。


 レインの生成を、上回る完成度。



視聴者:131

【造形師!?】

【上いるぞ】

【黒幕階層見えた】



 街へ戻ったレインは、深く息を吐く。


「……やっかいな霧だな」


 ミナが、不安そうに見上げる。


「どうするの?」



 レインは、霧の塔を睨む。


「まずは」


「霧を、なんとかする」



 霧の王国ヴェイル。


 穏やかさの裏にある、忘却の契約。


 戦いは――


 始まったばかりだ。



(第61話・完)

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