第60話 忘れられた名前
――霧の王国ヴェイル、城下区。
白い石畳。
静かな街路。
どこを歩いても、同じような笑顔。
「どうか、穏やかに」
すれ違う人が、同じ言葉を口にする。
声色も、抑揚も、揃っている。
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視聴者:14
【挨拶テンプレ固定なの怖】
【この国、同じNPCしかいない?】
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レインは市場を歩きながら観察する。
物は豊富だ。
治安も悪くない。
争いの気配もない。
だが。
会話が、噛み合っていない。
「最近どうですか?」
「ええ、とても穏やかです」
「家族は?」
「穏やかです」
質問の意味が、どこかずれている。
答えは“用意されたもの”みたいに滑らかだ。
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ミナが、小さく言った。
「……ねえ、レイン」
「ああ」
「誰も、“具体的”に話さない」
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そのとき。
通りの端で、小さな少女が立ち尽くしていた。
年は、ミナと同じくらい。
ぼんやりと霧を見上げている。
手には、古びたリボン。
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レインが近づく。
「迷子か?」
少女は、ゆっくりと振り向いた。
「……お母さん、知らない?」
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ミナが、息を呑む。
「お母さん?」
「うん。昨日まで一緒にいたの」
「でも……今日、いない」
少女は首を傾げる。
涙は出ていない。
ただ、不思議そうだ。
「……名前は?」
レインが聞く。
「ユイ」
「お母さんの名前は?」
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少女は、口を開く。
そして、止まる。
「……え?」
何かを探すように、額に手を当てる。
「……えっと……」
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言葉が、出ない。
目が揺れる。
「……わかんない」
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視聴者:18
【え】
【母親の名前忘れる?】
【それ一番怖いやつ】
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通りの向こうから、男が歩いてきた。
霧色の外套。
穏やかな笑顔。
「どうしましたか」
ユイを見る。
「ああ、その子は“穏やかです”よ」
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レインの眉が動く。
「母親がいないらしい」
「そのような事実はありません」
男は、即答する。
「この国で“消える”ことは、ありません」
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ミナが、ぎゅっとレインの服を掴む。
「……でも」
「そのような事実はありません」
同じ言葉。
同じ抑揚。
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レインは、静かに言う。
「母親の名前は?」
「記録にありません」
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ユイが、小さく首を傾げる。
「……あれ?」
「わたし、だれと住んでたんだっけ?」
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レインの胸の奥が、ひやりと冷える。
(存在を消してるんじゃない)
(“名前”を消してる)
名前が消えれば、記録が消える。
記録が消えれば、事実が消える。
事実が消えれば――
存在が消える。
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視聴者:22
【名前=存在ってこと?】
【これ殴れないやつだ】
【ログ消されたら終わり】
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その瞬間。
通りの奥から、鈴の音。
ちりん。
人形が歩いてくる。
関節が軋む。
「その話は、するな」
誰かが、ささやいた。
言った本人が、慌てて口を押さえる。
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ユイの瞳が、少しだけ揺れる。
「……お母さん、いたよね?」
だが、周囲の大人たちは笑顔のまま答える。
「穏やかですよ」
「心配はいりません」
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ミナが、震える声で言う。
「……レイン」
「ん?」
「……ルナリスと、ちがう」
「ああ」
「こっちは……」
言葉が詰まる。
「……最初から、いなかったことにしてる」
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レインは、ユイの前にしゃがむ。
「最後に覚えてることは?」
「……ごはん、作ってくれて」
「そのあと?」
「……霧、出て」
ユイは、首を振る。
「そこから……わかんない」
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霧が、濃くなる。
人形が、すぐ背後に立つ。
「忘却は、穏やかさです」
「記録は、王国が守ります」
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レインは、ゆっくりと立ち上がる。
「……王国が“守る”のは」
視線を、霧の奥の高塔へ向ける。
「真実じゃないな」
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視聴者:29
【来た】
【主人公スイッチ入った】
【でもどう戦うんだこれ】
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レインは、静かに呟く。
「名前を消すなら……」
「消えない場所を作ればいい」
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ミナが、はっとする。
「……ダンジョン?」
「ああ」
「生成空間は、俺の管理下だ」
「そこに刻まれた情報は、改竄できない」
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ユイの手を取る。
「一度、俺の“記録”に入れ」
「え?」
「お前の名前は、ユイだ」
レインは、はっきり言う。
「ユイ。忘れるな」
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その瞬間。
霧が、ざわりと揺れた。
遠くの塔から、微かな光。
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視聴者:34
【今なんか反応した】
【国が警戒してる】
【これ上にいるな】
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レインは確信する。
(小悪党じゃない)
(これは、設計図だ)
“記録”を管理する仕組み。
個人の意思ではない。
王国そのものが、構造化されている。
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ユイが、震える声で言う。
「……わたし、忘れたくない」
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ミナが、優しく抱きしめる。
「……忘れなくていい」
「忘れさせない」
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霧の王国ヴェイル。
穏やかな笑顔の裏で。
確実に、何かが削られている。
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レインは、静かに目を細めた。
「……まずは」
「“名前”を取り戻す」
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視聴者:41
【章ボス感出てきた】
【名前奪う系とか最悪】
【続き頼む】
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(第60話・完)




