【9】行きはよいよい、帰りは…あ。
「私はこの給湯器の音のままで良いと思う。だってせっかく直したんだもん。」
「毎回このメロディーじゃ晴ちゃんも飽きるだろう?もっとバリエーションを…」
「飽きるほど帰ってくるつもりなん………?」
「そもそもバリエーション付けるってどうやって音源集めるつもり?」
「音声合成ソフトなんてものがあるらしいじゃないか、それを使えばどうにでもなるだろう?」
「それ、とうさんが使いたいだけだよね…。」
「滑らかに喋らせたり歌わせたりするの、かなりめんどくさいらしいじゃない。」
「凪ちゃんならあっという間に出来そうだよね?」
「丸投げすんのかーい!」
何がどうしてこんな会話になっているのかというと。
扉が開く前にお知らせする音をどうするかで両親がお互いに譲らないのであった。
私?どーでも良いです、頭ぶつけなくて済むなら。
かあさんの衝撃の過去を隼瀬おじさんのお説教からの流れで知り、とうさんは黒いもやの襲撃を良いことに説明から逃げおおせたのだが…。
「本当は私だって凪ちゃんのフルボイスで『雪雄さん、これから帰るね』とか聞きたいのを我慢してるんだ!ちょっと音声案内で遊ぶくらい良いじゃないか!」
はーい。この場のとうさん以外全員、チベットスナギツネの顔になりましたー。
「雪雄さん…さすがにこの場でその発言、引くわー…。」
「まさかの本人からダメ出し………!」
おおー。リアル orz 初めて見たわー…。
「とうさんもかあさんも。音声なんて何でも良いから、ちゃっちゃと仕上げて旅に戻んなさい。なんだったら単なるチャイムとかブザーで良いんだから。」
「晴ちゃんまで、何だか雑にさっさと行けって言い始めた…!」
あ、部屋の隅っこで体育座りし始めた。ちょっとイジメすぎた?
「晴ちゃん、雪雄さんのあれ、晴ちゃんにかまってほしいだけだからほっといて良いよ。」
「凪ちゃんそういうネタバラシやめて?!」
「ハイハイ仲良し夫婦漫才はその辺にしときましょうね!」
とうさんは呉羽おばさんの一喝ですごすご戻ってくると、しょんもりとしながら扉の中央飾りをいじり始めた。
かあさんは何やら小さい道具をバラして中に綺麗な結晶をはめ込み始める。
「んー、やっぱりちょっとこの角丸めないとダメねー。」
ヤスリを綺麗な結晶に当てて削りながらも、とうさんの作業をチェックするのは忘れていないようで、
「あ、雪雄さん!そこの回路、下手にズラすと隣のコードに干渉するからね!」
「スピーカーの左上にスペースあるでしょ?近接センサーはそっちに動かして、空いた所に結晶を…そうそう。」
「こっちは…もうちょっと…よし。ハマった!」
なんだかんだで量子もつれ強化の改造は30分ほどで終わった。音声?結局変える必要なし、と私とかあさんによる多数決で決定した。だって色々やってる暇があるなら他にやる事あるでしょ?ってことで。
「かあさん、そういえばその小さいのがマーカーとかいうの?何だっけ…」
「座標指定マーカーね。このマーカーと扉とでワームホールを固定して行き来できるようにしてるのよ。」
「それがここにあるってことは、今回は扉の向こうに戻るわけじゃないってこと?」
「………え。」
「え?だって、行き来するには向こうにマーカーないといけないんだよね?」
「ちょっと待って…雪雄さん…座標指定マーカー…」
「いやいや凪ちゃん、流石にあっちのマーカーとそれは別のマーカーだよ。向こうに帰って扉を閉めてから同期させれば」
「違う!扉の結晶、今交換しちゃったじゃない!」
「あ。」
2人ともフリーズしてしまった。
「向こうのマーカー、どうなってんの…?」
「考えろ、扉からマーカーへと逆に辿って回収する方法………!!」
「……これ、完全に自分で自分の帰り道潰したやつじゃん…。」
この後、両親は三日三晩ぶっ通しで作業する羽目になったのだった…。




