【45】なんじゃこりゃぁ~!!!
「ずーいぶん山奥なんすねぇ…。」
「悪いわね〜瑞穂くん、車まで出してもらっちゃって。今回は持ってくるものも多かったから助かった!」
「でもね、凪ちゃん…この扉は流石にどうかと思うんだ…。」
「だって!これが絶対欲しかったんだもん!!工房のあの扉、いい加減取り替えたかったし。雪雄さんだって鍵がガタついて出られなくなって慌ててたじゃない?」
「確かにそうだったけど…。」
「雪雄さん…凪さんってこんな感じでしたっけ…?」
「ものづくりに関してはだいたいこんな感じだよ。私では抑止力になれなくてね。不甲斐ない。」
「あー………。」
延々とドライブすること数時間。運転している瑞穂兄ちゃんに若干疲れが見え始めた頃、やっと目的地が見えてきた。
広い庭先に車を止めると、全員揃って車から降りて伸びをした。
「うーわー………良く建ってるよなぁ、今にも崩れそうな雰囲気…。」
「まぁねー、そんな風に見せとかないとこの辺じゃ浮いちゃってしょうがないのよ。」
「何か、そうしないといけない理由があるんですか?」
じーっと工房を観察しながら唯が母さんに尋ねると。
「ほら、ここって私が管理してるとはいえ、そうそう人の出入りはないじゃない?そんなところがいつもピカピカだと何でだ?ってなるわけよ。」
「あ、つまりそこそこ傷んでるけど手入れに来てるから『かろうじて維持してる』風に見えるわけですね。」
「そそ。茅葺き屋根だってちゃんと年数チェックして葺き替えてるんだから!ちなみに次は5年後くらいかなー?」
「材料の茅はどうやって調達してるんですか?」
「その辺?」
といって、周りの山々をぐるりと指差した。
「この辺りの山は麓の人たちと共同管理してるからさ。必要な茅はその人たちと一緒に刈ってるのよ。」
「ほへー………。」
昔ながらの家って、色々大変なんだな…。
一通り眺め終えると、玄関から三和土へ、さらにその先の土間と上がり框が目に入った。右手には全面に大きな金属の引き戸があり、その向こうが工房だそうだ。
一方で左手には土間から上がる廊下、そしてふすまに仕切られた和室が並ぶ。入り口から見て奥の和室が居間だ。
幼い頃に来た時は、家族3人で麓の知り合いだという方に車で送ってもらった。工房はその時は危ないから、と見せてもらえなかったんだった。
「まずは一息入れましょ!お茶入れるから座っててー。雪雄さん、座布団お願いね!」
「はいよ。ささ、上がって上がって。」
「お邪魔しま~す。」
「失礼します、お邪魔します。」
「久しぶりだなー…あ、とうさん、手伝うよ。」
座布団を並べて思い思いに寛いでいると、かあさんがお茶を淹れて持ってきてくれた。
「そしたら、まずは晴ちゃんと唯くんにはここで待機して荷物の受け取りをお願いしたいのよ。」
「荷物?」
「ほら、前に教えてくれた食材の宅配ってやつ。今日の時間指定で頼んだから…。」
「かあさんたちは?」
「サーバーのメンテナンスを進めるのが先ね。メンテ始めると、上の音が聞こえなくなるのよ。」
「物理的にもだけど、かなり集中することにもなるからね。」
「オレはメンテナンスでどんな役回りを?」
「それは実際に筐体と設定周りを確認しながら説明するよ。ちょっと変わった組み方と構成だからね。」
「うわー…それ地雷案件ってやつじゃ…!」
あ。兄ちゃんが頭抱えてる。頑張れー。
「で、メンテが終わったらお楽しみが待ってるからね!」
「お楽しみ?」
「じゃじゃ~ん!」
居間のタンスからおもむろに取り出したのは、ゴツゴツとした岩の塊が一面だけきれいにカットされたもの。表面は荒々しい灰褐色の岩肌なのに、カットされた面はキレイな乳白色から薄青のなだらかなグラデーションがマーブル模様となっていた。傾けるとさまざまな場所がキラキラと光をこぼして、ため息が出るほど美しかった。
「これがあのアイスジェイドの原石…!」
「ほら、この透明感が強い部分がマーカーに最適なんだよ。薄青い所は残念だけどマーカーには向かなくてね。」
「え、じゃ、半分はマーカーに使えないんだ…!」
「まぁ、マーカーや扉に使うのは厚みはそんなになくても良いから、この部分を切り出せば3組はいける計算なのよね。」
とはいえ、半分は使えないって相当ロスだよなぁ…とか思っていたら。
「でね、この使えないって部分も使い道はあるわけよ。それがこれ。」
見せてくれたのはかあさんたちが常に身につけている量子もつれの指輪だった。
知らないって恐ろしい。デザイン的に目立たないカボッションカットの石は、透明感のある薄い青だったのだ。これ、ヒスイだったのか…!
「このヒスイ輝石と土台の内側の基盤がセットで量子もつれを維持してるわけ。」
「マーカーと扉に使った部分以外は何かに使えると思って工房にまとめてあるから、好きなだけ使ってくれていいからね。頼んだよ、瑞穂くん。」
瑞穂兄ちゃんの顔が引きつっている。うちの両親よりは物の価値をちゃんと把握しているわけで、その対価の分こき使われるのが確定したと理解したからだろう。唯と二人、こっそり合掌しておいた。
その日、とうさん、かあさんと瑞穂兄ちゃんが居間の奥の隠し階段から地下に降りて…
「なんじゃこりゃぁ~〜〜!!!」
と兄ちゃんの絶叫が聞こえたあと、三人がヘロヘロになりながら上がってくるまで一日半かかったとさ。




